Episode.08 変わった種族なんですね、ハクさん。
「
「今の時代にそんなボケする人がいるとは思いませんでした……ネトゲのフレンドってメールアドレスの登録くらいの意味ですよ」
とは言ってもメールアドレスでも今日初めてあった人を登録するか、と言われるとですね。普通はしないと思うのですがどうでしょうか?
「そもそも、なぜフレンド登録を?」
「えーっとですね……しばらくここを拠点にせざるをえないので、それなら仲良くなれたら……と思ったのと、フレンドになると個別で通話ができるので何か見つけた時にすぐに連絡できるかな、と」
つい不信感からジト目になって冷たい視線でドーネルさんを観察します。
睨まれていると感じているのかドーネルさんは居心地悪そうにしています。
うーん。
ドーネルさんはいい人なんだろうなと思います。
第一印象は怖いというか気迫が満ちて凄そうだったんですけど。
戦闘中でないと温厚でむしろ気弱そうな感じはしますね。
「思ったより普通の理由ですね」
「普通じゃない理由でフレンドになるってどんな理由ですか」
「うーん……ナンパとか? MMOでは多いと聞きましたが」
「……しませんよ。してほしいんですか?」
大げさに肩を落として呆れているドーネルさんを見て、思わずくすっと笑みがこぼれてしまいました。
ああ、こういう感じで他人と会話をするのも何だか久しぶりですね。
ずっと1人でしたからね。
「いいですよ。フレンド登録しましょうか」
「はい。ありがとうございます」
ドーネルさんは嬉しそうにプレイヤーブックを取り出しました。
そんなドーネルさんを見ていると何だか私も楽しくなってきました。
他人が嬉しそうだったり楽しそうだったりするのを見ると、自分も同じように嬉しくなったり楽しくなったりするものなんですね。
「ところでフレンド登録、てどうやるんでしょう?」
「あ、大丈夫です。さっきずっと調べてましたから」
ここに来るまでに妙に無言で反応がなかったのはそのせいですか。
しばらく待っていると、目の前にウィンドウが開きました。
『ドーネル・ブリッツヴォルトからフレンド申請が来ています。
プレイヤーブックのコミュニケーションのページで登録の可否
の処理を行ってください』
ふむふむ。
コミュニケーションのページを開けばフレンドリストとブラックリストの欄が表示されます。まだ誰の名前もありませんが、フレンドリストの方には「申請中」の文字が点滅して光っています。
その文字をタッチするとドーネルさんの顔写真が貼られた履歴書みたいな画面が開きました。その画面の一番下に「フレンド登録」というボタンがあるので、これを押せば登録がされるのでしょう。
「はい。登録しました」
「僕の方も登録されましたね」
フレンドリストにドーネルさんの名前が表示されました。
記念すべきフレンド1号、なのかもしれません。
ドーネル・ブリッツヴォルト 種族:ワーベア 種族LV:104
へえ、種族と種族レベルがリストには表示されるんですね。
……って、レベル高いですね!?
掲示板では確かまだ種族レベルの上限は突破できるらしいという情報が出回りつつあるくらいで、正式に上限突破の方法が広まっているわけではなかったはずです。
ドーネルさんは「闘神」カリッジと関係があったそうですからその時に祝福をもらってレベル上限が上がったのかもしれません。
「変わった種族なんですね、ハクさん」
ドーネルさんがプレイヤーブックを見ながらぼそっと呟きました。
あ、そうか。
私の種族とレベルも相手側のリストに表示されるのか。
「……秘密にしておいてくださいね。お願いします」
「レア種族、てやつなんですね。了解です」
これはフレンド登録は慎重にやった方がよさそうですね。
「ではあらためて。これからよろしくお願いします」
「……はい。よろしくお願いします」
フレンド登録も終わり、ドーネルさんは最後にログアウトしたセーフゾーン、つまり死亡した時に戻る場所の登録を変更するためにホテルの部屋でログアウトしました。
私も今日のプレイはこれくらいにして1度ログアウトすることにしましょうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
現実時間で翌日。
「Dawn of a New Era」にログインするとドーネルさんから個別通話の要請が来ました。
この個別通話はフレンド同士でしか行うことができず、話している声は他人には聞こえない仕様になっています。ただいきなり遠くにいるフレンドに話しかけることができるわけではなく、まず相手に申請を送り承諾してもらう必要があります。まあ、目の前にいない人にいきなり話しかけられたら混乱しますからね。
要請を承諾するとオンライン通話のような画面が開いてドーネルさんの姿が映し出されました。声だけかと思ったら映像もあるようですね。
『おはようございます、早いですね』
「そうですね」
私はともかくドーネルさんも平日の朝からゲームにログインというのは不健全ですよね、本当に。
「どうかしましたか?」
『えーっと、入っていいのかどうか判断できない場所があったので確認してもらおうかと』
早いですね!?
一応、私も街中含めて一通り探索したんですよ。
そこには入っていいかどうか悩むような場所なんてなかったんですけどね。
ああ、40階の私の部屋かな?
「どこですか?」
『ホテルの1階です。今、そこにいるので合流しませんか?』
ホテルの1階……?
そんな場所あったでしょうか……?
私のログイン場所は40階の専用部屋ですので、部屋を出るとエレベーターで1階まで下りて行きます。
ドーネルさんは1階のロビーのソファに座っていました。
エレベーターで降りてきた私に気づいて、手を振ってきます。
「おはようございます」
「おはよう……こういう場合はおはようでいいんでしょうか?」
ゲーム内時間だとどちらかというと今は夜なんですけどね。
「こんばんはの方がいいですかね?」
「すみません、プレイヤー同士の挨拶のルールは私は知らないので……」
「そうですね……僕も詳しくはないですが。ゲームによって違うような気もします。そもそもゲーム内で昼夜がない場合やゲームと
こういうのはVRMMOの共通の常識があるものかと思ってましたが案外そうでもないようです。確かに加速時間を採用するか意図的にずらすでもしない限りゲーム内時間と現実の時間は同じなのが普通のようですし。
「それよりも、入ってもいいかどうか確認しようと思ってたんですが」
「そうでしたね。どこのことですか?」
「あ、ここです」
そう言ってドーネルさんが私を案内したのは1階の小窓のついた扉でした。
そう、私がダンジョンを潜り抜けてやって来た扉です。
「ここは私が初期地点からやって来たダンジョンの入口ですね」
「あ、そうなんですね」
私の言葉に応えながら、ドーネルさんは扉を開けて中に入りました。
正面に下り階段が見えます。
この先が私が通って来たダンジョンになっているはずです。
「で、こっちとこっちなんですけど」
「……?」
ドーネルさんは扉を出てすぐの踊り場になっている場所で右と左を指差しました。
指を差した方を見ると。
登る階段と下る階段があります。
「この階段の先に扉があってですね。何か建物内の重要な場所のようだったので勝手に入るのはまずいかな、と思って」
「……ソウナンデスネ」
「それでハクさんに連絡したんですけど……どうかしました?」
「……イエ、ドウモシナイデスヨ」
そうかぁ。
ダンジョンを抜けてきた時はまともな精神状態ではありませんでした。
グレーターオルカとの死闘、ラズウルスさんの死……自分もいつ倒れるかわからない状態でとにかくセーフゾーンを目指してました。扉の小窓から見えた光のイメージも強かったので左右に階段があるのはまったく目に入ってませんでしたね。
よく考えれば、どう考えてもここがホテル内の裏側で何かあるとしたらここしかありませんでしたね。1階の扉もいかにも怪しいですし。
ここはダンジョンに向かう下りる階段しかないと思い込んでいて、まったく探してませんでした。
「……本当に、大丈夫ですか?」
「……大丈夫。自分の馬鹿さ加減に打ちひしがれているだけなので……」
状況を話すと優しい目で見られました。
ど、同情はいりませんからっ!
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