04.セーフエリア「廃都トルアドール」
第30話 はいはい、古代文明、古代文明。
開かなかった扉の先は長い登り階段になっていました。
重い体を引きずるように登っていくと、明かりが見えます。
おお、「Dawn of a New Era」にログインするようになってから、初めて見る光……!
【闇視】のおかげで灯りがなくても問題なかったですけど、今までずっと灯りもない地下の暗闇で過ごしていましたからね。光のある場所に出られるなら感慨深いものがあります。
階段の先は小窓のついた扉になっていて、見えていた明かりはそこから漏れていたもののようです。
ゆっくりと扉を押し開けると、広い場所に出ました。
円形のホールのような場所です。天井もかなり高く、テーブル1つとソファ4つがセットになって計4組、規則正しく配置されています。
両サイドに大きめのガラスのドア、正面にそれより小さいガラスのドアがあります。それと左側の奥にカウンターらしきものがあります。
ぱっと見た第一印象は「酒場」でした。
剣と魔法のファンタジー世界なら定番です。
地下にダンジョンがある酒場、てどうなんだとは思いますが、それはファンタジーですので。
ただ奥のカウンターを調べてみると、とてもじゃないけど調理ができるようなスペースはありません。なので酒場、というのはちょっと違うように感じます。
と、なると。
このレイアウトは。
「……ホテルのロビー?」
カウンターの部分がホテルのフロントと考えると、何かそれっぽいですね。
いや、宿泊施設と考えるなら宿屋と同じなんでしょうけど。
剣と魔法の世界にあっていいモノなんでしょうか。
はいはい、古代文明、古代文明。
「Dawn of a New Era」は古代文明関連だと現代的な物を出してもいいと思っていますね?
とりあえず、この場所全体でセーフゾーンの扱いのようです。
眠るような場所、ベッドとかはありませんが、安全なログアウトは可能なようです。
色々ありましたからね。
1度ログアウトしようと思い、ソファに深々と腰掛けました。
あ、そう言えば、天井の照明が光ってますね。
電気……はないはずですから、魔力が通っている、ということでしょうか?
◇◆◇◆◇◆◇◆
あれ、ここは……?
ログインすると見知らぬ場所でしたので、ここは? と思いましたが。
しばらくして、ダンジョンを抜けてログアウトしたことを思い出しました。
ちょうどソファに腰掛けたまま背もたれに頭を預けて天井を見ている体勢で目が覚めた感じです。
そう言えば胸の傷は……と思いましたが、触ってみると、何か治ってる……?
たぶんHP自体は0になっていなかったはずなので、それで致命傷とは扱われなかったのでしょうか。それか、ラズウルスさんから継承した技能の中に、「状態異常:負傷」に対応するっぽい技能があったので、それの恩恵かもしれません。
とりあえず、ログアウトで平静さは取り戻せたので、さらに探索を進めましょうか。
ロビーのうち小さい方のドアは、別の広い部屋につながっていました。
部屋の中は同じようにテーブルと複数の椅子がセットで配置されています。
壁で区切られた部分があり、そこにあったのは調理用具各種でした。
ここは、本当に酒場っぽいですね。
あー、いや。ホテルだとレストラン、と言った方がいいでしょうか?
とは言え、レストランというには装飾はありませんし、テーブルや椅子、床や壁も時代が経っている、という感じはします。流石に埃までは実装されていないので、埃が積もっているということはないですが、長い間使われていないのはわかります。
ここはそれくらいしかなかったので、大きい方のドアへ。
大きい方のドアは2つとも外へ通じるドアでした。
外の街並みは、剣と魔法のファンタジーによくある中世ヨーロッパ風の街並み、という感じではなく、現代日本の地方の小都市、と言う感じです。
だから、「Dawn of a New Era」は安直に古代文明絡めて現代的なものを出すのはやめなさい。
ただ、人の気配はまったくしません。
道路に通行人もいませんし、建物の中にも人がいるような感じはしません。
ロビーとレストランの方もまったく人はいませんでしたし、長い間使われていない感じはしましたからね。ずっと放棄されていたのでしょうか。
とりあえず、今までいた建物の周囲をぐるっと回ってみます。
私が出てきたホテルらしき建物は、円形だったようです。
周囲は庭園だったようですが、既に植えられていたであろう植物は枯れていて何もない荒地になっています。その中には池だったような窪みもありますね。
中からは気づきませんでしたが、この建物自体はかなりの高さがあるようです。街並みに見える他の建物と比較しても1番高いような気がします。
円形なのもあって、まるでファンタジーの塔を思わせます。
今までいた場所が1階、と考えると、上の階は宿泊できるような個室がたくさんあるんでしょうか?
次は街中を調べに行くとして。
それなら、メイド服を脱いでいたのを思い出してもう1度着ようかとプレイヤーズブックを取り出すと。
何か知らせるように、インデックスが1つ、点滅して輝いています。
何かと思って見ると「メール」の項目です。
「Dawn of a New Era」ではゲーム内で他のプレイヤーキャラクターとメールのやり取りができます。剣と魔法のファンタジーには似つかないものですが、一応、神の加護として扱われているそうです。
ですので、運営からのお知らせも「神託」としてメールで各プレイヤーに届けられたりもします。
ただ、当然、私は他のプレイヤーキャラクターの知り合いはいません。
運営のお知らせか何かでしょうか?
『ましろへ
ダンジョンクリアおめでとう。
君がどういうスタイルを選んで、どういう風に成長したか、とても気になる
ところだけど、この『Dawn of a New Era』内で君と会った時の楽しみにし
ているよ。
君がダンジョンを抜けて出てきた街は『隠都トルアドール』という。
そして君がたどり着いた建物は『トルアドール中央ホテル』だ。その最上階
に僕はいるので、準備が整ったらいつでも会いに来てくれ。
色々と話したいこともあるからね。この『Dawn of a New Era』のことを、
君に説明しようと思う。
忠雅より 』
……えええっ?
こ、これは……死者からの手紙……?
い、いや、冷静になりましょう。
これはあくまで「メールの文面」です。
プレイヤー名を書いてあるのはあくまで「メール内の文章」であって、システム的な宛先と差出人は別にあります。そして、それはゲーム内でのプレイヤーキャラクターの名前のはずです。
それを見れば、誰から送られてきたのか、誰があの人の名前を使ったのか、わかります。
宛先は、「ハク」。
これは私のキャラクターとしての名前です。
ラズウルスさんが「姫さん」としか呼ばないので忘れがちでしたが。
差出人は、「ジーンロイ」。
ジーンロイ……?
えっ、ジーンロイ???
◇◆◇◆◇◆◇◆
やっぱりここホテルだったんですね……と、思いつつ、上の階へ上がる手段を探したところ。
ホールにエレベーターが1台設置されているのを見つけました。
中のボタンを見るに、最上階は40階のようです。エレベーターがなかったら40階分階段を登らないといけなかったので、助かりました。
エレベーターが上に昇る間に、送られてきていたメールについて考えてみます。
まず、前提として、ゲーム内でメールを送ることができるのはプレイヤーと運営だけです。NPCはメールを利用することはできません。
で、あるならば。
ジーンロイ、この世界で「五祖神」と呼ばれる存在は、プレイヤーキャラクターか運営であるはずです。
ただ、メールの文面を考えると、あれは明らかにあの人から私宛の手紙です。
あの人はもういないはずなのですが。
考えうるのは。
運営があの人の名前を騙って私にメールを送り、この最上階に招いた。
……いや、意味がわかりません。
そもそもそれなら運営名義でメールを送ればいいですし、あの人の名前を出す必要もないでしょう。
ジーンロイがプレイヤーキャラクターであり、あの人の名前を騙って私にメールを送った。
……え、プレイヤーキャラクターが神様やってもいいんですか?
それにそもそもジーンロイは今の「Dawn of a New Era」の時代よりはるか昔から生きている存在、とされているはずです。
それに、確か、ラズウルスさんが言ってたのは……。
と、エレベーターが最上階に到着しました。
さて。ここに一体、何が私を待っているというのでしょうか……?
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