第24話 えっ、食べるんですか?

 ラズウルスさんとのやり取りがフラグと思った人、残念でした。

《フラワールナリオン》は無事回避して、ダンジョンに入ることができました。


「ここからはもっと気をつけて行けよ、姫さん」

「それは当然ですが……何かありますか?」

「ここからが本番だ……敵が強いはずだ」


 一応、「Dawn of a New Era」では、進行に合わせて敵が強くなる、というようなことはありません。生物はみな、それぞれの性質に合わせた生息地域に住みます。もちろんモンスター同士で争い合わない、なんてことも一切ありません。


 それを考えると、ダンジョンの区域に入ると敵が強くなる、というのはいささか理不尽に感じます。


「どうしてですか? そんな保証はないと思いますけど」

「勘だ……と言うとあれだな。1つは、この通路側にいた奴らが『弱い』と思うからだな」

「そうでしょうか……?」


 弱い、と言われて不思議でしたが、ラズウルスさんのレベル視点で考えると確かに弱いのかもしれません。

 圧倒的にレベルが低い(それでも私からすると高いですが)《ピラニアパーティ》、性質上不意打ち主体で本体の戦闘力はそれほどでもない《ライヴベイトアングラー》、強いのは強そうですがむしろ守りに強くて(手が出しづらいという意味で)相手からは何もしてこない《フラワールナリオン》。


「こいつらの元いる場所、てのがどんなとこかは知らねえが。こっちにいるのはおそらく、生存競争に負けた奴ら、じゃねえかな、て気がする」

「一理ありますね」

「あとはあれだ」


 ラズウルスさんが《エーテルブレード》を握り直し、魔力で刃を顕現させました。


「今まで姫さんが会った魚どもがいて、ここが滅ぼされると思うか? 俺がいて? 思わないだろ? つまり、もっと強い奴がここにはいなきゃおかしい、てことさ」

「ああ。それが一番説得力がありますね」

「だろ。んじゃ、行くぞ、姫さん!」


 勢いよく、ラズウルスさんが扉を蹴り開けました。




 ダンジョンはまずは小さめの部屋になっていました。そこから通路が三方向に伸びています。


「早速だ、姫さん。下がってな!」

「は、はい」


 目の前にいるのは……剣? みたいなものが、3匹。

 切っ先を上にして浮かんでいます。


 いえ、よく見ると切っ先部分にぎょろっとした目と鋭い牙の生えた口があります。


「こいつら相手はあんまり余裕はねえ。巻き込まれんなよ」

「はい。支援します」


 プレイヤーズブックを開いて、【古式人形術】用のページを開きます。

 右手に持って開いた本の周囲に半透明のウィンドウが展開して、現在、私の支配下にあるラズウルスさんのステータスや、スペルやアーツを使用するためのコマンドボタンなどが表示されます。【古式人形術】を運用する時はこのゲーム内ウィンドウで様々な操作を行うことになります。

 今回は【古式人形術】には支配下のマギドールを支援するためのスペルがいくつかああるので、それを使用します。使うのはマギドールの能力を一時的に高める〈ブーストドール〉で、スペルを指定し、対象にラズウルスさんを選びます。

 何せ、復活したとはいえラズウルスさんの体は元の戦闘用のマギソルジャー・チャンピオンではなくごく普通のマギドールになっています。そのため能力値はかなり下がっているはずです。それを少しでも補うためですね。


 それを合図にラズウルスさんと魚の斬りあいが始まりました。

 何か、見た目は3本の飛んでる剣とラズウルスさんのハイレベルの剣戟、て感じです。あいつ、魚、ですよね……?


 戦いを見守りながら【鑑定】で見てみましたが。



 《Ae-シーカットラス》

 種族:???? 種族レベル:92

 属性:???? 特殊能力:????

 所持技能:????

 ※白身で塩を振って焼いて食べると美味しい。



 名前とレベルしかわから……何か変な説明が。これ【外界知識】の効果ですね。


 えっ、食べるんですか?


 ……って、ああ。元ネタがわかってしまいましたよ、ちくしょう!?


 そうしていると、ラズウルスさんが3匹とも倒していました。


「大丈夫ですか?」

「ああ。だが、姫さん、【解体】はなしだ。ゆっくり攻略よりは急いで突破する方がよさそうだな。入口からこいつらじゃ」


 私が残った死体をしゃがんで見ていたので、ラズウルスさんから注意がきました。

 いえ、ちょっと食べられるらしいので興味があっただけなんですけど。


「やっぱり厳しいですか?」

「能力値が落ちてるのがな。姫さんの支援は助かってる。まあ、こいつら無駄に技量だけは高いから面倒なんだが」

「HPの治療は?」

「まだ大丈夫だ。とりあえず急ぐぞ」


 こそっと1匹、インベントリにしまっておきました。

 いいですよね?

 塩、ないですけど。


「どちらに進みますか?」

「道は知らねーからな。姫さんの好きなのでいいぞ」

「じゃあ、まっすぐで」


 本当に適当に選びましたけどね。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



「ストップ」


 進むと特に敵と遭遇もせず、何もない通路が続いていました。

 が、ラズウルスさんから制止が入りました。


「まずいのがいるな」

「……むしろ何もいないように見えますけど?」

「通路をよーく見てみな」


 言われてよーく通路を見てみますと。

 確かに、目玉みたいなものがいくつも見えました。


「……目玉がいますね?」

「《スターゲイザーワーム》だ。近づくと飛び出して襲い掛かって来る。他の魚どもも襲われるから、この通路はいねーのさ」


 ああ、この魚たちも当然、お互いに食い合ったりはするわけですね。


「あと、かなりでかいんで、姫さんだと即死させられる可能性があるな」

「即死攻撃ですか」


 何て嫌な攻撃を。


「ああ、いや、ちょっと違う。種族レベルより30レベル以上高い敵、ないし体のサイズが自分より3段階以上大きい敵の攻撃はHPを貫通して直接、状態異常:負傷を与えてくる可能性がある」

「うわ、そんな仕様があるんですね」

「それで状態異常:負傷のストックが一撃で溜まると文字通り一撃死する、てわけだ。こいつの場合だと……胴体が真っ二つにされるな」


 ちょっと自分の胴体が真っ二つになって、上半身と下半身がおさらばしている状況を想像してしまいました。ゲームと言えどそんな状態にはなりたくないですね。むしろそんなことになると現実リアルとの感覚差はどうなるんでしょうか。大丈夫なのか。


「倒せなくはないが、面倒だ。他の道を行こうぜ」

「わかりました」




 ……と、他の道へ行ってみたのですが。

 1本は同じような《スターゲイザーワーム》の住処でした。


 で、もう1本は。


「……もっとひどい奴がいるとは思わなかったな」

「そうですね……」


 広くなった部屋のような場所を、全長7mから8mくらいの細長い体をした魚が泳いでいます。そしてその周囲には《シーカットラス》や他にも初めて見るような魚が群れをなしています。


「【鑑定】は飛ばすなよ、姫さん。一斉に襲い掛かって来るからな」

「何で複数種の魚が群れを成して一致団結して襲い掛かってくるんですか?」

「……あのボスっぽいのがそういう奴なんだよ。《アポストルオブドラゴンパレス》つって、【神聖術】を使ってくる」


 アポストル、とは使徒、という意味です。

 あの魚たちがどんな神様を信仰しているかは知りませんが、あの巨大な細長い魚は神の遣い、てことなんでしょうね。


「んで、非常にめんどくさいことに《アポストルオブドラゴンパレス》は姫さんたちと同じように加護を得ているので『HPを持っている』」

「HP持ちですか……」

「さらに、当然のように配下にいる群れにも加護を分け与えてHPを持たせる能力がある」


 えっ、それはずるくないですか……と思いましたが、私だって支配下のラズウルスさんにHPを持たせているわけですから、私たちがやってることと同じことしているだけでしたね。


「なんで、流石にあれの相手を姫さん抱えてやるのは無理だ。しゃーねえ、最初の通路を行くか」

「わかりました」


 ま、そういうこともありますよね。


 で、《スターゲイザーワーム》ですが、ラズウルスさんが近づいて姿を現したところを倒していくという地道な作業で何とか突破しました。


 この《スターゲイザーワーム》、頭部分は巨大な口と5本の触手が生えており、触手全ての先に眼球がついています。胴体部分は蛇腹構造に脚のような突起がついていて、ムカデを思わせるような体をしています。


 いや、気持ち悪いんですよ、生理的に!?

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