02.スタートエリア「創神の隠れ家」

第9話 【鑑定】? いや、無茶言うなよ。

 「Dawn of a New Era」のキャラクター「ハク」として、強くなることを決意した私。いや、ゲームの目的としてキャラクターを育成・成長させるというのはすごく普通のことですから、そんなに胸を張って大きな声で言うことでもないですが。


 とはいえ、私がこのゲームを始めた意味と目的から考えても、現時点で強くなる、ということはとても大事なことなので、時間の許す限り頑張っていきましょう。


 まずは、現時点の私のデータを確認です。



 名前:ハク

 種族:マギドール+ 性別:♀ 年齢:0

 種族LV:25 職業:なし

 能力値:

 筋力(STR):C-/C

 生命(VIT):C-/C

 敏捷(AGI):C-/C

 器用(DEX):C-/C

 知性(INT):C-/C

 精神(MND):C-/C

 HP:100% MP:100% VP:100% 

 空腹度:2% 渇水度:5%

 技能:

 01:【闇視】L

 02:【創神の祝福】L

 03:【ド根性】LV1



 ……ん? んんん?


 ついこの前、ゲームを始めてレベル1だったはずなのですが、何故かすごいレベルアップして……あ、全然、何故でも何でもないですね。確かあのピラニアモドキが70レベルらしいですから、一応、4匹倒したことになっているわけで、レベルも上がって当然ですね。


 あと「Dawn of a New Era」では行動や条件に応じて技能を新たに取得できるシステムです。ここまでで技能が1つ増えていました。


 【ド根性】LV1

 [状態異常:負傷]の効果を軽減する。LVが高いほど軽減の効果は高い。


 なるほど。

 死にかけながら動き回っていたから取得できたみたいですね。


 あと、2ページ目以降のキャラクターの経歴も埋まっていました。

 なぜか親の欄には「創神ジーンロイ」と書いてありました。いいのでしょうか、それで。一応、神様に造られた人形、という設定は公式で許されているようです。


『よう、姫さん。俺にも見せてみなよ』


 プレイヤーズブックを開いて自分のステータスを見ていたら、ラズウルスさんから声をかけてきました。


「見れるんですか?」


 これって住人NPCの人も見えるんでしょうか?

 わかりませんが、とりあえず開いたまま見えるようにしてみます。


『ぶっ、こんなことになってんのか。なるほど、何も知らねえわけだ』

「……これって、変なんですか?」


 あ、見えてるんですね。

 私のプレイヤーズブックを見て我慢できずに、という感じで吹き出したので、ちょっとイラっとしましたが。


『生まれたばかりの赤ん坊、てならまあ、な。技能がない、てのは人生経験がない、てことだからな』

「ああ。それはまあ、そうかもしれませんけど」

『ただ、これだとちょいとばかし先は長いかもな』


 相変わらず表情は見えませんが、渋い声色な感じ、私のステータスを見て何か良くない、と考えているようなのは、わかります。


「……あんまり不安になるようなこと、言わないでください」

『いや。強さってのは、な。種族レベルってのはあんまり関係ないんだよ。必要ないとは言わんけどな。それよりも大事なのは技能。つまり、『何がどこまでできるか』だ』


 ふむ。言いたいことは何となくわかります。レベルが上がって能力値が上がりましたから、早く走ったりとか、攻撃により耐えられるようになったりとか、そういう部分の性能は向上したのでしょうが。じゃあ、戦闘ができるか、と言われるとその方法についてはまださっぱりなわけです。


「じゃあ、何の技能を覚えていくか……なわけですけど、ちょっと1つ、相談してもいいでしょうか?」

『何だ、取りたい技能でもあんのか?』

「その通りです。ええっと……【鑑定】技能なんですけど」


【鑑定】技能。

 必須技能とまで言われて、まず最初に取るべき、と掲示板を見た時におすすめされていた技能です。

 具体的な効果とは、視界に入った任意の対象の情報をレベルに応じて表示する、というものになります。

 これがないと、出会ったモンスターについても名前すらわからない、というのがリアリティあふれる「Dawn of a New Era」というゲームなのです。


『【鑑定】? いや、無茶言うなよ。あれ、めちゃくちゃ面倒だぞ』

「らしいですね」


 一応、その辺は情報を集めて知ってたりします。

「Dawn of a New Era」は本来、技能は技能ごとに設定された取得条件を満たせば取得できるはずなのですが、【鑑定】についてはまだその条件が見つかっていないそうですから。


『その辺は知ってるんだな。【鑑定】っつのはようするのに『ぱっと見ただけで、それが何かわかる』ようになる技能だからな。んな技能が簡単に使えるようになるわけがねえ』


 いや、ごもっともです。

 現実リアルで考えるなら、目でとらえた映像から瞬時に正しい検索結果を表示して、その概要情報をまとめて出す、て感じですからね。その再現難易度が高いのはその通りだと思います。


『ま、ありゃ、最後に知識神に加護を祈らないと取得できねえから、神殿がないここじゃどのみち普通の方法で覚えるのは無理だ』

「そうなんですね」


 もちろん、その辺も事前情報確認済です。

 覚えられない技能を覚えるための、それが各プレイヤーには必ず用意されているはずなので……あ。でも、私の開始時の状況はめちゃくちゃ特殊でしたからね。もしかしたら例外でないかも……?


『あー、確かこの部屋のどっかにしまってたな。どんな技能でも覚えられるアイテム、『白紙の技能スクロール』が』



   ◇◆◇◆◇◆◇◆



 そう言えば、セーフゾーンになっているこの部屋についてはまだ詳しく調べていませんでしたが。

 ついでにざっと見て回りましょう。


 まず、全体の感じとしてはワンルームマンションの一室、という感じです。


 入口の正面には壁沿いに机と椅子があり、椅子は現在ラズウルスさんが占拠しています。

 そこから部屋の右手には書棚と扉があります。

 書棚は色々な本が乱雑に並べてあります。とりあえず見えるタイトルとしては「基礎魔術大全」「基礎魔法大全」がありました。あとは錬金術や、その他の魔術魔法系の知識の本のようなので、読めば技能を覚えられるもののようです。


 扉の先はさらに小部屋になっていて、何か水の出る蛇口みたいなものと、水をたくさん入れられる大きな容器がドン、と置いてあります。お風呂かな?と思いましたが、水しかでないんですよね……。

 ただ、この水は飲めるみたいなので、渇水度の心配はなさそうです。


 部屋の左手は簡素なベッドとよくわからない大きな箱が置いてあります。

 ベッドは普通のベッドで、ログアウトする時はここで寝ます。

 大きな箱はボタンが1つついており、正面に穴が開いています。試しにボタンを押すと、何か紙に包まれた茶色いものが穴から出てきました。

 どうやら食べ物らしく、食べるとほんのり甘く、空腹度が回復しました。

 特にグルメでもないですし、空腹度が溜まって餓死するようなことがないならよしとしましょう。


 で、結局の目的の品は机の引き出しに入っていました。


 縦長のケースが全部で6つ。

 それぞれに白い、何も書かれていない紙が入っています。


 これがアイテム「白紙の技能スクロール」。


 使用することで好きな技能を覚えることができる、便利かつ重要なレアアイテムです。


 「Dawn of a New Era」でのキャラクター作成はこの世界でゲームを始める前に生きてきた経歴から作成してますので、「この技能が欲しいからキャラクター作成時に選ぶ」というのがやりにくくなっています。

 なので、ゲームを開始してから取得技能の調整ができるように、この「白紙の技能スクロール」はどのプレイヤーキャラクターにも数の差はありますが渡されるようになっています。


 ただ、当然覚えられない技能もあります。あと、これを使って覚える技能は覚える手段がまだ判明していない技能か、覚える手段が大変なものが推奨されていますね。


「6つありましたね」

『お、結構多いな。じゃあ【鑑定】と……【危険感知】と【気配感知】くらいも覚えてしまうか』

「とりあえず、【鑑定】は覚えてしまいますね」


 6つのうち1つから白い紙を取り出し、自分に当てるような感じで使用します。


 プレイヤーズブックでステータスを確認すると無事【鑑定】LV1が技能欄に増えていました。


 ん、試しに使用してみましょうか。



 《ラズウルス》

 種族:???? 種族レベル:??

 属性:???? 特殊能力:????

 所持技能:????



 何気なく目に入ったラズウルスさんに使ってみましたが、うわ。

 名前以外ほとんど何も見えません。この状況は相手のレベルが高すぎて【鑑定】技能の効果が阻害されている状態のはずです。


『おい、【鑑定】は無闇に人に向けるなよ。あと、気づかれないと思ってるかもしれないが、自分に【鑑定】使われたのは高レベルの相手はほとんど察知するからな』

「あ……すみません」


 怒られました。

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