デート



 夏休み少し前の7月頭、金曜日の学校帰り、咲里の家にお泊まりして翌日の土曜日の今日はそのまま彼女と街へデートに出かけている千陽。



「咲里、こんスカートどっちのよかて思う?」



「こっちかな」



「じゃあこっちにする」



「結局違う方選ぶたい、これ意味あっとや」



「まあそぎゃんもんよ」



「どぎゃんもんや」



「そぎゃんもんはそぎゃんもんたい」



 何だかどこかで聞いたようなやり取りをしながら、この千陽の服の買い物だけで小一時間はすぎて、彼が欲しい服を買って、せっかくだから咲里の服もなんか見ようよと言うので、自分はあまりおしゃれとか興味ないけど、千陽にしてみたら彼女があんまダサいと嫌なのかとも思って、自分の服を見てもらう咲里。



「これなんかよかね、女の子っぽしてむしゃんよか」



「そうや、いっちょん分からんばってん千陽が言うなら・・・」



「ほんでこれもよさそ、あ、こっちも・・・」



 で、千陽は咲里に着て欲しいと思った何着かを持って、彼女に買ってあげる。



「ごめん千陽、私自分で買うつもりだったて」



「んねんね、最初から僕が買うてやろうと思いよったけん。それに僕の分もはろてもろたけんおあいこね」



「なん、そら私は女だけん・・・」



「そぎゃんしこらんだっちゃ(かっこつけなくても)、充分咲里なむしゃんよかて」



「っ・・・」



 いつもそういう事をサラッと言ってくる千陽に、以前見た昔の雑誌に乗っていた「小悪魔男子」ってこいつみたいな事言うのかなと思う咲里。して、買い物を終えた2人はそろそろお腹もすいてきたということで、角のファストフード店に入って、ハンバーガーとナゲット、ミルクシェイクなんかを頼んで食べながらおしゃべりする。



「男子はよう体重とか気にするけど、千陽は普通にいっぱい食べるよね」



「たしかに周りみんな気にしよるばってん、僕達まだ成長期なんだけんあんま気にしてもあれだし」



「まあたしかに・・・てか千陽の家族は皆いっぱい食べるけど太っとる人おらんし大丈夫か」



「うちの家族はみんな運動好きだし、パパもいつもご飯は色々えいよーがく?とかのご本読んだりして考えて作ってくれよらすけんね」



「そっか、それでおじさんのご飯はあぎゃんうみゃあとだ・・・てかそんならこぎゃんハンバーガーとか食べるなて言われとらん?」



「んねんね、そぎゃんとは言われた事にゃあよ。むしろなんでん我慢しすぎるとしゃがなよくにゃあけんて言われる」



「そうつたい・・・てか千陽って私達の世代にしたら結構方言出るばってんそれも親の影響?」



「うん、うちな親もお姉ちゃん達も皆こぎゃんだけんね。あんまかわいくはにゃあて思うけん咲里ん前とかだと抑えるごつしたりするばってん自然とずっ(出る)けんね」



「なんなん、男ん子の方言はかわいかたい」



 テレビや配信で他のとこの方言も聞いたりしており、一部地域には当てはまらんけどと小さく呟く咲里。



「同じ地元の方言だっちゃね?」



「うんうん、いつも可愛いなて思いながら聞きよるよ」



「そう?ならこんままでええと(この辺の地域の子はよく「よか」より「ええ」を使ったりする、関西弁のそれとは少し発音が違うが)?」



「ええええ、だごかわええもん。てか私も千陽と付き合い出して言葉うつって来たし」



「確かに咲里、前はそぎゃん今んごつな出よらんだったもんね。そっか、そんで僕どんも最近咲里もぞなった(可愛くなった)ち思いよっとだ」



 照れる咲里だが、女子として果たしてもぞなったと言われて喜んでいいものか複雑な心持ちである。で、そんな肥後東部弁バリバリな会話をしている小さなカップルは周囲の微笑ましく見つめる視線を浴びつつ、お昼を食べてから帰路に着いた。



「じゃあね咲里、送ってくれてありがとう」



「んねんね、当たり前のこったい」



「ふふ、そぎゃんとこ女の子らしして好きよ。ね、バイバイのちゅーしよ」



「はいはい・・・」



 かつての陽葵と陽斗のように玄関前でキスしてバイバイして、ただ家がすぐ隣同士だったその2人と違って、千陽は咲里の背中が見えなくなるまで手を振り続けてから家の中に入る。






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