年末年始編 後編



 年が明けて2033年の元日。昨夜遅くまで起きていたものの、千陽ら子供達はこういう休みの時に限って早起きするもので、千陽はお雑煮やおせちの小鉢の準備をしているパパと義兄のお手伝いをする。



「千陽、大根さんと人参さん切ってから型抜きして」



「はーい」



 最近千陽がちょっとずつ料理を覚え始めていると隼瀬から聞いていた陽斗だが、実際にさせてみて、同じ年の頃の自分より包丁捌きも上手く、さすが料理上手な隼瀬の息子だなと感心する。



「上手ね、千陽。隼瀬兄ちゃんも昔から料理上手いしやっぱ遺伝だろね」



「えへへ、ばってんパパにはまだまだかなわんよ。パパのご飯いつも美味しすぎだん」



「あら千陽、そぎゃんと普段から言うてくるっとよかて。てか陽斗ちゃん、おっちゃんな別に料理上手じゃにゃあて」



「いやいや、うちのパパもずっと「運動神経と料理の腕前じゃ隼瀬にはかなわん」て言いよるけん」



「充希が?わぁ、あいつ親友の僕に直接そぎゃんと言うてくれりゃよかてからね」



「はは、ほんで千陽、えみちゃんにもたまにお料理したりすると?」



「うん、パパにかせして(手伝って)もろたりしながらばってんね。ほんでこん前はだごもちゃんと手でこねてから、だご汁ばしてね、咲里もうみゃあうみゃあていっぱいおかわりしてくれたつよ」



 瞳をキラキラさせて嬉しそうに話す千陽に、自分も子供の頃料理を覚えて、陽葵がいっぱい食べてくれた時は今のこの子と同じように嬉しかったなあと思い出す陽斗。そして彼と陽葵のように自分も冬未と幼なじみ婚な隼瀬も、30年以上前、小学校の頃に、今の千陽と同じように父に教えてもらいながら彼女にはじめてご飯を作ってあげた時の事を思い出していた。して、そんな話をしているうちに準備も終わって、改めて家族全員正月恒例の和装に着替えて挨拶を交わしてお屠蘇の赤酒を飲んで隼瀬と陽斗の準備したおせちをつつく。



「ちーちゃん、着物汚るっとしゃがおおごつ(大変)だけんお姉ちゃんが食べさしてやるね」



「ありがとうよしねえ」



 芳美が千陽にこうしてくれるのと同じように、冬未も隼瀬に、陽葵も陽斗にせっかくの晴れ着汚しちゃあれだからと自分で箸を持たせず、慎重に食べさせる。3人もそんな事をわざわざしなきゃならんなら普通に洋服でもいいんじゃないかと思いつつも、実は毎年こうして正月に綺麗な着物を着るのを楽しみにしている部分もあったりはする。して、おせちを食べた後、恵梨と一緒に芳美お姉ちゃんに連れられ健軍神社に初詣に来た千陽。



「人多えね」



「そうねえ、あんなら恵梨はお姉ちゃんおんぶしとこか」



「わたしはええよ、よしねえ。こぎゃん人のおったら、こどもばねらうちじょとかもでそうだし、にーにばおんぶしてやってはいよ」



「あー、そらたしかに・・・なら恵梨、あんたなちゃんとお姉ちゃんと手ぇ繋いどけよ」



「はーい」



 人混みでごった返す中、千陽をおんぶして恵梨の手もしっかり握って、なんとか参拝を終えてホッとする芳美。で、ここは地元の人も多く来る神社とあって千陽と恵梨も学校、幼稚園の友達と会ったりして、千陽の友達にお姉ちゃんかっこいいとか言われて芳美も調子に乗って皆にジュースを買ってあげたりする。



「よしねえって単純よね、ママそっくり」



 駐車場に戻って車の中で、本当によしねえはママと一緒で少し褒められたら調子に乗るよねと零す千陽。



「そう?」



「うん。まあ恵梨もそぎゃんとこあるばってん」



「「いやあそれほどでもお」」



「褒めとらん褒めとらん」



 でもこの2人の方が、すぐ照れたりする陽葵お姉ちゃんと璃華お姉ちゃんと比べて、普通の女らしくはあるのかなと思うおマセ少年な千陽である。して、千陽も恵梨も、芳美も20歳にはなったがまだ学生という事で両親と長女夫婦、その夫の方の両親、そしてばあば達からもお年玉をいっぱい貰ったので、そのまま市郊外の大型ショッピングモールに買い物に出かけた3人。



「よしねえ、僕ひとりでなんか見よくけん恵梨と一緒おってやって」



「なん、だめだめ。男ん子ばこぎゃん人のいっぱいおる中にひとりで置いてかれんたい、ねえ恵梨」



「うん、にーにかわいいけん、へんなのにねらわれたらでけんし」



「なん、いつもパパのおつかいとか1人で行くし。それにこぎゃんとこは防犯カメラもいっぴゃああるし警備員さんも何人もおらすとだけん大丈夫て。よしねえは恵梨ば見とってやってよ」



 なおも心配する姉と妹に、何かあったらちゃんと周りに助け求めるけん大丈夫と強引に押しきって、しぶしぶ離れる2人を見送ってひとりで服などを見る千陽。と、案の定そんなひとりでいる可愛い男児に声をかける者がいた。



「おぼっちゃん、お姉ちゃんとぜんざいでも食べる?」



「今どきの小学生にぜんざいてどぎゃんナンパの手口ね・・・千咲姉ちゃん」



 声をかけられた千陽は一瞬、警戒するがその人の顔を見て知り合いだと気付きホッとして、騒ぎにならないように、陽葵お姉ちゃんの同級生で、現在は彼女とファン人気を二分するスター野球選手の彼女の名前を小声で呼ぶ。



「はは、驚かしてごめん。お姉ちゃんもこっち帰ってきとってね、たまたまちーちゃんば見つけて」



「千咲姉ちゃんじゃなかったら大声出しとったよ」



「まあそうよな、ほんでなんで1人?お姉ちゃん達は?」



「僕が1人で見たいて言うたけん、よしねえと妹の恵梨と3人で来て、よしねえは恵梨ば見てくれとらす」



「そういう事ね、ばってんちーちゃんのごた可愛い子が1人でおったら変なの寄ってくるどし、お姉ちゃん一緒におろか」



「てか千咲姉ちゃんは誰かと一緒じゃないと?」



「うん、1人でこぎゃんとこ来ちゃ悪い?」



「んね・・・あ、千咲姉ちゃんにこの服買ってもらおかな」



「おお、よかよよかよ。お姉ちゃんも年俸いっぱいもろとるけん服だけじゃなくてなんでん好きなの買うてやるばい」



 千陽は冗談で言ったつもりが、千咲は本当に買ってくれて、本当にありがとうございますと頭を下げる。



「子供がそぎゃん気使わんちゃよかて。ほんで、ぜんざいも食べる?」



「いや、ぜんざいはよかばってん・・・なんかお腹すいたけん、よしねえと恵梨と合流してからなんかご飯食べさせて」



「うん、お安い御用たい」



 というわけで、芳美と恵梨と合流して、3人のきょうだいは千咲に食事を奢ってもらって帰るのだった。

































































































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