第10話 すみません。私が今、ひねり出しました。
結局、「白紙の技能スクロール」で【危険感知】と【気配感知】も取得しました。
いえ、ラズウルスさんが、『有用だけど取得がめんどくさいんで、白紙の技能スクロールで覚える方が早い』と言っていたので……。
これで、残り3枚。後は温存して必要に応じて、と言うことにしたいと思います。
で、ここからが本番です。
強くなるための第一歩。
戦闘用の技能を取得して戦闘スタイルを確立するため、まずはラズウルスさんの専門の物理近接、つまり、武器を使って敵に近づいて戦う方法について学んでいます。
最初は走ったり、跳んだりと一通り体を動かしました。【ランニング】とか【跳躍】とか技能を覚えるくらい……。その後は、とりあえず手元にある武器が例の魔力で刃を作る剣だけなので、ずっと剣の素振りを繰り返しています。
あ、この剣についても【鑑定】で確認してみました。
《エーテルブレード》
種別:剣/長剣/片手剣 レア度:SR 品質:D+
攻撃力:?? 貫通力:?? 防御補正:??
重量:15 耐久度:88%
特性:????
【鑑定】のレベルが低いので表示される項目が最低限ですね。
とりあえず見えてる部分でこの武器を評価すると、名前はエーテルブレード、剣のカテゴリーに属していて、それなりに珍しい(レア度が高い)武器という感じになります。レア度が高いのはおそらく古代文明時代に造られた武器だからでしょう。
あと魔力を込めると刃ができる、という部分は特性に当たると思いますが表示はされていません。何かしら具体的な効果はあるはずなんですけどね。
『……ダメだなぁ』
言われた通りの素振りを何とかやり切って、ぐったりしている私に対してのラズウルスさんの第一声がそれでした。
「ダメですか……」
『ああ。残念だけどなぁ……素質ねーな、姫さん』
ぐさっ。
は、はっきり言ってくれますね。
いや、自分でもそんな気はしてましたけれど。
何せ
いくらゲーム、と言えど人並み以上に動けるとは思いません。
『いや、動きは変な癖がなくて素直なんだがな。姫さん、素振りする時でもいちいち俺の教えたフォームを頭の中で確認して、『えいっ』て感じでやってるだろ?』
「ええ、まあ……正しいフォームでやるのが正しいのではないですか?」
『そりゃそうなんだが、それを『無意識に』できるようにならなきゃ、実戦じゃ使えねーんだよ。だからこそ、繰り返して、頭じゃなくて、体で覚えんだよ』
ふむ。そういうものなのでしょうか。
体育会系の理論・理屈というのはいまいち実感しかねる所があります。
『で、姫さんはその『体で覚える』てのがまったくできてねえ。というか、できそうな気配がねえ。いや、やろうとしてねえ』
「はぁ……」
『うん。俺の言ってることがピンときてねーだろ。つまり、それがまさしく『素質がない』てことなんだよ』
ラズウルスさんに物凄い酷いことを言われている気がします。
が、まさしくラズウルスさんの言ってることは正しい、んですよね。
何せ、私、今まさしく、ラズウルスさんの言いたいことがさっぱり理解できてないですし。
「それだと、【魔術】……いや、【魔法】、でしたっけ? そちらの方が見込みがありそうですか?」
『そうだなぁ……ま、確かに武術やるよりは姫さんには見込みはあるだろうが……』
「Dawn of a New Era」では【魔術】と【魔法】は別物となっています。
【魔術】は「
一方、【魔法】は核となる〈火〉〈水〉〈風〉〈土〉といった「主魔法」と、それらの効果を制御する〈射撃〉〈拡散〉〈付与〉と言ったような「副魔法」を組み合わせて効果を発生させます。自由度は高いですが、全て自分のMPを消費して行うため燃費が悪く、組み合わせ次第では非効率的になるデメリットがあります。
ここで覚えるなら【魔法】の方かな、と私は考えています。
【魔術】ですと今の行動範囲が限られている状況ですと、呪文が覚えられなくて戦力にならない可能性が高いのですよね。
ただ。
「なーにか、ラズウルスさん、隠してません?」
『何をだ?』
「いえ、ラズウルスさんって言葉使いは割と汚いですけど、はっきりと明快に話をする人だと思っているんですよ。でも、戦闘スタイルのことに関してだと、何か言葉を濁しているような感じがして」
返答はありません。
静かな、何だか微妙に気まずい沈黙が、流れます。
『……いや、姫さんは変なとこで鋭いよな』
「馬鹿にしてます?」
『してねーよ。むしろ褒めてる。ま……確かにそうだな。ぶっちゃけてしまうと、だ。姫さんが得意な戦闘スタイル、てのは実は最初からわかってる』
そう言われて私は首をひねります。
自分の得意な戦闘スタイル、と言われても心当たりがありません。
そもそも私の得意なスタイルというのはハクとしての能力の他にも、私の
『具体的に言うなら、【召喚術】【調教術】【精霊術】【死霊術】【神聖術】……ようするに、『他の存在から力を借りる』スタイル、だな』
◇◆◇◆◇◆◇◆
「Dawn of a New Era」には【魔術】【魔法】に続く「第3の魔術」と呼ばれるカテゴリーの技能があります。あ、プレイヤーが呼んでいるのではなくて、ゲーム世界内の学術的な区分け、ですね。
それがまさに今、ラズウルスさんが言った「私の得意な戦闘スタイル」、他者に力を借りる魔術・魔法、となります。
つまり。
契約したモンスターを呼び出し代わりに戦わせる【召喚術】。
訓練を施した動物、獣系モンスターを代わりに戦わせる【調教術】。
精霊という純粋な力に近い存在に力を借りる【精霊術】。
死者の魂、不死系のモンスターより力を借りる【死霊術】。
祈りを捧げて神々から力を借りる【神聖術】。
こんな感じです。その他にもマイナーですが色々と技能が存在しますね。
言われれば確かに、体を動かすのは壊滅的、【魔術】【魔法】はまあできるだろう、くらいならむしろ他人に戦ってもらう方が有効かもしれません。
「……悪くないと思いますけど。結局、私個人では一人前には何もできない、てことでしょうか」
『何言ってんだ? 別にそういう話じゃねーよ。姫さんは持ってるだろ、【創神の祝福】を』
「あ、ありますね」
そう言えばそんな技能がありましたね。効果不明の。
『この世界に属する者は全て創神によって生み出された、と言って過言じゃねえ。だからこそ、みな、魂に創神への感謝と敬意が刻み込まれている。だから、その創神に直々に造られ、【創神の祝福】を持つ姫さんに対しては、みな自然と好意がわくようになっているんだ。だから、他者から、より力を借りやすいんだよ』
なるほど。
ゲーム的に解釈するなら、おそらく【創神の祝福】はNPCに対する好感度が高くなりやすいのでしょう。そして、その好感度が「他者から力を借りる技能」の効果を押し上げてくれる、と。
「理解できました。それなら覚えるのはそれでいいんじゃないですか? なぜあんな剣を振ってたりしてたんでしょう?」
『いや、覚えられねーんだよ』
苦々しい感じで、ラズウルスさんが言い捨てました。
何か不機嫌そうです。
「どうしてです?」
『覚えるにはな、具体的に力を借りる相手と向き合い、交流しなきゃならねえ。そのためには色んなものが必要になる……そいつがここには、ねえんだ』
「ないんですか?」
私にとっては、それは特に何と言うことはない疑問でした。
おそらくここは最初のスタート地点で、ある程度、自分の今後やりたいことを決められるよう、基本的な技能は覚えられるようになっている、という認識でした。
だから、そんな特殊でもない技能が覚えられないことはないだろう、と単にそう思っていたのです。
ですが。
『……ねえんだよっ!! 俺が、吹っ飛ばしちまったからなっ!!!』
まさしく逆鱗に触れたような、そんな本気で怒った、ラズウルスさんの怒声。
そして、わかりました。
ラズウルスさんがこの話題で、何故、歯切れが悪かったかを。
『神に祈る神殿も、契約モンスターを呼び出すための魔法陣も、俺が吹っ飛ばした! 飼っていた獣もだ! 精霊ももうここにはいねえ! 覚えたくても、覚えさせたくても、必要なものが、ねえんだよっ!』
怒っている。
いや、ただ、これは。私に対して怒っているというよりは。
自分が悪い、自分の責任だと思っていることに対して、そうは思っていても、他人からは触れられ欲しくない、責められたくないから怒鳴り返している、そんな感じでしょうか。
私は大きく、息を吐きました。
どんな状況であれ、怒っている人の前に立つのは、体力を使いますから。
「やめましょう」
『……あ?』
「ことわざでは『失敗に反省は必要だ、しかし後悔は不必要だ』とも言います」
『そんなことわざ、あったか?』
すみません。私が今、ひねり出しました。
「だって、それは必要だったんですよね? そうやってたくさんの用意されていた施設を破壊してしまったのかもしれませんけど。それと引き換えに、あの小屋、セーフゾーンだけは守れた。ですよね?」
『……』
「そうしなかったら、この場所の何もかもが、滅んでしまっていた。そうなっていたら、私はきっと、目覚めてもすぐに死んでました」
ゆっくりと、一言一言、力を籠めるように、話します。
喧嘩したいわけではないですけど。
今は、私は、ラズウルスさんの言葉を、考えを否定しなければならないですから。
「そのおかげで、私は生きて今、ここにいます。それはラズウルスさんのおかげです。だから『吹っ飛ばしてしまった』なんて言わないでください。私は、ラズウルスさんに、ありがとう、て思ってるんですから」
『あ、ああ……』
それに。
話をしていて、1つ。とってもいいアイデアをひらめきました。
「あと、技能を覚えるチャンスはあると思いますよ?」
『……いや、必要なものがない、て言っただろ? 聞いてたか? 姫さん』
「もちろんです。力を借りる相手と向き合い、交流したらいいんですよね?」
にっこり、と微笑みかけながら。
たぶん、他の人がここにいて私を見ていたら、凄いドヤ顔していたと思います。
「それができる相手、いるじゃないですか。ラズウルスさん本人が」
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