3話 VSスティ

「うっそぉ……」

さすがに二回目なら反応も薄いかぁ。

溶けた水晶を見ながら呟いた審査員はすぐに正気を取り戻し周りに指示を出していた。


「ごめんねぇ、ブランクくんもステイちゃんと一緒にそこで待っててくれる?」

「わかりました」

げ、スティの隣か今ので確実に俺が普通ではないことがバレているから本戦まであんまり話したくなかったんだけど。


「すごい魔法……使えるんですね」

「いえいえ、私のは小細工を使ったもので単純な威力ならステイさんの方が上ですよ」

原作でもボスクラスじゃなければ魔法一発で消し飛ばしていたスティだ、火力で勝負しようとすればこれくらいのハンデがないと勝負すらできない。



「ごめんねぇ、二人とも二人はちょっと強すぎるから本戦に参加出来ないことになっちゃったんだぁ」

「ほぇ?」


本戦参加出来ない?!

予選落ちってこと!

嫌でも今強すぎてって言ってたし行雲流水まで使える俺たちが落ちるなんてことは考えにくい。

そんな風に考えているとスティが審査員に質問をしていた。

「それなら、……私達はどうすれば」

「それなんだけどねぇ、君達には本戦が終わった後に特別試合として戦って欲しいんだよ」

なるほど、特別試合。

実際その提案は俺にとってはいいことしかない。

余計な体力を削らないし子供よりも発展した魔法を使うであろう大人の試合を見て魔法の勉強をすることができる。


「私は……それでいいです」

「私も構いませんがおとうさまとおかあさまに説明するために着いてきて貰っても構いませんか?」

「あぁ、うんそれは当然だよ行こうか」

その後観客席に座っていた両親を発見し審査員が事情を説明してくれていた。


「いやぁ、すごいなブランクは」

「ふふっ、そうですねぇまさかあの特別試合に選ばれるなんて」

事情を知った両親に大人の試合を見たいといい、共に移動していると何やら気になることが聞こえてきた。

……?

あの特別試合ってなんか特別なものなのか?


「あの、特別試合ってなにか凄いものなのですか?」

「ん?あぁ、魔法祭を行う際に飛び抜けて強力すぎるものが現れると安全のためにこういった形をとる事があるんだ」

「普通なら長い間生きたエルフや外で冒険してきた冒険者などが選ばれることが多いのですが、今回はジュニアクラスの二人ということで他の皆さんもかなり驚いているようですよ」

はぇぇ、なるほど。

まぁ確かに今の俺たちが子ども達に向かって容赦なしに魔法をぶっぱなせば簡単に人死が出てしまう。


「……グリフォンクラス優勝者は……」

俺が見ていたグリフォンクラスの試合が全て終わった。

この大会でのクラス分けは

俺たちがいるジュニアクラス

十歳から二十歳が戦うマンドラゴラクラス

二十一歳から六十歳までが戦うデュラハンクラス

六十一歳から百歳までが戦うグリフォンクラス

それ以上が戦うドラゴンクラス

の五つにわけられる。


両親が言うには魔法の勉強というのなら基礎がしっかりした上で応用も使うグリフォンクラスの試合が一番勉強になるそうだ。

ドラゴンクラスの試合はもはや何しているか意味が分からないとの事だ。

……大きくなったら見に来るか。


「それじゃあ、行ってきます」

「えぇ、頑張って来てください」

「かましてこいよ」

「はい!」


「それではこれより特別試合を開始します」

俺は本会場であるグリフォンクラスが戦っていた会場に向けて歩き出す。

相手はあのスティ普通の魔法はもちろん予選で使った技もおそらく通用しない。

まぁ策はある……それが通用しなかったら俺の負けだ。


「それでは……初めっ!!!」

合図と同時に俺は会場全体な強力な風を発生させた。

実を言うと俺がグリフォンクラスを見ていた本当の理由は作戦を考えるためである。

まぁ、策と言っても風の発生で相手の魔法の射出を阻止しつつ俺の魔法の威力上昇と言うだけなのだが。


「いくよ」

スティはそうつぶやくと予選で見せた巨大な火炎弾を作り出しそのまま射出した。

俺はそれを判断してからすぐに魔法の方向を風下にしさらに魔法で作った油の玉を高速で射出する。


当然のようにスティは回避し上空から大量の水を振らせてくる。

岩や炎なら対処のしようがあったが水となると回避は難しい、だがあの質量をそのまま受ける訳には行かない。

俺は自分の頭上に空気の流れと土の屋根を作り出し足から水を噴射して水の上に行く。


だが先に上空にいたスティから蹴りをくらいバランスを崩してしまう。

そのすぐ後に大量の水が飛沫をあげ目の前にくる。

その水の一部を凍らせ風でスティに向けて飛ばす。

数が数なのでスティも全ては対応しきれておらず鬱陶しいがっている。


……完全に手を抜かれているな。

もし、スティが本気ならこんな氷の礫程度簡単に弾き飛ばすだろう。

外で見ている人達には互角に見えているらしくどちらも頑張れという声が大半だ。


スティはおそらく本気を出すつもりはない。

だからこそそれが付け入る隙となる。


俺は予選で見せた大砲式の火炎弾射出装置を空中で七つ発生させる。

さすがに少し驚いた様子のスティは自分も七つの強力な火炎弾を用意した圧縮する。


俺が火炎弾を射出するとスティもその火炎弾に合わせるように自分の火炎弾をぶつけていく。


おそらく観客は俺が俺達の全力のぶつかり合いだと思っているだろうが違う。

本当の狙いは初めに発生させた風だ実を言うと場外にも風を発生させて石の礫を加速させ続けていた。

俺はその礫をスティの死角から足に向かって放つ。


なっ!!!!

「すごいね……予選でこの魔法を見せたのはこの魔法で私を倒すと思わせるためだったんだ」

「……まじか、気づかれてましたか」

「いいえ……気づいたのはいまさっきです」

はぁ?それならあの加速を乗せた石の礫を受けきれるわけない、どういう……まさか!

「結界魔法か……」

「おや……よくご存知で」


ご存知も何もそれあんたの十八番だろ!

そこまでしてこないと高を括っていたがまさか五歳児相手に結界を使ってくるとは。


結界魔法は聖属性に分類される魔法で簡単には使えない。

使えるようになるには二つの方法がある。


聖属性の魔法は他の魔法とは違いイメージで作り出すものではなく、より強大な存在から借りてくる力のようなもの。

その強大な存在に貸しても良いと思わせるまでの修行を行うのが一つ目である。

だが、これは本当にきつい修行で大半の人が辞めてしまう。


そしてもうひとつの方法がスティが行った方。

その強力な存在の近くに居ることで聖属性の魔法を習得するというものだ。

スティが住んでいる世界樹はその聖属性の魔法が使えるようになるための力が多く漂っている。

そんなところに百年間も居続ければ当然聖属性の魔法も習得するというわけだ。


「……ほんとに強いですね」

「いえいえ……あなたも十分お強いですよ。それでは降参して頂けますか」

「はははっ、まさか両親が見ている前で無様を晒したまま闘技場を降りる気はありません」

「そうですか……それは残念です」


そういうとスティの後ろから何度も見た火炎弾が飛んできた。

しかしこれは読み通り。

スティが戦いの最中に話しかけてきた時はスティの後ろに注意しろ。

原作でスティに師事を受けていたものの言葉だ。


俺はその火炎弾をギリギリで回避し後ろに隠していたカウンター用の風で火炎弾の進む方向をスティに向ける。

更にはその道を空気の筒と風の流れで補強する。


そうこれが俺の唯一スティに勝てるかもしれない道。

スティの火力と俺の小細工でスティに勝つ。


さすがのスティも小さな子供が自分の魔法を跳ね返してくるとは思っていなかったようで驚いている。

だが直ぐに結界をはり火炎弾を受けきる体勢に入った。


それを確認すると俺は下にある大量の水を持ち上げ下と後ろ……いや火炎弾のある方向以外の全ての方向をから水の礫を飛ばした。

最初は水から全部準備しようかと思っていたがあるならありがたく使わせてもらおう。


「くっ……めんどうな」

こんな攻撃を仕掛けたところでスティが本気になれば簡単に受け切られてしまうだろう。

しかし仮にもセーブした力で大会に参加してしまったが故に本気を出せない。

それがエルフとしての矜恃だからだ。


火炎弾が結界に当たると結界にヒビが入り始める。

全体に広げることで落ちた強度ではこの火炎弾は受けきれない。

ヒビが少しずつ広がり、ついには結界が割れスティに直撃する。


「はぁ……まじで言ってるんですか、スティさん」

「ふぅ……今のはさすがに危なかったですよ」

受け切られた。

行雲流水で集めた魔力に守らせたか、そうじゃなければ初めっからあれを受けきれるほどの強度を持っていたか。


「さて……降参して頂けますか? 」

「あぁ……降参!降参します!」

俺の降参の声のあと割れるような歓声が広がり魔法祭の特別試合は幕を閉じた。

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