Episode.20 そのボディには飛行機能は備わってないんです!
ボディが完成したので、現在支配下にあるオルカの入ったコアを新たなボディにセットします。
この辺の処理はラズウルスさんの時と変わりはありませんね。
「さて、気分はどうですか?」
シャチ型マギドールの目に光が灯ります。
体の下部から風が吹くと少しだけ浮かび上がりました。
『おお。これが新しい体かぁ。悪くないやん』
くるんとシャチの姿が一回転します。
尾ビレの部分にある装置には可動式の噴出口が複数ついていて、そこから魔法で風が吹き出して推進力が得られるようになっています。
今はその可動式推進装置を上手く操って体を一回転させたのでしょう。
こういうことをさらっと簡単にやってのけてしまうのは流石元ボスキャラという感じですね。苦労して魚型マギドールを改造して造った甲斐があったという物です。
『じゃあ、ちょっとお試しで』
そう言いながらオルカは頭を展望デッキの外側……街を一望できるガラス張りの壁面の方へ向けます。
「いや、ちょっと待って」
嫌な予感がして背ビレを掴みます。
『ひと泳ぎしてくるわぁ』
「待って。待って、ストーーーーーーーーーーップ!!!!??」
そのまま背ビレを掴む私ごと、ガラス窓をぶち破り。
オルカは40階から空中に飛び出しました。
「空を飛ぶ機能は付けてないんですってば!!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
本来、水中用の魚型マギドールは地上では行動できません。
地上で移動するために必要な機構がデフォルトでは備わっていないからです。
ただ水中用のマギドールを造るつもりはありませんでしたので、見た目だけ魚型を流用したうえで地上で行動できるように改造を施しました。
その際、移動方法として私が採用したのが「ホバークラフト型」です。
仕組みは現実のホバークラフトとほぼ変わりません。
違うのは風の魔法を利用して浮上したり推進力を得たりしている所でしょうか。
そのおかげで現実での欠点はほぼ解消されており優秀な移動手段となっています。
一応、魔力の消費は大きめなのですがマギドールならコアと連動して周囲の魔力を取り込んで動けるので特に気にはなりません。
ただし、ホバークラフトなので。
もちろん、空を飛ぶことはできません。
◇◆◇◆◇◆◇◆
空中に飛び出たオルカは当然ですが落下を始めました。
『あれ? 何で沈んでいってるん?』
「そのボディには飛行機能は備わってないんです!」
『えっ? 上へは泳げへんってこと?』
そうでした。
元になったグレーターオルカやその他水棲生物をベースにしたエーテル生物(名前の頭に「Ae」がついているモンスターのことですね)たち、特に魚型のものは泳ぐように空中を飛び回っていました。
彼らにとってはそれが当たり前なのかもしれません。
いや、だからと言って地上40階からダイブされると大変困りますが。
『何で??』
「私の技能レベルが足りなかったんですよっ!?」
空、飛べるようにしようと思えばできたんですけどね。
その場合、簡単に言うとジェット機のように魔法で再現されたジェットエンジンのような推進装置で飛ぶか、ヘリコプターのように回転翼を複数装備して飛ぶかになります。
ジェット機型だと空を飛ぶ以外の行動に支障が出ます。
ヘリコプター型だとシャチの姿と合いません。
なのであきらめました。
……いや、本当は地上も空中も自由自在に動ける装置がカタログにはあったんですけどね。
「反重力推進装置」って言って、魔法で重力を操作して推進力を得る装置ですが。
残念ですが私の【魔機工学・上級】では条件を満たせず造れませんでした。
さらに上の【魔機工学・特級】が要求されましたので。
「と・に・か・く! まず私を乗せるようにしてください!」
『ハクを? 乗せる? こうかいな?』
私の呼びかけに応えるようにシャチの姿が変形します。
頭の部分が開いてレバーが2本伸び、背中が開いて座るためのシートになり、背ビレが後ろに下がって広がり背もたれになります。
「……っと」
空中で背ビレを掴んだ状態から移動するのはちょっと怖かったですが、出っ張り部分を掴みながらなんとか伸びてきたレバーを掴んでシートに座ることができました。
『何か背中の上が重くなったんやけど、どないなっとん?』
「私が貴女に乗った状態です。そもそも、貴女は私の足になるように造りましたからね。あと、重くはないです」
ちょうど水上バイクに乗ったような状態になりました。
このシャチ型マギドールは単独で行動もできますが、私の乗り物として活用できるようにもなっています。
《都市防衛型マギドール》を見て思いつた仕様です。非人間型マギドールなら乗り物にできるのではないか、と。
私の
なのでこういう乗り物があれば便利じゃないかなと考えたわけです。
「とにかく落下スピードを遅らせます! 発動〈スペル:風〉〈変形〉〈効果拡大〉!」
【魔法】が発動して下から強い風が吹き上げてきます。
シャチの腹の部分で風を受けることで落下スピードが緩やかになります。
〈風〉魔法なんていつの間に覚えたのか……と言うと、実は覚えたのではなくラズウルスさんから継承した技能の1つです。私は〈土〉〈石〉を覚えていましたがラズウルスさんの覚えていたのは〈風〉〈火〉だったのでちょうど被ってなかったんですよね。
しかも、最初に覚えてからほぼ使ってないので育ってない私の【魔法】より技能レベルは高いですよ。
しかし、それでも。
落下を止めるまでにはいきません。
むしろ全力で風を吹かせているのでMPの消費の方が厳しい状態です。
『おっ、何か『海流』があるやん。これってハクが起こしてるん?』
「風なら私が魔法で起こしてますけど……落ちるのは止まってませんよ?」
『ようは底に激突せんかったらええんやろ? 任せとき。うちは『海流』にのって泳ぐんは得意やらからね』
「いや何する気ですか」
『じゃあハクは『海流』で先導よろしくやで』
本当に何をするつもり、と思いましたが。
何となくこいつが進むべきルートに風を吹かせばいい、というのは伝わってきましたし理解できました。
「ああ、もう知りませんよ! 〈風〉〈変形〉!」
やけくそに正面に真っすぐ、風を吹かせます。
『行っくでぇーーーーーっ!!』
風の流れに沿って、飛び跳ねるようにシャチ型マギドールが進み始めました。
物凄いスピード。
しかもバウンドしまくっているので必死にハンドルを握っていないと振り落とされそうです。
けれど、本当に「流れに乗って泳ぐ」ように進んで行っています。
ホバークラフトで移動するためにオルカには風を魔法で発生させて体を浮かす装置が腹側についています。
もちろん普通にやればそれで空を飛ぶのは不可能なのですが。
今は、オルカはその魔法装置を自分で操作して出力を上げたうえで、そこで発生させた風を私が生み出している風にぶつけることで反発力を生み出し、それで落ちるのを防いでいるわけです。
もちろんそれで完全に落下を防げているわけではないのですが。
後は風に乗って高速で移動して誤魔化してますね。
垂直に落下するよりは移動速度が速いほど落下する軌道の角度が緩やかになって時間を稼げます。
つまり、ここから私は。
振り落とされないようにハンドルを握りしめつつ。
高速移動に負けないスピードでこのオルカを軟着陸させるルートを魔法で風を吹かせて作らないといけないわけですね。
「ふっざけんなあああああぁぁぁぁぁっ!?」
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