第23話 よーし、忘れ物はないな?
そんな種族レベルに関する談義もあったりしたわけですが。
ラズウルスさんからも「本当に、最低限だけどな」と言われましたが、何とか合格をもらえました。ですので、いよいよ街へ向けてダンジョン攻略に向かいます。
このダンジョンですが、ラズウルスさんの話では正直ダンジョンと呼ぶほどのものではないみたいです。
まず、ここを出て最初に長方形型に通路が配置されており、私が最初にいた部屋もここにあります。その通路の奥側にこのダンジョンの入口があります。中は全部で3階層構成で1~2階層が特に通路だけで構成された簡単な迷宮、3階層がボスのいるだけの階層だそうです。
今いる場所が地下3階相当ですので、B3FからスタートしてB1Fがボス、という感じですね。
おそらく、これは元々は技能を覚えた後にレベル上げやゲームに慣れるための初心者用ダンジョン、だったのでしょうね、元は。
とりあえず、ダンジョンを抜けて街と呼ばれる場所まで出たら、ここに戻って来るかはわかりません。むしろ魚のモンスターが闊歩している状況を考えるとあんまり行き来はできないかな、と予想しています。
ですので、あるだけのものを持ち出すつもりでプレイヤーズブックのインベントリにしまい込んでいきます。
《簡易錬金台》、《簡易作業台》、食料……あれ、あんまりなかった。
大量に残った《エーテルマテリアル》についてはラズウルスさんに止められました。古代文明の災厄の原因になった物質ですし、あまり使わない方がいいということです。確かに、下手に使ってあの魚モンスターたちが湧いて出てきたら大惨事ですので止めておくことにします。
ちょっともったいない……と思ったのは秘密ということで。
あと水筒にいっぱいに水を入れて肩からかけておくのと、ミスリル出刃包丁ですが……鞘がないのですよね。本当はすぐに手に取れるように持ち歩きたいのですけれど、さすがに抜き身の包丁を持ち歩くのは怖いので、仕方なくプレイヤーズブックのインベントリに収納しました。
「よーし、忘れ物はないな?」
「……遠足じゃないんですから……」
「遠足みたいなもんさ。想定外のことがなけりゃな」
ラズウルスさん、それを「フラグ」て言うんですよ?
まあ、忘れ物、というかやり残し、はあるんですけどね。
ここで死んでいるマギドールの人たちの死体を埋葬してあげたいんですよね。
ただ、もちろんここには埋葬できる場所はないですし、街というのがどうなっているかわかりませんので、いったんは放置していくことにしています。
街にお墓を作るくらいの場所があるといいのですが……その場合、死体をインベントリにいれないと運ばないといけないですか。それもどうかな……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
結構長く過ごした元私の最初の拠点予定だった場所……確か「創神の隠れ家」という名称だったと記憶していますが……を出て行きます。
そこからダンジョンの入口までの通路ですが、ここも当然、敵が出現します。
ここに出現する敵は3種類です。
1種類目がピラニアモドキ……
パーティ、というと楽しそうな名前に聞こえますが、これはクリスマスパーティとかハロウィンパーティみたいな集まって楽しむパーティではなく、RPGのパーティを組む、という意味のパーティですね。
つまりは、集団で襲い掛かって来るピラニア、という意味になります。とはいえレベルは遭遇するモンスターの中では最低の70。ラズウルスさんのレベルを考えれば雑魚、てことになります。
ただ注意すべきはびゅんびゅん通路間を壁から壁へ飛び回っていますので、私が巻き込まれないようにすることですね。私が巻き込まれると、初めて遭遇した時ほどではないですが、結構痛いです。
2種類目が《ライヴベイトアングラー》。
私がゲームで最初に遭遇した、人間を捕まえて「疑似餌」にしてしまうチョウチンアンコウ、です。
【鑑定】するとレベルだけはわかりましたが、レベルは90。結構高いと思います。
ただ、ラズウルスさんいわく、こいつは弱い、とのこと。まあ、本人は人間のふりをして近づいてきているつもりなのでしょうが、カラクリを知ってしまえばむしろどこにいるかわかりやすい、というのはその通りだと思います。
ただ、こいつは「餌なし」と呼ばれる「疑似餌を持っていない」状態が意外と危険です。
疑似餌を持っていない《ライヴベイトアングラー》は人間を捕まえて疑似餌にしようと近づいてきます。足元にぬっ、といきなり現れて触手を繰り出してきて捕まえようとしてくるわけです。これが足元に注意していないと不意打ちになって危険なのです。
私も何度か捕まりそうになりました。一応、こちらの気配は察知してるようなのですが、こちらの姿を視認できているわけではないので所々顔をのぞかせながら近づいてくることと、必ず足元に出現するので対策は取りやすいのですけどね。
そして最後の1種類ですが。
「うへ……めんどくさいのがいるな。いいか、姫さん、絶対触るなよ?」
「綺麗なんですけどね」
通路を優雅に漂うように泳いでいる魚。
体色は赤、紫、黄色と派手な色合いで、大きな胸ビレや背ビレが花びらのような形をしています。その姿はまるで生きた花が浮かんでいるような印象を与えます。
特にこちらに襲い掛かって来る様子もないので、一見すると安全そうなのですが。
このモンスターの名前は《フラワールナリオン》。
レベルは111とお高めです。
「こっちが何かしなけりゃ、襲い掛かってもこない。ただ1度触るとすごい勢いで襲い掛かって来る。しかも全身猛毒持ちだ」
ラズウルスさんがこの魚の厄介さを端的に説明してくれました。
「全身猛毒持ち、てどれくらいの毒ですか?」
「行動制限、麻痺。体が痺れたような感じになって動けなかったり、体を動かそうとすると考えているのと違うように動いたりする。あと強度のVPの減少だな。それでVPが0になると意識がなくなって死に至る」
「滅茶苦茶やばい奴じゃないですか」
体を動かそうとすると考えているのと違うように動く、てどんな毒ですか。
気分の悪さとか痛みとかを忠実に再現するとまずいのでこういう形で再現しているのでしょうけれど。
「でも、これを触らないように行くのは大変じゃないですか?」
目の前の通路にはそこそこの数の《フラワールナリオン》がいます。
「大丈夫だ、こうする」
「……」
ラズウルスさんが床に這いつくばりました。
確かに《フラワールナリオン》は宙に浮いていて、床からそこそこ高い位置にいますから、床を這って進めば触る心配はなさそうです。通路の先の方まで見てみますが、そんなに低い位置には降りてこないようですし。
「……何だか、悲しくないですか?」
「そうか?」
ずんずんと匍匐前進を始めるラズウルスさん。
こうなってしまったら、私も同じようについて行くしかありません。
「あの」
「どうした、姫さん?」
「あの《フラワールナリオン》って、床から出てくる可能性はないんですか?」
ラズウルスさんが何か固まっていますね。
「……気をつけろよ」
「……出てくる可能性もあるんですね」
とりあえず出てきたところでぶつかって怒らせた挙句にこの体勢で戦闘とかなりませんように……。匍匐前進中にお腹の場所に出てきたら……運が悪かったと思うしかないですね。
ところで《フラワールナリオン》。
フラワー、は花みたいな見た目からわかりますが、ルナリオン、ていったい何? て思いましたが。
ルナ・ライオンフィッシュ、て魚がいるんですね。
どうやらこれが元ネタのようです。
確かに綺麗な見た目とえげつない毒を持ってますね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます