第9話 死についての思索(9)---詩人は世界を終わらせるために謳う
死を人間化することは人間の特徴である。古来人間はさまざまな方法でこの世を去っていったが、人間が能動的に死に働きかけることがなければ人間の人格は形成されないであろう。
もし人間が死に無関心であったなら人間は人間化されなかっただろう。我々の理性も感性も全ては死への創造の道具に過ぎぬ。人間の能力は死を達成するためにのみ機能しうる。
理性と感性の実践は身体を道具として為される。身体の不安は死への恐怖へと通ずる。道徳心の崩壊は死の軟弱から始まる。
「自分はあのようにして死にたい」という憧憬は死の熱烈なる論理を認識する第一歩である。
死への独特な憧憬を忘却してしまえば、技術的な生活が自然死まで繰り返されるだけである。技術的なものは必ず教導的であり、特殊なる先生なるものがある。
人生を謳歌する専門家は、あらゆる講釈で死を先延ばしにするだろう。彼らの使命は「いかに、ひろく、世界における広義を維持するか」なのである。いわば「背きながら、前進する作法」の伝承者なのである。
我々の師は、そのような生活技術者ではなく、自殺者のごとき死の夢想家でなければならぬ。自殺とはDichten(詩作)である。自殺者は、必ず詩人である。詩人はあらゆる結びつきを断絶する者である。詩人は、終わらせる手段を謳う者たちである。
「さあ、今そこ、その、世界、を滅せよ」
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