第7話 何で私が「姫」なんです?
『俺が誰か説明する前に、悪いが俺の身体を掘り出しちゃくれねーか? 一応、姫さんのことは見えているんだけど、話をするにはちと都合が悪くてな』
そう言われたので、あっちこっち迷走しつつ指示をもらいながら瓦礫とマギドールの死体を掘り返していると。出てきました。
西洋ファンタジーでいうところの
胸から下と両腕は何か引きちぎられたかのようになくなっています。
ただ、胴体のちぎれた部分から中が見えるのですが、あきらかに生物ではなくて、何か金属でできた骨組みとよくわからない部品のようなものがあるのがわかります。
『わりーな。生き残りはしたんだが、手足も吹っ飛んで動けなくなっちまっててな。ずっと半分埋まったままで不便だったぜ』
先ほどまで声だけの指示で助けてくれた人、どうやら人間ではなかったみたいですね。声はすれど姿は、とはこういうことでしたか。
あ、それですと。
「もしかして、これはあなたの?」
瓦礫の中から拾った、ちぎれた腕が握っていたライト〇ーバー。
『ああ、そうだが、どうせ使えねーからな。姫さんが持っててくれ』
いや、私が持ってても使えないんですけどね。
それで、掘り出した後は、とりあえずセーフゾーンの部屋の椅子の上に置いておきました。流石に私が持ったまま、というわけもいきませんし。あと、意外と重いので。胸から上だけと言っても金属鎧を着こんでいますし。
『おし。じゃあ、自己紹介をしようか。俺の名はラズウルス。マギソルジャー・チャンピオンで、ここ『創神の隠れ家』の警備隊長兼あんたの戦闘系技能の教官予定だった……今はこのざまだがな』
えっ、戦闘系技能の教官、て……チュートリアル担当、てことです?
◇◆◇◆◇◆◇◆
どうやら
とは言っても、「Dawn of a New Era」の公式ホームページにのっている説明をだいぶ省略したものになりますが。
まず、この世界を創った5人(神様だから5柱?)の神様がいました。この神様たちのことを「五祖神」と言います。「五祖神」は世界を創っただけでだいたい満足して後はこの世界に生きる人間たちに世界のことは任せたそうです。で、自分たちは何をしていたかというと、好きに生きていたそうですが。
そうして人間たちが世界の主として高度な文明を築いたのですが、その後、災厄が起きて世界がピンチになりました。その時に、「五祖神」のうちの1人がこれではいけない、と新しい1人の神様とその部下の12人の神様を呼んできて、この世界を管理し、人間たちを助けるよう命じたそうです。それが今の世界を管理している新しい神々たちで、新しい1人の神様が「主神」、部下の12人の神様が「十二霊女神」と呼ばれています。
私が死んだ時に出会ったのも、この「十二霊女神」のうちの1人になりますね。
ちなみにこの主神と女神たちが「Dawn of a New Era」における
で、この場所に関わってくるのが、私の技能欄にも【創神の祝福】として名前がある創神ジーンロイです。
この創神ジーンロイと言う神様ですが、「五祖神」のうちの1人で、この世界のあらゆる生物を最初に創った神様、とされています。つまり、色んな種族、動物・植物まで含めて、先祖をたどっていくと、このジーンロイという神様が作ったとされる生物にたどり着く、そうです。だから「創」造「神」と呼ばれているそうですね。
で、この創神ジーンロイですが、最初に生物を創り出した後は、世界に降り立って1人で静かに暮らしていたそうです。そのうち、世界に文明を築き発展していた人類とも交流し、いろいろ技術提供をしてもらったりしていたようです。
そうした創神ジーンロイと交流する人、したい人が集まって街が造られました。ただ、創神ジーンロイの意向でその街は普通には行けない場所に造られたそうですが。
その街の中のさらに地下に造られた、創神ジーンロイ本人が住む場所が、この「創神の隠れ家」というわけだそうです。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……なるほど。でも、それって、まがりなりにも神様本人がいた場所なら、もうそれは聖地とかいうレベルなのではないですか?」
『五祖神の方々は確かにこの世界を創り上げたすごい方々だが、そんな堅苦しい存在じゃなかったのさ』
へー、そうなんですね。
でも、よく考えると、このラズウルスさん、少なくとも滅びた古代の文明の時代から生きている人ですよね。いや、人かどうかはちょっと怪しいですけど。
彼の言う「マギソルジャー・チャンピオン」というのは戦闘用のマギドールのことで、かつチャンピオンは最上位になるとか。結構強そうですね。
「でも、そんな場所が、なぜ、こんなに荒れているんですか? あの外の魚モドキたちはいったい?」
『あー、あれは『エーテルシー』の侵蝕だ。かつての古代文明を滅ぼした『災厄』の1つだな』
ん? 何かさらっとこの世界の歴史の重要部分が語られた気がしますが。
『ただ、この場所も外の街も、ジーンロイ様の加護で守られていた。だから災厄からは免れていて平和だったんだがな』
「何かすごい重要なことを聞いた気がしますが置いておいて。なら、どうして今、こんな状況になっているんですか?」
『ある日、突然、ジーンロイ様がいなくなっちまったのさ。そして加護も失われた……ちょうど災厄が起こって世界中が慌ただしかったころだ』
おおう。なるほどです。
しかし、まがりなりにも創生の神様がある日突然いなくなる、なんてことがあるのでしょうか?
「どうしていなくなったんですか?」
『あー……いや、原因はわからねえな。で、ここも『エーテルシー』の侵蝕を受けて、あのクソ魚どもに襲われた。ここにいた俺を含めたマギドールたちで応戦したんだが、多勢に無勢、しかも、あいつらあんなでも強いからな』
強い、てどれくらいですか、と聞いたところ、あの私に噛みついてきてたピラニアモドキが1番弱くて70レベルだそうです。
いやいやいや。
確か、現在、このゲームの種族レベルの上限が50だ、て言われてましたけど?
その状況で1番の雑魚で70レベルですか。流石、古代文明滅ぼした災厄?
『で、俺が一番の大物をほぼ相討ちで仕留めてこのざま、まあ、このエリアだけはあいつらが入れないように封鎖したんだがな。で、マギドールたちも全滅……ま、それでも何とかこの小屋だけは守り通した、てとこだな』
「この小屋、ですか?」
今いる、セーフゾーンになっている小屋ですね。
一応、最低限の人間らしい居住環境が整えられていますし、ここのおかげで私は助かったので……いや、死にはしましたけど。
「なんで、あの小屋を?」
『そりゃおめえ、姫さんが目覚めた時に使う予定だったからな。あそこだけは絶対護らないと、てのが俺たちの共通認識だった。ま、命をかけてやり通したんだ、よくやった、て思ってやってくれよ』
え? それってどういう?
「あの」
『何だ?』
「何回も聞いてますけど。その『姫さん』て私のことですよね?」
『そりゃそうだ』
「何で私が『姫』なんです?」
ラズウルスさん、顔というか頭部がフルフェイスヘルメットなので、当然のごとく表情とかはないわけですけど、今までは飄々と喋っていたのに、急に驚いたように私の方を見てきました。
こう、微妙に角度と頭飾りで、どの方向を向いているのか何とかわかるので。
『覚えてねえのか? いや、知らねえのか?』
「……何をです?」
『いや……ま、いいか』
ラズウルスさんの声色にあきれたような感じがしましたが。
繰り返しますけど表情がないので、いまいち判断はつきにくいのですよね。
『姫さん、あんたはな。創神ジーンロイ様が『人が人形を造る技術を用いて神の力を振るい、新たな命を生み出す』と創生した『
……はい?
『そして、この『創神の隠れ家』とあの小屋は。ジーンロイ様が姫さんと一緒に過ごすために用意していた場所なんだよ』
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