第1話 第一関門はクリアのようですね。
通話をした翌日。
沙織お祖母さまは
私の家、と言っても正確には元はあの人の家ですけれど。
あの人が亡くなった後、特に行き場所のあてもなかった私はお祖父さまとお祖母さまの好意でここに住まわせてもらっています。
しかし、単に配送業者に頼んで送ってこられると思っていましたが、まさか自分で持ってこられるとは思いませんでした。機材のセッティングとか、色々と助かりましたけれどね。
「それでね~。私たちも『Dawn of a New Era』を遊んでいるのよね~。よかったら合流して一緒に遊びましょうね~」
帰り際にそう言い残して、沙織お祖母さまは帰って行きました。
……お祖父さまとお祖母さま、「Dawn of a New Era」で遊んでいるんですか。
お祖父さまは一代で大会社を興した人で結構な有名人です。お祖母さまもいかにもセレブ、という感じの人です。そんな人たちでも引退してVRMMOを遊んだりするものなんですね。ちょっと意外でした。
いや、これは私の思い込みや偏見ですね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
専用フルダイブアクセスチェアというのは、1人用のリクライニングソファに頭にかぶるヘルメットがくっついた様な外見をしています。実際に使用する際は椅子に座って両手両足にセンサーをつけてヘルメット部分をかぶる、という形のようです。
準備が整ったところで起動させてみます。
しばらくすると、自分が空中にいて見下ろすような視点で映像が流れ始めました。
とりあえず、無事ログインできたようです。
正直、正規のルートで手に入れたものではありませんでしたので、本当に起動してログインできるのか不安もありましたが、第一関門はクリアのようですね。
流れているムービーは「Dawn of a New Era」の世界設定をイメージしたオープニングムービーになります。
世界設定については、私は事前に予習をしておきましたが、どういうものか簡単に説明しますと。
かつて世界には高度な文明が築かれていました。
けれど大きな災厄が起きて文明は崩壊し、数々の知識や技術が失われました。
何とか絶滅は免れたものの、人類の生活圏は縮小され、様々な危機に怯えながら暮らさなければならない暗黒の時代になりました。
その状況を憂いたこの世界を管理する神々たちは、この世界に生きる者たちの中から素質持つものたちに加護を与えることにしました。
そして神々による「新たな時代の夜明け(Dawn of a New Era)」が託宣され、加護を与えられた者たちを交えた新たな時代が始まったのです。
こんな感じですね。
プレイヤーはこの設定にある「加護を与えられた者たち」という存在になって、この世界で生きていく、ということになります。
とはいえ、何か達成しなければならない目的とか、遂行しなければならない使命とか、そういう何か強制されるような物が与えられるわけではなく、自分の好きなこと、やりたいことをやればいいそうです。
何せ運営自らがゲームジャンルを「RPG」ではなく「異世界生活シミュレーション」と称してるくらいですからね。敵を倒してレベルを上げて……というだけのゲームではない、ということですね。
そうしていると神様らしき人物が右手を掲げ「新たな時代の夜明け(Dawn of a New Era)」を宣言するシーンでオープニングムービーが終わりました。ですので、ゲームスタートを選択します。私は初めてログインしますので、最初はキャラクター作成に移るはずです。
キャラクター作成も「Dawn of a New Era」はかなり独特です。これも予習した知識ですが。
まず、キャラクター作成は「オート」「マニュアル」の2つのモードがあります。
「オート」はAIが出す質問に答えて行くとある程度好みに沿った形でランダムにキャラクターを作ってくれるモードになります。
「マニュアル」は自分でデータ項目を1つずつ選んでキャラクターを作っていくモードになります。
で、この作成モードなのですが「オート」がとても優秀で、相対的に「マニュアル」が不遇になっています。
その理由は2つあります。
1つは「マニュアル」では設定しなければならない項目が非常に多いので、キャラクター作成に非常に手間と時間がかかることです。
プレイヤーの分身となるキャラクターはあくまでこの仮想世界の住人であり、生まれてこの世界で生きてきた「過去」を持っていることになります。その「過去」の部分をキャラクターメイキングで作っていくことになります。
つまりどういうことかと言うと。
「マニュアル」でキャラクターを作成していく際に、最初に要求される作成項目は「両親の種族と名前」です。そこから両親の職業、どのような家庭に生まれたか、どのような子供時代を過ごしたか、何歳まで生きてきたか(その際に発生した人生における様々なイベントとその結果)……などを逐一設定していかなければなりません。
そして、この設定が裏で複雑に干渉し計算されて、キャラクターの初期データに影響されることになります。正直、狙ったデータのキャラクターの作成を「マニュアル」モードで作ることは不可能、と言われています。
もう1つは「マニュアル」では作成で使用できるデータの幅が非常に狭い、ということです。
例えば自分の種族が何になるか、に影響する両親の種族では「マニュアル」では全部で人族サイドで人間・エルフ・ドワーフ・獣人の4種類、モンスターである魔族サイドでゴブリン・リザードマン・ダークエルフの3種類だけになります。
ちなみに人族サイドと魔族サイドというのは、種族の大区分のことです。プレイヤーがなれる種族はこの2者のどちらかに区分されており、この2者は基本的に対立しています。そしてシステム的にも色々と違いがあるそうです。
で、この7種類しか選択できない「マニュアル」に対して「オート」ではランダムで種族が選択されるらしく、7種類とは比べ物にならない種類の種族が選択されるそうです。しかもその中には滅多に出てこないような「レア」な種族もあるそうです。
種族だけでもこんな感じで、さらに両親の職業や生まれた環境やゲーム開始までの人生の出来事などでも「マニュアル」では選べないようなぶっ飛んだものが「オート」では選ばれる可能性があるそうです。
逆に「オート」の欠点としては、ランダムなので自分の望むようなキャラクターが作れない、ということになる……はずなのですが、実際は質問に答えることである程度、キャラクター作成の方向性が調整されています。なので、そんなにハズレなキャラクターが作成されることはないようです。
という理由で、キャラクターメイキングではほとんどの人が「オート」を選ぶそうです。掲示板なども見ましたが、アドバイスとしてはよほどのこだわりがないならキャラクター作成は「オート」を選べ、と言われていましたね。
一応、どうしても「なって選ばれて欲しくない」設定を避けるために「マニュアル」を選択する意味はあるようですが。
私は特に方針もないですし、こだわる部分もありませんから「オート」で適当に作成しましょうか……と考えていると、視界が真っ暗な状態から切り替わりました。
◇◆◇◆◇◆◇◆
視界が切り替わると、私は大きな椅子に寝転がるような体勢で座って、何かヘルメットのようなものをかぶっている状態でした。
両手首と両足首には何か枷のようなものがつけられているようです。
すぐに私は異変に気づきました。
これはどう考えてもキャラクター作成が始まった状態ではありません。
本来なら、最初にログインした時は周囲に星がきらめく宇宙のような空間に導かれて、そこでこの世界の女神に出会うそうです。そこで「自分が何者かを問われる」ことで、キャラクター作成が始まるはずです。
そう言えば。
私の座っているこの椅子、かぶらされているヘルメット、手足につけられている枷のようなもの。
何か見覚えがありますね。
あ、これ、もしかして……今日、運び込まれたばかりの、さっき初めて見た「Dawn of a New Era」専用VRフルダイブアクセスチェア……?
えっ……つまり……?
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