結婚式(璃華と弥咲編)



 2033年 6月 熊本市中区本丸 加藤神社



 熊本県を含む九州北部も梅雨入りし、千陽達の住む熊本市もどんよりとした、重苦しくも感じる空模様が続くこの頃。その空が束の間の晴れ間を見せたこの日。彼の姉、璃華と弥咲の結婚式がここの神前にて行われていた。神前式というのを端的に説明しておくと、神社で、神様の御前で夫婦の盃を交わして契りを結ぶという日本古来の宗教というか自然信仰の神道由来の式で、こっちの方が結びつきが強くなる気がするからと、弥咲が希望して今回は神前式になったというわけである。ちなみに新婦2人ともまだ10代なので盃の中身は水である。で、弥咲は彼女の希望で「新郎」が着るような白無垢を着て、元々弥咲は兄に容姿が似ているのもあって、その姿がとても綺麗に見えて、自らも将来、咲里の横でこの綺麗な着物を着て・・・と思いを馳せる千陽。そして璃華が三森家に籍を入れるのが決まっているとあって、葛西家の両親と一緒にうちの妹をよろしくと弥咲に頭を下げる陽葵、芳美。



「しっかり頼まれます・・・籍入れるのはまだばってん夫婦の契りは交わしたわけだし、これでひま姉とよし姉もほんとに私の姉ちゃんか」



「あーそっか。ちゅうこつは私にとってもにーにがほんなこつにーにになるな」



「そうね、璃華ちゃん、弥咲は僕ん似て男の子っぽくてちょっと弱い部分もあるけん、しっかり支えてやってよ」



「うん、ずっと一緒におって、弥咲のそぎゃんとこは私もよう分かるけん。にーにの大事な妹ばずっと大事にしていきます」



 と、そんな姪っ子達のやり取りを遠巻きに眺めていた暁美が、昔、弟夫婦の結婚式で自分も冬未と色々話した事を思い出して、瞳の端を光らせるのを見て、冬未が苦笑いしながらよっていく。



「冬未ちゃん、昔、あんたと隼瀬の結婚式覚えとる?」



「うん、お姉ちゃん号泣しながら「隼瀬ば頼むぞ、隼瀬ば泣かすなよ、隼瀬ば困らすなよ、隼瀬ば頼むぞ」って皆に聞こえる声で言うてきて、私も隼瀬も、出席した友達とかもみんな泣いてしもたやつね」



「うん、なんか今の陽葵と陽斗ちゃん見よったら、あん子達があん時の私んごつ見えてね」



「妹や弟持つ姉、兄ってそぎゃんなっとだろかね・・・ねえ、これなんとなくはっきり聞いた事なかったばってん、隼瀬への禁断の思いは色々あったろて、なんで私ば、言うなれば他人の子ば、ずっと我が妹んごつ扱ってくれたと?」



「ごつっちゅうか、ほんなこて私はあんたば隼瀬の好きな相手だけんとか関係なしに、初めて会った時から、私の妹になったと思とるけん」



「・・・・・・」



 お前も妹だから妹なんだ、それ以外の理由は無い。と、そんな簡潔でしかし、その姉としての思いの力強さを感じる答えに、やっぱいくつになってもこの人にはかなわねえなてやんでえべらぼうめと思う冬未。なんか途中江戸っ子の人格が出てきていた。



「もうあんたも隼瀬も44歳になったばってん、私にしたらずっと可愛い弟で妹だけんね。その子供達もかわいしてしょんにゃあけん、芳美にも毎月仕送りしよるわけだし」



「あん子は私達親からんとも、お姉ちゃんからんとも、ほぼほぼ使っとらんごたばってん」



「芳美もまだ今年21て、やっぱあんた達ん子だけんしっかりしとんな。大学卒業したらどぎゃんすって?」



「多分、高校ん時の怪我の事もあっとだろばってん、自分と同じごつ夢ば諦めにゃん子ば出さんごつて整復師とかの資格取って、トレーナーになるて」



「なるほど・・・あん時は絶望したろしな。代表も決まっとった矢先に・・・だけん」



 あの時の芳美の顔を思い浮かべ、今の彼女が元気そうにしているのを見て感慨深げな母と叔母。その時の、4年前の芳美に起きた事についてはまた、番外編で語ろうと思う。


































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る