第19話 つよい。とにかくつよい。

「いよいよ、新しい身体ボディコアを移すだけですね」

『いや、その前に〈リンケージ・コア〉をかけてくれ』

「り、りんけーじ……?」

『【古式人形術】の基本スペルだよ!? 自分の魔力マナコアを繋いで、コアを支配下に置くためのスペルだよ!? 何で姫さん知らねーんだよ!?』


 おほほ、もちろん知ってま……すみません、そっちの〈アーツ〉とか〈スペル〉とか全然確認してませんでした。


『マギドールのコアをいじる時は、いったんそのコアを休止状態にした上で、コアを新しい体に移し替えて再起動させる必要がある。しかも、再起動には時間がかかる。その点、人形遣いドールマスターが【古式人形術】を使えば、コアの移設も一瞬で済むから手っ取り早い』


 なるほどそうなんですね。


「じゃあ、〈リンケージ・コア〉を使いますね」

『おう』


 プレイヤーズブックを開いて〈リンケージ・コア〉を選択して発動させます。

 すると、対象選択の画面に切り替わり、目の前のラズウルスさんが表示されます。そのまま、表示の通りに選んで行くと、光る鎖が私の体から出てきてラズウルスさんの残っている左胸、コアのある部分へと吸い込まれていきます。



 『《個体名:ラズウルス》のコアを支配下に置きました』



 メッセージウィンドウが表示され、それに合わせてウィンドウが開きました。


 【古式人形術】を扱うための操作盤のようなもののようです。現在は、コントロール下にあるマギドールとして、ラズウルスさんだけが表示されています。


「おお。こんな感じに表示されるんですね」

『それが【古式人形術】の基本の操作盤だ。そこから支配下のマギドールの操作ができる。コアの強化とかもできるし、体のパーツの変更もすぐにできる』


 ウィンドウのラズウルスさんをタッチすると、ラズウルスさんのステータスの詳細が表示されます。

 現在は「ベースボディが使用不可状態です。交換が必要です」と表示されています。


「ベースボディの交換が必要、て出てますね。こっちの完成したボディへ交換するのはどうすれば……」

『〈レジスター・パーツ〉てスペルがあるだろ。それで作成したマギドールのボディや装備品、強化パーツなんかを【古式人形術】の術式に登録できる。登録したら支配下のマギドールに装備・換装が可能だ』


 ああ、これですか。


 さっそく、出来上がったばかりの体の完成品に向けて〈レジスター・パーツ〉を使います。

 光の線が現れると、マギドールの体をなぞって行くような感じで頭の先からつま先まで下りていきました。しばらく何かを読み込んでいるようなメーターが表示されましたが、『登録が完了しました』とメッセージウィンドウが表示されました。


 【古式人形術】用のウィンドウの『未使用パーツ』という欄に、『ベースボディ(1)』という表示が追加されました。


「しかし、ラズウルスさん、【古式人形術】にえらく詳しいんですね」

『ジーンロイ様が使っているのを見てて、教えてもらったからな』

「なんで創造神さまが、人形遣いドールマスターやってるんですかね……?」

『姫さん創るためだろ、そりゃ』


 あ、なるほど。納得。


「じゃあ、ボディ交換しますね? いいですか?」

『ああ、頼む』


 ウィンドウ上でラズウルスさんを、未使用パーツからベースボディを選んで。

 『ベースボディを変更しますか?』というメッセージの問いに『はい』を選択する。


 それだけのことですが、ちょっと緊張しました。


 『はい』を押した瞬間。


 ガシャン、と音がしました。


 びくっとして、思わず音のした方を見ると。


 そこにあるのは、崩れ落ちて山になった、フルフェイスの兜のような頭部と、破損した胸部。



 ラズウルスさん、




「姫さん」


 今まで聞きなれた、若い男性を模した合成音声のような声ではない。


 涼やかな、女性の声。

 けれど、その口調と雰囲気はとても聞きなれたもので。


 振り返ると。先ほどまで目を閉じて力なく椅子に座っていたマギドールの女性が、立ち上がってこちらを見ていました。



 あ、青い目だったんだ。


 最初に思ったことがそれでした。

 だって、ずっと目を閉じていたので、目の色は知らなかったので。




「服くれ」


 あ、そう言えば裸でしたね。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 深い青色の髪が腰の辺りまで伸びていて、同じ色の瞳はやや釣り目な感じできつい印象を与えます。けれど、本人のまとう雰囲気とはとてもマッチしていて、全体としてみるならそれはもう、凛々しいというか、クールビューティというか。そんな感じの美人です。


 服装はスカートの短いメイド服にホワイトブリム。

 靴はマギドールの死体の方々から、使えそうなブーツを拝借しました。残念ながら左右でちょっとデザイン違うのはご愛敬。


「声、普通に女性の声になってましたね」

「んあ? ああ、前は口はなかったからな。しゃーない」


 女性にしてはちょっと低めの声で、これも容姿にとてもマッチしています。


 ……口調は、ちょっと私的減点ポイントになってしまいますけど。

 前は気にならなかったんですけど、その姿だと残念だなぁ。


「ちょいと、動かしてみるか」


 そう言って、エーテルブレードを手にして魔力を通すと、軽く2、3度振った後、流れるような動作で素振りを始めました。

 私も最初に教えてもらってやらされた奴ですが。

 それとは比べ物にならないほど綺麗な所作で、惚れ惚れしてしまうほどです。まさに達人、という感じ。


「……うーん、やっぱぎこちないとこもあるから、しばらくは慣らさないと駄目だな。姫さん、俺のステータスは見れるか? 〈リンケージ・コア〉で支配下に置いたから、俺のステータスも見えるようになったはずだが」

「あ、はい」


 あの動きで駄目出しするんですか。

 確かに私のこと見て「才能ない」て思うのは不思議ではないですね。


 ラズウルスさんに言われて、【古式人形術】のウィンドウを開いて、ラズウルスさんの詳細データを表示するようにします。



 名前;ラズウルス

 種別:マギドール汎用人型+ レベル:96

 攻撃:S 耐久:B+ 感覚:B 魔力:A

 HP:100% MP:100% VP:100%

 取得技能:

【武芸千般】EX【流派:森羅万勝】EX【神眼】32LV【先読み】45LV【空蝉】42LV

【韋駄天】37LV【不屈】78LV【我慢】88LV【上級鑑定】21LV【魔法】69LV

【魔力制御】67LV【神力】16LV【神速】21LV【神指】19LV【超頑健】46LV

【MP最大値上昇】84LV【MP回復上昇】82LV【VP最大値上昇・極大】33LV

【VP回復上昇・極大】36LV

 ボディパーツ:

[頭(目/鼻/耳/口)][胴体][腕1][手1][腕2][手2][腰]

[脚1][足1][脚2][足2]

 装備:

《エーテルブレード》

《戦闘用侍女服(ミニスカ)》《戦闘用ホワイトブリム》《ロングブーツ》



 詳しいことはよくわかりませんが。


 つよい。

 とにかくつよい。


「うーむ、やっぱ、能力値は落ちてんな」

「そうなんですか?」


 えっ、能力値も相当高いと思うのですが……あ、でもレベルのわりには低い、のかもしれません。


「でも、エーテルで強化した表記は筋力とか知性にプラス、だったんですけどその能力値はないですね」

「元の能力値はちゃんとあって、そこから計算されて、今の簡易表記になってるはずだぜ」


 ああ、なるほど。

 筋力(STR)が上がると攻撃が上がる、て感じなんですね。


「あと、今の俺にはHPはあるんだな」

「HPですか?」


 HPなんてあって当たり前のような気がしますが、何故でしょうか。


「ああ。本来HPっつーのは、姫さんたち『加護を与えられし者たち』の特権だ。でも、『加護を与えられし者たち』が使役する存在については、『加護を与えられし者たち』と同じだけのHPが与えられんだ」

「ああ、そう言えばHPってそうでしたね。なるほど」


 「Dawn of a New Era」ってHPは「ヒットポイント」ではなく「ホーリーポイント」でしたね。プレイヤーキャラクターの専売特許にしてしまったので逆にNPCを戦わせる場合にHPがない=耐久力がなさすぎる、てことになってしまうのでそのバランス調整、ということでしょう。


 ちなみに、96レベルのラズウルスさんならHPも滅茶苦茶高くなるんだろうと思ったのですが、残念なことにこのHPはラズウルスさんのレベルから計算されるHPと私の現在の最大HPで計算して低い方を取るとのこと。


 ケチですね「Dawn of a New Era」。


「じゃ、ちょいと試し斬りに行こうか、姫さん」

「試し斬りですか?」

「おうよ。魚どもを狩りに行こうじゃねーか」


 にやり、とラズウルスさんが笑いました。


 わあ、頼もしい。

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