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「ううん。かっこ悪くなんてないよ」にっこりと笑って涙くんは言った。
「慰めですか?」未来は言う。(自分がかっこ悪いことをしているのは、未来本人が一番よくわかっていた)
「違うよ。本当にそう思うんだ」鉛筆を持つ手を止めずに、涙くんは言う。
「三上さん。僕は今、絵が描けない。つまり、スランプの状態にあるって話をしたでしょ? その絵のリハビリをするために僕はこの静かな植物園の中でずっと風景の、あるいは言葉を喋らない美しい緑色の植物たちの絵を描いている。そんなときに三上さん。君が僕の前にあらわれた。それを僕は『運命』だと感じたんだ。本当に心にびびっとくるものがあった。三上さんのことを描きたいって思ったんだ。だからこうして三上さんに声をかけて、三上さんに絵のモデルのお願いをして、こうして僕は今、三上さんの絵のスケッチをしている。そうだよね?」
「はい」涙くんの話に未来はうなずく。
「そういうことって誰にでもあることだと思うんだ。うまく歩けなくなるような時期っていうのかな? 立ち止まるべき時期。心と体を落ち着かせて休む時期。それは個人差があって、いつなのかは、人によって違うと思うけど、僕が絵を描けなくなってここでもう一度、自分の満足する絵を描けるようになる練習をしていたように、三上さんも、きっと三上さんがちょっとだけ歩くことをやめて、休む時期がきたってことなんだと思うんだ。きっとそういうことなんだって、僕は思うな」涙くんは言った。
未来は涙くんの話をずっと黙って聞いていた。
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