第17話 おばけのヘドロン

 ぐちゃぐちゃおばけのヘドロンは

 いっつもぐちゃぐちゃのべっとべと


 ニンゲンのまちに出たならば

 みぃんな口とじ目もとじる


 ヘドロン まちまでやってきて

 すてきな買いものしたかった

 けれどもお店もみなとじて

 ヘドロン なんにも買えずじまい


「みんな、ぼくがきらいなんだ」


 ヘドロンのからだはゴミだらけ

 おててもあしもめんたまも

 だれかが捨てたゴミからできた


 ヘドロン とぼとぼかえったら

 まちの人らは大はしゃぎ

 ヘドロンの足あとを流しては

 石けんに洗剤もってきて

 たくさん泡でごしごしごし


「あんなきたないばけものは、まちの中には入れないぞ」


 ニンゲンたちのうたう声

 ヘドロン ぼとぼと泣きました

 いっぱいいっぱい泣いたって

 虫もお花も鼻つまみ

 あっちへ行けと追いたてる


 ヘドロンやっとかえりつく

 ヘドロンのおうちはげすいどう

 おばけホテルのげすいどう

 誰とも話せやしなくても

 ゴミやおすいがやってきて

 みんなの声が聞こえます


「ヘドロンいつもありがとう」


 ゴミをたべちゃうヘドロンに

 ホテルのみなはだいかんしゃ

 まいにちまいにちヘドロンは

 ゴミを食べてはそのかわり

 きれいなお水をはきだして

 みんなの元へととどけます


 ホテルのみなはいそがしい

 ホテルはいつでもおおにぎわい

 けれどもヘドロン 自分には

 地下がにあうとおもってる


「こんなに汚ないぼくなんて、お客さまだっていやがっちゃう」


 だからヘドロンいっつもひとり

 げすいどうでうたってる



 あるとき どぼんとその場所に

 ちっちゃな子どもがおちてきた

 氷のおててをたずさえた

 ちっちゃなちっちゃなニンゲンのこ


 ヘドロン あわててかくれたら

 ちっちゃなその子は追いかけた

 

「いつもお水をきれいにしてくれる、うたのお上手なヘドロンだ」


 ヘドロン びっくりぎょうてんで

 こっちへくるなと叫んだら


 子どもはとてんとつんのめり

 泥水かぶってまっくろだ


「ほぅらおそろい。ヘドロンとおそろい」


 きゃっきゃと笑うその声に

 ヘドロン ぽとりと泣いたとさ

 



***




「うわっ、ユル。どうしたんだそんなに汚れて……!! それにひどいニオイだ」


 ホテルの大そうじ。排水口を洗っていたちいさなユルは、うっかり排水管のくしゃみに巻き込まれて落っこちてしまっていたのです。

 大慌てで探しにきた狼人間のマシューは、ヘドロまみれで笑っているユルを見つけてひと安心。


「どこも怪我しちゃいないだろうな?」


 鼻が捻じ曲がりそうなニオイの中、マシューは連れて帰ったユルの洋服をひっぺがして怪我をしてないか確認しながらも、シャワーを流しっぱなしにしたバスタブにつっこみました。


「ねぇマシュー。ぼく、今日げすいでヘドロンにあったの、おっきくてね、やさしいおばけだね」

「おお、ヘドロンを見つけたのか。やつはものすごく人見知りらしいが、大事な大事な仕事をしてくれているんだぞ」

「マシューは会ったことない? でもこうやって、お水のめたりお風呂に入れるの、ヘドロンのおかげなのね」

「そうだよ」

「すっごいなぁ! またあいたいなぁ」


 マシューはそんなユルを見つめながら「誰かが嫌がる仕事をそっせんしてやるのは、すごくすばらしいことなんだぞ」と、いつかあらためてこの子に教えてあげようと思うのでした。

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