第2話 いや、私、こんなに幼くはないですよ。
自分が座っていたのが、今日運び込まれてきた例のいわくつきのVRゲーミングチェアみたいだということに気づいて、私はあわててかぶせられているヘルメットらしきものを外して起き上がりました。
すると。目の前に半透明の緑色のウィンドウが開き、メッセージが表示され、合成音声らしき声で読み上げられました。
『『Dawn of a New Era』の世界へようこそ!
アバターの動きを確認するためのシステムテストを開始します。
用意が整ったら[START]ボタンをタッチしてください』
ん……んん?
ちょっと深呼吸します。
気持ちを落ち着けて、目の前のメッセージを3回読んでみました。
これ、私はすでにゲーム内世界に降り立っている?
つまり。
既にキャラクターが作成してあった……?
◇◆◇◆◇◆◇◆
システムテストとは?
私もよくは知らなかったのですが、
あまりに実際の感覚とアバターの動きがずれていると、現実の身体の不調につながりますので、当然あるべきものなのでしょう。
結局のところ。
私は初めてゲームにログインしてキャラクター作成から始めるつもりでしたが、実際はこのアカウントでは既にキャラクター作成が終了していて、ログインと同時にゲーム内に降り立ってしまった、ということでした。
というわけで、状況が正しく把握できたので、指示に従ってシステムテストを実行していきます。
最初は手でグーとパーを繰り返すところから始まり、歩いたり跳んだりなどの動作を繰り返し、最後にはラジオ体操でシステムテストは終了しました。
後日、調べましたけど、このシステムテストの動作は一定の基準を満たしておけば、各媒体によって自由だそうです。
……なぜにラジオ体操?
まあ、それは置いておいて。
私は現在の状況について思考を巡らせていました。
命題は「なぜ、私がログインする前に既にキャラクターが作られていたか」です。
現在。
ゲームに限らず
フルダイブという繊細な技術を人体に適用させるには、個々の小さな差異というものが結構重要であり、他人の設定でログインすることは生命の危険にもつながる、というのが定説です。
もちろん他人のアカウントでログインしたら即、死にます、というようなものではないですし、抜け道もあるそうなのですが。
つまりどういうことかと言うと、どんなVRゲームでもアカウントの「個人への紐づけ」というのは完璧なのです。ましてや「Dawn of a New Era」を配信・運営しているのは世界的に有名なコンピューター会社のゲーム部門です。その辺のコンプライアンスは完璧でしょう。
なので。他人が勝手に私のアカウントでゲームにログインし、キャラクター作成だけ行う、というのは事実上不可能と考えていいでしょう。
……と、いうか。
誰が作成したか、についてはおおよそ予想はできます。
それはまず間違いなく、私の養父である
そもそも、私の知らない間に私の個人情報を正確に登録した、私名義のアカウントが作成されていること自体が異常ではあるのですが。
しかし、「なぜ」「どうやって」やったかについては、まったくわからないままです。運営か開発の一員として強権発動でもしない限り、無理そうなのですが。
いや、もしかしたら。
あの人が運営や開発と関係がある、可能性がある……?
◇◆◇◆◇◆◇◆
そこで一度思考を中断して、あらためて私はキャラクターのステータスと容姿を確認することにしました。
自分が何者であるのか、わからないのは不安になりますし、何より、このキャラクターが私のためにあの人が用意したものであるというのなら、このキャラクターのデータが、あの人の目的を知る一端になる可能性が高いはずです。
「プレイヤーズブック、オープン」
所定の発動コマンドを口にすると、手の中に1冊の手帳サイズの本が現れました。
これがこのゲームにおけるシステムメニューをまとめたユーザーインターフェースで「プレイヤーズブック」と言います。
使用コマンドごとにインデックスラベルに見立てたタグがついていて、実際にページをめくって使用するようになっています。何だかアナログな感じのUIですが、なかなか面白いですね。
では、ステータスを見てみましょう。
名前:ハク
種族:マギドール+ 性別:♀ 年齢:0
種族LV:1 職業:なし
能力値:
筋力(STR):E/C
生命(VIT):E/C
敏捷(AGI):E/C
器用(DEX):E/C
知性(INT):E/C
精神(MND):E/C
HP:100% MP:100% VP:100%
空腹度:0% 渇水度:0%
技能:
01:【闇視】L
02:【創神の祝福】L
1ページ目の内容がこんな感じです。
ゲームキャラクターとしてのデータはだいたいここに集約されている感じですね。
では、1項目ずつ見ていきましょう。
名前……私の名前になります。こうネーミングセンスだけ見ても、ああ、あの人が作ったんだな、て感じです。ましろ=白=ハク、てことでしょうね。
種族……は、マギドール自体は確か、古代文明の遺跡とかに出てくる人造の人形でモンスターだったはずです。ただ、プレイヤーの種族として選択されることがある、という情報はありませんでした。公式掲示板にはレア種族報告スレッド、というのがあるのですが、そこにも上がっていませんでしたね。
似たような種族で錬金術で造られるホムンクルス、というのはありましたが。
職業……は、基本的には所持する技能で決まります。普通のRPGで言うところの職業とは違い、どちらかというと称号、社会的地位・身分という感じです。。今は職業条件を満たしていないようなので、なしです。
性別、年齢……は、まあいいですか。0歳、ということは生まれたて?
種族LV……これはいわゆるRPGにおけるレベルですね。ただしこのゲームではレベルが上がっても能力値とHP・MP・VPしか上がらないらしいです。
能力値……全6種類です。隠しステータスがあるのでは?とも言われているらしいですが、詳細はわかりません。
能力値としてはよくある種類だと思いますので、個々の表記は説明は省きます。
ただ、能力値の表示方式がちょっと特殊です。具体的な数字ではなくアルファベット表記になっています。「/」で分けられているのは前半部分が現在値、後半部分が成長率を示しています。
Gが最低値、Aを超えてSになりSSが最高値で、GとSS以外にはそれぞれ-と+がつくそうですから区分けとしては23段階、となりますね。
能力値の評価としては、各能力値は現在値は低め(LV1と考えると高いのかもしれませんが)だが高低はなく、成長率は一律平均、なので各能力値で得手不得手は特にない、という感じになります。
HP・MP・VP・空腹度・渇水度……こちらも具体的な数字ではなくパーセント表示になっています。HP・MP・VPは0%に近づくと危険、逆に空腹度と渇水度は100%に近づくと危険、となります。
ちょっとややこしい所もあるので使用する時にあらためて説明します。
技能……2つだけ。明らかに少ないです。ただ、技能の取得はキャラクター作成時に選んだ人生経験が影響するそうですから、0歳だとやむを得ないのかもしれません。後ろの「L」はロック、控えに移せないことを意味しています。技能自体は効果を十分に発揮させられる数が限定されていて、それ以外は「控え」として扱われるそうです。
そして、技能の詳しい効果内容は項目を指でなぞることで表示させられます。
【闇視】
明度-5までの[視覚ペナルティ]を無効化する。明度-10までの[視覚ペナルティ]を軽減する。
【創神の祝福】
創神ジーンロイの祝福を受けている証。
【闇視】はシステム的な説明でわかりづらいですが、要するに光がなくても物が見える、ということになります。現在、灯りもないのに周囲が見渡せていますが、この技能のおかげでしょう。
【創神の祝福】はまったく不明です。神様の祝福、というものなら何か重要で良いことがありそうな気もしますが、具体的な説明は何もありません。
で、次のページはキャラクター作成時に決定するゲーム開始までの経歴、となるのですが、ここはほとんど白紙です。何せ、本来あるはずの両親の欄ですら空白です。
私に親はいないんですか。
キャラクター作成時に決めたはずの経歴も一行、「暗黒暦502年翠玉ノ月2日誕生」としか書かれていません。
ここで書かれている日付はまさしくゲーム内での今現在の日付のことなので、私がログインしたと同時にゲームキャラクターの私が生まれた、ということでいいのでしょう。
そして次のページでは、身に着けている装備品を含めた現在の自分の姿を3Dホログラムで表示してくれます。等身大の鏡でもあればいいのですが、ない場合の方が多いのでこうやってUIで自分の見た目を確認できるようになっています。
そして、今の私の姿ですが。
髪は色は白っぽい銀色で肩のあたりまでストレートに伸ばして揃えています。
瞳は淡い水色です。
肌は色白と呼べるくらいの白っぽい肌色です。特徴的なのは関節部分で、いわゆる球体関節になっています。これは種族であるマギドールの特徴になります。
服装は白いゆったりとした大き目のシャツに女性用の紺のハーフパンツです。後、靴を履いてませんでしたが、これは椅子のそばに置いてありました。
自分で自分に言うのもあれなのですが、顔の造形や見た目はかわいい、美少女と言って差し支えない容姿になると思います。
ただ、1つ問題がありまして。
見た目の年齢が小学校高学年くらいなんですよね……!
「いや、私、こんなに幼くはないですよ」
思わず声に出して呟いてしまいました。
あの人にとっては私は娘、てことで、これくらいの年齢のイメージなのかもしれませんけど……!
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