Episode.17 えっ、緊急メンテ?
「じ、事故!? これは事故です。悪気はなかったんです!?」
『……何を主張したいのかはわかりかねますが。今回の件について運営は『バグ』と判断しています』
へ? プログ
『貴女の事情と特殊性は当然承知しています。その上で外部よりAIを招き入れると言うのは非常に難しい問題になります。外部に対するセキュリティがまったく働きませんので。言ってしまえば泥棒を金庫に入れるようなものです』
「泥棒に例えられるのはあんまりいい気分じゃないけど、言いたいことはとてもよくわかります……」
こういった不特定多数で遊ぶMMOゲームでは外部ツールなんかの使用は基本禁止されています。運営の関知しないAIなんてまさしくこの禁止ツールの極致のようなものです。
それをセキュリティを無視してゲームの内部に入れてしまうというのはまさしく非常識と言って間違いないでしょう。
『もちろん、貴女がそのような違法行為をするプレイヤーであるとはこちらも考えていません。ただ今回の侵入を検証した結果として『貴女の存在がゲームプログラムに誤認されることで貴女が意図しないにもかかわらず本来開示されないデータに触れてしまう』可能性があることが判明しました。これはバグであると言えます』
ああ、なるほど。
私が内部から意図的にハッキングに近いようなことを行えば当然、規約違反としてBAN対象になるのでしょう。
けれど私がAIであるがゆえに「Dawn of a New Era」のゲームプログラムが私のことをNPCだったり運営AIだったりと勘違いしてしまい、本来プレイヤーが触れてはいけないデータを私に渡してしまう恐れがあるわけですね。
『というわけで今回の件について緊急メンテナンスをして対応を行います。緊急メンテナンス後、ログインした時に今回の件についての説明を行うために時間をいただくことになりますがよろしくお願いします』
「えっ、緊急メンテ?」
何か凄い大事になってしまった。
すぐにゲーム内に1時間後から緊急メンテナンスを行う案内が流れ、ログイン中のプレイヤーに対してログアウトを促し始めました。
ちなみにVRMMOで緊急メンテナンス、というのは珍しいそうです。
最近は管理・運営はAIが行っているのでよっぽどの不具合でない限りはサーバーを落とさなくても修正ができますし、フルダイブ中のプレイヤーを強制シャットダウンするのは人体への影響の都合で非常に手間なので時間通りに始められることがほとんどないからです。
なお、緊急メンテナンスは時間通りに始まりました。
専用フルダイブ装置を使用している「Dawn of a New Era」だからこそログイン中のプレイヤーの強制切断などもできるようになっているのかもしれません。
◇◆◇◆◇◆◇◆
沙織お祖母さまと雅和お祖父さまから「Dawn of a New Eraで緊急メンテナンスだって。珍しいね」と連絡が来ましたが、適当に返信してやり過ごしておきました。
さすがに「私のせいで緊急メンテナンスになりました」なんて言えません。
きっちり2時間で緊急メンテナンスは終了。
公式HPにメンテナンス終了の記事が上がったのを見て「Dawn of a New Era」へログインします。
普通ならログアウトした場所(この場合は40階の自室)のベッドで目覚めるはずなのですが今回は立派なソファとテーブルのある応接室のような場所で目覚めました。
目の前には黒服の美女……
『ようこそいらっしゃいました。では今回の処理について説明をさせていただきますがよろしいでしょうか?』
「よろしくお願いします」
勧められるままにソファに座ります。
ジャン=ジュリアさんも座って話を始めました。
『まず、貴女に新しい技能とアーツが与えられます』
「はい……はい?」
唐突に予想外な話が。
『その技能は【魂核術】。死者の魂を《マギドール・アドバンスコア》に封じ再現する技能となります』
ああ、なるほど。
この場合、死者の魂とはNPC用人格データ。
死者の魂を《マギドール・アドバンスコア》に封じ再現するというのは、NPC用人格データを《マギドール・アドバンスコア》にインストールしてNPCをマギドールで再現する、という意味ですね。
その後、ジャン=ジュリアさんから【魂核術】のプログラム処理関連の説明がありましたが、おおむねこの理解で間違いないようです。
『これにより、同様の行為は【魂核術】とそこから取得できるアーツによってしかできないように設定されます。ここまではよろしいでしょうか?』
「ええっとですね……そもそも私がやろうとしていたのは『《マギドール・コア》に技能を使用せず学習と経験で《マギドール・アドバンスコア》相当にブラッシュアップしようとした』ことですけれど、これはどうなりますか?」
NPCの再生はデータベースに意識が引き込まれたから思いついただけです。
元々やろうとしていたのは技能を使わずに《マギドール・アドバンスコア》を造ることです。
その意味では【魂核術】の話は的外れのような。
『そこについては【魔機工学・上級】で取得できる新しいアーツ〈コアエヴォルト〉により《マギドール・コア》を材料として《マギドール・アドバンスコア》を製作できるようになります』
あ、やっぱりそちらも新アーツがあると。
そしてそのアーツを使用しないといけないようになることで私のやろうとしたような抜け道は封じられるわけですね。
ただ【魔機工学・上級】で使用できるのでゼロから製作するよりは敷居が下がったと言えるかもしれません。
その後【魂核術】と〈コアエヴォルト〉の詳しい仕様について説明してもらいました。
うーん、結構厳しい。
まず【魂核術】は使用するためには【死霊術】技能が必要とのことです。
本来は【魂核術】の取得自体にも【死霊術】が必要になるそうですが、私はサービスで取得させてもらえています。確かにゲーム世界上では魂に関する技能ですし、実際やっていることは死者蘇生のようなものなのですから【死霊術】が関係しているというのは納得ではあるんですけれどね。
ただ【死霊術】はここには覚えるための教本もなかったですし、確か世界設定的には邪悪な術とかで一般には禁忌として扱われていたはず。
せっかくもらった【魂核術】ですが、活用は難しそうでしょうか。
次に〈コアエヴォルト〉ですが。
こちらはまだ私ではレベルが足りないため使用できません。私の【魔機工学】技能自体は上級になっていますので、これはいずれ条件を満たせるでしょう。
ただし。〈コアエヴォルト〉を使用するには素材として《マギドール・コア》が10個必要になります。
つまり《マギドール・コア》10個で《マギドール・アドバンスコア》1個造る、そんなアーツということですね。
うーん、そこまでする価値があるかどうか、ですが。
ラズウルスさんとか見ているとあると思うのですけれど。でも〈マギドール・コア〉自体が希少で生産するにも必要な素材がまた希少なんですよね……。
『今回の件について、私たちは貴女に謝罪をしなければなりません』
「ふぇ……?」
新しい仕様について悩んでいるとジャン=ジュリアさんが立ち上がって私に頭を下げました。
『本来、貴女の行為は
「
『はい。VRゲームではプレイヤー自身が持つ技術・技能によってキャラクターデータ上ではできない行動もできるようになる事例が幾多もあります』
それは当たり前のことですね。
例えば、現実で料理ができる人はVRゲーム内でキャラクターが【料理】技能を持ってなくても
現実で武道をやっている人はVRゲーム内でも戦闘に強くなるそうですし、プロのVRゲームプレイヤーは
『そう言った事例に対し『Dawn of a New Era』ではPSで行為が可能と判断されるとPSに該当する技能やアーツが無償で取得されるようになっています。場合によっては今回のように新しい技能やアーツが作成されることもあります』
妥当な処理ではあると思いますが、そのためにわざわざ新しい技能やアーツをぽんっと作れてしまうあたり技術力凄いですね。
どうやっているんでしょうか?
『そういう形で本来、プレイヤー自身の技術によってできる行為に制限をかけることは『Dawn of a New Era』では行いません。しかし今回はやむなく貴女のPSによる行為に制限をかけることとなりました。これは運営の都合によるプレイの制限に当たると判断します』
「そうですか。いや、しょうがないんじゃないかなと思いますけど」
そもそもPSでできるからと言って規約違反になるようなことはできないでしょうし。私がやっちゃったことはそのラインに近いと思うから制限されて当然だと思うんですけどね。
『申し訳ありませんでした』
ジャン=ジュリアさんは再び深々と頭を下げました。
何だかこっちの方が申し訳なくなりますね。
『では、今後も『Dawn of a New Era』をお楽しみください……ああ、すみません。1つ伝え忘れていました』
「何でしょう?」
『緊急メンテナンス前に貴女が調整した《マギドール・コア》についてはそのままご使用ください』
……ええっ、いいの!?
これって。
私が無断で回収してきたNPCデータが入ってるんじゃないんですか?
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