第3話 -第2の事件-
第1の事件がロンドンにて発生して間もなく、ボストンの事務所内にて電話が鳴る。
最初に電話に出たのは事務員のシャーロットだ。
「世界中どこへでも出張可能な名探偵・ペンリッケ=アルトミアの事務所です。依頼ですか?」
「事件よ。今すぐ来るようにペンリッケに伝えて! 以上!」
電話は一方的に切られてしまった。
建物の外からは雷鳴が響く。
ペンリッケがバリケードから顔を出す。ひどくニヤニヤした表情で。
「今の電話、ダズリンでしょ?」
「えぇ、そうですね」
「やったー! 開設2日目で大仕事が来たぞー! ボストンから出れるぞー!」
シャーロットは苦笑いした。
「事件の詳細はもうご存知で?」
「そう、今度の舞台はロンドン!」
そこまで語るとテンションを整えたペンリッケは片手を挙げて言う。
「悪いがシャーロットはここでお留守番だ。もしどうしてもな依頼があれば、同じく名探偵の妹に連絡して」
ペンリッケはキレイでさらさらな金色の前髪を掻きあげながら上階へ繋がるエレベーターに乗って、自宅へ帰ると素早く荷物をスーツケース1台にまとめて出発した。
1階まで降りてエレベーターホールを出てから、クイックコールでダズリンに自分の仕事用携帯から彼女の同じく仕事用携帯にかけてみる。
「もしもし? 今向かってるところ。そっちの空港に着いたらかけ直すから、現場まで案内して」
このとき既に、署内に私立探偵ペンリックの名を知らない刑事はひとりも居ないほどに、ペンリッケは名推理を展開してきた。
飛行機から降りて空港で荷物を受け取り、ベンチに座っていると、女子高生のファンからサインを求められたので全員にサービスすると場所を変えて、誰もいない通路でダズリンに電話をかけ直した。
間もなく迎えが来た。
「最新の足跡はどこだ?」
運転をしながら、ダズリンは焦げ茶色のコートの内ポケットから小さく畳みこまれた――手のひらサイズの――地図を、助手席に座っているペンリッケに投げて寄越した。
地図を受け取ったペンリッケは――規則正しく動く機械のようにてきぱきと地図を開いて見せた。
ペンリッケが地図を広げて見せたのを尻目に見た彼女は次々と情報を共有していく。
ロンドンに着くと、ペンリッケは先ず身辺調査からはじめた。
これは、調査対象者が、警察には言い難いことを話してくれるかもしれないというペンリッケなりの考えに基づいている。
ひととおり身辺調査を終えると、情報を脳内で精査していく。
一旦、ホテルに泊まって仮眠を取ることにした。
疲労困憊では脳の働きがにぶるというペンリッケの理論に基づいて彼がしていることだ。
第2の事件の知らせは、午後7時。ダズリンからの着信で起きたときだった。
なんと、キャサリンが誘拐されたらしい。
すぐにホテルをチェックアウトしてダズリンが乗っているパトカーの後部座席に乗って、彼女からプロファイリングリストを借りた。
ペンリッケはその中から、とあるひとりの画家に電話した。相手はすぐに電話に出た。
その片手間でキャサリンが言っていた男2人組の特徴を書いたメモを開く。
ペンリッケは画家の自宅に着くと、車を降り、ダズリンに礼を言うと、ここから先は独自調査でキャサリンを捜す。
画家は、キャサリンが言っていた見知らぬ男2人組の友人であり、よく飲みに誘われるという。
一方、同じ頃、キャサリンを誘拐した男2人組は、自分たちの普段の自慢話を始めていた。
運転席のオズワルドはDVとモラルハラスメント満載な話を。
対して助手席のジェッケラルは自分のことをDVの鬼才と称して、自分がこれまでに殴ったり蹴ったりした女――全員妻――の数を列挙していく。
そのまた一方では後部座席で身体中傷だらけのキャサリンが、眠剤を飲まされて寝ていた。
キャサリンの両手足首はロープで拘束されている。
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