第18話 古代文明恐るべし。

 【解体】技能の〈アーツ〉(名称としては同じ解体です)の発動にはまず刃物が必要です。

 ナイフがベストですが、解体する死体の大きさによってはもっと大きめの刃物が必要でしょう。今回はミスリル出刃包丁を使います。


 〈アーツ〉を発動させると、目の前に進行度のゲージが表示されます。

 リアリティが売りの「Dawn of a New Era」ですが、死体を解体するのに実際に血抜きしたりとか肉を切ったり内臓を処理したり、ということはありません。技能無しで同じことをやれるそうではありますが、ゲームとしては意味がないと判断されたのでしょうか。

 代わりに、というわけではありませんが、死体がアイテムに変化するまでの時間、拘束されます。目の前に進行度のゲージが表示され、解体が進行中の間は体を動かすことができなくなります。実際に作業はする必要はありませんが、作業にかかる時間だけは同じようにかかる、ということなのでしょう。


「はあ……だいぶ時間はかかりそうですね、これだけ巨体ですと」


 一応、解体中、動けませんが喋ることは可能です。


『魚どもの中でもボスクラスだ。ま、それだけの巨体だから広い平面がないと出て来れないから滅多に出会わねーんだがな』

「ここは広かったんですか?」

『天井がな……まあ、1度出てきちまうと、【封鎖結界】って言って空間を変質させてその中を自由に動き回るから部屋自体の広さはそこまで関係ねえんだが。ここは天井に何もなかったんで条件を満たしちまった』


 あー、天井ですか。なるほど。今は破壊されてますけど、あそこが全部平面なら確かにこの巨体もくぐりぬけて出てきそうです。


「ボスクラスと言っても、どれくらい強かったんですか?」

『レベルで言やぁ、132』

「は?」


 想像つかないレベルですね。

 え、でもラズウルスさん、自爆で相討ち覚悟でもこれと刺し違えて倒したんですよね? もしかして滅茶苦茶強い?




 そんな感じで雑談しながら進行度の表示を見ていたのですが、全然進まないのでいったん中断しました。結構喋っていたと思うのですが、まだ12%ちょっとです。


 足元には青い立方体のキューブが積みあがっています。

 生物の死体を解体してできたもの、というのはあまりにも奇妙な物体です。


 肉?

 皮?


「……これが、素材なんですか?」

『ああ。古代文明じゃ万能素材と言われた《エーテルマテリアル》だ。もっとも、こいつを使いすぎた結果、あの魚の化け物どもの侵攻を受けることになったんだがな』

「でも、こうやって【解体】で入手できるなら、古代文明ではこいつを狩ってたということでは?」

『いや。古代文明はこいつのさらに素である『エーテル』を精製してこいつを入手していた。この魚どもは普段その『エーテル』の中で泳ぎまわって生きているから、体が『エーテルマテリアル』でできてるんだ』


 何とも不思議生物ですね。


 しかし、すぐに私はこの不思議生物の恩恵を……というか、なぜ《エーテルマテリアル》が万能素材と言われていたかを思い知ることになりました。


 これを見てください。



 『≫レシピ:マギナーヴ:100%

   ▶《エーテルマテリアル》:100%

   →使用する素材を錬金台にセットしてください』



 試しに《簡易錬金台》を動かしてレシピに《エーテルマテリアル》のキューブ1個のせた結果です。


 何と、たった1個で成功率100%ですよ。

 さっき、【解体】で進行度12%ちょっとで、できたキューブはざっと見て50個くらいはあるのに、です。


 ちょっと怖い感じもしますが……まずは1個作ってみましょう。



 『《エーテルマギナーヴ》1個が完成しました!』



 は?


 何か違うものができた?


 何、これ……と思い【鑑定】してみると。



 《エーテルマギナーヴ》

  種別:素材 レア度:SSR 品質:B+

  重量:1 耐久度:100%

  特性:マギドールの修繕、組立、生産に使用する汎用部品。

     使用したマギドールの知性(INT)に+5。

  ※エーテルを使用して強化されたマギドール用の神経。

   エーテルで造られた部品はマギドールの出力を増加させ、

   知性(INT)を上昇させる。



 ええ……もしかしなくても、これは、強化されています……?


『《エーテルマテリアル》で造られたマギドールの部品は能力にプラス補正がつくはずだぜ。できたら全身強化できる分、造っておいてくれ』


 完成品を見て硬直している私を見て、ラズウルスさんが説明してくれました。


「ええ……何か、これ、便利すぎません……?」

『だから、古代文明時代、人間たちはこいつをこぞって使ったのさ……後であんなことになるとも思わずにな』


 そう言うラズウルスさんの言葉には、何か苦々しいものを感じます。


『文明を大いに発展させた人類だが、その文明を維持するためには世界の魔力マナだけじゃ足りなくなっちまった……それを補うために世界の『外』に新しいエネルギー源を求めた。その人類が見つけた新しいエネルギー源のうちの1つがその『エーテル』だ。便利だろ?』

「……うちの1つ、てことは他にもあったんですか?」

『ああ。《エーテル》《アストラル》《アビス》。この3つだ。それを得て人類と文明は更なる発展を遂げたんだが……結局、そんな美味しい話はなかった。その3つ全部から、災厄というしっぺ返しを食らっちまったんだからな』


 何か興味深くて面白そうな話なのでもっと聞いてみたい気もしますが。


 これ、「Dawn of a New Era」ていうゲームの中の話ですよね?

 公式HPだと、2行くらいしか書かれていないゲーム設定の部分の話なんですけど?

 そんなとこまで実は逐一、何が起こったか決めてあるんですか?



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 レベル上げが捗りました。


 ちょっと、これを見てください。



 『≫レシピ:マギボーン:100%

   ▶《エーテルマギナーヴ》:100%

   ▶《エーテルマギナーヴ》:100%

   →使用する素材を錬金台にセットしてください』



 ずるくないです?


《エーテルマテリアル》1個で漏れなく《マギナーヴ》《マギボーン》《マギマッスル》が強化状態で1個、作成できます。

 で、その作成されたアイテムを任意に2個使用することで、別の1個を作成することができます。作成しようとするアイテムと同じアイテムをのせるのは、できません。成功率が0%になります。


 いや、確かに2個→1個で減ってますよ?


 でも、こんなの完成したアイテムをまた次の生産の材料にできるなんて、生産し放題じゃないですか。しかも、その1番最初の素である《エーテルマテリアル》はグレーターオルカの死体から【解体】で膨大に入手できます。もう無限に生産回数を増やせると言っても過言ではありません。

 一応、同じものを作り続けていると経験値が入らなくなって、レベルが上がらなくなる、というのはあるんですけどね。


 というわけで【錬金術】【魔機工学】で《マギスキン》が造れるようになるレベルも余裕でクリアしました。ついでに【魔機工学】で〈マギドール改造〉を覚えて、既存のパーツに《エーテルマテリアル》製の部品を投入して能力補正を強化することもできました。


 そして、できたのがこちら!



 《マギドール》

  種別:素材 レア度:UR 品質:A+

  重量:610 耐久度:100%

  特性:マギドールを製作するためのパーツ。

     [頭(目/鼻/耳/口)][胴体][腕1][手1][腕2][手2]

     [腰][脚1][足1][脚2][足2]に該当する。

     [コア]をセットすることで起動可能。

  ※エーテルパーツで強化済。

   筋力(STR)+50、知性(INT)+50、MP+100、VP+100。

  ※古代文明時代に一般的であった女性従者型マギドールモデル。

   直接的な運動性能は劣るが使用可能技能の範囲が広く、汎用性が高い。



 現在はセーフゾーンから持ち出した椅子に座らせています。


 全身に〈エーテルマギナーヴ〉〈エーテルマギボーン〉〈エーテルマギマッスル〉を使用して強化しました。〈エーテルマギスキン〉、表皮に該当する部品ですが、これはラズウルスさんの希望で使用しませんでした。

 エーテルを使って造られた素材ですと、そこから魚が出てくる可能性がありますからね。神経・骨・筋肉みたいな体内で使うものなら隙間がないので出てくる可能性はないですけど、皮膚だと体の場所によっては何か魚が出てきそうですし。


 ……こうして考えると、何だか嫌な世界ですね。


 おかげで強化は完全、とはいきませんでしたが、それでも表記を見るにかなり高い補正を得られたのではないでしょうか……と思ってたんですが。


 後で調べてみたらむしろあり得ないくらい高い補正のようでした。

 うーん、古代文明恐るべし。

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