第2話 -第1の事件-
翌日の夜は満月だった。いつもどおりミニスカートを穿いているキャサリンは、向かいの棟のいとこの部屋まで警察に呼び出された。
玄関前にはレイチェルの死体が白いビニール製の大きなシートで覆われている。
またしてもキャサリンは見知らぬ男2人組のことがよぎったが、現時点ではまだ確信出来ないし、間違ったてたら恥ずかしさと罪悪感に精神を支配されそうだと思い、見知らぬ男たちのことを話す勇気が出なかった。
警察には昨日1日の自分のことやレイチェルのことを話した。
ひととおり話すと、キャサリンは解放された。
どうしてこんなことになってしまったのか。
どうしてレイチェルが。
子供たちが可哀想だ。
キャサリンは周囲を見回すと、もう子供たちの姿はなかった。
事情聴取を受けた他の親戚が、「子供たちなら貴女の祖母にあたる人が今朝引き取っていったわ」と教えてくれた。
キャサリンは「教えてくださってありがとうございます」と礼を言うと自分の家へ戻った。
今日もひとり、紅茶を作り、ゆっくり少しづつ飲む。
レイチェルにはもうお話が出来ない現実は変わらないが、それでも紅茶の温かみが、悲しみと悔しさと恐怖で圧迫されたキャサリンの心を解放してくれた。
その日は、寝れない夜をベッドで掛け布団を被りながらSNSを眺めてやり過ごした。
翌日の午後1時。
キャサリンの自宅に、ペンリッケ=アルトミアという私立探偵が来た。
その時は既にジャージに着替えていた。
キャサリンは迷った末、一昨日の夜にすれ違った見知らぬ男2人組のことをペンリッケに話す。
「なるほど。貴重な情報提供ありがとうございました」
「あの?」
キャサリンは不安で堪らない。足元の黒いペディキュアを見下ろし、縮こまりながら聞くだけ聞いてみる。
「この話は警察にも共有されるのでしょうか?」
「場合によっては。でも、今は秘密にしておきます。何か秘密にしておきたい理由があるのでしょうか?」
キャサリンは素直に自分の気持ちを話した。
ペンリッケは納得したらしく、間もなく帰っていった。
その後、キャサリンは思う。
自分はしばらくこの家に引きこもった方が良いだろう。身の安全になるだろうと。
そうと決まれば、仕事は事件が解決するまではリモートワークにすべきだと考え、胸に手をあてて抑えながら会社に電話した。
上司はキャサリンの事情を聴いた上でリモートワークを許可してくれたようだ。
電話の向こうから温かみのある低く伸びやかな声がキャサリンのこころに染みこんでいく。
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