第25話 出口は隠さないで欲しいですよね。
色々とありましたが第1階層(B3Fと言うべきでしょうか)を突破して第2階層へと上がってきました。
特別にあったこと、と言えば第2階層へ上がる階段の前のちょっとした大部屋で《グリードラブカ》という名前の大型の魚モンスターが待ち構えていた、ことくらいでしょうか。
軽く言ってることでわかるかと思いますが、ラズウルスさんが特別苦戦することもなく、倒してしまいました。
ラズウルスさん、ああいう「素の能力値任せ」な相手には強いんですよね。逆に《シーカットラス》みたいにきちんとした技量で攻める相手は苦戦までもいきませんが、互角に戦っている感じです。
普通、逆のように思うのですが、そうでもないんですね。
さて、第2階層は第1階層に比べると通路が狭く入り組んでいる印象を受けます。
そのせいか、出てくる敵も様変わりしています。
その様変わりしている敵が、現在、ラズウルスさんと交戦中です。
見た目は物凄い猫背で4本の腕を持つ甲冑を纏った騎士、と言ったところでしょうか。大きさとしてはラズウルスさんより一回り大きいくらいです。
ここに出てくるのは水棲生物モチーフだと思うのですが、あれは何をモチーフにしてるんでしょうね? どう考えても人型に見えるんですが。
《Ae-キングズアーマードバグ》
種族:???? 種族レベル:98
属性:???? 特殊能力:????
所持技能:????
※エーテルシーの掃除屋と呼ばれる。
【鑑定】で見てわかったのはこれくらいでした。
キングズ……王? アーマード……武装? 鎧? バグ……虫?
何なんでしょうね、こいつ。
「……これで終わりだな」
「お疲れ様です。思ったより簡単に倒せましたね」
「まあ、極論、人型だからな。これなら空飛んで多角的に攻めてくる《シーカットラス》の方が厄介だ」
そんなことを考えていると戦闘は終わっていました。
強そう、に見えましたけど結構あっさり倒せましたね。4本の手それぞれに剣を持っていて、いわば四刀流で攻めてくる相手だったのですが、ラズウルスさんは特に苦労はしていなかったように見えます。
「あと、こいつは装甲の高さが厄介なタイプだろう。その場合、この《エーテルブレード》のいいカモになる。こいつは対エーテル系生物特攻で、防御能力を貫通するからな」
「ああ、それで最初の時に1レベルの私でもピラニアをこれで倒せたんですね」
そう言えば《エーテルブレード》の性能も最初の【鑑定】レベルが低い時に見たっきりで把握してませんでしたね。そんな性能だったんですね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
先ほども言った通り、第2階層は第1階層と比べて通路が入り組んでいて迷路感が強くなっています。そのせいで道に迷うこともありましたが、相対的には第1階層より楽に進めることができました。
その理由はやはり「道が狭い」ことにつきると思われます。
通路が狭いせいで、通路を飛び回るような魚型のモンスターがあまりおらず、普通に通路を歩いて出現する《キングズアーマードバグ》と、《ファイトクラブ》という名前のハサミが大きくなったタカアシガニみたいな蟹型モンスターが主な相手だったからです。
この2種類に共通していたのは、「動きはどちらかというと鈍重」「武器(カニはハサミですが)を巧みに操って戦う」「装甲が厚い」という所です。
この辺がラズウルスさんの武器と戦闘スタイルと非常にかみ合わせがよいので、第1階層より戦闘が楽だった、という結果になりました。
そういう感じで、ちょっと迷うことは多かったですが、おおむね順調に進んでいたのですが。
そろそろ次の階層への階段がありそうなタイミング。
最初に異変に気づいたのは私でした。
「……あれ、草?」
「草だぁ?」
不意打ち警戒で下を向いて歩いていたからでしょう。
通路の壁際の床に緑色の草、のようなものが生えていたのです。
「……おい、姫さん。他に通路はなかったよな?」
「ええ、覚えている限り、分かれ道は潰したので……おそらく、そろそろ次の階層への階段があるころだと思いますが」
「ちっ、だよな」
ラズウルスさんが舌打ちしました。
苦々しい感じの表情は何回か見ましたが、いらついてる風な様子は初めて見ます。
大丈夫でしょうか。
「……どうかしましたか?」
「姫さん、あのミスリルナイフを用意しておいてくれ」
「は、はい」
言われるがままに、インベントリからミスリル出刃包丁を取り出しました。
ミスリルナイフ……は、一応、ナイフの範疇、かな? どうせこれしか該当する品はありませんし、多分、これのことでしょう。
「いいか。この先に進んだところで、姫さんは先に進む道を探してくれ」
「どういうことです?」
「行けばわかる。そのナイフも使うことになるだろうから、しっかり持っててくれ」
何だか要領を得ませんが、とりあえずラズウルスさんがそう言うならそのつもりでいましょうか。
そのまま通路を進んでいきますが、明らかに様子がおかしくなってきました。
固い不思議金属でできていた床と壁が一面の植物で覆われています。足元の感触も芝生の上を歩いているかのようです。
「……何ですか? これ?」
「大物がいるんだよ。自分の周囲の環境を自分に適したように変えてしまうくらいの存在の奴がな」
通路を抜けて開けた場所に出ました。
そこは一見すると「緑の部屋」でした。床も壁も天井も蔦のような植物で覆われています。行き止まりのようで、先に進む道もありません。
その部屋の中で、宙を泳ぐ姿が1匹。
ぱっと見た第一印象は「泳ぐ盆栽」でした。
木の枝のような体をしており、緑の生い茂る葉のようなヒレや尾をゆったりと動かして空中を泳いでいます。そのたたずまいは目を奪われてしまうほど綺麗で美しいものです。
けれど、その美しい姿の中で、顔だけは木彫りのトカゲのような形をして、恐ろし気です。その目の部分は穴のように空洞なっていますが、こちらを見ているような視線を感じます。
思わず気になって【鑑定】を使って見てしまいました。
《Ae-ドライアドシードラゴン》
種族:???? 種族レベル:124
属性:木/?? 特殊能力:????
所持技能:????
※植物を司る海竜の一種。性格は温厚だが支配領域に入る者には容赦がない。
「ド、ドドド、
「あっ、こらっ、姫さん、【鑑定】使ったな!?」
急にこちらを向いて、ドラゴンが私めがけて一直線に突撃してきました。
「このレベルの敵はな、【鑑定】に対してカウンター攻撃してくんだよ! いい加減覚えてくれ!?」
「ご、ごめんなさい~」
叱りながらも、ラズウルスさんはドラゴンの突撃をエーテルブレードの魔力刃を最大出力にして応戦し、動きを止めてくれました。
無闇に【鑑定】は使うな、と言われているのですが、どうしても名前とかわからないと気になってしまうのですよね。もっとも、注意しないといけないのは出てくる敵が滅茶苦茶レベルが高くて、こう当然のように【鑑定】へのカウンター行動を取るからなんですけれど。
「いいから姫さんは草を払って出口を探せ! こいつは俺が引き付けとく!」
「わ、わかりました!」
そのままラズウルスさんはドラゴンの気を引きながら、位置を変えて私から離れていきます。
さて。見渡す限り蔦に覆われていて、出口も何もありません。
ただ、これがあのドラゴンの能力によるものでしたら、先に進む通路も蔦で覆われてしまっているのでしょう。
それを手っ取り早く、最短で見つけ出すには。
とりあえず、近くの蔦に手を差し入れてみます。
予想通り、ですが、蔦の奥に金属製の壁があるのが感じられました。
「よし。じゃあ……ごめんなさいね」
蔦にミスリル出刃包丁を突き立てます。
刃先がちょうど蔦の奥の壁に当たるようにして。
そのまま壁に刃先を当てたまま、蔦を切るようにして、壁沿いに走り始めます。
蔦に引っかかるかな、とも思いましたがさすがはミスリル製、何もなかったかのように蔦を切ってくれます。
「あった!」
しばらく走れば、刃先が何にも当たらなくなりました。
その部分の蔦を切り払うと、通路が、その奥に上への階段が見えます。
「ラズウルスさん! ありました!」
「OK、姫さんは先に行け!」
頷いて、蔦を乗り越えて通路を進み、階段を上がります。
しばらくすると、ラズウルスさんもやってきました。
あの
「……ふぅ、さすがに肝が冷えた。勘弁してくれ、あんな大物は」
「倒したんですか?」
「さすがに今は無理だ。逃げてきた。あいつは珍しく大人しい性格なんでな。自分の縄張りに入って来る奴には容赦はないんだが、出て行く奴までは追わないんだ」
ラズウルスさんが肩をすくめます。
流石のラズウルスさんも、あの
「でも、出て行く奴は追わないんだったら、出口は隠さないで欲しいですよね」
「そりゃそうだ」
私の素直な感想だったんですけど、ラズウルスさんには何かツボだったみたいで、しばらく笑いっぱなしでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます