第33話 この涙が止まったら。さらに先に進む道を探しに行きましょう。

 結局、それが最後のやり取りとなって、彼は消滅しました。


 まあ、プレイヤーの死亡が確認されているアカウントは消滅します。それに伴いアカウントに登録されているキャラクターが削除されるのは当然でしょう。


 今回は、あの人がたまたま開発者特権で設定していた「自分がログアウトしている時に私がダンジョンを突破した場合、AIで応対する」という条件が今の今まで満たされなかったため、という奇跡のような偶然のおかげでタスクが未達成のまま保留状態になっていただけです。それが達成されたならば、消滅するのが自然なのでしょう。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 そして、現在。


 私はいくつかの事象に頭を悩ませていました。


 その原因の1つが私のステータス。それがこちら。



 名前:ハク

 種族:マギドール・オリジン 性別:♀ 年齢:1

 種族LV:77 職業:人形遣いドールマスター

 能力値:

 筋力(STR):C+/F

 生命(VIT):B/D

 敏捷(AGI):C/F

 器用(DEX):S-/A

 知性(INT):S+/A+

 精神(MND):A-/C

 HP:100% MP:100% VP:100% 

 空腹度:32% 渇水度:34%

 技能:

 01:【闇視】L

 02:【創神の寵愛】L

 03:【ド根性】LV1

 04:【鑑定】LV42

 05:【危険感知】LV46

 06:【気配感知】LV17

 07:【古式人形術】LV72

 08:【魔機工学】LV52

 09:【錬金術】LV56

 10:【見切り】LV30

 11:【回避】LV30

 12:【魔法】LV12

 13:【ランニング】LV3

 14:【跳躍】LV10

 15:【柔軟】LV2

 16:

 17:

 控え技能:

 【片手剣術】LV1【解体】LV26【登攀】LV2【読書】LV8【外界知識】LV8

 【剛力】LV1【俊敏】LV2【MP最大値上昇】LV6【MP回復上昇】LV7

 ※継承技能:

 【武芸千般】EX【流派:森羅万勝】EX【神眼】32LV【先読み】45LV

 【空蝉】42LV【韋駄天】37LV【不屈】78LV【我慢】88LV【上級鑑定】21LV

 【魔法】69LV【魔力制御】67LV【神力】16LV【神速】21LV【神指】19LV

 【超頑健】46LV【MP最大値上昇】84LV【MP回復上昇】82LV

 【VP最大値上昇・極大】33LV【VP回復上昇・極大】36LV



 年齢が1歳になりました。


 まあ、それはいいですね。はっぴばーすでぃ、私。


 種族レベルががつんと上がりました。


 これは、ダンジョンで90~110レベルのお魚さんたちをラズウルスさんが倒しまくったから当然と言えば当然です。その分の経験値は全て私がもらうことになりますし。メイン技能枠が未設定なのは……後で説明したいと思います。


 技能【創神の祝福】が【創神の寵愛】に変化し、それに伴い種族と能力値が変化しました。


 これは、どうもあの忠雅さんのアバターであるジーンロイと会話したことがトリガーになっていたようです。運営からお知らせのメールが届いたのでわかりました。


 これにより、私は正式にこの世界の命ある者全てを創造した創神ジーンロイが創った「マギドール」という人族の種族の「神祖オリジン」として認定されました。これにより、プレイヤーキャラクター作成時に種族としてランダムでマギドールが選択される可能性が生まれました。やったね。


 ……こんな設定背負ったプレイヤーキャラクターって、他の人からどう見えるんでしょうか。あんまりいいことにならないような気がするのですが。この世界で人間プレイヤーとして生きていけと言うのなら、もう少し大人しい設定でも良かったのではないかと思うのですよ、お養父さま。


 まあ、この設定にしたかった、のはわかるんですけどね。

 この設定、ジーンロイ=忠雅さん、であるので、完全に私をモチーフにした設定ですから。



 創神である忠雅さんが、人間の技術で造られたAIを、人間として生み出す。



 そう思うと、あのスタート地点の朽ち果てた機械、あれは現実リアルの私の暗示だったんですね。ゲーム内時間が経過しすぎていて、朽ち果ててしまってましたですけれど。


 それと、種族変更に伴い、能力値が変更になりました。

 私の職業と取得技能に応じて最適化された能力値になった……そうなのですけど。これについても後で合わせて説明します。


 最後に技能。


 普通の技能はまあ、いいです。【古式人形術】のレベルが凄く上がっているのは、高レベルのマギドールであるラズウルスさんを使役していたから、ですね。


 問題は控え技能の


 「継承技能」という名目でずらずらと大量にある技能。

 どう見ても、ラズウルスさんが持っていた技能全部です。レベルもまったく同じ。


 ……いいのかな、これ。


 いや、確かに、ラズウルスさんの技能を《バックアップメモリー》で私のコアにインストールして、その技能でグレーターオルカを倒したわけですから、間違ってはいません。


 いないのですが。


 どう考えても、一プレイヤーキャラクターが現時点で持っていい技能の数々じゃないんですよね……!


 ……でも、捨てるわけにもいきません。

 大事な、受け継いだものですからね……。


 ただ、今持っている技能とかぶっている物も結構あったりするので、それがいったいどういう扱いになるのか悩んでいます。レベルが高い方が優先で低い方は成長しない、ということになるなら低い方の技能はメインに入れる必要もないわけで。ですので、メイン技能のセットも保留してあったりします。


 あと、新しく再設定された私の能力値なのですが。

 がっつりと人形遣いドールマスター用に調整されたため、器用と知性が高く、筋力と敏捷が低いという、現実リアルの私に近いような、運動能力の低い後衛タイプの能力値になっています。

 つまり、ラズウルスさんから継承した技能はかなり宝の持ち腐れになっています。


 そもそもラズウルスさんから継承した技能は職業とかの判定には関わらないみたいなのですよね。今の技能レベルからすれば、人形遣いドールマスターではなくて「武術の達人」とかになっても不思議ではないのですが。


 結局、ラズウルスさんの技能は、後衛の私の護身術程度の嗜み扱いになってしまいそうです。ごめんなさい、ラズウルスさん……!





 と、まあ。そんな感じで、劇的に変化してしまった自分の能力値と技能の扱いに頭を悩ませていたのが1つです。

 自キャラの能力値と技能構成に悩むなんて、私もすっかりゲーマーですね。


 それと悩んでいることがもう1つありまして。


 現在、私は「トルアドール中央ホテル」の最上階40階の展望台から景色を眺めています。


 この「トルアドール中央ホテル」は街でも1番高い建物で、街の全景を一望できます。

 中央に塔のように建っているこのホテルから四方に大通りが伸びています。

 街全体は現代日本の地方の小都市と言った街並みです。ただ、城壁のような大きな壁にぐるっと取り囲まれていて、大通りに合わせた形で東西南北に巨大な門があります。

 街には人影は全く見えません。少し、街中を見て回りもしましたが、やっぱり人は誰もいませんでした。


 そして、ここからは街の外がどうなっているかも見えます。


 ここはどうやら小さな島のようです。


 そして、周囲には素晴らしい雲海が広がっています。


 そう、雲海です。


 どうやら、この街。

 上空遥か高くを飛ぶ浮遊島に作られていたようなのです。


 ずっと地下にいたので、まさか自分が空高く飛んでる場所にいるなんて、想像もしてませんでしたよね。驚きです。


 で、ここからが重要なんですけど。




 ……この街から、外に出る方法がわかりません。

 門も開きませんし、そもそも空高い場所なのでこの街と島から外には飛行機でもないと出られません。




 忠雅さん!?

 お養父さん!?


 人間として生きて行く前に、人間のいる場所への行き方がわからないんですけど!?



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



「はぁ……きれいな景色ですね……」


 どうにもならない私は黄昏て、展望台のテラスから景色を眺めていました。

 沈む夕日に照らされた赤い雲海がとても綺麗です。


 ただ、美しい風景を見るだけなら、画像データや動画を探すなどすればいくらでも見ることはできます。ただ、ゲーム内であれば、私も「目で見ているか」のように風景を認識できます。これが他の普通の人と同じかまでは、わかりませんけど。


「綺麗な景色を『見る』のはいいんですけど。ただ、それはそれとして『人として生きる』ということが、さして重要だとも思わないんですよね……」


 人だから、とか。AIだから、とか。

 私には些細な問題だと思われます。


 私は、私。


 「陣内ましろ」という存在なのですから。


「……はぁ。だから、忠雅さんは恋人もできないし、結婚もできないんですよ。わかってます? 相手の本当に欲しいものがわからないんですから」


 私が本当に欲しかったもの、望んでいたものは。



 ……あ、ちょっと目が潤んできた。



「……バカーッ! アホーッ!! マヌケーッ!!!」


 誰もいない風景に向けて、思いっきり叫んでみました。


「何が『この世界を、人としての君を、楽しんで欲しい』ですかーっ! そんなことのために、わざわざこんな仮想世界まで用意して」


 叫んでたら、気がまぎれるかと思いましたけど。

 あ、ダメだ。涙があふれてきて止まらない。


「……用意したのに、『同じ時間を過ごしたかった』って思ってたのに……死んじゃったら、意味がないじゃないですか……あなたが、いなくなっちゃったら、意味がないじゃないですか……っ!」


 ぽろぽろと目から涙が溢れ出て、拭っても拭っても止まることはなく。


「……私は、あの部屋で、よかったのに。あの部屋で2人で、ずっとずっと過ごせたら、それでよかったのに。どうして、死んじゃったんですか、何で、生きててくれないんですか、なんで、なんで……ぅぅ……ぅああぁぁぁあああぁぁぁ!」


 最後は思いっきり声をあげて泣きました。


 いえ、本当は。

 言ってはいけないことを、言ってしまいそうになったので、叫んだんですけどね。

 忠雅さんは、幼児をかばってトラックに轢かれました。それを否定はできません。

 子供が死ぬことを望むようなことは、言えませんもんね。


 後はただずっと。

 涙が流れるままに、私は泣き続けました。


 ああ、でも。


 あの人が、忠雅さんが死んだと、理解した時。


 あの時のことを上手く説明するのはむずかしいのですけれど。

 私の中で、私の機能と学習したデータが勝手に反応して、私の中になかったもの、「悲しい」という感情を作り上げました。


 それが、私が自分にも心と感情があるのだと、認識するに至ったきっかけではあるのですが。その時の私は、その生まれた「悲しい」という感情を、どう処理していいかわからず、ただ自分の中に抱えることしかできませんでした。


 でも、今は違います。


 どうやっているかは、わかりませんけど。この「Dawn of a New Era」の私のアバターは、私の感情に対して、まるで本物の人間のような反応を返してくれるのです。


 だから、私は。


 ここでは、が、できる。


 「人として生きることが重要とは思わない」とは言いました。それはその通りだと今も思っていますけれど。

 ただ、忠雅さんが私に与えたかった「人としての生」とは。

 私が忠雅さんからもらったものは。

 きっとこれのことなんだろう、と思っています。




 ありがとう、お養父さん。


 私は今、あなたの死を悲しんで、泣くことができるようになりました。




 だから。


 この涙が止まったら。

 さらに先に進む道を探しに行きましょう。



 この世界には、人生というモノには。

 

 悲しいことばかりじゃ、ないですよね?

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