Episode.09 全自動ドラム魔力式洗濯機(乾燥機付き)

 上り階段と下り階段。

 どちらがどうということはないのですが、ドーネルさんと相談してまず上に登ってみることにしました。


 階段を登っていくと、だいたい2階に上がった所に扉がありました。


「そう言えばハクさんもここには入ったことはないんでしたっけ?」

「そうなりますね」

「一応、僕が開けましょうか。罠とかはたぶんないとは思いますけど」


 扉を開けようとしたらドーネルさんが割って入ってきて、大きな体で私を隠すようにしながら扉を開けました。


「あ。鍵はかかってませんでしたね」


 開けてから気づいたのか声をあげるドーネルさん。

 罠があったらと私をかばったのに鍵のことは想定してなかったんですか。


「いやあ、せっかく罠があるかもと思ってかっこつけて扉を開けに行ったのに、これで鍵がかかってて開かなかったら締まらない話になってましたよ」

「……鍵がかかってたら閉まったままだったのでは?」


 何で困った顔でこちらを見るんですか、ドーネルさん?



  ◇◆◇◆◇◆◇◆



 部屋の中は結構広々としていました。


 壁一面が棚になっていて細かく区切られています。区切られた棚の中にはシーツとタオルらしきものが入っているのが見えます。

 部屋の隅には大きな籠が台車に載ったものが2台、まとめて置いてあります。


 反対側には何かよくわからない大きなものが置いてあります。

 四角い箱のようなものに正面部分のほとんどを丸い飾りが覆っている感じです。


 後は大きなテーブルと複数の椅子が置いてあるのと、部屋の奥に扉とエレベーターがあります。エレベーターはロビーにあるものよりも小型のものですね。


「何でしょうね、この部屋?」

「あ、これシーツとバスタオルですね」


 棚の方を見ていたドーネルさんが大きめのベージュのバスタオルを広げて見せてくれます。

 よく見ると棚の区切りにはそれぞれナンバープレートがついています。


「各部屋用のタオルとシーツ、ということでしょうか?」

「あー、それだとリネン室なのかな?」

「リネン室?」

「病院とかホテルで、ベッドシーツとかタオルとか布類を保管する部屋ですよ」


 確かにここがホテルと考えるなら、客室用のタオルとベッドシーツをここで管理していて、汚れて交換したものを回収して集めてきている感じはします。そう言う視点で見ると、籠をのせた台車は洗濯物を回収して入れるようにも見えますね。


「じゃあ、これは何かな……?」


 棚の反対側にある大きな箱を色々触ってみます。

 ん、あ。よく考えると【鑑定】できるかな?



 《全自動ドラム魔力式洗濯機(乾燥機付き)》

  種別:道具 レア度:SR 品質:B

  重量:1640 耐久度:62%

  特性:魔力を使って稼働する洗濯機。

     重量200までの布製のアイテムを洗濯・乾燥し、耐久度を回復させる。

  ※自動メンテナンス機構付きでお手入れ不要。高速&大風量でふんわり綺麗な

   乾燥仕上がりに。魔力循環式になって省エネ。洗剤も内蔵魔術式で生成する

   ので投入不要で楽チン。



 ……ああ、なるほど。


 正面にある丸い飾りを動かすと、蓋になっていて中は空洞になっていることがわかりました。


 いわゆるドラム式洗濯機というわけですね。


「何かわかったんですか?」


 私が洗濯機をいじっているのに気づいて、ドーネルさんが後ろから覗き込んできました。


「洗濯機みたいですね」

「あー、シーツやバスタオルを洗濯するためのものですか」

「ですね。洗剤もいらないみたいで今でも使えるみたいです。これでベッドのシーツを取り替えたり、お風呂に入る時にちゃんとバスタオルが使えますね」


 部屋で寝る時はログアウトする時で、確かその時はゲームの身体アバターは存在しないらしいのでシーツを交換する意味があるかはわかりませんが。

 バスタオルはお風呂に入るなら是非欲しかったのでありがたいですね。


「あとは扉とエレベーターですか。エレベーター乗ってみます?」

「ドーネルさん、乗れます?」

「いや、問題ないと思いますよ……狭そうですけど」


 かなり大柄なドーネルさんを横目で見ながらエレベーターの入口の大きさと頭の中で比べてみますが。2人で乗るとかなりぎゅうぎゅうな感じになりそうですね。


「とりあえず、扉の外を見てみるということで」

「了解です」


 返事をしながらドーネルさんが扉を開けてくれました。


 そーっと頭だけ出して外の様子を確認します。

 廊下に均等に扉がならんでいます。ホテルのフロアみたいな感じです。いや、ここはホテルですが。


「ああ、こんな風になってるんですね」


 この部屋の扉は廊下側から見ると壁と一体化していて隠し扉のようになっていたようです。道理で見覚えがないと思いました。

 頭を引っ込めて扉を閉めます。これでおおむね確認はできたでしょうか。おそらく上も同じような仕組みになっているのではないでしょうか。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 一応、エレベーターで上の階も確認しましたが、ほぼ同じような構造になっていました。違う部分は棚が部屋ごとに分かれていなかったことと、洗濯機がなかったことでしょうか。業務の流れとしては2階の部屋が基本で、あそこで洗濯と部屋ごとの備品の管理をしていて、上の階の部屋は洗濯物を回収して一時置いておくだけの部屋のようです。


 というわけで、登り階段側は一通り確認できたので。

 次は戻って下り階段側へ向かいます。


 下り階段の方は結構長く続いていました。

 体感で言うなら地下2階相当でしょうか。

 同じような感じで扉があったので開けて中に入ります。鍵はなし。


 中は登り階段側よりもかなり広い造りになっていました。

 まず目立つのは部屋の中央に置いてあるよくわからないモノです。

 外観は円筒形の機械らしきものを4本、重なり合うような感じで立てて1本の太い柱状にまとめてあるという所でしょうか。それが天井を突き抜けて上部へ続いています。その周囲にもデジタルの表示板がついた機械らしいものがぐるっと取り囲むような感じで設置されています。


 何かわからない時は【鑑定】ですね。【魔機工学】技能を持っている私だとこの手の古代文明時代の機械っぽいものにはボーナスもつくみたいですし。



 《マナ集積機》

  種別:オブジェクト レア度:UR 品質:SS

  特性:世界に満ちたマナを集めて蓄えておく装置。

     蓄えたマナは様々な魔道具の動力として使用できる。  

  ※古代文明時代の都市には大規模なマナ集積機が設置され、街の動力を賄う

   ようになっていた。トルアドールのマナ集積機は都市の規模からすると大

   型で高性能である。



 なるほど、街灯やホテル内の灯りがまだ生きているのはこの装置が稼働していたからなんですね。


「ハクさーん」

「……ん、あ、はい」

「そっちは何かわかりましたか?」


 【鑑定】結果を見て考え込んでいたらドーネルさんが声をかけてきました。

 そのドーネルさんは何をしていたかというと部屋の壁際にある別の装置らしきものを見ていたようです。


「これが魔力マナを集めて貯めておく装置だというのはわかりましたね」

「あー、こっちにあるのは街に魔力マナを送るのを管理する装置みたいですから、それとセットで街にエネルギー供給してるんですね」


 ドーネルさんの前にある装置は大きな画面に街の地図が表示されているのがすごく目立ちます。街の地図の中を光の線がいくつも走っているのが現実リアルで言うところの電線みたいなもので、電気ではなく魔力を送っているのでしょう。

 ただ街中の建物は魔力は通ってなかった(魔力で動く道具類が動かなかった)ので、現在は線は生きていても実際に魔力は送ってはいないと思われますが。


「ここはこれだけでしょうか?」

「まだ奥に扉がありますよ」


 ドーネルさんが指差す方を見れば、扉があります。部屋に入った時にはマナ集積機の影になって見えてなかったようですね。


「行ってみましょうか?」

「了解です」


 私の提案に応える形でドーネルさんが扉を開けました。



 まず目に入って来たのは、大きな世界地図です。

 この世界の大陸は大雑把には五芒星の形をしています。

 大陸北部、東部、西部は三角形の形をしていて、大陸南部はW型、大陸中央部が五角形をしています。


 その世界地図の各所に赤い点が光っています。


 だいたい均等に世界の色々な場所に光は散っているように見えます。


 その世界地図の下部分の床に円形の機械のようなものが埋め込まれています。

 見た目を説明しにくいのですが……ガスコンロみたいな感じです。

 真ん中の円が淡く赤色で発行していてそこから縦・斜めの6方向に突起のようなものが伸びている……感じでしょうか。


 何とも説明しにくい物体ですが、その正体はドーネルさんが知っていました。


「あ、ハクさん、これ、あれですよ。転移装置。僕がここに来た時に使った奴と同じです」

「転移装置?」

「これに乗ったら別の場所に移動できるんです」


 ……これは、もしかして。


 ついにここから脱出する手段が見つかった?

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