第15話 もしもし? お祖父さま?
急いで2階からセーフゾーンの小屋まで戻ると、ラズウルスさんに「ちょっとしばらく休むから」と言い残してログアウトしました。
すごく変な顔(フルフェイスヘルメットなので表情はないですが)でラズウルスさんが私を見ているような気がしましたが、今は少しでも早くしてログアウトしたかったのでスルーです。スルー。
「Dawn of a New Era」がどんなゲームかを掴むために、プレイを始める前に色々とネット記事や評価を調べたのですが、その時に確か「クローズドβテスト」に関する記事もあったはずです。
『これですね』
VRMMOに関する様々なニュースや情報を取り扱っている専門サイト。
そこの過去記事にあった、「『Dawn of a New Era』クローズドβテスト体験レポート」。私の探していた記事は、これです。
本来ならVRMMOゲームが正式サービスを開始する前はどれくらいの集客が見込めるかやサーバーの負荷の具合等の確認を行うために誰でも自由に参加できる「オープンβテスト」を行うものです。
しかし「Dawn of a New Era」ではそのオープンβテストは行われず、抽選で選ばれたメンバーによるクローズドβテストが行われたそうです。抽選で、と言っても全国5ヶ所に合計で5000人を集めてのものですから、結構な大規模なものだったのでしょう。
記事の最初に、その辺の事情についてあれこれと書かれていました。専用のフルダイブ機材を使用するため、誰でも参加、というわけにはいかなかっただけのようですが。集められた場所でその機材がレンタルされ、それで実際にゲームをプレイしたようですね。
と、それは今、求めている情報ではありません。
『……ありました』
ゲーム内容を大げさな驚きの言葉とともにベタ褒めする記事を読み進めていき、最後の部分でようやく、欲しかった情報を見つけました。
『……残念ながら今回遊んだキャラクターは正式サービスへの引継ぎはできないとのことです。と、いうのも、今回のクローズドβテストではゲーム内時間で暗黒暦300年代でのプレイでしたが、正式サービスではその200年後の暗黒暦500年からのスタートになるからだそうです。しかし、クローズドβのプレイヤーキャラクターは引き続き『Dawn of a New Era』の世界でNPCとして存在していくそうなので、もしかしたら正式サービス開始後に、クローズドβテストで遊んだプレイヤーキャラクターやその子孫と出会うこともあるかもしれません……』
色々と書いてありましたが。
私が覚えていて確認したかったのは、この「クローズドβテストではゲーム内時間で暗黒暦300年代でのプレイでしたが」の一文です。
つまり、正式サービス前に広報され、人を集めて行われたテストでは、過去の時代でゲームプレイが行われていた。
と、なれば。他にも過去の時代にログインして行われたテストが、あった可能性があるのではないか?
すごく乱暴で大雑把な計算にはなりますが。
正式サービス開始がゲーム内時間暗黒暦500年、それより2ヶ月前のクローズドβテストがゲーム内時間暗黒暦300年。
もちろん
『……推測として。だいたい9ヶ月から10ヶ月前。一般には公開されない『Dawn of a New Era』のテストプレイが『暗黒暦0年スタート』で行われる予定だった。あの人はそれに私を参加させるために準備をしていた』
では、これが本当かどうか、確かめる手段はあるでしょうか?
可能かどうかはわかりませんが。
1つだけ、当てがあります。
私はアドレス帳を開き、対象の人の名前を選ぶと、メッセージを作成しました。
『忠雅さんの残した『Dawn of a New Era』専用のフルダイブアクセスチェアの件でお話ししたいことと、お願いしたいことがあります。時間がある時でいいので、連絡をいただけますでしょうか?』
送る相手は私の義祖父、
今は引退されていますが、一代で会社を興して一部上場企業まで成長させた実業家です。財界では伝説の人として知られて、メディアへの露出も多かった有名人です。
当然、知人やコネも多い方ですので、もしかしたら「Dawn of a New Era」の運営会社にも伝手があるかもしれません。
◇◆◇◆◇◆◇◆
メッセージを送ってもすぐに返事が返ってきたり、通話がつながることもありませんでした。こちらからメッセージを送った手前、入れ違いになっても申し訳ありませんので、仕方なく溜まりがちになっていたタスクを消化しながら、連絡を待つことにしました。最近は「Dawn of a New Era」にかなり時間をとられていましたからね。
……正直言うと、ちょっとログインはためらわれる気分でしたのは否めませんが。
「Dawn of a New Era」を遊びたくない、というわけではなく。
ラズウルスさんと顔をあまり合わせたくなかったのですよね。
何故かと言うと。
最初は「気のせい」「勘違い」と却下していた事象が、事実だった可能性が高まったからです。もちろん事実と確定したわけではないですけれど、様々な事象がぴったりと、筋道正しくつながるのでしたら、それは事実の可能性の方が高くなります。
そしてそれが事実なら。
私はラズウルスさんに合わせる顔がない。
だから私は、お義祖父さまの連絡を待ちながら、「Dawn of a New Era」にログインもせず、1人、疑問を繰り返していました。
もし、私が予定通りに「Dawn of a New Era」を始めていたら。
ラズウルスさんも、マギドールの人たちも、無事だったのでは?
結局、雅和お祖父さまから通話があったのは、すっかり夜になってからでした。
『こんばんはです。雅和お祖父さま』
「君の方から私に連絡をしてくるのは珍しいね。普段は沙織と仲良くしているから、そちらにメッセージを送るものだと思っていたよ」
雅和お祖父さまは頭をかいて、申し訳なさそうにしています。
確かに、沙織お祖母さまよりも苦手で少し避けている感じはありますね。
というわけで。
私の考えたこと……「Dawn of a New Era」のテストプレイが、クローズドβテストよりさらに前に行われたのではないかということ、あの人が私をそれに参加させようとしていたのではないか、ということ……を説明しました。
『……それで、雅和お祖父さまの伝手で、実際にそういったことがあったかどうかを調べられないかと思いまして』
「なるほど……ありえなくない話ではありそうだね。ただ……」
真剣に私の話を聞いてくれた雅和お祖父さまですが、私の提案には渋い顔をしました。
「基本的にああいう所の社員は、きっちりと情報漏洩の危険性等の教育も受けているからね。私も知り合いがいないわけではないが……当たってはみるけれど、あまり期待はしないでほしいかな」
『はい。それは十分承知の上です。駄目元で、ですから』
うーん、やはり雅和お祖父さまの様子を見る限りでは厳しそうですね。
仕方ないかもしれません。
「……ところで。ゲームの方は、どうだい? 楽しめてるかい?」
『そうですね』
楽しめているか……ゲーム内のできごとを思い出してみます。
何か理不尽な目に遭っている記憶しか出てきません。あ、ちょっと怒りがわいてきたかもしれません。何だ、あの魚ども。
「その、なんだ。前と比べると……表情が柔らかくなった、というか。感情が表に出るようになった、というか」
『そうなんですか?』
全然、自覚はありませんでしたが。
確かに「Dawn of a New Era」の中で経験したことは、日常では体験できないようなことばかりでした。
その刺激に、知らない間に影響を受けているのかもしれません。
「私としては、良いように変化をしているように見えるからね。もし、『Dawn of a New Era』を遊んだおかげで、そうなったのなら忠雅があれを残してくれていてよかった、と思うんだよ」
『確か、雅和お祖父さまも、『Dawn of a New Era』をプレイしているのでしたでしょうか?』
私の言葉に雅和お祖父さまは照れ臭そうに笑いました。
「沙織に誘われてね……学生のころからアルバイトと勉強、社会人になってからはひたすら仕事……そんな私がこの年になってゲーム三昧、だからね」
あ、結構はまってるんですね。
『そう言えば、雅和お祖父さまは公式掲示板を見たり書き込んだりはされないのでしょうか?』
「公式掲示板か……まあ、見るくらいなら、かな」
『実は私の今いる環境が少々特殊でして。有益な情報を入手できたので、他のプレイヤーの方と情報を共有したいと思うのですが、公式掲示板で目立ちたくもなく。なので雅和お祖父さまに代理で書き込んでもらおうかと考えたのですが』
「ふむ。どんな内容だい?」
あ、ちょっと興味はあるようです。
しっかりゲーマーされてますね。
『【鑑定】技能の自主取得の条件とか?』
「えっ」
『古代文明の滅んだ災厄の一端の情報とか?』
「は?」
『公式掲示板への書き込みは無理でしょうか?』
何か、雅和お祖父さまの顔が引きつっています。
「いやあ、流石にそれはちょっと……私も、これ以上、悪目立ちはしたくないからね……」
えっ。
もしもし? お祖父さま?
普段どんなキャラクターで、どんなプレイされているんですか?
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