第22話 まるで私が普通じゃないみたいじゃないですか。

 それはあくまで推測です。

 確たる証拠を掴んだわけではありません。

 けれど、状況証拠の積み重ねから考えて、まず間違いがないと思われる事象です。


 それが「陣内忠雅は『Dawn of a New Era』の開発・製作に携わっていた」です。


「忠雅の奴が『Dawn of a New Era』の開発に……となると、やっぱりあれだろうね」

『それは、間違いないでしょうね』

「だね。AI関連、としか考えられないね」


 あの人はAIに関する技術者であり研究者でした。

 私が知っている限りではフリーでしたが、いくつものAIに関する論文発表もしていましたし、過去には大企業で研究も行っていたことがあると聞いています。


 ただ、世界的に有名とか名を知られている、と言う人ではありませんでした。


 表向きは。


「そうか。忠雅があのAIをなあ……『Dawn of a New Era』の搭載AIと言えば、NPCとPCの区別がつかないくらい高性能、と『Dawn of a New Era』の売りの部分の1つになっているくらいなんだがね」

『そうですね。本当に人と区別がつかないほどです』


 ラズウルスさんと話をしていると、本当にそう思います。

 時々、中身がAIだって忘れそうになりますし。


「しかし、忠雅の奴がゲーム開発に協力してAI技術を提供だなんて、そんなことをするとは思えないんだがなあ」

『それは、その通りだと思います』


 あの人は。

 AIに関して卓越した技術と理論を持っていました。


 だから、「Dawn of a New Era」に搭載されているようなAIを作れるか、と言えば、作ることができる、と断言しましょう。


 けれど、あの人は。

 それが表に、世に出ることを望んでいませんでした。


 「僕はそれを求めて研究を続けてるけど、世の中の人たちにとっては必要のないものだよ」というのがあの人の口癖でしたね。


「もし、だけれど。無理矢理働かされた、とか、技術や知識を強奪された、てことはないだろうか? もしかしたら、忠雅の死も事故ではなく……」

『ありえません。少なくとも、忠雅さんの死について、事故以外の疑問の余地がありません。なぜならば、あの人は、道路に飛び出た幼児をかばってトラックに轢かれたからです。万が一、謀殺があったとしても、そのような殺し方をすることはしないでしょう』

「あ、ああ。そうだね」


 あの人の死については。私も何度も検証しました。確かめもしました。


 けれど、不審なことは何もありませんでした。

 ですので、暗殺とか謀殺とか、そういうことは絶対にないでしょう。


 ……むしろ、あった方が、怒りや憎しみを向ける相手がいたのに、と何度思ったことでしょうか。


「……と、なると、やっぱり君が絡んでいること、なんだろうね」

『私、ですか』

「忠雅が何か無理や無茶をするとしたら、ましろさん絡みしか考えられないからね」


 そうでしょうか?

 私が何か言っても、たいてい笑って聞き流されていた記憶しかないのですけど。

 ちっとも、私の言うこと聞いてくれなかったんですよね。


「ま、私からの話はこれくらいだよ。また何かわかったら連絡するし、ましろさんでも何かわかったら教えてほしい」

『はい。わかりました』

「ゲームの進行はどうだい? 何か手伝えることがあるなら、何でも手伝うんだが」

『まず、どこにいるかわからないので……』

「そ、そうか」


 お祖父さまのキャラも見てみたいんですけどね。

 何か悪目立ちしてるそうですし。どんな感じなんでしょう?



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



「うし。まー、ちっとはましになったかな」

「はぁ……はぁ……で、ですか」


 現実リアルでは少し進展がありましたが、「Dawn of a New Era」では相変わらずラズウルスさんの地獄のスパルタ特訓でした。

 だって満足してくれないんですよ、この人……! 私、すごく頑張っているんですが……!


 そして、最初の遠征でのレベルアップと地獄の特訓の成果で、現在のステータスはこんな感じになりました。



 名前:ハク

 種族:マギドール+ 性別:♀ 年齢:0

 種族LV:52 職業:人形遣いドールマスター

 能力値:

 筋力(STR):B-/C

 生命(VIT):B-/C

 敏捷(AGI):B-/C

 器用(DEX):B-/C

 知性(INT):B-/C

 精神(MND):B-/C

 HP:100% MP:100% VP:54% 

 空腹度:68% 渇水度:79%

 技能:

 01:【闇視】L

 02:【創神の祝福】L

 03:【ド根性】LV1

 04:【鑑定】LV28

 05:【危険感知】LV38

 06:【気配感知】LV3

 07:【古式人形術】LV21

 08:【魔機工学】LV52

 09:【錬金術】LV56

 10:【見切り】LV22

 11:【回避】LV30

 12:【魔法】LV12

 13:【ランニング】LV3

 14:【跳躍】LV10

 15:【MP回復上昇】LV7

 控え技能:

 【片手剣術】LV1【解体】LV26【登攀】LV2【柔軟】LV2【読書】LV8

 【外界知識】LV4【剛力】LV1【俊敏】LV2【MP最大値上昇】LV6



 結構、種族レベルは高くなりました。

 おかげでメインにセットできる技能数も増えています。


 うん。

 私も最初見た時ちょっとびっくりしたんですよ。


 種族レベル50超えてるし。


 種族レベルが50レベル上限っていう話はいったいどこへ?



「……あぁ? 種族レベルが50上限? そりゃ、の話だろ?」


 ラズウルスさんに聞いてみたら、「何、バカなこと質問してるんだ」的な雰囲気で返されました。

 えっ、それはこの世界では一般常識なんですか?


「そんな、それじゃあまるで私が普通じゃないみたいじゃないですか」

「創造神自らが創ったマギドールが何だって?」


 そうでした。

 その設定、種族レベルと関係あるんですね?


「そもそも、種族レベルってのは、だ。その個体の『生物としての格。存在・魂の強さ』だ。そしてそれは、他の生物の命を殺して奪うことで強くなる。それは姫さんたち『加護を与えられし者たち』だけでなく、全ての生物が生まれながらに持っている権能、と言っていい」


 ああ。それがつまり「敵を倒すと経験値が入って種族レベルが上がる」システムにつながっているわけですね。


「だが、その格、力を受け入れる器の大きさ、て奴は生物によって決められている。どんな存在も、自分の持つ器以上には種族レベルは上がらねえ。それが上限、だ」

「なるほど。それが人族だと50なんですね。で、何で私は50より高いんですか?」

「簡単な話だ。人族より生物としての格が高い存在、て言やあ、何だ?」

「何でしょう? ドラゴンとか高そうじゃないです?」


 ラズウルスさんが思いっきりため息をつきました。

 そのあきれ顔も久しぶり……というか、その体になってからは初めて見るので表情が変わるのは初めて見るかもですね。


「何でそこで見たこともない存在に行くんだ……1番簡単なのは『神』だよ。神様」

「おお。確かにそうですね」


 言われるとそうですね。まったく頭にありませんでした。

 仕方ないですね。中身は神様なんて信じない現代人ですので。


「その神様に限りなく近い姫さんが生物の格が高いのは当然だろう? だから、当然、種族レベル上限も普通の人族より高い」

「そういう仕組みなんですね。ちなみに私だと上限はどれくらいでしょう?」

「んん、姫さんが持ってるのは確か『創神の祝福』だったよな……なら、999か」

「は?」


 文字通り桁が違うんですか。

 ま、まあ、あくまで上限ですから、そこまで上がるかどうか何てわかりませんし。

 そもそもそんなレベルまでレベル上げられるような敵が出てくるんですかね。


「でも、そうなると普通の人族は大変じゃないですか? 種族レベルが50で止まるんですからすごい差になりますよ」

「ん? 神かそれに近しい存在から新たに加護をもらえば種族レベル上限は引き上げられるぞ? というか、普通の人族から英雄と呼ばれるようになる存在、てのはそうやって種族レベル上限を突破し、神話の存在へと近づいた者のことを言うんだ」


 ほほう。いい情報を聞いたような気がします。

 公開すれば他のプレイヤーのみなさんも喜びそうなんですが、現状、公式掲示板くらいでしか情報伝達ができないんですよね……。

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