Episode.19 流石「Dawn of a New Era」って感じですね。

「こんにちはー……て、これ何やってるんですか?」


 なぜか因縁のある元ボスモンスター(?)「グレーターオルカ」の中身が入った《マギドール・アドバンスコア》を入手してから現実で3日、ゲーム内で18日後。


 珍しくドーネルさんが訪ねてきました。

 最近はインしてもたいてい居場所が「無限回廊」になっていたのですが。


 ただ、訪ねてきた場所はいつもの最上階の私室ではありません。

 同じフロアにある展望デッキです。


「マギドールの組立ですね。あっちの部屋だと狭くて広げられなくて」

「なるほど……これがマギドールなんですね」


 ドーネルさんがまじまじと床に広げられているパーツを眺めています。


 白と黒のツートンカラーのパーツが頭部、胴部、手に相当する胸ビレ、背ビレ、腰と足に相当する尾ビレの部分と並んでいます。

 胴部は外装をはずされてコアを収める部分が剥き出しになっています。

 それ以外で目立つ部分と言えば、尾ビレの部分は普通の魚のヒレではなく複数の円形の穴が開いた大型の機械のようなものが取り付けられていることでしょうか。


「これは何の形ですか……イルカ?」

「シャチですね」

「ああ、シャチかあ」


 軽く頷いてパーツを1つ1つ確認していたドーネルさんが私の方へ向き直りました。


「シャチにしては小さくありません?」


 このパーツを全部組んだとして、だいたい体長3メートルくらいになります。

 現実のシャチはだいたい5~7メートルくらいありますから、それと比べるとずいぶん小さくなります。


「あんまり大きいと小回りが利かないですからね。何より大きいと1人で造るのが大変なのと材料の都合があるので……」

「あー、なるほど」

『なあなあ、見たことない人おるんやけど、誰なんそれ?』


 後ろから独特な口調の合成音声が聞こえてきました。


 そこにはテーブルの上に置いてある球体とそこにつないだカメラと集音マイク、スピーカーがセットで置いてあります。


 現在はまだボディが出来ていなくて仮の姿となりますが。

 「グレーターオルカ」が入った《マギドール・アドバンスコア》です。


「この人はドーネル・ブリッツヴォルトさん。私のフレンドで、今はここに滞在しているプレイヤー……だとわからないんでしたっけ。『加護を与えられし者』ですよ」

『ハクの家族の『加護を与えられし者プレイヤー』っちゅうわけやな。よろしゅう言っといて』


 あれ「プレイヤー」て言葉はNPCにも通じるんですね。

 調べてみたら「加護を与えられし者」という呼称、NPCは「プレイヤー」と呼ぶんだそうです。


「家族と言うとちょっと違いますけど、どちらかというと友人ですね……あれ? どうしたんですか、ドーネルさん?」


 ぽかーんとした顔でドーネルさんが私の方を見ています。


「……誰と話をしてるんですか、ハクさん?」

「はえ?」


 いや、そこに置いてある《マギドール・コア》と……んんん?


「ドーネルさん」

「何でしょう?」

「さっき、そこに置いてあるスピーカーから声が聞こえませんでした?」

「いえ、何も」


 ドーネルさんが首を振ります。


「オルカ?」


 思わず《マギドール・アドバンスコア》の方を振り返りました。

 あ、呼び名は何となく「オルカ」と呼ぶのが私の中で定着しています。


『どないしたん、大きな声出して』

「あ、あなたの喋っているのどうなってるの……?」

『そもそも、うちからしたらハクと今、会話できてる方が不思議なんやけどなぁ。ハクも最初会った時はうちが喋ってたの全然聞こえてなかったやん』


 え?

 あの時、喋ってた?


 無言で迫って来た恐ろしさしか覚えがありませんが。


「もしかしてグレーターオルカって私たちには聞こえない非可聴音で会話してる?」

『せやで』


 うわ……全然気づかなかった……。

 いや、非可聴音=聞こえない音ですからむしろ気づく方が怖いですが。


 現実のシャチも頭が良くて独自の鳴き声で仲間同士でコミュニケーションを取っているそうですから、その辺が設定として反映されているのかもしれません。


『そもそも、うちとハクやと言語も違うんやから会話できてる方がおかしいやん』

「そう言われるとそうですね……」


 何かこいつに言われると腹立たしいですがその通りですね。


「そうなると。もしかして声に出さなくても会話できる? (オルカのばーかばーか!)」

『……頭に指当ててなにしてんのん?』

「さすがに頭の中で思い浮かべただけじゃ伝わりませんか」


 さすがに超能力のようなことを再現することはできませんですね。

 ということは、相手の言葉が翻訳されて私だけに伝わる感じでしょうか。


「……あの~。結論は出たでしょうか……?」


 あっ、ドーネルさんのこと置いてけぼりにしてました……。

 事情を説明しないと。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



「ああ……配下のマギドールとの会話で他人には聞こえなかったんですね」

「決して独り言を繰り返したり、見えない友達と会話したりしていたわけではありません」


 【古式人形術】では配下のマギドールとコミュニケーションが可能です。

 今回は配下のオルカとコミュニケーションを取るために自動翻訳されて私には伝わりましたが、元々の言葉が非可聴音で構成されるためにドーネルさんには伝わらなかった、というようです。

 コアの中身が知性あるモンスターというレアな状況ゆえに起こった現象ですね。


 つまりオルカと会話すると私が独り言喋っているようになるというわけですね。

 気をつけないと。


「でも、ボスモンスターの……この場合は魂? が入っているなんて珍しそうですよね。僕も話をしてみたかったですが」

「えええ……うるさいだけですよ? こいつ」

「でも、バリバリの敵ボスモンスターと会話できる機会なんてそうないですしね」


 そういうものでしょうか?


 そんなことを話ししつつ、マギドールの組み立てを始めていきます。


 【古式人形術】の管理画面を開きます。

 ここで登録したパーツを部位ごとに指定していきセットボタンを押せば自動で技能がマギドールの組み立てを行ってくれます。


 ラズウルスさんの体を造った時は【魔機工学】を使って自力で組立のですが、実はこっちの方が簡単で便利でした。


 ただ不便な部分もあって【古式人形術】での組み立ては登録してあるテンプレートの形でした使えない、て所です。より細かい改造を加えたり、さらに自由な設定で製作を行おうとするなら【魔機工学】で一からやる必要があります。


 オートの【古式人形術】、マニュアルの【魔機工学】て違いですね。


「へ~、こんな風になっているんですか」


 後ろからドーネルさんが管理画面を興味深そうにのぞき込んできています。


「これ、技能で使う画面なんですか? まるで『Mechanical Warlock』ですね」

「めかにかる・うぉーろっく……?」

「ちょっと前のVRMMOなんですけど、パーツを組み合わせて自分だけのロボットを造ってそれに乗って戦うゲームです。そのゲームのロボ作成画面そのままですね。あれも開発と運営はデウス・エクス・マキナだから、流用してるのかな?」


 ほほう。そんなVRMMOがあるんですね。

 私は「Dawn of a New Era」が初めて真剣にやるゲームです。それ以前はVRゲームはプレイできませんから情報も集めていませんでしたし、興味もありませんでした。


 今は「Dawn of a New Era」をプレイして他のVRゲームにも興味があったりします。

 ま、私はプレイできないんですけどね。


「ドーネルさんもやってるんですか? そのゲーム」

「えーと……昔に、ですね。今は『Dawn of a New Era』しかやってませんよ」


 ドーネルさん、私がログインしてる時はほぼログインしてますからね。

 AIでかなり時間を自由にできる私よりログイン率高いとかどうなってるんでしょうか、ドーネルさん。


「でも、1つの技能のために別のゲームのUIを流用して完全再現するとか、流石『Dawn of a New Era』って感じですね」


 ドーネルさんが凄く感心していますが、そんなものでしょうか?

 確かに1つのゲームの中にもう1つ別のゲームのシステムが丸ごと入っていると考えると凄く感じますね。


「じゃあ組み立て発動させまーす」


 管理画面のボタンを押すと。


 並べていたマギドールの部品の周囲に小型のクレーンやロボットアームのようなものが現れて、自動でマギドールを組み上げてくれます。


「うわ、懐かしい。まんま『Mechanical Warlock』のパーツセット演出だ」

「そうなんですか?」

「うん。『Mechanical Warlock』は格納庫の中で機械が実際に動くんだけど、今、出てきた機械はまんま『Mechanical Warlock』だね」


 ドーネルさんの様子を見ていると、そのゲーム、ちょっとどんなものか遊んでみたくなりますね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る