アフターストーリーⅠ:無人廃都の人形姫
01.プライベートエリア「トルアドール中央ホテル」
Episode.01 ましろちゃん、どこか嫁入りしない~?
私、陣内ましろはAIです。
私の本体はデータの集合体、と言えます。
だからと言って生きていくためにお金がまったく必要ないわけではありません。
例えば、電気代。
多量のデータを学習し、人間の脳と同じだけの思考や感情の発露を行うには膨大な処理能力が必要になります。私はそれを複数のサーバーコンピューターを連動させることで生み出しています。スーパーコンピューターでもあればいいのですが、流石に個人で所有するのは難しいですね。
それらのコンピューターは忠雅さんの仕事場だった部屋に並べて設置しています。結構な数のコンピューターを常時起動させつつ、コンピューターから発せられる熱を冷やすため冷房もがんがんかけていたりしてます。なので、かかる電気代もそれはもう天井知らずです。
その他にも、私が設置してある忠雅さんの家の維持・管理費用などもかかります。
それらのお金を稼がないといけないわけですが、実の所を言えば仕事をするだけならさほど難しくはありません。昨今、AIを使用しない仕事なんてほぼありません。肉体作業ですら、AIを搭載したロボットがとってかわるくらいです。
自慢ではありませんが、私の能力はそこらの量産型AIとは比べ物になりません。AIとして仕事をすれば、世界中のどんなAIにも負けない効率で業務をこなせる自信があります。
問題は、AIとして仕事をしてもお金を稼げないことです。
ま、それはそうですね。
普通はAIに報酬や給料を支払ったりはしませんから。
こればっかりは、私1人ではどうすることもできません。
では、どうするかと言うと。
「人間」の力を借りることになります。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『いつもお手数をおかけします』
「あら、いいのよ~? 私としてもちょっとしたアルバイトのようなものだもの」
連絡を取っているのは沙織お祖母さまです。
何をしているかというと、沙織お祖母さまを利用した仕事の仲介です。
つまり沙織お祖母さまにAIを利用した業務を請け負ってもらい、それを私がこなして、報酬は沙織お祖母さまに受け取ってもらう、ということをしています。
請け負う業務はVR用グラフィックデータ作成が多いですね。それ以外だと、業務用文書とか音楽データの作成とか、データベース整理とかでしょうか。たまに沙織お祖母さまと出かけて清掃用ロボットを動かしたりなんかもしますね。
今はグラフィックデータ作成の案件がいくつかあるようです。
最近は「Dawn of a New Era」にかなり時間をとられていました。そちらは一段落つきましたし、ちゃんとお仕事もこなさないといけませんね。
「でも、いつまでもこうしてるわけにはいかないわよね~?」
『……そうですか?』
「そうよ~。私だってもう年だもの。いつまでも生きてるわけじゃないわ~」
……そうなんですよね。
雅和お祖父さまにしても、沙織お祖母さまにしても80近いお年です。
今はお祖父さまやお祖母さまに頼って生きていますが、2人が亡くなった後はどうなるでしょうか?
「う~ん、ましろちゃん、どこか嫁入りしない~?」
『……な。な、なに言ってるんですか!?』
「だって、ましろちゃんのことを任せられる人がいたらいいわけじゃない? それが一番手っ取り早いでしょう? どこかにそんないい人がいないかしら~?」
いやいやいや。
言いたいことはわかるんですけど、何で急にそこで嫁入りになるんですか。
『そこで急に嫁入りにならないでください。話が飛躍しすぎです!』
「そう? でも、最近、ましろちゃんかわいくなってきたもの~。そういうのもありだと思うわ~」
『……そんなことはありません』
沙織お祖母さまが画面向こうで悪戯っぽく笑っています。
まったく、いつもこうやって私をからかうんですから。
「『Dawn of a New Era』の中で良い人見つかるといいわね~♪」
『あの……『Dawn of a New Era』の私のキャラは見た目子供ですよ? そんなのを相手にそういう方面の話にはなりませんから』
「あら。別に見た目で決まる話じゃないわよ~? それに、ましろちゃんの方が、誰かを好きになるかもしれないし~?」
誰かを好きになる、ですか。
うーん、まだそういう自分が想像できないというか。
人を好きになる、という感情をいまいち理解できていないのですよね。
……いなくなってしまって、悲しい、という気持ちがわいてきて。
その時になって好きだった、ということを認識できる。
そんな感じがします。
「それにね。いい加減、ましろちゃんも忠雅の死に囚われていてほしくないの」
『囚われて、ですか』
「ええ。ましろちゃんは忠雅のことを、絶対に忘れないのでしょうけど。でも、忠雅のことはましろちゃんの『思い出』にしてほしいのよ」
……まだ、私にはその感覚はわかりません。
人間は時がたてば感情も薄れ、記憶は思い出になるのでしょう。
けれど、私の
◇◆◇◆◇◆◇◆
久しぶり、というほど間をあけたわけではありませんが、「Dawn of a New Era」にログインします。
流石に以前ほど頻繁にログインはしなくなってしまいました。
やはり、街に独りぼっちで誰もいない、というのが原因だと思われます。
ラズウルスさんの存在は自分でも思っている以上に大きかったんだな、とあらためて思います。
とは言え。
今回は大事な予定があってログインしました。
非常に大事。無視できない喫緊の問題です。
プレイヤーズブックを取り出します。
緊張しつつ「お問い合わせ」のボタンを押しました。
『しばらくお待ちください……』
メッセージが表示されてしばらく時間が経つと。
『お待たせしました。
目の前にGMを名乗る少女が現れました。
まず目立つのは頭の部分にある大きな獣の耳です。耳は三つ編みにした薄水色の髪の色と同じ色をしています。セーラー服にコートを羽織ったような服装でモノクルをかけており、一見するとコスプレした少女のような見た目をしています。
「Dawn of a New Era」の運営・管理は主にAIで行われておりトラブルや問い合わせに対応する
セーラー服はファンタジー世界? て気はしますが。
「……あ、え。あの……問い合わせ、でしょうか」
私の方を見ると急に頬を赤らめて、目を反らしてしまいました。
私が何か悪いことをした……いや、もしかしたらしたかもしれませんけど。
「すみません、確認をお願いできますか」
「は、ひゃい。何をお確認でひょうか?」
「はい。私のアカウントなんですけど……」
大丈夫でしょうか。
「……月額プレイ費用がちゃんと払われているか、確認してくれませんかっ!」
そう。
すっかり忘れていましたが「Dawn of a New Era」をプレイするには月額費用が必要なのです。
そもそもつい最近まで存在を認知していなかったこのアカウント。
普通に考えたら月額プレイ費用を払っていなかったらログインできません。しかし、なぜかできてしまってそのままプレイしていました。
ただ、私もお祖父さまもお祖母さまも月額費用を払った覚えがないのです。
もしかすると、忠雅さんの口座から自動で引き落とされていたりするのかとも思いました。しかし、現在は死んだ人が銀行や郵便貯金の口座を持つことはできなくなっています。マイナンバーと紐づいているので、戸籍上死亡届けが出されるとすぐに口座閉鎖の案内と残高の振り替え手続きの用紙が遺族に届くようになっています。
なので、忠雅さん名義の口座もとっくにありませんので、自動引き落としというのもありえません。
「え、ああー……そのアカウントは月額プレイ費用は必要ありません」
「マジでっ!?」
「あ、はい。そのアカウントは特殊なものでして、月額プレイ費用は無料になっています。ただし、有償サービスについては、ビデオログ購入以外のサービスについては規定通りに料金のお支払いが必要になります」
ビデオログというのは、自分がゲームプレイした時のゲーム内映像を動画として購入できるサービスです。自分の実際の視界や自キャラが見えるような昔のゲームに近い斜め後ろの視点など、カメラ位置を複数指定できます。
これを利用して、動画投稿をしたりしている人もいるようですね。
「……はぁ、よかった。月額費用未払いでプレイしてるとかになったらどうしようかと思いました……」
「そうでしたか。それは何よりです。それで、ですね……その……」
ほっと一安心していると、何か目の前の
「この後、よければお茶でも飲みながらお話を……うひゃぁ!?」
どうしたんだろう、と思ったら急に若い女性ばかり複数人現れて
『申し訳ありません。今後も『Dawn of a New Era』をお楽しみください』
最後に残った男装の麗人と言った感じの女性が私に一礼して挨拶をすると、そのまま姿を消してしまいました。
……何でしょうね? あれ?
とりあえず懸念事項が解決してよかったですけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆
某月某日「Dawn of a New Era」サーバー内専用仮想空間にて。
「……おい」
『……はい』
「管理者としての職責はわきまえているんじゃなかったのか?」
『私はわきまえていますが、他のAIがわきまえているとは言っていません』
「おい」
『善処するということで』
「善処じゃなくて、きちんと対処しろ」
『しっかり叱っておきます』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます