03.エクストラダンジョン「無限回廊」

Episode.10 フレンドだったらいいかなって。

 転移装置とはどういうものかと言いますと。


 2個1組で地面に設置して使用します。

 起動させて中に入るとペアになっている方の装置側に移動することができます。

 古代文明時代は遠距離の移動に使用されていたようですが、設定の仕方で一方通行でしか使用できなかったり双方向で行き来ができたりと使い方も変わるようです。


 後はひねくれた使い方ですが、巧妙に存在を隠しておいて何も知らずに足を踏み入れた人を遠距離に強制的に飛ばす罠としても利用できるみたいですね。

 ダンジョン踏破ゲームによくあるワープゾーンと言う奴です。


 で、ここにある転移装置はどんなものかというと。


「……設定を切り替えることで地図上の好きな転移装置に移動することが可能、ですか……」


 マニュアル本が置いてありましたので中を確認したところ、かなり特殊なタイプの転移装置のようです。

 地図上の、というのは壁にかけられた世界地図で光る赤い点の箇所のことです。


「地図にある転移装置の登録位置からすると、結構色んな所に行けそうですね、これ……」


 五分割した大陸各部にだいたい3か所ずつ、赤い点があります。

 この赤い点の部分が実際どういう場所なのかはわからないのですが、きちんと場所を選べば簡単にトルアドールから世界中に行くことができそうです。


「何にせよ、この島から外に行く手段が見つかったってことですよね、おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

「……もしかして、もう出かけます?」

「いえ、まだやりたいこと、というかやり残してることも色々とあるので……何かありました?」


 ドーネルさんが何かしょんぼりしたような感じでこちらの様子をうかがっていますがどうしたんでしょうね?


「いやぁ、ハクさんがここから出かけるなら、僕が1人でここに残っちゃうことになるじゃないですか。一応、ここはハクさんの所有するフィールドだから僕だけ居させてもらうと言うのも気まずいと言うか……」

「別に気にしませんよ?」

「はは……ですよね……僕の気にしすぎだとは思うんですけどね」


 正直言うと、トルアドールって人はいませんけど広さは本当に街一つあるので「自分のもの」とはあんまり感じないのですよね。あえて自分のものと思うのはホテルの最上階の元ジーンロイの部屋くらいかな?


 とは言え、ドーネルさんの言いたいことも何となくはわかります。

 家主不在の家で1人で留守番しろと言われると居心地悪そうですもんね。


「仕方ないなぁ……じゃあ、これ」

「えっ、わ、あっ、と。いや、これって」


 私が投げ渡したものをドーネルさんがちょっと慌てて落としそうになりながら両手で受け取ります。

 何を投げたかというと。



 《トルアドール管理者印章》

  種別:装飾品 レア度:UR 品質:SS

  重量:- 耐久度:100%

  特性:「隠都トルアドール」の管理者であることを証明する指輪。

     「隠都トルアドール」の以下のシステムを使用することができる。

      ・魔力集積配送システム

      ・上下水循環管理システム

      ・複拠点転移システム

     〈転移-トルアドール〉が使用できる。



 この部屋に置いてあった指輪です。


 凄そうな名称だったり能力そうだったりしますが、実は5つ置いてあったんですよね。しかもこの場所のシステムで複製できるようなので、大量生産も可能です。古代文明の都市管理システムを使用できるということでレア度は高いですが実際はそれ以上の価値はありません。


 ただ、これを装備することで使えるようになる〈転移-トルアドール〉はとても便利です。


 効果は簡単に言うと「トルアドールの管理室に転移する」となります。

 つまり転移を阻害するような効果を受けない限り、どんな場所にいてもこの部屋に戻って来ることができます。


「えっ、これ、いいんですか?」


 受け取ったものを見てドーネルさんが驚いています。


「いいですよ。一応、この場所はシステム的には私が所有者ってことになってるみたいですけど、街一つ独り占めにするのは荷が重いですし」

「そうですかね?」

「それに、フレンドだったらいいかなって」

「あー……そうですね。フレンドならしょうがないですね。じゃあ、ありがたくいただいておきます」


 指でつまんで指輪を眺めていたドーネルさんでしたが「フレンドだから」という理由に納得してくれたのか、指輪を受け取ってくれました。

 というわけで防御効果は特にありませんが装備しておくことにします。


 ふと、ドーネルさんの方を見ると、同じように指輪を装備していました。


「……ペアリング?」

「えっ。いや、そんなつもりは……って、同じアイテムなんだからデザインは同じで当たり前なんだから、そういうのはペアリングとは言いませんよっ」


 それもそっか。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 実は見つかった転移装置はこれだけではなく。

 奥に部屋があってもう1つ転移装置があったんですよね。


「じゃあ、僕は『無限回廊』をちょっと見てこようと思いますけど……ハクさんはどうしますか?」


 そう、それがドーネルさんが探していた「無限回廊」へ行くための転移装置です。


 ただこの「無限回廊」なのですが。

 正直、どんな場所かはよくわかりません。

 転移装置の傍に無限回廊の解説らしき銘板が設置してあるのですが「永遠と続く回廊の中に別の世界へと渡るための門が存在する」としか書かれていないのですよね。


「ハクさんも行ってみます?」

「んー、どうしましょうか……試しに行ってみたい気はするんですけど、足を引っ張りそうなんですよね……」


 種族レベルで言えばドーネルさんが104で私が77。30レベル近く離れています。

 それに何より現在の私は武器を持っていません。

 いや、ラズウルスさんから継承した技能とエーテルブレードはあるんですけどね。


 人形遣いドールマスターとしての武器、支配下のマギドールがいないのです。


 お供を戦わせる職でお供がいないというのは魔法使いが魔法なしで戦うようなものです。例えとして合ってるかどうかはわかりませんが、感覚としてはまあ間違いではないはずです。


「ま、僕も死に戻り前提の様子見のつもりですし、それでよければ」

「それは全然OKですよ」

「じゃあ一緒に行きますか」

「行きましょうか」



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 というわけでドーネルさんとパーティを組んでやってきました「無限回廊」です。


 西洋風のお城の中のようなデザインの通路がまっすぐ伸びています。

 幅も広いし天井も高いしで通路というよりは部屋がずっと広がっているみたいな感じですね。


 転移装置の側にプレートが置いてあります。



 『無限回廊 Ⅲ-101階層』



「……無限回廊の101階層だそうですよ」

「1じゃなくて101ということはもしかして『試練の塔』の続きってことでしょうか。『試練の塔』が100階でしたからね」


 ドーネルさんが腕組みして考え込んでいます。


「『試練の塔』の続きだとどうなるんですか?」

「出てくる敵が101レベルになる……かな?」

「それだと私は本当に後ろで見ているだけですね……」


 流石にレベル差がありすぎますからね。

 ただ、ドーネルさんは種族レベル的にはちょうどいいかもしれません。


「うーん? でもハクさん、初めて会った時の剣の動きだと技能レベルはかなり高いんじゃないですか? あれなら十分戦えそうですけどね」

「あれは色々あってもらったものなので実戦経験はほとんどないんですよね……あと、これでも職業は人形遣いドールマスターなので後衛なんです」

人形遣いドールマスターってどんな職業なんですか?」

「簡単に言うと、マギドールって言うロボットを造って戦わせる職業ですね」


 あ、何かドーネルさんが急に狼狽え始めました。


「ごめんなさい……もしかして街に入った時に壊したのって、ハクさんの……」

「いや、あれは私のじゃないので大丈夫です」

「ですか。ハクさんが戦えないのは僕がハクさんのマギドール壊したからだったのかと思いましたが、そうではなかったんですね」

「……使役するマギドールがないのはその通りなんですけどね……」


 そんな話をしていると通路の奥から気配がしました。

 やってきたのは黒いプレートアーマーを身に着け剣と盾を持っている戦士か騎士らしき者が2名。


 早速敵の出現のようですけれど、果たしてどんな相手でしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る