Episode.11 そもそも、ドーネルさんの職業って何でしょう?

 近づいてきた2体ですが、敵としては同じ個体でこんな感じの相手です。

 

 

 《Ic-コリダーガーディアン》

 種族:???? 種族レベル:101

 属性:無 特殊能力:????

 所持技能:【剣術・上級】【盾術・上級】【無限回廊の加護】

 ※「無限回廊」を守る戦士。出現階層によって種族レベルは変化する。

  「無限回廊」の力で守られており、HPを有している。



 思わず【鑑定】で見てしまいましたが特に相手は反応しないようです。

 こちらに向かって来なくて助かりました。


「敵2体、【鑑定】で見ちゃいましたけど101レベルです。【剣術】【盾術】持ち、種族と特殊能力は不明です。あ、あとHP持っているので注意してください!」

「了解。僕が相手するのでハクさんは下がっててください」


 ドーネルさんが大きく足を開いて腰を落とし、低い体勢を取ります。

 軽く地面に手をつき、低い体勢のまま猛烈な勢いでダッシュ。


 一気に接敵し、戦闘開始。


 相手が盾を構える前に、ドーネルさんの両手から繰り出されるラッシュが敵を叩きます。拳を握ったパンチではなく、手の平を当てる掌打のスタイルですね。


 そのまま相手がよろめいた所に組み付きます。

 組み付いた1人を盾にするような形でもう1人からの攻撃を防ぎつつ、投げ飛ばして地面に転がします。

 さらに追撃で足を振り上げて力強く踏み抜き。そのままとどめを刺しました。


 もう1体は盾を構えているところに突進して肩からぶつかり、盾ごと相手を吹き飛ばします。相手の体勢の崩れたところで懐に潜り込んで腰の部分を掴むと、そのまま一気に壁に叩きつけて倒しました。


 おー。流石、種族レベル104です。

 種族レベル比較では同格やや下くらいの相手になりますが、相手にしませんでしたね。

 「Dawn of a New Era」ですと種族レベルと技能レベルは連動していないので種族レベルは高いが技能レベルは低い……という可能性もありましたが、そんなことはなさそうですね。


 しかし、あの戦い方はどこかで見たような。


「……相撲?」

「あ、やっぱりわかりますか」


 思わず出た私の呟きにドーネルさんが反応しました。


 そう、足を大きく開いて手を地面につけた体勢からの突進、掌打の連打、組み付きからの投げなどは現実の「相撲」そのままの戦い方です。まあ、倒れている敵を踏みつけたりは現実ではありませんが、足の動かし方はまさに「四股を踏む」と言う奴でしたね。


「ワーベアに伝えられる流派格闘術って【流派:熊人相撲道】って言う技能なんですよ。で、覚えられるのがまんま相撲なんですよね」


 熊で相撲……金太郎かな?

 安直と言えば安直、かなあ……どうでしょう……?


「組んで良し殴って良し、しかもワーベアの中で非常に重んじられる伝統の格闘術なんでNPCから手厚く指導してもらえると凄くいいんですけどね。ただ、やっぱりイメージが微妙で人気はさっぱり……」

「まあ、VRMMOで相撲取りになりたい人はあんまりいないでしょうね……」


 いや、相撲がカッコ悪いということはないんですよ。

 現に先ほどのドーネルさんの戦いぶりは惚れ惚れするほどでしたし。ゲームとして調整されているなら、十分実用に耐えうる技能になっているでしょう。


 ただ「Dawn of a New Era」って剣と魔法の西洋風ファンタジー世界が舞台なんですよね。ちょっと怪しい所もありますけど。


 剣と魔法のファンタジー世界で相撲を取りたいかと言われると、うん。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 道中はドーネルさんに任せっきりで私は後方で見ているだけでしたが、特に問題もなく進みました。

 いやあ、相撲強いですね。


 で、現在は『無限回廊Ⅲ-110階層』。


 ここは今までの回廊とは様子が違います。


 転移装置から出た場所がちょうど2階から張り出したバルコニーのようになっています。そのバルコニー部分の右側に階段があり下のフロアに降りることができるようになっています。下に降りたら1階層進んだことになりそうな気もしますが、ここは上下で1階層扱いのようです。


 そして、下のフロアの奥側に威風堂々とたたずむ巨人が1体。


 身長は5~6メートルくらいで頭が私たちがいるテラス部分と同じくらいの位置にあります。その頭は牛のそれであり、筋骨隆々で上半身裸でトランクスを履いているだけの姿、巨大な戦斧をかついでいます。


「ミノタウロス……でしょうか。すごい恰好ですね」

「ボス……でしょうかね。この2階建ての構造も『試練の塔』と同じですし、『試練の塔』だと10階層ごとボス戦になるんですよ」

「となると……相手のレベルはやっぱり110レベルでしょうか?」

「ここまで『試練の塔』と同じですし、そうでしょうねえ」


 最初の101階層で出てきた敵は全て101レベル、その後階層が進むごとに102レベル、103レベル……と敵のレベルが上がっていきました。ドーネルさんによればこれも「試練の塔」と同じ構成とのことです。


「とりあえず、ちょっと本気装備で行こうと思います」

「え?」


 ドーネルさんの姿は白いTシャツに短パン、所謂「何も装備をつけていない初期状態」です。何も装備をつけていない状態で100レベル超えのモンスターを軽々と倒していってたのもすごいのですが。


「……装備品、あるんですか? 初期状態だったので何も持ってないのかと思ってました」

「いやあ、一応職業専用の装備品があるんですよ。すごい性能のが。ただ、使ってて耐久度が減っていった時に僕じゃ直せないのでもったいなくて普段は使ってないんですよ。ここぞという時だけ使うようにしてます」

「なるほど」


 確かに今まで気にしてませんでしたけど、装備した状態で戦闘して敵の攻撃を受けたりすれば耐久度が減少していき、0%になると破損状態になってしまいます。破損状態から直すこともできますが、減った耐久度をただ回復させるより数倍手間が増えてしまいます。

 貴重な装備品なら破損状態にならないように使うことを考えるのも当然ですね。私は全然、そんなこと気にしてませんでしたけど。


「想定は110レベルボスですからね」


 プレイヤーズブックを取り出して、ドーネルさんが装備品を身に着けました。


 まず、上半身は裸です。

 何もつけていない状態だと白Tシャツなのに装備品を身につけると裸になって露出度が上がるとはこれ如何に。いや、そういう見た目の装備品もあって当然なわけですが。例えば水着とか。


 下半身は廻しです。相撲取りだから当然の装備品と言えばそうですね。上半身裸の見た目から推測するに上半身・下半身でセットの装備品ではないかと思われます。


 ……廻しが下半身だけの装備品だと上半身に服を着たり鎧を纏ったりできることになるわけですが、それは何か嫌ですね。


 それはさておき。


 下半身の廻しですが立派な装飾品で飾られています。

 まず前側に垂れているのが、所謂「化粧廻し」です。現実ですと様々な絵やデザインで飾られている化粧廻しですが、ドーネルさんがつけているのは紫色ベースで魔法陣ぽいデザインにルーン文字のようなものが刻まれたものになっています。

 それと真っ白な神社にある注連縄のようなものが腰の部分に巻かれています。


 現実の相撲取りの人が実際に身につけているものに近いのですが、こうして見るとちょっと神聖な感じでファンタジーっぽい装備品に見え……なくもないかな?


「じゃ、ちょっと離れててもらっていいですか? 今から『儀式』をやって、バフをかけますので」

「『儀式』? バフ?」

「準備にすごい手間と時間がかかるんですけど、効果は強力な職業専用のアーツです。ボス戦はそれをかけて挑みたいので」

「わかりました」


 言われた通りにドーネルさんからちょっと離れます。


 大きく深呼吸をし、ドーネルさんのアーツだという「儀式」が始まります。


 柏手を2回打つ。


 右足を高く上げてから力強く腰を落として床を踏みしめる。


 低い体勢から右手を前に伸ばし左手を胸のそばに持って行った姿勢で足を小刻みに動かして直立の体勢に戻す。


 その足を上げてから体勢を戻すまでの一連の動作を右足で2回、左足で1回繰り返す。


 最後に柏手を1回。


「……おお」


 ドーネルさんが儀式を終えると体が淡い光に包まれます。

 これがバフがかかった状態なのでしょう。


 しかし、このアーツの儀式。どこかで見たような気がします。


「あのー、このアーツって……」

「えっと、わかります? 〈土俵入り:雲竜型〉って言うんですけど」


 土俵入り、雲竜型……ああ。

 それで思い出せました。現実の相撲で毎日の競技の開始時に行う所作ですね。


 ドーネルさんの説明によると〈土俵入り:雲竜型〉と〈土俵入り:不知火型〉という2つの職業専用アーツがあるそうです。

 〈土俵入り:雲竜型〉は攻防一体でバランス良く攻撃と防御が上昇し、〈土俵入り:不知火型〉は攻撃重視で攻撃力が大きく上昇するそうです。


「ところで、ドーネルさんに伺いたいのですが」

「何でしょう?」

「そもそも、ドーネルさんの職業って何でしょう? まだ聞いてなかったのですが」

「あー……」


 ちょっと照れ恥ずかしさそうに、ドーネルさんが答えました。



「僕の職業は格闘系職業『力士』の最上位、『横綱』です」

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