Episode.07 よかったら僕とフレンド登録しませんか?
「『闘神』カリッジ!?」
「はい。この世界だとマイナーな神様だと思いますが……ワーベアは元々『闘神』カリッジに武術を教えられた、てことになってるのでこの神様を部族で信仰しているんですよ」
ここで五祖神が出てくるとは思っていなかったのでちょっとびっくりです。
しかも聞かされている中で一番「よくわからない」神様なんですよね。カリッジ。
五祖神とはゲーム内世界においてはこの世界を創った神様たちです。
一方で
この5人がどういう役割をしていたか、は五祖神の名称やエピソードからうかがい知ることができます。
第一の神「帝神」サイはこの世界を創造するために他の四柱の神を指揮した、とあります。なので、おそらくはこの仮想世界を作成するためのプロジェクトを立案・遂行した人なのでしょう。
第二の神「界神」リーフェイアはこの世界の大地と海と空を創造した、とあります。なのでこれはこの仮想世界の地形データを作成した人。
第三の神「創神」ジーンロイは言うまでもないですね。この世界のNPCを動かすAIを調整した私の義父。
第五の神「権神」イルドラーツェはマギドールに関するジーンロイとのエピソードもありましたし、おそらくはゲームの運営サイドの人物だと予想しています。
では、第四の神。
世界設定としてはこの世界に戦いと争いを持ち込んだと言われる「闘神」カリッジとはこの仮想世界を創るにあたって何をした人なのか。
正直、全然想像がつきません。
「『闘神』カリッジとはどんな人でした?」
「どんな……? うーん、とりあえず滅茶苦茶強かったですね。全く歯が立ちませんでしたから。しかも技術で、ですよ。どれだけ凄いAI積んでるのだか」
「聞きたかったのはそういうことではないのですが……」
いや、多分その神様、中身入りですよ。
「えと、見た目はどんな感じでした?」
「見た目ですか……黒髪の日本人みたいな感じでしたよ。逆に珍しい感じで。和装で本当に時代劇に出てくる武士とか侍みたいな感じで……あ、いや、髪型はちょんまげではなくて後ろで伸ばして束ねてる感じでしたけどね」
「ふむ」
確証は得られませんが、ドーネルさんが説明する「闘神」カリッジの姿には見覚えがあるように思います。
どこで、と言うとラズウルスさんから受け継いだ行動記録の動画の1番最初。ラズウルスさんが目覚めた時に私を護衛することを命じたラズウルスさんの「師匠」ですね。
あの動画を見せて確認できればいいのですが、プレイヤーブックを直接他人に見せることはできません。
「何かありました?」
「……あ、いえ。すみません、話を中断してしまって。続けてもらえますか?」
「わかりました。えーっと、『闘神』カリッジと戦うことになった所からでしたっけ……ま、ボロ負けだったんですけどね」
◇◆◇◆◇◆◇◆
新年の祭祀にて「闘神」カリッジと戦うが、まったく歯が立たず惨敗。
しかし「闘神」カリッジの目には何か素質があるものと見えたのだろう。
もっと強くなりたければ「試練の塔」に挑め、と言い残した。
特にゲーム内で目的もやりたいこともない……もとい、敗北の屈辱を糧に「闘神」カリッジと再戦し勝利することを誓って。「試練の塔」へ挑むことにした。
「試練の塔」は全100階層からなる塔。
1階層登るごとに中で出現する敵が強くなっていき、10階層ごとに門番というべきボスが出現する構造になっている。
こつこつと塔を攻略して実戦経験を積んでいき、とうとう最後のボスを倒し100階層をクリアした。
ボスを倒した後の最上階には謎の装置があった。
それを動かすと転移が発動し、たどり着いたのが「廃都トルアドール」の北門だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……と、いう感じですね」
100階の塔で1回登ることに敵が強くなり、10階ごとにボスが出現……というのはまたえらくゲーム的な塔ですね。「Dawn of a New Era」ぽくないな、て印象を受けますが。
ただ、その塔から転移してきた、という部分は興味深くあります。
そこから逆に塔の方へ転移すれば、ここから脱出することができるのでは?
「その塔から来た転移装置というのはどこにあるんですか? それで塔の方にもどることはできないんでしょうか?」
「あの門の外側にありますよ。なぜか中から外には出れないみたいですけど……あと、転移装置で塔の方に戻るのはできないと思います。僕も行き来ができるか試したけど無理でしたので」
「……あ、そうなんですね」
むぅ、残念。その方向での脱出ルートは無理そうですね。
「何か気になることでもありましたか?」
「……えーっと、いや、その……」
今の私の状況を言った方がいいかどうか悩みましたが、やっぱり説明しておいた方がいいですよね。
私がここから出られない、ということはドーネルさんも出られないわけですから。
「なるほど、初期地点からダンジョンを通ってここまで来たけど、ここから先に進む方法が見つからないわけですね……それって僕も閉じ込められたのでは?」
「うん、まあ、そうなるね……」
「ええ……」
ドーネルさんが頭を抱えています。
「本当に外に出る手段がないんですか? ダンジョンとかないです?」
「はい……私が通って来たダンジョンくらいならありましたけど、あそこはこの街の地下に通じてるだけで出口はないですね」
「うーん、そんなはずはないんだけどなあ……」
腕組みをして首をひねっているドーネルさんですが、何か心当たりがありそうな反応ですね。
手がかりがあるなら是非教えてほしいのですが。
「何がそんなはずはないんですか?」
「いや、カリッジから『試練の塔』をクリアしたら『無限回廊』て所に行けるようになる、て聞いてたんですよね」
初めて聞く地名ですね。
本当に地名なのかどうかもわかりませんけど。
「そもそも『試練の塔』をクリアして種族レベルも技能レベルも上がったし、実戦経験も詰めましたけど、それでもあの相対したカリッジほど強くなれたとは思えないですし……まだ先があると思うんですけどね」
腕組みをしたまま目を閉じて、何か考え事をしているようなドーネルさん。
「あの、ハクさん。僕もここを探索してみてもいいでしょうか?」
「え? いや、まあ、構いませんけど」
「来た道は一方通行で戻れませんし、どうせここにいないといけませんしね……違う目で見たら何か見つかるかもしれません」
確かに、ドーネルさんの言う通りですね。
私が何か思い違いをしているか、勘違いで見落としをしている可能性というのは十分にありえます。
え? AIが勘違いをするな?
より人間に近いとそういうこともありますよ。
「じゃあ、ホテルに案内しますよ。あそこに塔みたいに見える高い建物がありますよね? あそこがホテルになっています。部屋は自由に使ってもらって構わないので」
「宿屋じゃなくてホテルなんですね……」
「古代文明時代の都市なので……」
トルアドール中央ホテルのことを話すとすごく不思議そうな顔をされました。
「Dawn of a New Era」は剣と魔法のファンタジーVRMMORPGです。
しばらく並んで大通りを歩きましたが特に会話もなく。
いえ、何を話したらいいのか正直よくわからないんですよね。通信ウィンドウ越し二人間とAIという関係で他人と会話をすることはありましたけど、プレイヤーキャラクター同士、つまり人と人として会話をするのはある意味、初めてですからね。
ドーネルさんの方から話をしてくれたらいいのになあ、と思ってたんですがプレイヤーブックを見ていて黙っています。
うう、沈黙がつらい。
そうしていると、ホテルに到着しました。
「あ、着きましたよ」
声をかけますが、ドーネルさんはプレイヤーブックを見たままで反応がありません。
「ドーネルさん?」
「え? あ、すみません」
「ホテル、着きましたよ」
「はい」
返事はしてくれるのですが、ドーネルさんはなぜか動きません。
何か考えているというか悩んでいるようです。
「あのー……」
「ハクさん」
「はい?」
声をかけようとしたら、名前を呼ばれました。
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