Episode.26 だから。私、旅立ちます。

 ラズウルスさんとのことを思い出していたら急に涙が込み上げてきて焦りました。

 ドーネルさんもですがオルカにまで心配そうな目で見られてしまいました。


 どうも最近、自分の感情をコントロールしきれないことが増えているような気がします。

 仮想現実ヴァーチャルリアリティの中で疑似的にでも人間と同じ体で過ごすしていることの影響があるのかもしれません。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらくして何とか気持ちも落ち着いて。

 ラズウルスさんの残っていた元の頭の部分を穴に収めました。


「あ、あとこれも一緒に」


 インベントリから取り出して頭と一緒に収めたのはエーテルブレード。

 ラズウルスさんの唯一の遺品とも言うべき武器です。


 手持ちにミスリル製の包丁しかなかったのでとりあえずで使う武器としては随分助けられました。魔力で刃を作る分、軽くて扱いやすいの私には有難かったです。


 ただ私にとってこの剣は。

 やっぱり「ラズウルスさんの持ち物」というイメージが強いんですよね。


 だから、ここでラズウルスさんに返そうと思います。


「いいんですか?」


 ドーネルさんが聞いてきました。

 ボス戦で落としたこの武器をわざわざ死に戻りしてまで回収してくれたドーネルさんからしてみると、ここで一緒に埋葬してしまうのは不思議に思ったのでしょう。


「はい。元はこの人……ラズウルスさんの武器ですから」

「あー……そうだったんですね。でも、手持ちの武器がなくなってしまいません?」

「一応、私は『人形遣いドールマスター』という使役系の後衛職業なので自分で戦うことはあんまりないはず……」


 今まで自分で戦ってたのは使役するマギドールがいなかったからなだけで。

 今はオルカも増えましたしね。


 それに。


 もう一振りの柄だけの剣を私はインベントリから取り出しました。


 エーテルブレードよりも一回り大きく、魔力の刃を発する部分が大型化して鍔のようになっています。


「今はこれがありますからね」

「どうしたんですか、それ?」

「【魔機工学】の本にレシピがあったので、自作しました」


 エーテルブレードは「対エーテル生物」に特化した武器でしたがこれは違います。



 《ヴァリアブルマナブレード》

 種別:剣/長剣/片手剣 レア度:SR 品質:B+

 攻撃力:(+45) 貫通力:(+16) 防御補正:(+5)

 重量:50 耐久度:100%

 特性:MPを消費することで魔力刃を作ることができる。

    攻撃力・貫通力・防御補正は魔力刃を作っている時のみ適用される。

    MPを消費することで魔力刃の維持が可能。

    消費MP:刃の作成に10,刃の維持に1秒ごとに2。

    柄の魔力刃発生装置のスイッチを操作することで魔力刃の種別を変更可能。

    ・魔力刃の種別

    Mn:通常生物の守備力・防護力を無視する。

    Sa:神性存在への攻撃は攻撃力×1.5。

    Oc:外界生物への攻撃は攻撃力×1.5。

    Pd:並行次元生物の守備力・防護力を無視する。

    Ae:エーテル生物への攻撃は攻撃力×2。

      エーテル生物の守備力・防護力を無視する。

    As:アストラル生物への攻撃は攻撃力×2。

      アストラル生物の守備力・防護力を無視する。

    Ab:アビス生物への攻撃は攻撃力×2。

      アビス生物の守備力・防護力を無視する。

    Ic:無限回廊個体への攻撃は攻撃力×1.5。



 戦う相手の種別によってスイッチで設定を切り替えることでおそらくはどんな相手にも特別な効果を発生させることができるようになっています。

 おそらくは、というのはこの設定が全てを網羅しているかわからないからです。

 一応【魔機工学】に解説があったものは全て詰め込めたのですが。


 おかげで【鑑定】で見た時のウィンドウがすごく長くなってしまいました。


 あと機能を増やしすぎたせいか、私の技能レベルが足らなかったのかはわかりませんがエーテルブレードと比較するとかなり消費MPが多くなっています。


「あー、いいですね自作武器。MMOではやっぱり自作武器は浪漫ですね」


 ドーネルさんがうらやましそうな顔で見てきます。


「ドーネルさんも造って……力士でしたね。籠手とか着けてみます?」

「横綱は武器禁止、防具も専用装備以外は駄目ですね……」

「ですよねー。そもそも自作武器とか製作が好きならそういうキャラクターで開始したらよかったのでは」

「『オート』で作成したうえでNPCの誘導に従っていたらこんな風になったので」


 うーん。

 ワーベアの部族というのはそんなに相撲最優先なのでしょうか?



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 ヴァリアブルマナブレードのせいでちょっと脱線してしまいましたが。

 それを戻したのは意外にもオルカでした。


『なあなあ。はよ埋葬して黙祷せーへんの?』


 そんなことを言いながら服の裾を咥えて引っ張ります。

 本気で引っ張られたら確実に私は倒されて地面に転がりますので、小さな子供がやるようなくいくいっと裾を摘まんで引っ張るような感じですね。


「……さっきマギドールの人たちを埋葬してた時は大人しく見てたのに、急にどうしたんですか?」

『この人って、うちと戦った人やろ?』


 何だかいつになくオルカの声が真剣です。

 普段の調子に乗って馬鹿なことばかりしているオルカからは想像もできない様子です。こんな一面もあったんですね。


「そうですよ。姿は私が再生した女性型マギドールでしたけど」

『最期はハクにとどめ刺されたんやけど、実際に死にそうなほど怪我させられたんはこの人のせいやん。それにあのダンジョンの先の部屋で昔、うちの同族を倒したんもこの人なんやろ?」

「そうですね……自爆相討ちなので、厳密に言うと倒したとは言えないかもしれませんが」


 オルカは穴に収めた頭の部分をじーっと見つめていました。


『つまりうちらと同等の力を持ってた戦士、てことやん。そういう相手にはうちだって敬意を払うで』


 なるほど。

 オルカはオルカなりにラズウルスさんのことを認めているわけなんですね。


「つまり同等の力を持ってない戦士でもない私には敬意を払わないわけですね」

『えっ!? いや、そんなこと言うてへんやん!? ハクは今はうちの御主人やからなぁ、尊敬しとるに決まってるやん!?』

「……冗談ですよ」


 そっとオルカの頭を撫でます。


 こういう所はオルカも何だかかわいいな、と思うのですけれどね。

 暴走しなければ。


「でも、ありがとう。ラズウルスさんに敬意を払ってくれて」

『別にハクにお礼言われるようなことはしてへんで。うちにとっては当然のことやからな』

「そうですね。じゃあ、土をかぶせて墓石を置いて、それから黙祷しましょう」


 色々ありましたが。

 何とかラズウルスさんのお墓も造ることができました。


 私とドーネルさん、それにオルカも加えて2人と1体で黙祷を捧げます。

 オルカは瞼がないので目を閉じることができませんので黙って立っているだけになりましたけれど。


「よし」


 黙祷を終えて私が急に声を出したので驚いてドーネルさんとオルカが私の方を見ました。


「どうしました?」

『どないしたん?』

「あ、いえ……すみません」


 急に注目されると何だか恥ずかしいですね。


「これでやっと。やらないといけなかったこと、やりたいこと、全部できたな、と」


 新しい、きちんとした拠点を見つけてマギドールの人たちやラズウルスさんのお墓を造ってきちんと弔うことができました。

 ちょっとイレギュラーになりましたがオルカという人形遣いドールマスターとしての配下を造ることもできました。

 ドーネルさんと知り合いになったのは……予定にはありませんでしたけど無限回廊という場所のことや色々と情報を教えてもらったりもできました。


 そして、懸念だったここから出て行く手段も見つかりました。


 いよいよ。

 その時が来たのだと思います。



「だから。私、旅立ちます」

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