第11話 それはできる、という解答でよろしいですね?
ラズウルスさんの顔(?)はフルフェイスのヘルメットです。
だから目とか鼻とか口とかはないので、当然、表情もないわけですが、その顔があきれているように見えたのは私だけではないはずです、きっと。
『あのなぁ、姫さん……俺の力を借りるって、俺は頭と胸しかないんだぞ? 自力で動けなくて、姫さんに運んでもらってるんだぞ?』
「ええ、でも、強いのは間違いないですよね?」
【鑑定】ではステータスが見えないくらい強いですし。まだ、詳しくは調べていませんが、小屋の横にある巨大な魚型っぽい生物の死体も、ラズウルスさんが倒した(本人曰く相討ち同然だそうですが)ものですし。
『昔はな。だが、今はこのありさまだ』
「その体、修理はできないんですか?」
『そりゃ直そうと思えば直せるかもしれないが……それこそ、何もかも足りないだろ? 技能としては【魔機工学】と【錬金術】で必要な部品を造るんだが』
ふっふっふ。
私も別に考えもなしに言い出したわけではないですよ?
「技能は私が覚えて頑張る、としてですね。素材は当てがあるんですよ」
『当てが?』
「ええ、これです」
私は足元を指さしました。
「ラズウルスさんは、戦闘用のマギドール、なんですよね?」
『そうだな』
「つまり、戦闘用という違いはあれど、広義ではマギドール、なんですよね?」
『……それは、そうなるな』
「だから、これ、使えると思うのですけど、どうでしょうか?」
私の足元にあるのは。
この場所を護るために戦い、そして倒れていったマギドールたち。
確かにぼろぼろではありますが。それでも今のラズウルスさんよりはましです。
少々、不謹慎ではあるのですが。これをつなぎ合わせることができれば、体を1人分くらい造れるのではないでしょうか。
なお、マギドールのみなさん。見た目は大変美しい、女性型です。
ラズウルスさんからの返答はありません。
何と答えていいのか、迷っている。
私はそう判断しました。
たっぷり体感30秒は沈黙を続けた後、ラズウルスさんは言いました。
『……純粋な戦闘用じゃねえからな。能力は落ちる……』
それはできる、という解答でよろしいですね?
◇◆◇◆◇◆◇◆
よし。言質は取ったし、いけますね、と思っていたのですが、それでもラズウルスさんは渋っているようです。
人間、あきらめが肝心ですよ? 人間じゃなかったですか。
『待て。待て待て待て。それ以外にも問題はある。俺に対応する技能がねえ』
「【召喚術】じゃダメなんですか?」
何から力を借りるか、という部分で技能の種類を考えるならば、です。
神様でもなく精霊でもなく死んでもいない、そして一応、種族としての大区分はモンスター側になるはずのラズウルスさんの力を借りるならば【召喚術】だと考えましたが違うのでしょうか。
『……ちょっと理由は言えねーが。俺とは【召喚術】での契約は結べねえんだ』
「あ、そうなんですね」
ん、なぜでしょうか?
ただ、特に深く突っ込むことでもないでしょうし、する気もないですけど。
「あ。でも別に技能なくてもいいんじゃないでしょうか?」
『……あ?』
「だって。ラズウルスさん、別に技能に縛られなくても、私のことを手助けしてくれますよね?」
あれ? ラズウルスさんがまた黙ってしまいました。
『姫さん』
「はい」
『そういうことは軽々しく他人に言うなよ?』
「何をです?」
ラズウルスさんが何を言いたいのかよくわからないので首をかしげていたのですが。表情がないはずのラズウルスさんが、なぜかすごく疲れたような顔をしているように見えます。
どうしたんでしょうね?
『そういうとこだぞ、姫さん……んで、だ。実は技能ならもう1つ、ある』
「何がそういうとこなのかはわかりませんが……その技能というのは、ラズウルスさんが言っていた、『他の存在から力を借りる』戦闘技能ですか?」
『あー……ま、いいか。そいつは【古式人形術】という。大雑把に言やあ、『マギドールを戦わせる』ための技能だ』
ん、あれ?
「それ、ラズウルスさんに力を借りるのにぴったりの技能じゃないですか? 何で黙ってたんです?」
『厳密には『他の存在から力を借りる』技能じゃないからな。なので、姫さんの【創神の祝福】の恩恵もねえ』
んん? どういうことでしょう?
マギドールという存在に代わりに戦ってもらう、と考えるならば。
【召喚術】や【調教術】などに近い技能のように感じるのですが。
『これはマギドールの最重要部位、脳であり心臓であると言える『
◇◆◇◆◇◆◇◆
そもそも【人形術】とは何ぞや?
……と、いうのは、後からログアウトした時に情報収集して初めて知った事実もあります。なので「Dawn of a New Era」の世界において、【人形術】とはどういうものなのか、という説明と思って聞いてください。
まず、【人形術】には【古式人形術】と【人形術】の2種類があります。
この2つは似ているようでまったく別の技能になります。そこで区別するために片方の名称には古式、をつけて呼ばれています。
で、【人形術】というのは「人形を糸で操って武器として戦う戦闘技能」という位置づけになります。カテゴリーとしては武器技能の一種です。かなりトリッキーな技能らしく、取得者は少ないようですが。
一方で【古式人形術】は
【古式人形術】はAIを積んだ自動操縦のロボットに戦わせる技能、と言うとイメージしやすいかもしれません。そのAIにあらかじめどんな兵器を使うのか、どういう行動を取るのか、というのをプログラミングする技能が【古式人形術】の主な使い方ということになります。なので、ラズウルスさんが言った通り、【古式人形術】はカテゴリーとしては生産技能の一種となっています。
この違いは、【人形術】と【古式人形術】をメインに成長した場合に得られる職業に現れます。【人形術】は「
そもそもの話として。
なぜ私とラズウルスさんの認識が食い違っていたかと言うと。
マギドールって、本来は返事をして命令通りの行動を取るくらいの知能しかないそうなんですよね。人間と変わらないくらいに自立して、会話して、行動できるマギドールというのは最上級の存在なのだそうです。
私、マギドールって直接会ったのはラズウルスさんだけですし、ラズウルスさんから聞く話だと、過去にここにいたマギドールの人たちも普通に人間と同じように生活してたそうですから、マギドールってそれが普通だと思い込んでいましたよ……!
まさかそれがすごい特殊なことだなんて、思わないじゃないですか……!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし」
セーフゾーンの小屋に置いてある書籍の中には【魔機工学】【錬金術】それに【古式人形術】に関する本も存在していました。「Dawn of a New Era」に存在する技能は大量で、まだその全容も明らかになっていない、とのことでしたが、私が知らなかっただけで、ちゃんと【古式人形術】も選べる選択肢の中には入っていたようです。
かなりページ数が多く、しかも、上中下に分かれてるようなありさまでしたけれど、何とか集中して読み切ってしまいました。
ラズウルスさんからは「『加護を与えられた者たち』というのは何日も眠り続けたかと思うと、今度は何日も一睡もせずに本を読み続けてやがる。どういうことだ」と呆れられましたが。
すみません、こういうのは「廃人プレイ」と言うらしいです。
その結果として、【魔機工学】【錬金術】【古式人形術】とも5LVになりました。
名前:ハク
種族:マギドール+ 性別:♀ 年齢:0
種族LV:25 職業:
能力値:
筋力(STR):C-/C
生命(VIT):C-/C
敏捷(AGI):C-/C
器用(DEX):C-/C
知性(INT):C-/C
精神(MND):C-/C
HP:100% MP:100% VP:100%
空腹度:21% 渇水度:44%
技能:
01:【闇視】L
02:【創神の祝福】L
03:【ド根性】LV1
04:【鑑定】LV4
05:【危険感知】LV1
06:【気配感知】LV1
07:【ランニング】LV3
08:【古式人形術】LV5
09:【跳躍】LV1
10:【柔軟】LV2
11:【魔機工学】LV5
12:【錬金術】LV5
控え技能:
【片手剣術】LV1【読書】LV4【剛力】LV1【俊敏】LV2
色々技能が増えた結果、現在のステータスはこんな感じです。
メインとして効果を発揮させられる技能の数は初期で10、種族レベル10LVごとに+1なので現在は12個になります。
控えの技能については、だいたいメインに置いた場合の5分の1の効果と成長速度になります。控え技能の数に制限はありません。
新しく覚えた技能としては。
【ランニング】は走ること全般に対するプラス補正、【跳躍】は水平・垂直のジャンプ、あとゲームではよくあるステップを踏む動きへのプラス補正になります。
【柔軟】はストレッチをさせられていたら覚えました。体が柔らかくなる技能です。地味にダメージ軽減、状態異常:負傷に対する微小な耐性がつきます。
【剛力】【俊敏】はそれぞれ能力値の筋力・敏捷へのプラス補正をつける技能です。枠が少ないうちはとりあえず控えにしておけ、と言われました。
【読書】は本を読むときの速度と内容理解(本を読んで得られる技能への経験値)へのプラス補正になります。これは本を読むときだけ事前にメインに入れ替えたらいいですね。
というわけで。現状確認と準備は整いました。
次の目標は「目指せ、ラズウルスさん復活」ですね。
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