はんぶんずっこ
2033年 2月13日
「あしたはふふふふすぺしゃっで〜、たらららたりらりたらんらん♪」
夕飯の後、うろ覚えの鼻歌を可愛らしくルンルンで歌いながら明日のバレンタインデー、彼女の咲里にあげるチョコを作る千陽にパパが声をかける。
「千陽、ごきげんさんね」
「えへ、だって咲里と付き合うてから初めてのバレンタインだもん。今までママとかお姉ちゃん達にしかあげたこんなかったし」
「そうねえ。こんふとかハート型がえみちゃん用ね?」
「うん、ばってん大丈夫かな、重い男て思われんかな」
「大丈夫よ、えみちゃんも千陽が一生懸命作ったつば嫌がったりせんたい」
「分かると?」
「うん、パパんごつ43年も生きとっとそぎゃんと分かるごつなっとたい」
「なんかいまいちせっとく力にゃあ気するばってん、パパがそぎゃん言うなら・・・」
と、自分達も明日、千陽から貰うのを期待しているママと恵梨も気になって除きに来る。なお、璃華は弥咲から貰う予定なので、千陽から何かとか今年はそこまで期待していない。
「にーに、どうせもらうんだけん食べてえ
え?」
「だめ、だいたい恵梨あんたもう歯磨きしたでしょ。ママもダメだけんね!ちゃんと明日なって渡してから!」
「はーい・・・隼瀬もこまか時からそうだったばってん、男子にとってバレンタインてそぎゃん大事?」
「「そら大事たい」」
何当たり前の事聞いてんだこの人は・・・と言うような顔で冬未の顔を見る父子。
「なんか、こう、その日だけの特別なあれが・・・あれよね、パパ」
「うん、あれがあれであれだけんね」
「「どれや」」
今度は冬未と恵梨が声を揃えてあやふやすぎんだろと言うような顔で父子を見る。で、パパにも協力してもらってなんとか全部作って、ラッピングも終えて、翌日のバレンタインデー当日を迎えた千陽。
14日 月曜日 学校
「はい、咲里。大好きよ」
そう言って、始業前の教室で、皆の前で、昨夜作って可愛くラッピングした「dear my darling」とホワイトのチョコペンで書かれた大きなハート型チョコレートの一部をかじり取ってそのまま咲里の口に運ぶ千陽。そんな少女漫・・・いや、この世界で言うと少年漫画のような光景に、元々数少ない、というか30人のクラスに千陽合わせて7人だけの男子の内、6人のキャーキャー色めきたつ声が教室中に響き渡る。で、その6人もそれぞれ異性に限らずとも好きな人はいて、みんな千陽と同じ事を相手にして、男子同士の子達は冷静だが、それぞれ男子にそんな事をされた女子達はもう骨抜きにされる。咲里も皆が見ているのにも関わらず、千陽の唇を思いきり奪う。
「っ・・・いつも皆の前じゃ恥ずかしゃあとか言うくせして」
「今日の空気にあてられたったい・・・」
なお、咲里含め数人の、そういう相手がいるいわば「勝ち組」以外の女子達はいいなあとか羨ましそうにそんな光景を見ていたが、その子達も千陽らから義理とはいえ手作りチョコを貰った為、それだけでまあいっか、贅沢は言っちゃダメだなと、別に咲里達を僻んだりする事はなかった。そして、今日の学校が終わっていつものように家まで送ってもらって、そのまま彼女を家にあげる千陽。
「恵梨ちゃんごめんね、こぎゃん日だけんお兄ちゃんと2人の方がよかったろ?」
「んねんね、えみねえ。まえに俺とえみねえでにーにばはんぶんずっこ(はんぶんこ)するてやくそくしたたい」
「は?」
自らの預かり知らぬとこで、彼女と妹が勝手に、そんな、自分を2人がシェアするような取り決めをしている事を初めて聞かされた千陽は2人の顔を、フクロウさんみたいに首が一回転しそうな凄い勢いで交互に見る。
「たまがっとるにーにもかわいかね」
「ほんといつもかわいかよな、千陽は」
「いや、そらたまがっどだい(びっくりするだろ)・・・なんね、はんぶんずっこて。咲里、僕にあんたと、実の妹と二股ばかけろちこつや?」
「「もちろん」」
何当たり前の事言ってんだおめぇおもしれー男だなぁという目で見てくる2人に、そっくり同じ意味の視線をそのまま返す千陽。この時の千陽は、恵梨もまだ小さいし、はんぶんずっことか言っても適当に咲里に合わせてるだけだろうなとか思っていたが・・・・・・
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