第五話:ラグクロの魔法

♢ヒヨっ子

「着いたっスよ。ここが、君の特別な特訓場「季節島(シーズン)」っス」

「ここが危険区域のひとつ」

当たりを見渡すとザーッザーッと音が聞こえて来る。ラグクロが聞こえた方をに目を向けると、辺り一面青い水が広がっていた。

「な、なんだこの水の量!?」

「飲んじゃダメっスよ。これ全て塩水でできた海っていう大きな水のたまり場っス」

「海…」

「わーい。海ぃ〜!」

ラグクロとシーシャが暮らしていたところは湖はあれど、海はなかったため本に載っている絵でしか見たことがなかった。つまり、生で見るのは初めてなのだ。

「ちなみに水着も買ったっスから、あとで三人で入るっスよ」

カルシファーが手にしてたのは男物ではなく、女物のいわばビキニだった。色は白で種類的にはフリルに近い。

「それをシーシャに着させる気ですか?」

「そーっスよ。似合うと思って買ったっス」

カルシファーの目は下心で溢れていた。もっと前から言いたかったがこの人は変態なのかもしれない。

「はぁー。でも、シーシャが着たいかわからないですよ」

「そこのところは平気っス」

当の本人は海の上を翼を広げてはしゃいでいる。本当なら指摘しているところだが、ここは危険区域の一つだ。人がいるはずもないので、ラグクロは何も言わずに彼女の飛んでいる姿を眺めていた。

「まっ、それは置いといて、この島について話すっス。ここは他の島と変わって、季節が区別されているっス。今いるのが秋のエリアっスね。俺たちがいる秋エリアから時計回りで冬、春、夏の順で存在してあって、各エリアで出会う魔物も異なるっス。このエリアは「ンナガの木」という木に守られているっスから、魔物は現れないっスよ。ここに拠点を作るっスよ」

「はい」

ラグクロはカルシファーと共にテントを立てた。立てたあとは各自で食料調達となった。シリヤスレイで購入した食材もあるのだが、サバイバル力を身につけるために毎日欠かさずやるらしい。しばらく秋エリアを歩き、木の実やキノコを取っているとあるものを発見する。

「あった。松ぼっくり」

松ぼっくりはサバイバルで欠かせない火をおこすのに必要な着火剤だ。しかし、松ぼっくりにも燃えやすいのと燃えずらいのがある。それを見極める方法はとても簡単。松ぼっくりの「傘」が開いているか閉じているかただそれだけ。ちなみに開いている方がよく燃える。

ラグクロは松ぼっくりをちょくちょく拾いながら食料調達を続けた。それから五分後、一旦拠点に食料を置きに帰ることにしたラグクロ。すると、ラグクロの上にもみじがひらりと落っこちてきた。

「ほんとに秋なんだな…」

どこを見てももみじとイチョウで埋め尽くされている。こんな絶景があるのに危険区域のエリア内なんて信じられなかった。ラグクロが秋エリアの景色に見とれていると、海辺から黒い影が勢いよく飛んでくる。地上からはるか上空に飛んだ黒い影はラグクロの前に着地し、葉っぱが四方八方に舞い上がる。

「なっ、なんだ」

この危険区域に自分たち三人以外に何者かがこの区域にいると思い、ラグクロはザルトから貰った武器「神獣-朱雀-」を手に戦闘態勢に入る。

「見て見てラグちゃん。魚がこんな沢山取れたよ!」

黒い影が降り立ったところから、聞きなれた声がラグクロの耳に入ってきた。ラグクロはなんとも言えない顔をしながら武器を下ろした。

「お前、急に上から現れんなよな!」

「だって一番最初に見て欲しかったんだもん」

「お前、ほんとに妹みたいになったな」

「っ!?」

ラグクロはぼそっと思っていたことを口にして、網の中でピクピクしている魚たちに 目を向けた。中には鰯(イワシ)や鮭(サケ)、秋刀魚(サンマ)など秋ならではの旬の魚がいる。それに加えて、鰻(ウナギ)や鯵(アジ)も…

「ってお前、夏エリアも行ったのか!?」

「行ってないよ。海泳いでただけ」

ラグクロはこの時察した。泳ぎで夏エリアまで言ったのだと。ラグクロはシーシャのポカーンとした顔を見てため息を一つついて、拠点の方に歩き始めた。


拠点に戻ってきた二人は、ひとまず持ってきた食材をカルシファーに見せた。食べれるものかどうかの確認のためだ。サバイバル力を身につけると言っても、毒があるかどうかなんて今すぐに見分けられるわけもない。これに関してはベテランに任せるしかない。と言っても、知識ゼロというわけでもない。幼いころに村の書庫に通っていたため、それなりに知識はある。暇で暇で仕方なかったから、知識をつけようとしていた幼い自分に今は感謝している。

「ラグクロ君が持ってきたのは全て大丈夫っスね。シーシャちゃんの方は…後で確認するっス」

カルシファーは網にいる大漁の魚を一つ一つ確認するまでの気力はなかったらしい。ラグクロも苦笑いをして、カルシファーの気持ちを察した。

「生活に必要なものはだいたい確保できたっスから修行を始めるっスか」

「……」

ラグクロは修行と聞いて冷や汗をかいて笑った。いよいよ始まるという緊張とどんな魔物が現れるかというワクワクが同時に感情を支配したからだ。一方シーシャは、未知の世界を探検する気分でウキウキしている。彼女には緊張は全くないように見える。そして三人は秋エリアと夏エリアの境にあるンナガの木まで歩いた。

「ここから先は魔物たちが現れるっスよ」

「なんでそんなことがわかるの?」

「ここにあるンナガの木は、魔物が嫌う毒を出してるんスよ。安心してください、人間には害はないっス。でも、この木を超えれば命の保証はできない」

いつものおちょくる口調と打って変わって、圧のある口調になっているのが真実味を増している。

「君たちはここに来た時、なんでこんな綺麗な場所が危険区域なんだと疑問に思ったはずっス」

カルシファーの言う通り、二人は絶景もあるこの場所がなんで危険区域に認定されているか分からなかった。

「まぁー無理もないっスね。なんせまだ本当の恐ろしさを体験してないんスから」

カルシファーは呟いた。そして三人はンナガの木の奥へと入る。特に入る前と変わらない。唯一変わったのは、カルシファーの顔からおふざけが消えたことだ。いつどんな時でも、おちゃらけのカルシファーが気にかけるほどの大物でもいるのだろうかとラグクロは若干不安になる。

「言い忘れたっスけど、秋エリアは一番魔物が弱いエリア。春エリアに行くにつれて強くなっていくっス。つまり、ここで苦労してるようじゃまだまだヒヨっ子っス」

歩きながらカルシファーはそう口にした。ヒヨっ子と言われるのはこれが二度目だ。最初はカチンと来たのだが、今は言われてもカチンとは来ない。むしろその通りだと思う。なんせ奥に奥に行くにつれて、ミノタウロスとは別の不気味な気配を感じる。その気配にラグクロは体に無数の針が刺されたような痛みに襲われた。そんな痛みと戦っていると、人間のサイズより一回り大きい狼が一体、普段見かける鳥より小さい鳥が五体が目の前に現れる。

「狼の方がヴラウドウルフ。鳥がポロックっスね。秋エリアは大抵こいつらが相手になるっス」

「ガルルルル」

ヴラウドウルフは腹が空いているのか、口元からヨダレを垂らしている。相手が狼であったことは始めてではないが、二本足で立つ人狼型の狼は初めてだ。すると、ヴラウドウルフが三人に向かって襲いかかって来た。ラグクロは朱雀を手に持ち、引っ掻き攻撃を受ける。予想より爪が長かったため、頬や服に引っ掻きあとがついてしまったが別に大した傷ではない。攻撃を繰り出したヴラウドウルフはくるっと回転し、再びラグクロに向かって攻撃を仕掛ける。

(右側からの爪攻撃。だったら、かわして懐に入って逆側から斬る!)

ラグクロは宣言通りにヴラウドウルフを斬った。しかし次に空からポロックの攻撃、炎の玉が襲いかかった。ラグクロは炎の玉をかわして一度息を整えようとするのだが、たちまち無数の炎の玉が降りかかる。

「水魔法 水沫墻壁(すいまつしょうへき)」

ラグクロは水魔法で水の壁を生み出して姿勢を整える。整えたはいいのだが、四方向のうち二方向しか防ぐことが出来ないため頭を休ませられない。ポロックたちは連携をして、全方向から一斉に攻撃を仕掛け、ラグクロに見事ヒットして大爆発を起こす。

「ラグちゃん!」

シーシャは自分の武器を手に取りラグクロの元へと走ろうとするが、それをカルシファーが止める。シーシャは離してと強く物申すがカルシファーは離してくれなかった。

「シーシャちゃん。彼を信じるっス」

「でも…」

土煙が蔓延してだんだんラグクロの姿が見えかけた時煙の中で何かが蠢く。生き物のようなそうではないような、とにかく変な動きを続ける。するとその変な何かは指の第一関節ぐらいの大きさで動きが止まる。

「水魔法 水弾 ガトリングバージョン」

煙の中でラグクロが叫び、指の形のものがポロックに向かって行った。ポロックたちはラグクロの攻撃を回避出来ず、射抜かれそのまま地面に墜落する。

「ふぅ。やっと倒せた」

ラグクロは一安心して、その場にしりもちをつく。たった一戦を交えただけなのにもう疲れた。攻撃の回避やカウンター、防御などを考え続けるため、疲労の蓄積速度が段違いなんだと分からされる。

「一時はどうなるかと思ったっスけど、頑張ったっスね」

「ラグちゃん心配したよ〜じゃなかった。あまり私を心配させないで」

シーシャが泣きながら抱きしめてくるのだが、すぐに離れパッと泣き止んで怖い顔をしながら上から物申してきた。

「お前情緒不安定すぎるだろ」

「私はいつもこんな感じだけど」

「絶対違う。お前、何か悪い物でも食べたか?それともどこか打ったか?」

ラグクロがシーシャの肩を掴んで本気で心配する。いきなり掴まれたシーシャは思わず、顔を赤らめてラグクロを投げ飛ばした。状況が全く理解できないラグクロはシーシャに投げ飛ばされて、動くことなく倒れていた。


♢生得世界

訓練を始めてもう四時間ほど経過して、太陽も暮れかけている時間帯で今日の訓練は終了になった。夜になる前に拠点へ戻り、秋エリアで取れる食材とシリヤスレイで購入した肉や調味料で料理を作る。ちなみに今日の晩飯は、肉とじゃがいもがいっぱい入ったシチューだ。早速食べてもらおうとカルシファーとシーシャを呼ぶ。

「おぉ!美味しそうっスね」

「冷めないうちに食べちゃいましょう」

ラグクロはカルシファーの分のシチューを容器に入れてテーブルに置いた。ラグクロは、この一連の流れでモヤモヤが溢れる。そのモヤモヤの正体はラグクロにも理解出来ている。

「シーシャちゃん遅いっスね」

このモヤモヤの正体は、シーシャがいないことに関連している。いつもタコのようにラグクロに吸い付いて弄(いじ)ってくる。このくだりがもうラグクロの身体に染み付いている。突然それがなくなってしまい、身体が勝手にあの弄りを求めたのだろう。そんな自分にラグクロは驚いていた。

「俺ちょっと見てきます」

ラグクロはシーシャ用のテントに足を運んだ。テントの近くに着いて、もう一度シーシャを呼びかけても応答がない。ラグクロは一度謝ってテントの中に入った。だが、そこに彼女の姿はなかった。

料理を作っている最中はずっと外にいて、テントの出入りは目視できる距離にある。だが、テントから出ていったのは目撃していない。つまり、シーシャはここにいるはずなのだが…

「あいつどこいったんだ?」

ラグクロは辺りを探索するが、怪しいものは何も見つからなかった。どういうことかとそこにあぐらをかいて考えていると、床が微妙に光っていることに気がついた。テントを持ち上げて見ると、そこには黄色で作られた魔法陣があった。黄色の魔法陣は、描いた本人の心の中を具現化した世界「生得世界」を作る魔法陣だ。彼女は間違いなくここにいる。ラグクロはある言葉を魔法陣に向けて言い放った。儚いことを例えるときに使う美しい言葉を…

「夢幻泡影(むげんほうよう)」

すると魔法陣が光だし、ラグクロを魔法陣の中へ引きずり込む。引きずり込まれたラグクロが目を開けると、そこには教会がぽつんと建っていた。ラグクロはその教会を見てすぐにわかった。幼い頃から見慣れていて、今となっては懐かしいと感じてしまう教会だと。ラグクロは無意識に教会の扉に手を伸ばした。感覚はちゃんとあることを確認して扉をそっと開けた。中は真っ暗で何も見えなかった。ラグクロは中に入るため、一歩扉の奥へと足を踏み入れると思ってみないことが起きた。教会の中に床などなく、そのまま真っ逆さまに落ちていったのだ。

「うわぁぁぁぁ!」

真っ暗で底が見当たらない。しばらく暗闇の中を落下していくと、突如地面に激突する。その時ラグクロは頭から落ちていたため顔から着陸した。痛ってぇと叫びながら起き上がり周りを見渡す。そこには花が一輪咲いていた。こんな暗い中で咲いている花になぜか引き寄せられ、ラグクロは花に触れる。すると、その花を中心に真っ暗だった景色が段々と色づいていく。地面一面に色とりどりの花が咲き誇り、空は夕闇の頃のピンク色。

「これがシーシャの生得世界…」

彼女の生得世界に魅了されていると、どこからかカサカサと音が耳に届く。ラグクロは音のした方に目を向けると、そこにはピンク色の髪で五歳ほどの白いシャツを着た幼女が花を積んでいた。ラグクロが恐る恐る近寄ってみると、気配を感じたのか幼女が振り向き目と目があってしまった。ラグクロは呆然としていた。幼女が幼かった頃のシーシャと瓜二つだったからだ。驚きのあまり声が出ないラグクロに幼女は接近する。

「大きくなったラグちゃんもかっこいいね!」

少女はそういうと満面な笑みをラグクロに向けた。

「お前…やっぱりシーシャなのか?」

笑みを見せる幼女はラグクロの質問に縦に頷いた。

「どうしてこんなに幼くなったんだよ」

「だって私、本物じゃないもん」

「は?」

その後、目の前にいるシーシャから、自分はこの生得世界の住人である事を教えてもらった。それから生得世界の事も。

生得世界は、ありとあらゆる生物が持っていて、その世界は本人の性格と感情によって毎回違う景色を映し出す。しかし、生得世界には「核心」という核領域があり、その領域だけは真っ暗で核の明るさしかない。その核こそが本体の心臓という説があり、その核を壊せば本体が死に至るらしい。

「どう?これで少しはわかったかな?」

「あ、あぁ。ところで君はなんでこんなところにひとりで?」

「それはね。私お花を積んでたの。ラグちゃんに渡したくてね」

「え?ここに俺がいるのか?」

「ううん。今私の目の前にいるラグちゃんに渡したいなーって」

シーシャはラグクロに花束を渡した。その花々にラグクロは疑問に思うことがあった。積まれた花々は咲く季節がばらばらだったのだ。辺りの花に目をやっても同様に咲く季節がばらばらだった。カーネーションやストック、黄色のガーベラのように春に咲く花にブルースター、マーガレットの夏に咲く花まである。その他にもキンモクセイ、コチョウランなどどの季節にも咲く花が至る所にあった。ラグクロは花に関してそれほど知識はないため、この花々にどんな共通点があるか分からなかった。

「なんかラグちゃん難しい顔してるね」

「そんなに顔に出てたか?」

「気づいてないと思うけど、ラグちゃんはすぐ顔に出るんだよ」

(し、知らなかった。今後気をつけよ)

「で、なにか分からないことでもあった?」

ラグクロは話そうか少し考えてからシーシャに伝えた。ここにある花々の共通点はなんなのかと。すると、シーシャは背を向けて「内緒」と可愛らしく顔をラグクロの方に向けた。そしてラグクロはもうひとつ聞きたかったことを質問した。

「ホントのお前はどこにいるんだ?」

この質問に目の前にいるシーシャは間を空けて質問してきた。

「"緊急"の用事?」

「あ、あぁ。一応緊急だと思う」

晩御飯の準備が終わって食べ始めているという連絡なので緊急と言えば緊急だ。しかし、目の前にいるシーシャは顔をニヤニヤさせて手を掴んできた。

「これ以上は隠せないよね」

「?」

「行くよ。"緊急"なんでしょ。私が連れて行ってあげる」

そう言って連れていかれたのは、花が咲き誇り川が流れている場所だ。そこに水車が設置してある小さな家がぽつんとあった。

「着いたよ。あそこの家にいるよ」

すると、シーシャは一目散に家の方へ走っていった。ラグクロも置いていかれぬように走り出す。

家の前まで着いた二人はもう一度手を握りしめて扉を開けた。扉を開けた途端に、複数人の声が聞こえてくる。不思議なことにその声は全員一緒だ。そして顔すらも…


♢九人の顔は同じ顔

「ちょっと"憤怒"それ私のラグちゃん人形!」

「うるさいなぁ"欲望"あなたは数え切れないほど持ってるでしょ」

「それが一番なのー!返して!!」

「うわっ、急に来ないでよ気持ち悪い」

「痛っ。うぅ〜」

「ねぇ〜誰よ"悲嘆"を泣かせた人」

「泣いてるのはいつもの事じゃない」

(なっ、なんだこれは!!)

ラグクロは目の前で繰り広げられていることに処理が追いつかなかった。一瞬、混乱のあまり倒れそうになったが何とか耐え、ラグクロはもう一度あのカオスな状況を眺めた。

「うふふ。ラグちゃん…ふふ…うふふふ」

「"昂奮"ラグちゃんへの愛表現キモイ。死ね」

「死ぬ!?ひぃぃ、こ、こ、怖ぃぃ」

「"憎悪"、"恐怖"を怖がらせては行けませんよ。もっと仲良くしなくてはなりません」

「"敬愛"私は"昂奮"に向かって死ねって言ったんだ。"恐怖"になんか向けて言ってない」

「それでも死ねと言う言葉使いはダメです。息を引き取れとかだったら構いません」

「言葉の問題かよ」

やはり何度見ても処理は追いつかない。なんなら名前が増えて、より情報が混雑してきた。頭がいっぱいいっぱいなのを見透かされたのか、一緒に来たシーシャが手を強く握ってきて「大丈夫」と満面の笑みで囁いてきた。

「みんなぁ〜帰って来たよぉ〜」

「随分と遅かったですね"恍惚(こうこつ)"。どこまで行ってきたのです…か…」

「お、お邪魔してます」

「「……ラ、ラグちゃん!!」」

彼女たちはラグクロの認識した途端、目が飛び出しそうな勢いで驚いた。

「生のラグちゃんだぁ!!キャー!」

「お、お、落ち着いて"驚嘆"」

「おい"恍惚"なんでラグちゃんを連れてきてんだよ」

「お花を積んでたら偶然現れたんだよ」

「偶然を装いましたね」

「なんの事?」

「しらを切るつもりですか」

「すまないんだが、ひとつ聞いてもいいか?」

ラグクロは話し込んでいる中割って入る。シーシャ達は全員頭を傾け頭にハテナが浮かぶ。そしてやっと、ラグクロは本題に入ることが出来た。

「シーシャはどこにいるんだ?」

「「私だけど」」

「っ…」

一応、ラグクロ自身もこうなることは予想していた。予想した上で言葉が出なかった。あまりにも予想と似ていたからだろう。ラグクロは何一つ突っ込むことなく質問を続けた。

「じゃあ、本物のシーシャはどこにいるんだ?」

「そういえばさっきからマスターを見ていないような」

「い、いつもの場所にいるんじゃないかな」

「"悲嘆"もっとハキハキ喋ろ!聞こえないんだよ」

「ご、ごめんなさい。うぅ〜」

「ひぃぃ。"憤怒"が怒った。恐ろしぃぃ」

誰かが口を開けばそこから話が脱線してしまう。これでは見つけるのに苦労しそうだとラグクロが思っていると"恍惚"が手を握りしめる。ラグクロは驚いて"恍惚"の方を見る。

「私がマスターの所まで案内してあげる。デートの続きしよ」

「「デ、デート!!」」

「おい恍惚そいつぁどういうことだ」

「デートはデートだよ」

「「……だったら」」

そう言うと、小さなシーシャ達はラグクロの体に触れる。手足に腹、背中そして肩車のように首にも乗っられる始末。生得世界の住人にも体重があるのだなとラグクロは密かに思った。一人ならば軽々片手で持ち上げられるのだが、九人ともなればそうも行かない。

シーシャの年齢は出会った時とまんま同じなため五歳。五歳の女の子の平均体重は一七キロ。それがラグクロの体に巻きついているのが九人。つまり一五〇キロ以上がラグクロの体をガチりと掴んでいる。それに加え、彼女達は動きを決して止めない。ラグクロの体に九人もしがみついているのだから、当然足が顔にぶつかることもある。

「痛っ。ちょっと足を顔にぶつけないでくれますか?」

「うふ。これが本物のラグちゃんの感触。うふふふ…」

「ひぃぃ。お、落ちるぅ…死んじゃうー」

「うわっ、腹筋見えた。き、気持ち悪い」

「少し興奮してんじゃねぇかよ。"憎悪"」

「わはは!ラグちゃんに肩車されてる。高い高い!」

「おぉ!これがラグちゃんから流れた汗か。採取しておこう」

「"欲望"ごめんね。それ私の涙」

「ちょっとみんな、私のデートの邪魔しないでよ」

ラグクロの体で起こっている出来事に、持ち主は何も言わず一歩一歩"恍惚"の行く先の後を追いかける。手を引っ張ってはくれているのだが、重りがあるため一歩歩くだけで三秒程時間を使ってしまう。なので本人としては、トコトコ歩いて引っ張るのはやめて欲しいのだ。

そんなこんなで普通に歩いたら一瞬で着くところを一分半かけてたどり着いた。

「この扉の奥にマスターがいるよー。入って入って!」

「…」

ラグクロはドアハンドルを掴む前にあることを思い出した。この世界に来てすぐの出来事だ。

(また落っこちるとか流石にないよな…"恍惚"に連れてこられたから不安だなぁ)

ここに来てわかったことなのだが、"恍惚"はからかい癖がある。ラグクロは、自分にまだ何かを隠していることがあるのではと疑心暗鬼になっていた。この状況も同様だ。ここに連れてきたのは"恍惚"で、この扉を自分では開けずにあえてラグクロに開けさせている。何かあってもなんなおかしなことではない。しかし、意を決してドアハンドルを掴み扉をかける。扉の奥から光が差し込んだ。目が慣れたところで扉の奥に目を向ける。そこには予想だにしないシーシャがそこにいた。

「うへへ。ラグちゃんの匂い。す〜、はぁ〜…」

いたのは本物と同じ背丈のシーシャだった。しかし、普段見る彼女とは何か違って見えた。それにシーシャが持っているシャツはラグクロの私物で、そのシャツに自分の鼻をつけクンカクンカと匂いを嗅いでいる。しかもそのシャツは…

「な、なんで昨日着てたシャツがここにあるんだよ」

ラグクロの声に反応してシーシャはビクッと体が硬直した。そして彼女は、ここにラグクロがいることが予想外すぎて、無意識にシャツを後ろに隠し、なんでいるのか尋ねてきた。

しかし、ラグクロは要件を言う前に自分のシャツを奪い取ろうとシャツに手を伸ばす。すると、なぜかシーシャは目を軽く閉じて唇を少し尖らせる。それを見ていたちびっこいシーシャたちは「おぉ!」と期待の目でラグクロを見ている。当の本人は表情を変えることなくシーシャ(後ろに隠したシャツのため)に手を伸ばし続ける。

(ラグちゃんが積極的に!やっとあのラグちゃんも私の気持ちに気づいて…ってあれ?)

「シーシャお前、昨日のシャツがどこに行ったか知ってるかって聞いた時知らないって言ってたよな。ってかこれ返せよ」

「うわぁ〜、私のラグちゃんが着たシャツ〜」

「お前のじゃない」

シーシャからシャツを回収して、ちびっこいシーシャたちに「こいつが本物なのか?」と問う。ちびっこいシーシャたちは互いの顔を見つめ合いながら首を横に曲げる。このモーションでラグクロは察した。すると"恍惚"が口を開いた。

「ラグちゃんには悪いんだけど…あれがマスターの本当の姿だよ」

「エェェ」

「明らかに嫌な顔するのやめてラグちゃん」

「なんでこんな気持ち悪いというかとね……」

"恍惚"は軽々と話を進ようとするが、他のシーシャたちが止めに入った。これはラグクロが聞いていい話ではないためだ。

「そんなことより、マスターに何か伝えることがあったんだろ」

「それはまぁ」

「えっ、なになに?」

「もう遅いかもしれない(シチューが冷めきっていること)が一応伝える」

「え?」

(この流れって告白だよね?それ以外ないよね?)

シーシャは妄想でトロ顔になっていたのを自覚したのか、自分の顔に平手打ちを繰り出した。ラグクロから見たシーシャの行動は疑問だらけなのだが今はスルーする。

「シーシャ」

「っ!?…はい」

「夕食が作り終わったから食べに来い」

「……はい?」

「だからカルシファーさんが今ひとりで食べてるんだ。あの人の好物だからそもそも残っているかどうか…なかったらお前夕食ないぞ」

「っ〜!なんでそんなこと今言うのよ!!絶対言うセリフ間違えてる!」

「あっ、シーシャ待てって」

大声で叫びながらシーシャは部屋を出て行き、そのまま生得世界を出るだろうと感じたラグクロはあとを追いかける。その二人の背中を見てちびっこいシーシャたちは「私たちの恋が実ることはまだ先のようね」と一斉にため息をついた。

生得世界を出たら案の定、カルシファーは待つことが出来ず全てを平らげてしまっていた。綺麗になくなっていたシチューを入れていた鍋を見て「私のシチュー!!」と大声で悲しんだ。


♢不安と焦り

早朝。天気は雲ひとつない快晴で比較的昨日より気持ちよく目覚めた。テントの外に出てみると秋風に乗り、色とりどりの葉が宙を舞っている。心地いい風だと呟きながらラグクロは背伸びをして、軽く体をほぐす。

「ふわぁ〜…おはよぉ」

体をほぐしている途中に別のテントから寝巻き姿のシーシャがひょこっと顔を出してきた。ラグクロはシーシャに朝の挨拶を返してジョギングを開始した。これは地元でも日課としていたルーティンのひとつだ。並列されているンナガの木を辿って秋エリアの拠点から端までを往復した。

帰ってくる頃にはシーシャは寝巻き姿から動きやすい姿に着替えていて、カルシファーが朝食を作ってくれていた。

「お疲れ様っス。朝食食べる前にシャワー浴びて来てくださいっス」

「分かりました」

ラグクロは拠点から離れた小さな湖に来た。当たり前だが、こんな無人島にシャワーなんてあるわけがない。そのため、水が溜まっている湖に行く必要があった。

ラグクロは服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて足を水に浸からせる。そして水魔法で湖の水を宙に浮かせて、雨のように降らせ人工シャワーで汗を洗い流す。

「……覗きは良くないぞ」

「っ!」

覗いていたのはシーシャだ。生得世界を訪れた一件から妙にシーシャがラグクロをいやらしい視線で見ている。現に今も素っ裸のラグクロを草むらから覗いている。覗きは良くないと指摘すると、開き直ったのか呆気なく姿を現して再びラグクロを見る。

「おい、何してんだ?」

「覗きは良くないって言われたから直接見てるの」

「なんでそれがいいと思ったんだ。あと…恥ずかしんだけど」

「大丈夫。恥じらうラグちゃんもまた良い!」

変態感が増したシーシャを水魔法の力で拘束して、湖の反対方向を正面にして固定した。それでもシーシャは変わらなかった。拘束されたのに「音でラグちゃんを聞く。良い!」とポジティブに物事を考えている。考え方が変態でラグクロとしては引くレベルだ。

ラグクロはシーシャのせいでちゃちゃっと汗を流し落として拠点に向かった。その際にもシーシャはラグクロの匂いを嗅ぐため、体に鼻が当たるか当たらないかスレスレを維持していた。

「シーシャ。少し離れてくれないか」

「ラグちゃんの匂いを前にして離れることなんて出来ませーん」

結局シーシャはラグクロの体から離れることなく拠点に戻ってきた。帰って来て早々にカルシファーがラグクロに彼女どうした的なことを聞かれ、ラグクロはその問いにこっちも聞きたいと返答した。

シーシャの件はひとまず頭の隅に閉まっておき、今日から本格的に始まる修行に集中する。修行内容は島を一周して拠点に戻るというものだ。シーシャも同様にこの島を一周するらしい。ひとつだけ違うのは順路が真逆ということだ。理由は二人だとサポートができ簡単にことが進まる可能性があるし、シーシャと共に進めば陣形も組めてしまうからだ。以前倒したゴーレムもラグクロとシーシャでやっと。なんならゴーレムとの戦いでラグクロは意識を飛ばしている。そんなのがうようよいると考えるだけで不安になって来る。だが、今回はルート確認ということもあり三人(カルシファーは手を出さない)でこの島を一周することになった。

ンナガの木を越えてから時間は流れに流れ、ラグクロたち一行は昨日も戦ったヴラウドウルフの群れと戦闘を繰り広げていた。シーシャはもちろん、ラグクロも武器を用いて何とかついていけている。そして秋エリアと冬エリアの境目に到達した。

「着いた〜冬エリア!!」

「やっぱり二人だと楽々に行けるっスね」

「ほとんどシーシャの手柄ですけどね」

ラグクロの言う通り、この境目に向かう途中はシーシャが真正面から突き進みザクザクと魔物を自慢の武器で仕留めていた。

ラグクロは自分とシーシャの圧倒的な力の差を前にして不安と焦りに襲われていた。しかし、二人に心配などかけたくないラグクロはそのことを二人に黙って、冬エリアに足を踏み入れた。


冬エリアは秋エリアと変わって険しい山が立ち並んでいる。それに加え、雪が辺りに降り注ぎ、空風の冷たい風が身を凍えさせる。

こんな過酷な状況下で、エリア内に住む魔物たちは餌を求めて縄張り争いを繰り広げている。

「ここにいる魔物はほとんど寒さに耐性がある連中ばかりっス。一方こっちは炎魔法を維持し続けなければ勝機はない。つまりは相手に有利な状況下での修行っスね」

「うぅ〜、魔法で体温上げてるのに寒すぎるよぉ〜。こんな服で来るんじゃなかった」

シーシャはそう言っているが、「夏エリアだと暑すぎると死んじゃうっスよ」とカルシファーがツッコミを入れる。

確かに夏エリアはこの真反対の気温。上着を多く所持していたのでは、却って邪魔になる。服の部分でも秋エリアの強みが出でいる。夏でも上着を脱げば半袖となり、極暑でも耐えられることが出来る。なんなら海パンも用意している。

三人がそれぞれ夏エリアが恋しいと感じていると、目の前に立派な象牙(ぞうげ)を持つ巨大な象が現れた。

「パオーン!!」

巨大な胴体に合った迫力のある鳴き声を披露して見せたのは、この冬エリアに暮らしている哺乳綱長鼻目ゾウ科マンモス属に属するディドゥラだ。胴体は三メートルを軽く超え、象徴とも言える牙は五メートルという大きさ。別名「極寒の地の番人」と言われているほど恐れられていた魔物。しかし、この島にいるディドゥラ以外は絶滅しているので知名度は低い方に分類される。知名度は低いと言えど、爆発的な攻撃力を持つ魔物には変わりない。

そんなディドゥラが今まさにラグクロたちに鼻で攻撃を仕掛ける。地面諸共吹き飛ばして迫ってくるディドゥラの鼻を回避する。

「風魔法 嵐の衝撃(テンペスターインパクト)!」

回避した直後に背後から攻撃を仕掛けるラグクロだったが、それほどダメージはなかった。なぜならディドゥラの身を覆う体毛が本体に当たる前に攻撃を弱体化させてしまうほど硬いため、本体にはあまりダメージが入らないのだ。

しかし、そんな巨大なディドゥラでさえ弱点はある。その弱点というのは言わずと知ることになる。

「炎魔法 不知火(しらぬい)!」

ラグクロに集中していたディドゥラの真上から、シーシャの拳が猛スピードで落下してきてディドゥラの頭に激突する。何が起きたか理解できないディドゥラは脳震盪(のうしんとう)を引き起こしてその場に倒れてしまった。

ディドゥラを一撃で倒した本人は、これくらいで倒れないでと蹴り起こそうとしていた。それで本当に起きても困るのでラグクロが割って入る。だが、シーシャの願いが叶ったのかディドゥラが目を覚まし、起き上がろうと体を動かし始めたが、脳震盪が完治せず起き上がることさえままならない状況だった。

そこで終わればそれで良かったのだが、ディドゥラは体が起き上がらないと悟ってパオオーンと大きく鳴き始めた。

大きく鳴いたと同時に三人の危険信号が激しく点滅し始めた。

「これはマズいっスね…」

状況はカルシファーの言う通り最悪な展開へと発展することになる。ラグクロたちがいるところに迫ってくる足音がドスドスと四方八方に聞こえ始めた。音を立てて迫ってきているのは、鳴き声に反応したディドゥラの群れだ。

ゾウ科の生き物には一種のコミュニケーションが存在していると言われているらしく、倒したディドゥラが最後に鳴いたのは近くにいる仲間にSOSを出したのだと考えられる。しかも、鳴き声は四キロから五〇キロまで届くと言われている。そのため、普段群れで活動している仲間が来ると考えられ、少なく見積もっても十五体はここへやってくる。

「一時ルール変更っス。俺も加わって向かってくるディドゥラを倒すっスよ」

「「はい!」」

三人は戦闘態勢に入り、向かってくるディドゥラの群れを向かい打つ準備をする。足音が徐々に近づいて来て、三人に緊張が走る。そしてついに奥からディドゥラの群れが姿を現した。

相手側も倒れたディドゥラを目視し威嚇する。その鳴き声を合図に戦いは幕を開けた。

「ディドゥラの弱点はあの特徴的なコブ部分。あそこに強力な炎魔法で叩けば一時的に戦闘不能になるっス」

「ディドゥラって何?」

「あの迫ってきてるやつのことだ。動かすのは口じゃなく頭にしろ」

「なんか変な名前」

(こいつと話していると緊張しているのが、馬鹿みたいに思える)

そんな話をしていると辺り一面に影が作られ始め、二人は認知した途端に後ろにジャンプして回避する。しかし、空中に浮いている間に他のディドゥラが長い鼻をありったけ伸ばしてラグクロの真横から迫り来る。

マズいと思った瞬間に受け止める体勢をとったが、「ラグちゃんっ」と悟ったシーシャが風魔法で身動き出来なかったラグクロを自分の元へと動かした。

ラグクロはいきなりのことに戸惑い、無意識にシーシャを抱きついてしまった。しかも胸に顔を埋めながら…

「いやんっ、ラグちゃんのエッチ。そんなにおっぱいに顔埋めたいならこの戦いが終わったあとね」

「お前子の状況楽しんでるだろ?」

「えへへ」

シーシャはもうしばらく埋もれてていいよと言ってラグクロを誘惑してくるのだが、ラグクロは着地してすぐにたわわから離れて邪念を捨てるためより集中する。

そして、ディドゥラ目掛けて走り勢いよくジャンプする。その勢いを殺さずに右手を上に掲げ魔法を発動させる。

「炎魔法 火柱ノ箭(ほぼしらのや)」

ラグクロが繰り出した技はディドゥラの弱点に命中。弱点を撃ち抜かれたディドゥラは、一時的に体が麻痺しその場に横転した。

しかし、こうしている間にも次々に数は増えていく。やっと一体倒せたのでは、時間が経つにつれラグクロたちの勝機は薄れる。

そのことをラグクロは理解していた。顔には出ていないが、内心吐き気を催すほどに不安と焦りで押しつぶされそうだった。

(俺が二人の足を引っ張ってる。不規則生物(イレギュラー)にミノタウロスを倒して、強くなったと思い込んでいただけなんだ。俺はスタートラインに立つ権利を与えられただけで、スタートすらしていない)

ラグクロはディドゥラを倒し続けながらそんなことを考えていた。そのせいで攻撃に力が入っておらず、相手からすれば蚊に食われた程度の痛みだ。そして、考えているラグクロに猛スピードで迫り来る鼻攻撃を浴びせた。

「ぐはぁ」

鼻攻撃をもろに食らったラグクロは背中から地面に思いっきり墜落。意識が飛びそうになる程のスピードで墜落したため、血を大量に吹き出し、身を守るために盾にした右腕は折れてしまった。

ラグクロが危ない状況だと察したシーシャとカルシファーだったが、ディドゥラに苦戦を強いられラグクロの元へ向かうことが出来ない。

(不味った、右腕折れた。ただでさえ二人に負担かけてるのにかさ増しさせてんじゃねぇよ)

ラグクロは折れた腕の痛みを我慢して立ち上がり、目の前で上からこちらを見ているディドゥラを睨んだ。そしてラグクロはディドゥラに向かって無我夢中で走った。

(腕が折れてまともに戦えないのなら、せめてコイツだけでも…今出せる全力をぶつけろ!!)

ディドゥラが危険を察知して先に鼻で攻撃を仕掛けるがラグクロはその攻撃を回避、鼻に着地して弱点の元へと向かう。

そして弱点のコブに全力の拳をぶつけたが、ディドゥラには体に大砲が当たった程度のダメージ。胴体の大きさや特徴的な体毛で人間で言い表せば、思いっきりビンタされた痛みと同じだ。そんなヒリヒリする痛みを我慢すれば耐えられる程しか与えられなかった。

しかしラグクロは諦めなかった。全力で撃った拳の皮膚から血が溢れ出している。普通なら痛がってもおかしくない拳をまた強く握る。

(もう全力は出せないけど諦めるな!拳を握り続けろ!コイツが倒れるその時まで!!)

だが、ディドゥラは体をブルブルも揺らし、ラグクロを振り払って身動きできないラグクロを地面に叩きつけた。ラグクロは限界を迎えたのか、倒れてからピクリとも動かない。そんなラグクロにとどめを刺すかのようにディドゥラは右前脚を真上に上げる。

それを見たシーシャがラグちゃんと叫びながらラグクロの方へと向かうのだが、他のディドゥラが間に入りシーシャを食い止める。

「はぁ…はぁ……」

意識を取り戻したラグクロだったが、その時にはもう手遅れだった。ラグクロの耳に入るのは、シーシャの悲鳴と自分の微かな心拍音のみ。

踏まれてから僅か七秒で息を引き取るには十分なほどの血が流れ始めた。

そしてここから、戦いは新たな展開へと突き進むことになる。


♢黒い魔法

ラグクロが踏み潰される一秒前。ディドゥラが足を踏み下ろす最中の出来事。意識を失っていたラグクロにあることが誰の目にも目視できない速さで起きていた。

そして、脚がラグクロを踏み潰した現時刻。目にも留まらぬ速さで、ディドゥラの右前脚が切り刻まれて行く。突然の状況に脚の肉を削ぐ音とディドゥラの悲鳴、そして聞き覚えのある笑え声以外聞こえず、この場を目撃した皆は呆然と見ているだけだった。

切り刻む音が終わり、黒い影がディドゥラの上で静止した。シーシャとカルシファーは、その影を見て衝撃を走らせた。姿形はラグクロなのだが、黒い何かが体半分を覆い、まるで煽るように薄気味悪く口角を上げる。

その姿を一番近くで見ている脚を切り刻まれたディドゥラは、脚の痛みが一気に吹っ飛んである一つの圧で脳内がいっぱいだった。今のラグクロから漂う死の薫りを嗅いで、数秒後の自分に降り注ぐ圧に恐れていた。

案の定、ラグクロを踏んでから約七秒後ディドゥラの体から息を引き取るには十分な血が流れた。

でも、確実に息を引き取ったディドゥラに笑を絶やさないラグクロは突進し、どす黒い何かが両腕に集まり、ディドゥラを鷲掴(わしづか)みできるほどの大きい手を作り出して体毛を、皮膚を、肉を乱暴に毟(むし)り取る。

その姿を言い表すのにピッタリの言葉が思い当たる。その言葉とは…

「悪魔…」

カルシファーがボソッと口にした言葉。続けて近くにいたシーシャにあれはなんだと問い詰めるが、シーシャは聞く耳を持たない。彼女も彼女で絶望していたからだ。

「こんなに早いなんて聞いてない。止めなくちゃ…」

「シーシャちゃん。あの姿はなんなんっスか?ほんとにラグクロくんなんスか?」

「事情は後で説明します。だから今はラグクロを止めないと」

肉を引きちぎるラグクロは飽きたのか、動きを止めて当たりを見渡す。無数にいるディドゥラの方に目をやって恐ろしく笑い、腕を元に戻して背中に黒い翼を生やす。この翼を動かしてディドゥラたちの元へ飛ぶ。

瞬きする間にラグクロは目の前まで迫り一体を瞬殺。それから次々と豆腐のように切断し始める。

「あれがラグクロ君なんて思えないっスね」

「私に作戦があります。カルシファーさんは隙を作ってください」

「了解っス」

しかし、カルシファーには問題があった。今のラグクロに立ち向かえる魔法がない事だ。

ラグクロが今悪魔と仮定するなら、ラグクロが使っている魔法は厄災系の魔法と言える。つまり、自然系と特殊系を兼ね揃えるカルシファーでも魔法でダメージが与えられないのだ。

というわけで、対抗出来る頼れる助っ人をお呼びした。助っ人とはベルセリアのことだ。

呼び出したベルセリアは状況と目的を既に知っていた。さすがと言うべきだろう。そのまま、絆(リンク)で力を融合させる。

増大に膨れ上がる魔力を察知したラグクロは、カルシファーの方に顔を向けて、またしても口角を上げる。そしてもう一度翼を生やし、まるで引き寄せられるかのようにカルシファーの元へ飛んで行く。

「悪いっスけど、始めから本気で行くっスよ」

そう言うとカルシファーは、ベルセリアの眷属(けんぞく)の妖精の力を借りて攻撃魔法を唱えた。

「精霊風魔法 妖精ノ竜巻(フェアリートルネード)」

カルシファーの放った攻撃はラグクロに襲いかかったのだが、ラグクロは小さな黒い球体を攻撃が降り注ぐ前に生み出して、自分の顔の数センチ前に固定させる。そしてそのままの状態で、竜巻の中に自ら入る。

カルシファーは酷く驚いていた。竜巻に突っ込む意味不明な行動もそうなのだが、別のことでさらに驚いていた。

「っ!?攻撃が当たっていない」

ラグクロが生み出した黒い球体に風が吸収されている。そのためカルシファーの攻撃がラグクロに直撃することなく、スムーズにカルシファーに迫って来た。

そして翼を広げてスピードを落とし、黒い球体を掴んでカルシファーの中腹部にぶつけた。ラグクロの攻撃は防ぐ間もなくクリーンヒットし、カルシファーは遠くへ吹き飛んだ。そして、吹き飛んで行ったその先にあった岩壁に激突する。

(なんスかあの球体は…全く攻撃効かないじゃないっスか。それでもってめちゃくちゃ痛いし)

見るとカルシファーの額から血が流れている。しかしカルシファーは立ち上がり、ラグクロを睨んだ。恐らくこれは、彼なりのシラフになった時にただじゃおかないという合図だろう。

それからカルシファーは、ゼフを出して暴走するラグクロの元に一気に接近する。しかし、簡単には近づけさせてくれなかった。

ラグクロはカルシファーに邪悪に満ち満ちた黒い球体を放つ。地面を抉りながらカルシファーに向かってくる。

(マズいっスね。これを喰らったらひとたまりもないかもっス)

一瞬にして黒い球体は目の前まで迫り来た。

カルシファーは額に冷や汗をかくが、迷わずラグクロの元へ進み続けた。そして当たるかと思った球体は、ギリギリのところでベルセリアが予め用意していた風で上に逸れ当たることはなかった。

ラグクロはそれを見て酷く驚いていた。カルシファーは動きが一瞬止まったのを見逃さず、懐に潜り込み武器を振りかざす。剣を魔法でハンマーに替えて、ラグクロの溝あたりにクリーンヒットさせる。

そのままラグクロは吹っ飛ばされ、宙に飛んでいく。それを追いかけ、もう一度真下に向け振りかざす。

『やったの?』

「ベルセリア、それフラグっス」

手応えはあったとはいえ、ダメージを受けた様子が見られない。なんなら、黒いモヤがさらに侵食して腕が四本に増えた。このままだとラグクロが謎のモヤに飲み込まれ、二度と元には戻れなくなる可能性がある。

早いところ止めなくてはと思っていると、ラグクロがまたもや黒い球体を作り出す。腕が増えたことにより当然だが、球体が四つに増えている。先程よりは大きくはないが、数の暴力によって避けれるのか定かではない。でもシーシャの言われた通り、腕を固定させ隙を作ることには成功した。

すると、ラグクロの背後にシーシャが忍び寄り、「緘(かん)」と背中に手を当て口にした。するとシーシャの手から縄のような物が現れ、ラグクロを縛る。縄はラグクロを縛ると目に映らなくなった。目が認識すれば、縄を振り払うことができてしまうから見えなくさせたのだろう。

ラグクロは反対方向に力ずくで引っ張る。だが、カルシファーがそれを黙って見過ごすなんてことはせず、ラグクロの全方向に強風を浴びさせ、体勢を崩させる。

そしてシーシャは「封(ふう)」と口にする。すると黒いモヤがラグクロの体から縄を伝って、シーシャの体に入って行く。

ラグクロは悶え苦しんだ。頭や腕に血管が出るほどに。

「「うおおおァァァァ」」

今まで笑みを絶やさなかったラグクロが、まるで鬼のような顔で二人を振り払おうと体を硬直させる。

二人も負けじと力を強めるが、ラグクロの力には及ばなかった。カルシファーが食い止めていた風は吹き飛び、シーシャは軽々と地面から空中へと持ち上げられた。

「きゃあああ」

「シーシャちゃん!」

カルシファーはラグクロの方に全速力で飛んで行った。どうしてシーシャを助けに行かず、ラグクロに向かったのか。それは、カルシファーがシーシャへの合図的なものだった。言葉を交わさず、意思疎通ができるカルシファーとシーシャなら行動を見れば分かるだろうと判断したのだろう。

その賭けに出てカルシファーは躊躇せず、ラグクロに迫った。

(さっきシーシャちゃんが吹き飛ばされた時、何かにしがみついてるようだった。ていうことは、まだ吸収が続いてる。今が絶好の好機っスね)

カルシファーはベルセリアとの絆を強め、一撃必殺のため力を蓄える。

今までにない魔力量をラグクロは察知し、数え切れない魔力玉がカルシファーに降り注がれる。それも、あらゆる方向から不規則にカルシファーを襲う。

カルシファーは魔力玉の攻撃を回避しつつラグクロの元へ向かうのだが、距離を縮めるにつれて攻撃が読みづらくなり、擦り傷だがダメージを覆うようになってしまう。

(止まるな!まだラグクロ君に近づけ)

カルシファーはじわじわとラグクロに近づく。そしてついにラグクロの懐へと到達する。

カルシファーはシーシャに「今っス!!」と大声で叫んだ。その声を合図シーシャはもう一度「封」と唱え、ラグクロの動きを一瞬だけ止める。

その一瞬でカルシファーは、無防備のラグクロに大技を繰り出した。なるべく痛まず、苦しまずにすむ大技を。

「究極精霊風魔法 風伯ノ風-魂凪(こんなぎ)-」

ラグクロに放たれた大技は、静かに音もなく体に負荷をおわせた。そして名前の通り、魂を身体から一時的に追い出すことが出来る。ラグクロにも同じことをしてみると、予想もしない魂がラグクロから出てきた。

なんとも禍々しく邪悪な真っ黒な魂。カルシファーはそれを見て、言葉が出なくなるほど驚いた。

たった刹那の時間だというのに、カルシファーの脳内に直接刻まれ、忘れることができる気がしない。そんな気がした。

魂がラグクロの身体に戻っていくと、ラグクロを脅かしていた黒いモヤはさっぱりなくなった。つまり、ラグクロは元のラグクロに戻ったのだ。

うつ伏せに倒れようとしていたラグクロを見て、受け止めようと思ったが、その前にシーシャが受け止める。抱きしめられているラグクロを見ると、安心して眠っているようでひとまず安堵する。

「ひとまず拠点に帰って、寝かせるのが先っス」

カルシファーの言葉にシーシャは何も言わず首を縦に振る。相当心配しているのだろう。

カルシファーも怪我を負っているため、自動的にラグクロはシーシャが担ぐことになった。

数分歩いたところで、シーシャが口を開いた。

「黙っていてすみませんでした」

「…別にいいっスよ。隠したいことの一つや二つはあるものっスから」

カルシファーにだって、二人に隠していることは多い。一方的に秘密を明かせなんて、そんなズルいことはカルシファーはしない。

そしてシーシャは、歩きながら事細かに事情を打ち明かす。

「実はラグちゃんにはもう一人死神がいるんです。それも私以上の強さの…」

なんとなくカルシファーは察しはついていた。体を蝕(むしば)む黒いモヤは、悪魔特有のもので、寄生してすぐに最大限発揮できるほど体が馴染んでいるように感じたからだ。

でもその事実があっても信じがたかった。

「ラグちゃんにいる死神は『破滅の死神』と言っていました。そして、ラグちゃんの中で封印されていると…そして体の浸食を防いで欲しいとも言っていました」

体内にいる破滅の死神とやらは、何がしたいのか分からない。普通死神なら人間の体内に侵入し、魔力で侵食させ自分のものにしようとするのだが、それをしないどころかそれを防いで欲しいと願望している。狙いが分からない。

「初めにその死神にあったのはラグちゃんと会って間もない頃でした……」

シーシャはあった出来事を口にした。

話を簡潔に言えば、その死神は五年ごとに自身でも制御出来ないほどの暴走が起きラグクロを蝕む。しかしさっきのような暴走ではなく、あるとすれば頭痛や吐き気などの症状だけだったという。

「その事は誰にも話してないんスか?」

「死神から言われたことなので誰にも…もちろん本人にも…」

カルシファーに話したのは、あの暴走状態のラグクロを目撃してしまったから。あの姿は悪魔そのものだったから隠蔽(いんぺい)しようにも無理だと判断したといったところだろう。

「五年ごとに現れるとはいえ、三回目でもう手が付けられないほどの力になるとは思いませんでした」

三回目(十五年)で破滅の死神の力が手がつけられなくなるほどになったことはシーシャにも想定外だったようだ。

「予想はあくまで予想っスからね」

自分を追い詰めるような発言に軽くフォローを入れ慰める。それでも顔色はまだくらいまま。ラグクロの状態が余程心配なのだろう。

「大丈夫っスよ。ラグクロ君なら…落ち込んでいるより彼のためになる行動をとった方がいいっスよ」

事情が事情なので、目を覚ましたらありのままを本人にも伝えるつもりだ。暗い顔を本人に見せたら罪悪感があると思うし、こちら側も気分を損ねる。なので、彼のためにもできるだけ暗い顔はしない方がいい。

シーシャも理解してくれたのか、自分の頬を叩きいつも通りの顔に戻った。


いつまで寝ていたのだろう。

記憶が曖昧の中ラグクロは目が覚める。見覚えがありそうでなさそうな景色が広がっていた。真っ赤でお世辞でもいい空気とは言えない空間。

ここはどこなのだろう。死んでしまったのか。それとも夢を見ているだけなのだろうか。

『つい最近に話したが、姿を見せるのはこれで三度目かぁ』

声が後ろから聞こえてきた。振り返ると鎖で囚われ、顔に何か被っているのかよく見えない人のような者がいる。

体の真ん中には封印と書かれた札が貼ってあり、見るからに恐ろしい。

『すまないなこんな格好で。覚えていなくて無理もない。会う度にここにいる記憶を消しているからな』

話が見えてこない。なぜここに呼ばれたのか。ここはどこなのか。状況が上手く処理しきれていない。

『ここは君の体内。呼んだのは君にあるものを渡したかったからだ』

考えを読み取ったように的確に答える。信じ難いことに呆然とする。

嘘かもしれないし本当なのかもしれない。そんなのは今はどうでもいい。それより渡したいものの方が気になる。

『渡したいものは、お前本来の力だ。今のお前なら使いこなせると判断した』

本来の力。そういえば俺はみんなが当たり前に持つ基本四種魔法(炎、水、風、雷)しか使ってないような気がする。みんなはその基本四種魔法に血術と別の魔法を生まれながらに持つ。

人によっては、二つや三つ魔法を持つ者もいると聞いたことがある。しかし、なぜ俺の力を奪っていたのだろうか。

『この力は膨大なゆえ使えば、体は愚か心ごと破壊される可能性があったからな。一時的に預かっていた』

そんなに危険な代物なのか。それが今の俺に使いこなせる可能性があると判断された。それは嬉しいのだが、なんとも言葉にしにくい感情が入り交じっている。

『ここにいる記憶は消す。だが、この力のことは記憶からは消さない。よく覚えておけ』

一瞬口を挟もうとしたが、目の前の相手は話を続けた。

『この力は黒魔法。お前からすれば謎だらけの力だ。全力で人に向ければ跡形もなく無く…なる…ち……か』

意識が朦朧(もうろう)としてきて最後まで聞き取れなかった。そして、瞼が勝手に閉じて暗闇に支配された。


瞼が重い。瞼を開け暗い幕が明るくなって来ると、一度見たことのある光景が映る。テントの天井だ。

「あれ?今誰かと話してたような…」

右手を頭につけ、必死に思い出そうとしても思い出せない。

三秒ぐらいだろうか、考え続けても意味がないことに気づき右手を頭から離す。すると、右手が黒いモヤが出ていることに気づいた。

あの時のモヤだ。それを見て、一つだけ思い出したことがある。このモヤ…いや力のことを。

すぐにこの力を試したい。その一心ですぐさま立ち上がり、テントの外へと掛けていく。一瞬カルシファーが見えたが、気にせず海の方へ向かった。

「あっ、ちょとラグクロ君」

それを見たカルシファーは追いかける。

浜辺につき一度止まる。それを見たカルシファーも四、五メートルほど離れたところで同じく立ち止まった。いつかは知らないが、途中シーシャも追いかけていた。

そんなことは置いておいて、ラグクロは一度右手に力を入れる。弱々しかったモヤが色が濃くなり、自分でも強くなってると感じる。

それを見るなり二人は戦闘態勢になった。恐らくまた体を支配されていると勘違いしているのだろう。でも、そんなのは気にせず拳から出ているモヤを朱雀に移し、海に向かって縦に振ってみた。

激しい音が響き渡り、振るった先の海に亀裂が現れ真っ二つに割れる。二人は驚いていた。正直ラグクロも驚いた思っている。予想の倍ぐらいの威力が出たからだ。驚きすぎて腰が抜け、その場に尻もちを着く。

「こ、これが黒魔法…」

ラグクロは独り言を呟いた。しばらくすると海は元に戻り、二人はラグクロに駆け寄って心配してくれた。

後に、この力のことなど思い出せる限り全てを二人に話した。二人の方からもラグクロの中にもう一人死神が存在すること、死神の名は破滅の死神ということなど聞かされた。

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