Episode.14 『あなたは死亡しました』
【魔機工学】技能は古代文明の魔力を使用した様々な道具を扱うための技能になります。
主な用途は
所謂、魔力を動力として使ったアイテム全般が含まれます。
つまり探索で見つけたあの「全自動ドラム魔力式洗濯機(乾燥機付き)」なんかも【魔機工学】技能で扱う範疇に含まれるわけですね。
ただ、ああいう日常生活に使うような道具はプレイヤーには関係を持つことはめったにありません。そもそも古代文明の道具類なんて簡単には見つからない貴重品ですからね。
プレイヤーが主に関係してくるのは「魔力を動力とする機械的な機能を持つ装備品」になります。
例を挙げるならドーネルさんが倒した都市防衛用マギドールが装備していたマナキャノンですね。魔力を光線に変えて撃ち出す武器です。
後はレシピに載っていた装備品だとマナバリアという特殊な装飾品ですね。これはアクセサリーの形をしていて起動させるとバリアを展開し、そのバリアに守られている間はダメージを受けると「MP」が減るという効果があります。掲示板で見た情報ですが古代文明の遺跡で出てくる敵はこれが標準装備で結構タフなんだとか。
そして気づいたら愛用の武器になっているこの「エーテルブレード」。
これも「魔力を動力とする機械的な機能を持つ装備品」の一種になります。
正確には魔力で刃を作る剣「マナブレード」という武器があり、その刃をエーテル生物……名前の頭に「Ae」が付くモンスター……特攻に調整されたものが「エーテルブレード」という武器になります。
この「マナブレード」のレシピもジーンロイの部屋の蔵書の中にありました。
おかげで材料があれば私でも造れそうなのですが、蔵書にはレシピ以外にも性能や使用方法についての解説もありました。
その使用方法の中でも新しく知ったのが「エーテルブレードの刃に使用するMPの使用量は設定で変更できる」というものです。
自由自在、というわけにはいかず剣側で設定しないといけないのですが、使用するMPを増やせば増やすほど剣の攻撃力も上がるというわけです。
そして、そのMP使用に関する設定の1つが「
一言で説明すれば「MP使用量無制限」。
刃を維持することを放棄してMPをあるだけ使用し超強力な刃を作り上げる、まさしく一撃に賭ける必殺技みたいな使用方法です。
一撃の威力に全振りした流派技能の〈アーツ〉にこの「
これから、あの牛頭を振り向かせてやりますよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一度、目を閉じて大きく息を吐いて心を落ち着けます。
「
一方で〈アーツ〉は多少の助走によるスピードをつける必要があります。
なので、上手くタイミングを合わせて魔力を送り込んで助走中に刃を出さないといけません。
刃のない柄だけのエーテルブレードを上段に構えます。
意識は剣に魔力を注ぎ込むことに集中。
剣を振るのは技能とアーツが
柄が光り出し。いつもより大きな刀身が顕現します。
でも、これでは足らない。
あの強大なボスに刃を通すにはこの程度では全然足りません。
もっと大きく!
もっと強く!
もっと鋭い刃を!
あるだけのMPを絞り出して、エーテルブレードに注ぎ込み。
そして。
できたのは目の前の巨人に匹敵するような大きさの光の刀身。
「……いっっけえええええぇぇぇっっっ!!!」
現実なら絶対振り回せないような、自分の身長の何倍もある光の剣。
けれど魔力でできた刃は重さもなく遠心力に流されることもありません。
上段から思いっきりミノタウロスの背中に振り下ろします。
手応え、あり。
今までの硬いモノに弾き返されるような手応えではなく、確かに肉を斬る手応えです。
「GAAAAAAA!!!!」
ミノタウロスの苦痛交じりの咆哮。
無視できないダメージを与えることができているのを確認。
このまま、刃が消える前に剣を振り抜いてさらにダメージを。
ミノタウロスと目があいました。
怒りに燃える紅い目。
今までのように横目でチラ見するのではなく。
明確に、私を敵として見る、目。
一瞬、気圧された。
ミノタウロスが体に食い込んだ魔力の刃を太い腕で振り払いました。
エーテルブレードの刀身は魔力でできていて重さもありませんが、触れることはできます。
その刀身をミノタウロスの尋常ではない膂力で殴ればどうなるか。
刀身を伝わる衝撃に非力な私が耐えられるはずもなく。
あっけなくエーテルブレードは私の手の中から弾き飛ばされました。
まずい、と思った瞬間。
ミノタウロスの持つ戦斧が私めがけて振り下ろされました。
そして、私は。
大事なことを忘れていたことを思い出しました。
あれをラズウルスさんに教えてもらったのはどこでだったか。
種族レベルが30レベル以上高い敵、ないし体のサイズが自分より3段階以上大きい敵の攻撃はHPを貫通して直接『状態異常:負傷』を与えてくる可能性がある。
ミノタウロス・ジャイアントの一撃。
「状態異常:負傷」85LV発生。
『あなたは死亡しました』
◇◆◇◆◇◆◇◆
死亡すると女神の元に送られて復活するか歴史書に刻まれてキャラロストするか選ぶのは前に説明したかと思いますが。
この時に出てくる女神というのはどういう女神かと言いますと。
世界が災厄で滅亡しそうになった時に五祖神のうちの一柱「権神」イルドラーツェの命で世界に降臨したのが「秩序神」シオメスとその配下の十二霊女神ですが、その十二柱の女神のうちの一柱「紫晶神」フェブリスと言います。
「運命神」とも呼ばれている女神ですね。
当然、復活をすることを選ぶと最上階のジーンロイの部屋の寝室のベッドの上で目覚めました。
「あーーーっ、ああーーーっ、あああああーーーっ、やらかしたああああああっ」
思わずベッドの上で足をじたばたしながらごろごろ転がります。
いや、何してるんですか私。
きちんとダメージ与えて意識を向けたら反撃されるのは当たり前だし、それを狙ってたのに。
手応えの良さに浮かれたのと相手の本気に気圧されたので、防御をすっかり忘れてまともに攻撃を受けてしまいました。
そして死んでから思い出しました。
「HPを貫通して直接『状態異常:負傷』を与えられる場合がある」ということ。
「あー、恥ずかし……何で勝負になると思ったんだか……」
ドーネルさんがピンチだから私が戦闘に加わって。
そこから勝ちに行くぞ、とは何だったのか。
あれだとむしろドーネルさんの足を引っ張ったかもしれません。
「やっぱラズウルスさんの技能、宝の持ち腐れだなぁ……」
あの時はしょうがなかったとは言え、ラズウルスさんのバックアップメモリーカードを自分に使ってしまったのはやっぱり滅茶苦茶損失だったのでは。
せっかくラズウルスさんが遺してくれたのに。
『フレンドのドーネル・ブリッツヴォルトから
通話の要請が来ています。通話しますか? Y/N』
ピッという電子音とともに目の前にウィンドウが開きました。
ドーネルさんからのフレンド通話の要請のようです。
まだミノタウロスと戦っていると思っていましたがどうしたのでしょう?
『もしもーし。大丈夫ですか、ハクさん?』
「あ、はい。大丈夫です」
ウィンドウが切り替わりドーネルさんの姿が映し出されます。
背景的にはホテルの部屋のようですが、死に戻った?
「ドーネルさん、死に戻りました?」
『はい。いやぁ、いけると思ったんですけどね』
頭を掻いて笑うドーネルさん。
特に悔しそうな感じはありません。
「……すみません、役に立たなくて」
『えっ? いやレベル差あったし、しょうがないですよ。それにボス戦なんて死んでなんぼですよ? 僕なんて『試練の塔』でどれだけ死にまくったか』
そんなものでしょうか。
「Dawn of a New Era」って死んだ時のペナルティーが結構重いのであまり死んではいけないゲームだと思うのですけれどね。
『あ、ハクさんは今どこですか? ホテル?』
「はい。あ、えーっと、最上階に私の部屋があるんですけど」
『了解です。今から行くからちょっと待っててくださいね!』
何か一方的に通話を終了されてしまいました。
え? 今からドーネルさんこの部屋に来るんですか?
い、一応部屋はちゃんと片付けてあるので別に問題はない……はず。
あ、ベッドの上に散らかしていた読みかけの本はとりあえず綺麗に積んで脇に置いておきましょうか。
しばらくしてドーネルさんが部屋にやってきました。
「すごい部屋ですね」
「貰い物……になるのかな? 前任者から引き継いだものですけどね」
きょろきょろと部屋の中を珍しそうに見て回っています。
「それで、わざわざどうしたのですか?」
「あ、そうそう。これを届けに」
ドーネルさんが私に手渡してくれたのは。
エーテルブレード。
あの時、ミノタウロスに手の中から弾き飛ばされてしまったものです。
死に戻りすると使ったり無くしたアイテムは元に戻らないのでこれも落としたままで回収できていませんでした。
「……もしかして、戦闘中にわざわざ拾ってくれたんですか?」
「いやあ、もう勝てそうになかったんでそれくらいしておくか、てとこですね」
大切なものか、と言われるとラズウルスさんの遺してくれた数少ないもののうちの1つですから大切ではあるのですが。正直、さっきまで無くしてたのを忘れてたレベルのものです。
それを戦闘中にわざわざ拾ってくるなんて。
「……もしかしてこれを拾いに行ったら死んだんですか?」
「いや、まあ、そんなことはない……ですよ。いや、ほんとに。あのまま続けてても勝てなかったから。同じだったですから」
「……拾いに行って死んだんですね……何してるんですか……」
ほんと、何してるんだか。
「……ありがとうございます」
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