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「少しこのままお話をしてもいいですか?」
じっとしていることに我慢しきれなくなって未来は言った。
「もちろん。いいよ。三上さんが一番リラックスできるようにしてくれて、構わない。体さえ動かさないでいてくれればね」にっこりと笑ってスケッチブックの後ろから涙くんは言った。
「私、学校が嫌いなんです。学校に行ってないんですよ。今。私」そんなことを未来は言った。
もうずいぶんと二人は会話をして(と言っても名前とか、学校のこととか、ぞれぞれの生活とか、そんな当たり障りのない会話だけだけど)すごく距離が縮まった感じがしていたけど、でも二人とも、涙くんも、それから私(未来)も、一番大切なことや本当に大事なことは、まだお互いに話ができていないと思っていた。(それは当然といえば、当然の話なのかもしれない。だって私たちはまだ出会ってから一日も時間がたっていないのだから)
でも、こうして絵のモデルをしていると、なんだか自然とそんな自分の秘密(涙くんい話すつもりもなかったし、ずっと秘密にしておこうと思っていた)をなぜか、自然と口にすることができた。
涙くんに迷惑かな? とか、私なんでこんなこと話しているだろう? とか私はどうしてこんな場所で今日初めて会った出会ったばかりの男の子の絵のモデルをしているんだろう? とか、私はどうして今日、宇宙博物館にスペースシャトルを見に行こうと考えたんだろう? とかいろんな余計なことを考えてしまった。
そんなことを考えながら、未来はにっこりと涙くんの前で笑った。(そうしないと、なんだかちょっと泣いちゃうそうだったからだ。……自分が可哀想すぎて)
涙くんは無言。
「もう、一年くらいになるかな? 中等部までは普通だったんですけど、高等部に入って、いろいろあって、一年の夏休みから、もう学校にいきたくないって思うようになって、……そうしたら、本当に学校にいけなくなっちゃって……。もちろん、私は学生なんだから学校に行かなくちゃって思ったんですけど、でも、からだが震えて、心がそれを拒絶して、(絶対に行きたくない、行くなって言って)それで結局、お父さんもお母さんも先生と相談をして、私がいけるようになるまで待てばいいよ、っていう話になったんです。……引きこもりっていうか、登校拒否っていうのかな? 私、かっこ悪いですよね」ふふっと笑って未来は言った。
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