04.マギドール「姫折華」

Episode.15 ちょっと挑戦してみましょうか。

 沙織お祖母さまに頼まれていた仕事のデータを送ると呼び出しコールがかかりました。

 何だろう? と思いつつ回線を繋ぎます。


「ましろちゃん、おはよ~」

『おはようございます、お祖母さま。どうかしましたか?』

「ましろちゃんの『Dawn of a New Era』がどうなったかな~って思って」


 沙織お祖母さまからは結構な頻度でこの話題を振られます。

 特に今いる「廃都トルアドール」から脱出する方法はわかったかどうかはしつこく聞かれています。


『あ、やっと脱出方法わかりましたよ』

「え~!? ほんと!? じゃあもう移動したの~?」

『いえ、まだやりたいこととやらないといけないことがあるのでトルアドールにいますけど……』

「あ、そうなんだ~」


 目を輝かせて喜んだと思うと目に見えて肩を落としてがっかりしてしまいました。

 沙織お祖母さま、前からずっと私と一緒に「Dawn of a New Era」で遊びたい、て言ってましたからね。

 こう会話の端々から「早くトルアドールから脱出できるようになってね」という期待が感じられて大変プレッシャーなのですが。


 でも私も沙織お祖母さま、雅和お祖父がどんなキャラクターでどんなプレイしているかは気になっているんですよね。


『でも、行ける場所はたくさんあったので、ある程度行く場所は選べそうでしたね。どこのエリアがよさそうでしょう?』

「あら~。大陸5地域どこでも行けるの~?」

『はい。あ……中央部はちょっと微妙かもしれませんが』


 大陸中央部は「アルス帝国」という物語の敵役みたいな国が支配していて、大陸の四方の各地域に侵攻しています。しかも周囲の地方よりも古代文明の技術の発掘と復活に熱心だそうで古代文明の遺跡なども全て国が管理しているらしいのです。

 転移した出現先はやはり古代文明の遺跡と思われるので、下手に大陸中央部に行くと不審者として国に捕まりかねません。


『お祖母さまとしておすすめの地域はありますか?』

「それなら大陸西部がいいわ!」


 即答でした。


『大陸西部ですか? どうしてでしょう?』

「雅和さんがね、大陸西部にいるのよ~。私はある程度色んな場所に行けるけど、雅和さんは大陸西部から動けないのよね~」


 そう言えば雅和お祖父さまのキャラクターは有名人だそうですね。

 どういう意味で有名人かまでは聞いていませんが。


『では、大陸西部に向かうことにします』

「そう、わかったわ~。うふふ、じゃあ私も大陸西部方面に行く準備しないとね~」

『……あの、いつになるかはまだわかりませんので……』


 沙織お祖母さま、何か怖いですよ!?

 出発する時はちゃんと伝えますので!?



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 最上階の元ジーンロイの部屋。


 現在は私がトルアドールで過ごす際の私室にしています。何せ読むと技能レベルが上がる専門の書物がいくつもありますし【魔機工学】用の作業台や【錬金術】用の錬金台など生産用の設備が揃っていますからね。


 で、今は何をしているかと言いますと。


 戦利品を床に並べて吟味しております。


 「無限回廊」で入手した戦利品ではありません。あそこの敵は倒しても死体が消えてしまって何も入手できませんでしたので。


 では、どこで入手した戦利品かと言いますと。


 ドーネルさんが倒した《都市防衛用マギドールT型》からです。


 ドーネルさんは私の所有物のマギドールを倒してしまったかと思って私に謝罪していましたが。

 私からすると破損も少なく倒してくれたおかげでマギドールのパーツを回収できたのでむしろこちらがお礼をしたいくらいです。


 全部で15体分。


 都市防衛能力は下がったような気もしますが……攻めて来る人はいないでしょう。


 たぶん。


 それで、各部位のパーツやマナキャノンの部品なども貴重なのですが、入手できたものの中で1番貴重で価値のあるものがこれです。



 《マギドール・コア》

 種別:素材 レア度:SR 品質:C

 重量:3 耐久度:100%

 特性:マギドールの中枢になる核。

 ※ごく一般的なマギドール用のコア。ごく簡単な命令を実行できる。



 そう、《マギドール・コア》です!


 《都市防衛用マギドールT型》から回収したコアが15個。

 どれも完成品で新しいマギドールに流用が可能な品質です。


 ドーネルさんと「無限回廊」に行ってより強く感じたわけですが、私の現在の一番の課題・問題点はやはり「支配するマギドールがいない」ことです。

 いくらラズウルスさんの技能を引き継いで戦闘技能が豊富だと言えど。

 私の職業は人形遣いドールマスター

 ラズウルスさんにも言われましたが「人形遣いドールマスターの強さはどれだけ強いマギドールを支配下に置いて使役しているかで決まる」のです。


 今までは技能レベルとランクが足らずに《マギドール・コア》を作成することができませんでした。

 しかし、今は手元にその《マギドール・コア》が15個あります。

 これを使えば最大15体のマギドールを造ることができるでしょう。


 ただし。


「……うーん、これ《マギドール・コア》なんですよね……」


 【鑑定】技能での説明にあるように、このコアでは簡単な命令を実行する程度のことしかできません。自分で判断して行動し人間と変わらないように会話のできるマギドールを造るには《マギドール・アドバンスコア》が必要になってきます。


「どうせ造るならラズウルスさんみたいな会話もできるマギドールがいいんですけど《マギドール・アドバンスコア》を造るには最上位の技能が必要なんですよね……」


 ベッドの上にコアを並べて眺めなら考えてみます。


 そもそも《マギドール・コア》とはどういったものなのか?


 マギドールの動力、私で言えばまさしく生命の源、という意味はあります。

 ただ。それはいったん置いておきます。通常のコアとアドバンスコアで動力源としては大きな違いはありませんしね。


 しかし動力源として違いはなくても、通常のコアでは簡単な命令を実行するしかできなく、アドバンスコアではラズウルスさんや記録に残っていたマギドールたちのようにまるで人間のように自分で判断し行動できるという違いがあります。


 その違いとは何に起因するのか?


 それはおそらく。

 内部に蓄積された「行動を決定するためのデータ」と「それを処理する能力」。


 アドバンスコアには高度な処理演算能力が備わっており、人間のように判断を下せるほどの経験と学習がデータとして蓄積されています。

 しかし、通常のコアにはそれらがなく設定した命令を実行するしかできない。


 それはつまり。

 AIと同じということですね。


 確かに【古式人形術】ではコアに様々な行動条件や命令事項を設定してマギドールを制御することができました。マギドール=ロボットと見れば、これはAIを設定してロボットを動かすことと同じことになります。

 ま、メタ視点で見てもラズウルスさんを見ていたら少なくともアドバンスコアには私の義父がこの仮想世界の住人用に用意した私の廉価版のAIが搭載されているのは間違いないでしょうし。


 ということは。


 上手くコアに学習と経験でデータを蓄積できれば。

 通常のコアでもアドバンスコアのように自立して行動し人間らしく振舞えるマギドールを造れるかも?


 こういう設定や調整はまさしくAI技術者としてのメインの仕事になります。

 私の義父、陣内忠雅じんないただまさは世界でも最高峰のAI技術者の1人でした。少なくとも私はそう思っています。各方面より絶賛されているこの「Dawn of a New Era」のAIを造った人ですしね。

 そして、私はその義父の助手として仕事をしていました。

 その時の主な役割が「自分が同じAIであること」を活かした、AIの学習のサポートでした。


 なので、こう言ったAIの調整というのは実は得意分野なのです。


 それに何より。

 私をベースにした廉価版のAIに学習させるということは、自分で自分に物を教えて覚えさせるようなものです。

 より効率的な学習を行えることが期待できると言えるでしょう。


「よしっ。ま、別にやって損はないでしょうし、物は試しです。ちょっと挑戦してみましょうか」


 【古式人形術】のマギドール管理ウィンドウを起動させ、コアを1つ、自分の支配下に登録します。そして仮ですが《都市防衛用マギドールT型》のパーツからカメラと収音装置、合成音声発生装置を抜き取ってつないでセットします。


 よし、それではデータインプットスタート。


  ・

  ・

  ・

(作業中)

  ・

  ・

  ・


 ……うがーっ! めんどくさいっ!!


 現実リアルならAI同士ということで直接データをやり取りしてすぐ終わるんですが。

 仮想現実ヴァーチャルリアリティ内で身体アバターがある状態だとデータをインプットするのにいちいち管理画面に付属のキーボードを叩くか、音声入力モードで全部読み上げないといけません。


「……まさか、体がある方が手間がかかるとは思いませんでしたね……」


 こちらでも直接データをやり取りできればいいんですけどね。

 《マギドール・コア》に額を当ててみます。


「こうやったらAI同士の接触で、こう、テレパシーみたいにデータでやり取りがで……ん?」


 《マギドール・コア》の向こう側に、何か光のようなものが見えます。

 一端、額を離して周囲の景色を見回しても、その光は見えません。


 もう一度マギドール・コアに額を当てて中を覗き込むような体勢になると光が見えます。


 いや。

 光が見えるというのではなく。


 もっと違う。


 そこに「何か」があることを感じます。


 この感じは。



 その奥にあるものが何か。その正体に気づいた時。



 私の意識は落ちるようにその奥に飲み込まれて行きました。

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