第四話 月の下、村の上

 太陽は地平線の下に隠れ、空は黒く夜色に染まる。

 夜空を照らすのは、冷たく輝く月ひとつ。


「ここどこ!」


 啓太と妖精の二人は暗い暗い森の中をさまよう。

 木々の葉っぱの隙間からさす光は淡く、冷たい。


「ラストダンジョン近くの村は!?」

『座標ではここなのですが』

「村の欠片もないよ!」


 そこは普通に森だった。どう見ても森だった。村と呼べそうな物は皆無、痕跡一つ存在しない。

 啓太は疑念の目を妖精に向ける。


「本当にここなの?」

『ええ、千年前には確かに村があったのですが』

「せせせせんねん! それもう土の下だから! 遺跡だから! いい加減にして!」

『そうですか……あの村は土の下ですか』


 妖精の雰囲気にしんみりした空気が加わる。

 遠い過去に想いをはせているように見えた。


「それでどうするの」

『掘ってください』

「発掘! 一人発掘! しないからね!」

『それだと今晩の宿が』

「情報のアップデートして! 今! 今の情報!」

『はあ』


 妖精の身体から光があふれだし、それは細く形を変えコードのように地面に刺さった。

 光は脈動し、大地から何かを妖精に運ぶ。


『目標の変更があります。狂える赤い炎のゼンから狂える赤い炎のゼン(三代目)に代わっています』

「何があった!」

『データには不慮の事故、とあります』

「事故、ねえ」

『通知が来ました。狂える赤い炎のゼン(四代目)に変更です』

「本当に何があった!」


 とりあえず叫んでみた啓太の頭に一つの疑問が浮かぶ。


「……さっきの天なんとかって人は代替わりしないの?」

『遥かなる天のミザを継ぐものはいません。浄化すればその役割ごと消滅するのです』

「ということは」

『浄化しない限り四天王は続きます』


 げんなりとした顔をした啓太は、ふらふらと近くの木の根元に腰を下ろした。


「なんか疲れた。もういい寝る」

『大自然に抱かれて眠るのですね』

「おシャレな表現してもこれ野宿だからね」


 啓太は木の幹に身体をあずけ、だるそうに目を閉じた。


「そういえば結界とかバリアとかある?」

『ありません』

「だよねー。何かパーソナルスペースがあるとうれしいんだけど」

『それなら蚊帳があります』

「なんでだよ」


 うつらうつらと、啓太の声が夢と現の間をさまよう。


『それでは設置しますね。えいっ』


 妖精は網状のものを啓太に向かって投げた。

 広がった網は啓太の上をふんわりと覆う。


「はいこれ投網ね。漁ね。わーい捕まっちゃった……」


 網に包まった啓太は安らかな寝息を立て始める。

 妖精はふわふわと光をまとい空に向かって飛んでいく。

 白く凍えるような月の下、その光に照らされた妖精は小さく呟いた。


『やれやれ、難しいなあ』

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