Episode.24 メイド服着ますか?

 2階……実際の階層で言うとセーフゾーンの小屋があるのが地下3階、ここが地下2階となりますが……で残っていたアイテムを色々と回収しました。

 ミスリル製の鍋、錬金術用のガラス瓶やすり鉢とすりこ木棒、薬さじと言ったアイテムになります。


 【錬金術】技能を使用した製作というと私が今までやっていたアーツ〈合成〉を使用して複数のアイテムから別のアイテムを作るものがあります。

 それ以外にも〈調合〉というアーツがあり、様々な物質を混ぜたり溶かしたりして薬品を作り出す製作があります。ガラス瓶なんかはそちらに使用する器材ですね。


 今までは材料にできるものがまったくなかったので無視していましたが、今後は〈調合〉にも取り組むこともあるかもしれませんので持って行くことにしました。


 そして2階は終わって3階。


 前は階段を使って登って行きましたが、今回はドーネルさんに空を飛んで運んでもらいました。


 楽ちん。


 マギドールの死体やメンテナンス室の備品も回収していきますが。

 ここで回収したかったのは何と言ってもメイド服です。


 理由の1つは「Dawn of a New Era」では装備品は時間経過で耐久度が減少していくというめんどくさい仕様があるため、予備の服が欲しかったこと。


 一応、耐久度の減少を回復したり防ぐ手段もたくさんあるのですが面倒と言えば面倒ですね。今は古代文明の叡智である洗濯機があるのでそこに放り込んで洗濯すれば時間経過による耐久度の減少くらいは回復できますが、洗濯にはそれなりに時間がかかるのでやっぱり予備の服は必要です。


 もう1つは今着ているロングスカートのメイド服からミニスカートのメイド服に着替えたかったからです。


 個人的にはロングスカートの方が好きなのですが、スカートの丈が長いとオルカにまたがって乗る時に結構邪魔になるんですよね。

 なのでミニスカートの方に変更することにしました。


「うーん、足がすーすーする感じで慣れませんね」


 プレイヤーズブックを開いて装備を変更してみました。

 今までのロングスカートと違って足が剥き出しになって変な感じがします。


 ま、現実リアルではスカートなんて履いたことはないんですけどね!


「あれ、着替えたんですか?」

「はい。今後オルカに乗ることを考えるとロングスカートは邪魔なので」

「いや、でも足が……」


 ドーネルさんの視線が私のさらけ出された足に向いています。


「何、女性の生足をガン見しているんですか」

「えっ!? いや、そうではなくてですね……その足、目立つと思うのですけど大丈夫かな、て」


 思わず自分の足を見下ろしました。


 何も履いてない剥き出しの足は、球体関節になっていて明らかに普通の人間のものではありません。


「……確かにそうですね」


 タイツでもあればよいのですが残念ながらここに残されているのはメイド服2種類だけです。


「ここから出て行けば何か履くものくらい見つかるでしょう。それまではロングスカートの方で隠しておきますか……」


 仕方なく服装を元に戻しました。


「それがいいと思いますよ。僕も男物の服がないか探したんですけど、本当にメイド服と頭飾りしかなかったですね、ここ」

「メイド服着ますか?」

「……着ませんよ。いや、流石に女装する趣味はないです。それにこの見た目でメイド服着てたら不気味でしょうが」


 巨漢のクマがメイド服を着ている姿を想像してみましたが。

 ドーネルさん、結構ぬいぐるみ的愛嬌がありますので頭飾りまでつけたら結構似合うような気もしますけどね。


「……何か視線が怪しいんですけど」


 おっと。

 そんなことを考えながらドーネルさんを注視していたらばれてしまったようです。


「メイド服、着てみませんか?」

「何でですか!?」

「悪くはないと思いまして」

「着ませんからね!?」


 残念。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



「そもそも何で服を探してたんですか?」

「あー……今の恰好って『何も服を着てない』状態なわけじゃないですか。1人でいる時はそれでも別によかったんですけど、他人がいる前でいつまでもそれもまずいかな、と……」

「もしかして私のことですか? 別に気にしてませんけど?」


 私も何も着ていない初期状態が結構長く続いてましたしね。


「あと、システム上は何も身につけてないんですけど、同じ服をずっと着っぱなしというのは何か気持ち悪くないですか?」

「それは何となくわかりますね」

「それと同じ格好だと臭いが大丈夫かもちょっと気になってまして……」


 臭いですか。

 そう言えば気にしてませんでしたけど、臭いはどうなっていたでしょうか?


 ただ、今の所一緒にいてドーネルさんから悪臭が漂う、ということはありません。


「特にドーネルさんから変な臭いはしませんけど……そもそもそれを言うと私もまともにお風呂に入ってたわけじゃないですし服もずっと一緒だったですし、まずいでしょうか……?」

「ハクさんから変な臭いはしませんけどね」

「じゃあお互い大丈夫じゃないでしょうか」

「大丈夫ですかね」


 臭いについて検証された情報を調べた結果として。

 プレイヤーキャラクターが感じる臭い、特に悪臭については一部の特殊攻撃や特殊効果をのぞいてはカットされているようです。

 ただ、NPCについてはカットされておらず体臭などについても内部データとして設定されているので不潔な恰好しているとNPCからの反応は悪くなるようです。


 私も気をつけないといけませんね。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 アイテム回収も無事完了。


「これでここともお別れですね……多分、もう来ることはないんでしょうね」


 今さら見返してみると、本当に廃墟です。

 ゲームを始めて、いきなりモンスターに襲われて、死にそうになりながら必死にここにたどり着いて……でも、楽しくゲームできていましたね。


 当時の事を振り返れば。


 やっぱりラズウルスさんの影響は大きかったんでしょうね。


 ありがとう、ラズウルスさん。

 どうせならずっと一緒に冒険を続けたかったな。


『なあなあ! やっと回収できたでー!』


 感傷に浸っていたら能天気な声で意識を引き戻されました。

 台無しです。


 オルカが何か青白く光る球のようなものを咥えてやってきました。


「……何ですか? これ?」

『命の珠やで』


 命の珠?

 何かのアイテムのようですがどこで手に入れたのでしょう?


『うちらは死ぬと力の源がこういう珠になるんや。で、それを子供が食べると力が受け継がれて成長が促されるんや。いやあ、めっちゃ前に死んだっぽいからないかと思ったけど何とか取り出せたわ』

「そんな習慣があるんですね。初めて知りました」

『せやで。だからこれをうちの中にセットできるように改造してな』

「は?」


 え、何言い出すんですかこのマギドールは。


 オルカは当たり前のように咥えていた青白い珠を私の手の上に置きました。

 よく見れば光が明滅して脈動しているような感じがします。


『だって今のうちはこれを食べられへんやん。取り込むにはハクに改造してもらわないとあかんやん。あ、上にあったうちの本体からもこれ回収してセットできるようにしてな』

「いや、貴女、簡単に言いますけどね……」


 手の上の珠を【鑑定】で見て、具体的にどういうモノなのか確認してみます。

 これだけですと使い道はよくわかりませんし、マギドールに簡単に組み込めるものなんでしょうか。



 《エーテルハート》

  種別:素材 レア度:UR 品質:B

  重量:80 耐久度:100%

  特性:エーテルエネルギーが凝縮、結晶化した宝玉。

  ※エーテルクリーチャーの最上位であるエーテルビーストが死後に残す宝玉。

   強力なエネルギーを秘めており、魔導機器の動力として最上級の能力を持つ。

   エーテルビーストがこれを体内に取り込むと爆発的に能力が上昇する。



 いや、これ結構やばいものなのでは?


 古代文明時代に【魔機工学】で造るアイテム類に必要な動力源として最上級の素材ということでしょう?


 いや、でもエーテル関連アイテムなんですよね。   

 古代文明を滅ぼした「災厄」の一角の力がまんまここにあることになるわけで。

 もしかするとダンジョンにいたようなエーテル生物を引き寄せるかもしれません。

 それを考えると封印案件かな?


「これ、本当に使うんですか? 危険じゃないです?」

『何でや。うちはこれでも元はエーテルクリーチャーの頂点に位置する種族の一つやったんやで。エーテルの力の取り扱いやったら誰にも負けへんで』


 誰かに勝つか負けるかという問題ではなくて。

 あなたがやらかしそうなのが不安なんですけどね。



 結局、入口にあったグレーターオルカの死体(私が倒したオルカの元の体ですね)からも《エーテルハート》を回収しました。


 合計2個。


 確かにこれを組み込めばマギドールも大幅パワーアップできそうですが……とりあえずはいったん保留ですね。

 もうちょっと私の【魔機工学】のレベルが上がってから考えたいと思います。


 まだ、今のオルカも完成したばっかりで運用事例が少なすぎて、何を強化したらいいかさっぱり見えてませんしね。


 何より、こいつを本当にパワーアップさせてもいいのか、私が自信がありません。

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