第12話 案はいくつか既にありますので。
私は現在、何をしているかと言いますと。
せっせと床に転がっていたマギドールの死体を集めて整理しています。
「……これはいきなり、障害に当たりましたね」
いつかちゃんと埋葬したいな、と思いつつ、1体ずつ並べているのですが。思った以上に、死体の損傷が激しいのです。まずは1番形が残っているものをベースにして、そこから必要な部分を修理して、ラズウルスさんのボディを作成しようと考えていたのですが。
あと胴体部分の破損が地味に修復しづらそうなのですよね。お腹に穴が開いてるのとか。そういうのを避けようとすると下半身がなかったりとか、頭部が潰れていたりとか、そんな死体になってしまいます。
『戦闘で傷を受けて死んだ死体なんて、そりゃ破損してるに決まってるだろ』
「それは、そうなんですが」
『じゃあ、上を探してみるか? まだましなのがあるかも知れねえ』
ラズウルスさんが顔を上げて上を見るので、つられて私も顔を上げました。
天井に大きな穴が開いており、上の階の様子が見えます。
まあ、床・天井ぶち抜かれていますし、同じようにぼろぼろなのですが。
「そうですね……どうせでしたら上に死体が残っていたら集めて、使わない分はきちんと埋葬したいですし……ただ」
『ただ、だなあ』
私とラズウルスさんが同じように同じ方向に顔を向けます。
そこには壊れて崩れた階段があります。
戦闘の余波で破壊されてしまったのでしょう。一応、かろうじて原型は残っていますが、昇って上の階へ行くのに使えそうにはありません。
「一度ある分だけ並べて整理してみて、それから考えてみましょう」
『そうだな』
あと、これ。地味に重労働なんですよね。
マギドールって、重くて。
◇◆◇◆◇◆◇◆
で、その後、今いる1階部分をくまなく探し回って、死体を集めてまわり。
結構な時間がかかりましたが、何とか片付け完了しました。
マギドールの人たちの死体をずらっと並べた光景はちょっと申し訳ない気がします。手を合わせておきましょう。
「うーん、上半身と下半身をつなぎ合わせられたらいけそうなんですけど。それって難易度高そうなんですよね」
『さすがに【魔機工学】の知識はねーからな。それは俺にはわかんねえぞ』
綺麗に残ってるパーツを目で数えながら、頭の中で組み合わせを考えていきます。
「それで、【錬金術】でパーツを造るんでしたっけ?」
『確かそうだったはずだぜ。正確にはマギドール関連の品を造るには【魔機工学】が前提で必要で、その上で実際の作成は【錬金術】でやるはずだったが』
「ただ【錬金術】の使い方がいまいちよくわからないんですよね。本は一通り読んだのですが、実際に作成するのはどうやるかが……錬金台や錬金釜と言ったものが必要らしいのですが」
「プレイヤーズブック」を呼び出してステータスのページを開いて、技能欄を指でなぞります。【錬金術】の技能についてはこんな感じになっています。
【錬金術】
≫〈アーツ〉 ≫〈スペル〉
登録されたレシピによりアイテムの作成が可能。
レベル上昇と共にアイテム作成の成功率は上昇する。
レベル上昇と共にアイテムの合成・分解・変成・変質が可能になる。
ここにある〈アーツ〉〈スペル〉とは?
「Dawn of a New Era」においては技能とは、主に関連する行動に対するプラス補正、ペナルティ軽減の効果を持ち、実際に技能を「使う」ということはありません。ゲーム的説明をするならパッシブスキルという扱いになります。
一方でプレイヤーが能動的に使用するものは何になるかと言うと、技能に付随して取得できる〈アーツ〉〈スペル〉〈ミラクル〉の3種類になります。ゲーム的に言うならばこれがアクティブスキルという扱いになります。
この3つ自体は中身の扱いは特に変わりません。
一応、システム的及び世界観的説明として。
〈アーツ〉:技術によって発動するもの。発動時にVPを消費する。
〈スペル〉:魔力を使う呪文によって発動するもの。発動時にMPを消費する。
〈ミラクル〉:神への祈りによって発動するもの。発動時にHPを消費する。
と、なっています。
コストとして消費するものが違う、と認識してもらえばOKです。
余談ですが【鑑定】技能については、厳密には〈鑑定〉という〈アーツ〉が存在し、それを使用して結果を得ます。発動時の消費がなく、技能と同名なので【鑑定】技能を使用しているみたいなものですが。
こういう技能は結構あるのですが、いちいち技能とアーツを区別するのも面倒なので技能を使うように表現することも多いようです。
そして【錬金術】の技能の表示のうち〈アーツ〉〈スペル〉の箇所は折り畳みで非表示になっています。「≫」の部分をタッチして中身を表示させると。
【錬金術】
≫スペル
≫【魔機工学】
〈レシピ:マギナーヴ〉
〈レシピ:マギボーン〉
〈レシピ:マギマッスル〉
〈合成〉
こんな感じになっています。
これは後で調べてわかったことですが、【錬金術】というのは非常に他の生産や知識技能とのシナジーが多く、他の技能ごとにレシピとそれにちなんだ〈スペル〉が取得できるそうです。なので、技能名ごとにさらに表示が区分けされています。
今は私は【魔機工学】に関するレシピだけ取得できている状態ですね。
本来ならさらにこの〈スペル〉を指定すれば発動するはずなのですが、表示される名称が灰色になっていて触れても何も起きません。
ただ、
『〈レシピ:マギナーヴ〉の発動には錬金台が必要です』
と表示されるだけです。
『そういや2階に確か錬金術用の工房って部屋があって、そこに何か色々と置いてあったはずだぞ』
「錬金術用の工房、ですか……」
生産に材料はともかく、アイテムが必要ならセーフゾーンの小屋で見かけなかったのはなぜだろう、と思っていましたが。
もしかして、必要なアイテムって結構大型で別の場所に置かないといけないようなものだったりしますか?
「その場合、なおのこと2階に行って錬金術用のアイテムがまだ使えるか調べないといけませんね」
『そうは言ってもどうやって2階に行くんだ? 階段はぶっ壊れちまってるのに』
「まあ、任せてください。案はいくつか既にありますので」
階段の潰れた2階へ上がる方法。
名付けて、
「上に昇る階段がないなら、飛べばいいじゃない」
です。
いや、そんな空を自由に飛ぶ必要はありませんけど。
自分の身体を浮かべて上昇させるだけの効果があればいいですので。
というわけで、安直かもしれませんが【魔法】に頼ることにします。
で、〈風〉を基準にした【魔法】を覚えることで、空を飛ぶ真似事くらいはできるのではないか、と考えたのですが。
技能を覚えるために読み始めた「基礎魔法大全」という本にしっかりと「〈風〉を応用して飛行を得るのは推奨されない」と書いてありました。
ええ……と思って深く読み込んでみましたが、その本いわく、〈風〉というのは大気の流れでしかなく、これを操って単独で飛行を行うには非常に精密な操作や補助となる道具が必要で大量の魔力(MP)を必要とする、とのことでした。
おそらく魔法的な何かでうまくやって空を飛ぶ、的なことは難しいのでしょう。航空力学をきちんと検証して、現実で飛行機やヘリコプターが空を飛ぶのと同じことを再現しないとダメなのでしょうね。
うーん、【魔法】も意外と奥が深い……というか、自由度がありそうでなさそうな感じですね。
もっとも、案はこれ1つだけではありません。
次の案は、名付けて、
「上に昇る階段がないなら、作ればいいじゃない」
です。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『それで、2週間も【魔法】の訓練してたのか』
ラズウルスさんに呆れられました。
2週間と言ってもゲーム内時間で、です。日数に換算したら14日。
あと最後の3日はどうすれば上手くやれるかの試行錯誤の時間でしたし。
「でも、何とかそれで形にはなりましたから」
『まあ、な。『加護を与えられた者たち』てのは、考えることが違うぜ』
褒めてるのかな?
こういうのは大概、皮肉なのですが、ラズウルスさんは本気で褒めていることが多いんですよね。
「じゃあ、行きますよ……発動、〈スペル:石〉+〈壁〉〈変形〉〈時間延長〉」
巨大、というより細長い、規則正しく穴が開いた石壁が、地面から生えてきたかと思うとそのまま2階の穴の位置まで伸びていきました。
「そうですね。名付けて〈ストーン・ラダー〉というのはどうでしょう?」
『まんまだな』
ネーミングセンスはどうせないですよ。悪かったですねっ!
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