第17話 ごめんなさい! 魚じゃなかった!
『よう、お帰り……って、その服、どうしたんだ?』
「あ、3階の部屋に残ってました。マギドールの人たちの服でしょうか? 性能もよかったのでもらいました」
『いや、姫さん。一応な、そいつはメイド服だからあんまり着るなよ?』
「別によくないですか? 頭のブリムをつけなかったらメイドっぽくはないですし」
『いや、そういう話じゃなくてだな……姫さんにそんな服着せたらあいつらが……』
「んー? ミニスカもありましたけど、そっちの方がよさそうでしょうか?」
『そういう意味じゃねえよ!?』
メイド服着て帰ったらラズウルスさんにあれこれ言われましたが、別にいいじゃないですか。お洒落で初期服よりはよっぽどいいと思うんですけどね?
『一応、おめえはお姫さまなんだよ!』
お姫さま、と言っても貴族とか王族とかではないですし……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
持ち帰った《簡易作業台》に同じく持ち帰ったマギドールの体をのせています。
腰から上の胴体、右腕、頭の状態で、破損していた左腕は取り外して、元々はずされていた腰から下と合わせて今は付いていない状態です。
《マギドール》
種別:素材 レア度:SSR 品質:B
重量:450 耐久度:75%
特性:マギドールを製作するためのパーツ。
[頭(目/鼻/耳/口)][胴体][腕1][手1]に該当する。
※古代文明時代に一般的であった女性従者型マギドールモデル。
直接的な運動性能は劣るが使用可能技能の範囲が広く、汎用性が高い。
!〈マギドール組立〉に使用するには耐久度が足りません。
【鑑定】で見てみると……あれ? 普段は表示されない内容があります。
ああ、そう言えば。【鑑定】を使った時に見える情報には、対応する知識の技能があれば追加で情報が表示されるのでした。この場合は私が【魔機工学】を取得しているのでマギドールに関する追加情報が見えたのでしょう。
なるほどそうなのか、と思いつつ、問題は最後の一文です。
耐久度が足りない。現在の耐久度が75%ですので、結構高いように思いますが駄目なのでしょう。そうしますと、ここの耐久度は100%、新品同様でないと駄目、という可能性が高そうですね。
幸い、耐久度の回復だけなら難しくはなさそうです。【魔機工学】で取得できる〈アーツ〉に〈マギドール修繕〉というものがあるからです。
ただ。
この〈マギドール修繕〉を使うには材料が必要になります。
それが《マギナーヴ》《マギボーン》《マギマッスル》《マギスキン》の4つ。
……《マギスキン》?
「パーツの修繕には《マギスキン》というのが必要……でも、【錬金術】のレシピの中には《マギスキン》はないんですけど、どこにあるんですか、これ……?」
『単に【錬金術】か【魔機工学】のレベルが足りないんじゃないか?』
表示ウィンドウを見てうめいていたらラズウルスさんが声をかけてくれました。
「ですかねー? やっぱり、そうですかねー?」
『多分な』
いや、私もそうは思うんですが。
その場合、どうやってレベルを上げようか、ということになります。
【錬金術】はいいんですけどね。【魔機工学】の方が問題なのです。
◇◆◇◆◇◆◇◆
《錬金台》を使った【錬金術】の生産の基本は〈合成〉というスペルになります。
これは、《錬金台》にセットした複数のアイテムに魔力を通して変質させ、まったく違うアイテムを作成するものになります。
その組み合わせは膨大で無限、というかアイテムの種類が多すぎるうえに《錬金台》にセットできるアイテムの個数も2個から10個までいけるとか、同じアイテムでも品質と耐久度でできる物が変わるとかでリスト化も難しいそうです。
ただ、その場合、欲しいアイテムが作成できないと困ります。
そこで使用されるのが【錬金術】の〈レシピ〉になります。
この〈レシピ〉を使用すると、《錬金台》にセットしたアイテムに従ってレシピの品が完成する確率が表示されるようになります。その際、まったく関連がないアイテムをセットしてしまうと、0%になってしまいます。
セットした材料が使えるのか使えないのか、どれほど有効かを判断してくれるのが〈レシピ〉というわけです。
代わりに、ですが〈レシピ〉を使用すると〈レシピ〉で指定された以外の物は作成されないようになります。生産が失敗になると「ゴミ」という名前の、何にも使えないアイテムが生成されるそうですが。
この〈合成〉の仕様から、【錬金術】のレベルを上げるのは簡単です。
そこらに落ちている瓦礫の破片とかを適当に《錬金台》にのせて〈合成〉スペルを使用すればいいからです。ゴミ以外のものが完成すれば、【錬金術】の経験値はたまってレベルは上がります。
しかし、【魔機工学】の方はそうはいきません。
【魔機工学】により取得したレシピでの生産に成功させたら【魔機工学】にも経験値が入り、レベルが上がります。しかし、現状、その〈レシピ〉を成功させるための素材が足りません。そこらに落ちている瓦礫では0%だったのは前に試した通りで、使えません。
それ以外で使えそうな素材は……マギドールの人たちの死体、2階にあったミスリルの両手鍋、落ちていた瓦礫以外の壊れたアイテム、くらいでしょうか。あと3階の《簡易作業台》とベースの体を見つけた部屋に散乱していた謎アイテムも、調べていないですが、元々の部屋の用途を考えると、使える可能性が高いのではないかと思います。
けれど、どこまでレベルを上げないといけないか、成功率がどれくらいかを考えると足りているとは言い難い。
そして【魔機工学】の技能でできることが他にない。
【魔機工学】の技能で取得している〈アーツ〉は〈マギドール修繕〉〈マギドール組立〉〈マギドール製作〉しかありません。そしてどれも使用するには素材が要求されます。
あっ、一応、別の行動に何かしらボーナスを与えた場合、少しだけ経験値が入るそうですから、マギドールの死体を【鑑定】してたら【魔機工学】にも経験値が入るかな……でも、確か同じ対象に対しては一定回数繰り返すと経験値が入らなくなるそうですから、望みは薄いか……。
『何かさっきからうんうん唸って行き詰ってるな、姫さん』
「え、ええ。【魔機工学】のレベルを上げるのにですね……マギドール用の部品を作るにしてもレベル上げの練習に使えるほどの材料がないので、どうしたものかと」
『材料か。あるぞ?』
「そうなんですよ……え?」
ラズウルスさん、今、何と?
『ようは、マギドールの部品を作るために使えそうな材料が大量にあればいいんだろ? あるぞ』
「え? ど、どこに?」
『あれだよ』
ラズウルスさんが顔を向けたのは。
かつて、ラズウルスさんが相討ちで倒したという、巨大な魚のモンスターの死骸。
『あいつを【解体】すんだよ。たぶん余るくらい素材が採れるぞ?』
◇◆◇◆◇◆◇◆
未使用で残していた「白紙の技能スクロール」が3枚。
いざという時のために残していた3枚のうち2枚を使用して【解体】と【外界知識】を取得しました。
【外界知識】って特殊な技能じゃない? と思いましたが、普通に選択肢にありました。知識だからセーフゾーンに本がないかな、と思いましたが流石にありませんでしたね。
【解体】技能は言わずもがな、死体を分解して素材アイテムを入手する技能です。いわゆるドロップアイテム入手のための技能ですね。一応、この技能がなくても最低限のアイテムを死体から入手できますが、アイテムの入手効率が全然違うため取得が推奨されています。
あと、【解体】技能は分解する死体に関する知識があるとプラス補正が得られる、ということですので、今回は効率を最大限にするために【外界知識】を取得しました。もったいないかもしれませんが、まあ、いいか。
よく考えると、どうせ【解体】を覚えて使うのなら、マギドールの人たちの死体を分解すれば、素材アイテム、おそらく〈マギドール修繕〉で必要なアイテム4種が入手できそうですよね。
いや、気づかなかったことにしましょう。
正直言うと、心情的には、それはあんまり、したくありませんので。
あらためて、魚の死体を確認します。
全長10mくらいでしょうか。背中側が黒色、腹側が白色をしており、目に当たると思われる部分には白い模様があります。鉤爪のようなフォルムの背びれをしており、半開きの口の中には鋭い牙がならんでいます。
あ、これ。
「あの、ラズウルスさん。こいつって、何て名前なんですか?」
『ああ? グレーターオルカだ』
シャチですか!
ごめんなさい! 魚じゃなかった!
確かに海の生物だけど!
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