第三話:魔獣との戦い
♢初報酬
翌朝、ラグクロを含めた男性たちが死んでいた。飲みすぎたのだろう。ラグクロは走り疲れた方で。
「うっ…うぉろろろろ」
「あぁ〜ママ、パパが吐いてる!」
「そんな事、いちいち言わないでいいのよ」
宴としていた広場は、一瞬にしてグロテスクな場所になった。意味は違えど危険区域だ。その後、男性たちは広場を掃除し、女性たちは自分らの家に一旦戻り、各自の昼ごはんの準備に取り掛かる。
「悪いっスね。わざわざ、おにぎりなんて作ってもらっちゃって」
「別にいいさ。息子のアボスを助けて貰ったお礼はしたかったからね。遠慮なく持っていきな」
「ありがとございます」
そう言って、竹皮に包まれた三つのおにぎりを受け取った。
「元気でな三人とも。また遊びにでも来ておくれ」
「分かりました」
一通り挨拶はし終え、ラグクロたちは村を後にした。瞬間移動で帰ることは出来たが、食料配達の荷車に乗っけてもらって帰ることにした。事件は解決したが、また何が襲ってくるか分からない。白(ハク)もいるから安心なのだが念には念をだ。無事何事もなくシリヤスレイに着き、わざわざギルドの前まで送ってくれた。
「ラグクロ。その…色々とありがとな。お前がいなかったらどうなってたか…」
「大袈裟だよ。でも、初任務にしては過激だったけど」
「え!?あれ初任務だったのかよ」
「そうだけど…」
「てっきり経験豊富かと思ってた。初任務であんだけ身体張るか普通」
(普通じゃないのか…)
ラグクロはあの時、村の人たちを守れるならとばかり思っていた。たとえ、どれだけ体がボロボロになろうとも、被害が出なければと思うのは普通ではないのだろうか。
「んま。俺もお前みたいに強くなって、いつかお前を超えてやるからな」
「あぁ。アボス」
「にひひ」
「白、村のことお願いします」
『わかっておる。僕(やつがれ)の命に変えても守り抜こう』
「ラグクロ君。そろそろ行くっスよ」
「分かりました。じゃあまた」
「ああ、またな」
アボスを見送りラグクロはギルドの中へと入った。中はとても穏やかだった。昼前なので皆任務に出ているからだ。ギルド内にいるのも三組程度。だが、掲示板を眺めているのですぐにでも出ていくだろう。ラグクロのチームメイトはと言うと、口説きと大食いをしている。
(なんでこうも自分勝手なんだ…なんか恥ずかしい)
個性むき出しの二人を軽蔑(けいべつ)するような目で引いている冒険者たち。その目はラグクロにも降り掛かってくる。大変だな、と言わんばかりの目で。ひとまずラグクロは、カルシファーの口説きを止めようと思い受付の方まで歩く。
「カルシファーさん、もうその辺に」
「今度こそ、一緒にお食事でもど」
「結構です」
「くっ…なんの躊躇いもない拒否…これまた魅力的で実にいい」
(この人のこういう所、全く分からない)
なんで拒否されて嬉しがっているのか、ラグクロには分からなかった。普通なら落ち込むところではないのだろうか。カルシファー並の上位クラスに上り詰めると、鋼のメンタルにでもなるのだろうか。ラグクロがそう思っていると、受付人の女性が限界を迎えたのか、怖い顔しながら右手を握りしめていた。慌ててラグクロが間に入り最悪な事態は免れた。
「もう〜なんスかラグクロ君。せっかくのご褒美だったのに〜」
(本っ当この人理解できねぇ〜)
ラグクロはその場でため息をついた。受付の人も同時にため息をついたので、二人して苦笑いをし合った。
「そういえば、任務達成お疲れ様でした。これは報酬です」
「え?ほ、報酬ですか?」
「はい。任務達成をすれば、任務の難易度に合った報酬が貰えます。今回は難易度が未定でしたが、先程お二人の話から聞いたところ不規則生物(イレギュラー)を討伐しただとか?」
「一応…」
今はそこら辺を荷車を引っ張っているが、あの時は一度倒したと言えば倒した。嘘ではない。
「難易度未定の高難度の任務を達成された上、不規則生物をも討伐…これは、難易度「青」に匹敵するかもしれません。もしくはそれ以上かも…」
「不規則生物の討伐だと!?」
盗み聞きをしていたのか、ギルドにいた冒険者が驚いていた。ちなみに青色は、低ランクから言えば六つ目にあたる。今のラグクロのランクより三つ上だ。
「何かの間違いだろ。不規則生物なんざ見かけたら、しっぽ巻いて逃げるのが常識だろ!」
「じゃあ、証拠があればいいんスね」
「……」
「ラグクロ君、すまないっスけど血を貰えるっスか?」
カルシファーの言葉でピンと来た受付の人が席を離れ、何かを取りに行った。ラグクロは言う通り自分の血を採取した。すると受付の人が戻ってきて、ここに血を、と言ってきたので大人しく血を垂らした。垂らすとピカっと光だし映像が流れた。ラグクロと白(ハク)の戦いだ。
「これは?」
「これは君の血が記憶したものを映像として見られる装置っス。確か名前は…」
「自血記憶映像装置(じけつきおくえいぞうそうち)です」
「それっス。長くて覚えずらいのに流石っスね。今度一緒にご」
「結構です」
「くぅぅ。たまらないっスね」
カルシファーのことは置いておこうと思った瞬間、冒険者が舌打ちしてどっかに行ってしまった。そして数秒、気まづい空気が漂った。
「…気にしないでください。あの方は低ランクの任務の最中に不規則生物に遭遇して仲間を亡くされているので、あのような態度を……」
(じゃあ、あの舌打ちはなんだったのだろうか?)
「それよりも、報酬についてです。難易度「青」にも及ぶ任務達成ですので、報酬は一五〇ゲールです」※一ゲール=一万
「ヒャ、ヒャクゴジュウゲール!?」
「それにプラスアルファで、初任務達成と村の人たちからのお願いによって五〇ゲール。つまり、今回の報酬金額は二〇〇ゲールです」
「ニヒャ、ク……え、えぇぇぇぇ!?」
二〇〇ゲールなんて大金を耳にして思わず叫んでしまった。こんなに冒険者たちは、儲(もう)かっているのだろうか。
「では、冒険者カードにチャージするのでカードをこちらに」
受付の人にこの前作ったばかりの冒険者カードを渡した。だがその前にラグクロは疑問を晴らしたかった。
「いくらほどカードにチャージされますか?」
「あのー…カードにチャージしてなんの意味が?」
「あっ、そうでしたね。ではご説明します。冒険者カードにチャージされましたら、お金を持たずに商品が購入可能になります」
(そういえばカルシファーさん。商品買った時、カード出しただけだったような)
「販売者は「販売者カード」と言う冒険者カードと似たカードを持つことが義務付けられていて、それを用いてお金のやり取りをします」
つまりはカードを通してお金を与えたり、受け取ったりできるということだ。便利な世の中だ。
「では再度確認しますが、いくらほどチャージされますか?」
「じゃあ、一五〇ゲールをチャージしてください。残りの五〇ゲールは現金でお願いします」
「かしこまりました。ですが少しお時間がかかりますがよろしいでしょうか?」
「構いません」
少しと言っていたが、あっという間にチャージと現金の準備が完了した。
♢個性しかない鍛冶師
「またのご利用お待ちしております」
ラグクロたちはギルドを出て、各々(おのおの)自由時間になった。ラグクロは村長に貰った地図を見ながら鍛冶屋に行くことにした。場所は街の隅。そして長い階段を上った先にある。
(地図だと、ここら辺にあるんだけど……あそこかな?)
鍛冶屋らしきところを発見し、ラグクロはドアの前に立ちノックを三回して顔だけひょこっと顔を出す。見ると誰の姿も見えないほど一面暗闇だった。
「すみませーん。誰かいますか?」
応答がないのでドアを全開にしてみる。全開にしたおかげで、暗闇の部屋を太陽の光が照らす。すると奥に人の姿が…
「「し、死んでる!!」」
「め…」
「はっ!生きてる」
「飯を…く…れ、ガクっ」
(この人今自分でガクって言ったよな)
目の前で餓死しても困るので、村で貰ったおにぎりを渡した。男はものの数分でおにぎり三つを平らげた。
「かはぁ〜、いや〜死ぬかと思ったわい。お前さんには助けられたの〜」
「それなら良かったです」
「わしはザルト。お前さんは?」
「ラグクロと言います」
「お前さんが例の少年か。ドゥームルから話は聞いておる。まぁー入れ」※ドゥームル=村長
言われた通り部屋の奥へと入った。部屋の中には武器や装備ががずらっと並んでいる。
「とりあえずどれでもいいから触ってみろ」
「は、はい」
「よし、じゃあ魔力を注いで振ってみろ」
「魔力を注ぐ?」
「なんだそこからか…んじゃ説明してやるからやってみろ。まず、体の中で流れる魔力を感じろ」
「……」
ラグクロは目を閉じ、深呼吸をして意識集中させ、魔力の流れを感じやすくする。すると、体内を流れる力を感じ取った。
「感じた魔力を掌に集中させ、その剣に集めた魔力を流し、体の一部のようにするんだ」
ラグクロは言われた通り掌に魔力を集め、それを持っている剣に注ぎ込んだが次の瞬間、バキンッと剣が砕けた音が部屋に響き渡った。
「「……うわぁぁぁ!ご、ごめんなさい!」」
なぜ剣が砕けたのかは分からないが商品を壊したことに変わりない。ラグクロはすぐさま土下座して謝った。
「…ぷっ、うわっはっはっは」
剣が壊れたのに怒ると思っていたが、その反対にザルトは大笑いをして見せる。
「すまんすまん。実はなお前さんを試してたんだ」
「試してた?」
「ここにあるのは、わしがテッキトーに作った"命"を宿してない武器じゃ」
「命を宿してない武器?」
「お前さん、武器を作る時に最も必要なことはなんだと思う?」
ラグクロは少し考えてはみたが、これだと思う答えが見つからなかった。なぜなら、ザルトが言っていることがあまりピンと来ていないからだ。
「そりゃーな、長く作り上げることでも、細かく作り上げることでもねえんだ」
鍛冶師は武器や装備を作るのが仕事だ。熱した柔らかい鉄を打ち、時間をかけて作り上げる。もちろんそれには細かい作業も加わってくる。だが、それらの作業は最も必要な事ではないらしい。
「武器を作る時に最も必要なことは、命(思い)を込められるかどうかだ!それがあるかないかじゃ武器の強さが変わってくる!」
正直、意味はよく分からない。鍛冶師の常識なのか、ザルトの常識なのか…
「そのへっぽこな武器が壊れないやつは、わしがそれに込めた思いよりも弱い。つまり、明確な意思がないって事だ。そんなやつにわしの自慢の武器は譲る気はない。勝手ながら、お前さんを試してたつーわけだ」
「じゃあ、俺は合格ってことですか?」
「そーなるな。人間と違って武器は嘘はつかんからな。んじゃまた着いて来い」
ザルトはこの部屋のさらに奥へ行った。ラグクロも遅れず歩み寄り、奥の部屋へ向かったラグクロは、景色に圧倒され唖然とした。部屋の中には、先程とは全く別物の武器がびっしり並んであったからだ。
「どうだ、これがわしが作った中の最高傑作武器じゃ」
凄すぎて言葉が出てこなかった。ザルトが言っていた「命(思い)を込める」で、これほどまで完成が違うものなのか。なんか、ザルトの話がわかった気がしなくもない。
「言葉が出ないか、そうかそうか。流石わしじゃな。うわっはっはっは!!」
「でも、こんなの貰っていいんですか?」
「ん?それまたなんでじゃ?」
「俺にはこんな高価な代物、扱える自信がないですし、なんせ重そうだし…」
並ばれている武器のほとんどが、ラグクロより大きく重そうだった。ラグクロは非力ではないが、こんな武器を持ちながら戦ったら、攻撃速度が遥かに劣る。
「あ〜…見た目はそうじゃが…持ってみた方が早いか」
ザルトは近くにあった斧を軽々と持ち上げてラグクロに投げてきた。ラグクロは壊してしまったらマズいと思ったのか、咄嗟にキャッチする。
(っ……重くない!?)
「どうだ?見た目の割に軽いじゃろ」
「なんでこんなに…」
キャッチした斧を見ると、ダイヤモンドや金が埋め込まれている。とても重そうに見えるのにも関わらず、全く重いと感じられない。
「そりゃーな、形作ってんのがゲラルニウムって言う鉱石だからじゃよ。この鉱石はとにかく軽い。そんでもって、重い鉱石を付け足しても重さは変わらない「重力一定」って言う力があるからな」
以前、書物で同じような事が書いてあったことをラグクロは思い出す。全人類が扱う魔法とは別に、不思議な力を宿した不規則生物(イレギュラー)と同じ類(たぐい)の自然物質が出現すると。それは鉱石の他にも存在する。中には環境そのものを変えてしまう力もあるとか……
(そんな力を利用して武器を作るなんて、世の中はまだ知らないことだらけだな)
「せっかく手に取ったんだ。試しに使ってみろ」
ラグクロは斧に魔力を注いだ。すると嫌な音がした。考えたくもないぐらいの嫌な音が…
「へっ?」
ザルトは、この現状が受け入れられないのか呆然と立ち尽くしている。それに加え、色んな感情が入り交じった顔をしている。
「俺…の……最高…傑さ…く……」
「「た、大変申し訳ございません!!この斧の代金は支払います!!」」
「す」
「す?」
「凄いなお前さん!!わしの込めた思いより強いとはな。恐れ入ったわい。だあーっはっはっは!!ますます、お前さんを気に入ってしまった」
「ど、どうも」
何なのだろうこの人は。最高傑作の武器が壊されたのに、平然と笑っている。普通なら怒りが込み上げてもおかしくないのに…
「あの、怒らないのですか?」
「怒る?そなまさか。怒るわけないじゃろう」
「な、なんでですか?」
「わしの込めた思いより、お前さんの持つ思いが強かっただけじゃろうに。やっと、この時が来たって感じだ」
この時が来たとは、どういうことなのだろう。そんなことを思っていると、ザルトは口を開いた。
「わしが込めた思いはな「わしの思いより強い者と会いたい」なんじゃ。この思いを込め続けて、もう何十年と時が過ぎた。そしてやっと願いがかなった」
そしてザルトは、真剣な眼差しでラグクロの方を向いた。
「お前さんに問う。お前さんの叶えたい思いとはなんじゃ?」
その問いに一瞬戸惑ったが、ラグクロは即答で答える。この世界の英雄になることですと…ザルトは「その思いには適わんな」と涙を流した。
「よし!そんなお前さんに、お前さん専用武器を作ってやろう!」
「えっ?いいんですか?」
「ああ、なんなら作らせてくれ。わしの思いに応えた初めての人間じゃ。腕が鳴るってもんだ。だが、それには持ってきて欲しいものがある」
「……」
「世界一の硬さを誇る、ヴィルヲニウム。それはここから南の鉱山の洞窟の地下深くを捜索しないと見つからない。それに加えて、この鉱石は一箇所に一センチ程度しかない。そのため「幻の鉱石」とも呼ばれている代物だ」
「そんな鉱石をどうして必要なんです?」
「ヴィルヲニウムは、どんな事をやっても壊れない「破壊無効」っていう力がある。お前さんが、どれだけ魔力を注いだとしても絶対に壊れないってことだ」
「それはすごい」
絶対に壊れない武器。それが本当なら、ラグクロにもってこいの武器だ。
「分かりました。では、明日の朝に行ってみます」
「おう頼んだ。持ってきた暁には最強の武器作ってやる…おっといけねぇいけね」
「?」
「お前さんの能力値(パラメータ)を確認しないとな」
「俺の能力値?」
♢瞑想世界
ラグクロはザルトと共に、地下の部屋に移動した。壁と床は石製と言った地上と何ら変わらなかったが、唯一変わっていたのが床に大きな魔法陣が書かれていたことだ。
魔法陣は色によって効果が異なる。紫なら「結界専用魔法陣」、緑なら「回復専用魔法陣」。他にも様々な色と効果がある。そして今、目の前にある魔法陣の色は水色。この色の効果は「瞑想専用魔法陣」だ。魔法陣の中心に座り、目を閉じて、呼吸の感覚を意識する。これをマインドフルネスといい、それを行うと瞑想状態に入るのだとか。
魔法陣を書かなくとも瞑想は可能だが、魔法陣を書く最大の利点は他の者が瞑想の中に入れるというとこだ。しかし、これでどうやってラグクロのステータスを見るのだろうか。
「お前さん、魔法陣の中で瞑想してくれるか?」
言われた通りラグクロは魔法陣の中で瞑想に入った。辺りが真っ白な空間。そこにラグクロとザルトしかいない。
「んじゃ早速始めるぞ。話すより実践した方が早いからのう」
ザルトは指を鳴らした。すると周りに無数のゴブリンが出現する。ラグクロは何となく把握した。これは実践の形の訓練的なやつだと。地面には「フェイズⅠ」と書かれている。ということは、ⅡもⅢもあるのだろうと察しがつく。
「何となく状況は掴んだようだな。お前さんには、このゴブリンらを狩ってもらう。今手に取ってる剣で倒してくれ。それと、頭の上に斬るべき場所が指定されているから的確に狙ってくれ」
近くのゴブリンを見ると「右側」と書かれてある。このゴブリンは、右から斬らないとならないということだ。上手くできてる。
「この訓練は攻撃力、速度、防御力、集中力、魔法、耐久力を見定めるためにあるから頑張れよ」
(ということは、上手く斬れるかが重要になってくるってことか)
言葉にすると容易いかもしれないが、一つを意識すれば他のものが疎かになる。五つの項目を平等にやり遂げなければならないというのはこれは相当やりづらい。
フェイズⅠは、最初というのもあり出現したゴブリンはマネキンのように微動だにしない。そのため、ラグクロは難なく出てくるゴブリンを次々と斬っていく。
(左、首、右足、魔法……)
約三十体倒したところでフェイズがⅠからⅡに上がった。ⅠからⅡに上がったことで、ゴブリンが動くようになった。ということは反撃がある。もちろん、動きがあるので狙いがズレたり、遮断(しゃだん)される可能性も出てきた。
「ジャァ〜!!」
一体のゴブリンがラグクロ目掛けて襲いかかって来る。指定場所は「左側」と書いてあるが、今は左側を狙おうにもゴブリンの武器が邪魔で不可能。相手の体を崩すというワンアクションが必須となる。ラグクロは襲いかかってきたゴブリンの攻撃を弾き返し、すぐさま条件である左側から斬った。
次は二体同時攻撃で条件は「右側」と「首」。ゴブリンの攻撃をかわしつつ隙を狙う。
(ワンアクション入れるだけでこんなに違うのか)
動きがついて狙いづらくなっただけで、息切れが当然だが増した感覚がラグクロの神経から伝わって来る。少しずつ、ラグクロの動きが悪くなっているのもあるのだろうが…
約二十五体ほど倒したところで、フェイズが終了しⅡからⅢとなる。次に出できたのはゴブリンと女性の人。襲われているシーンを再現しているのだうか。
「きゃー!!」
今にでも襲われそうな状況。ゴブリンはラグクロに背中を向けているので、そのがら空きの背中に刃先を向けた。斬られたゴブリンは女性の人の方へ倒れて行く。すると周りが一瞬赤色に光った。なんだと思ったが、この訓練で赤色になったということは大方予想がつく。これは失敗したという意味だろう。
(生死関係なく、村人に当たったら失敗ってことか。相手と村人の位置関係、動作で攻撃の選択が限られる。フェイズⅠ、Ⅱでやったことの応用か。これはめっちゃ頭使うな)
ラグクロの言う通り、フェイズⅢは無限に攻撃手段があったのを制限させた訓練。敵味方の位置関係を瞬時に把握して攻撃を入れる超実戦形式だ。
次に出てきた場面は、村人が尻もちをついていてそれに追撃をしようとしている瞬間だ。
(俺と相手の距離は十メートル前後、村人と相手の距離は二メートル。背後からの攻撃は無理。一番いい攻撃手段は…首だ!)
ラグクロは首を斬った。斬った場所から大量の血が勢いよく溢れる。これは成功だろうと思っていると、村人が意識を失ったように倒れまた周りが一瞬赤く光る。
(は?血もつけたらダメなのかよ!?思った以上に成功の条件が多いな)
やらかしたことを悔やんでも手遅れなので、一度深呼吸して気持ちを整えて、次のシチュエーションが現れるのを待つ。
(来た。距離五、六メートル、村人と相手の位置から考えて、首と左側から斬ると失敗する。かと言って、右側から斬っても距離が近いから返り血がかかる。だがら…)
ラグクロは足に力を込め、全力のスピードで接近し、ゴブリンの顔をがっちりと掴んで地面に叩きつける。そして、倒れたゴブリンに剣を突き刺すと周りが一瞬緑色に光った。これは成功したということだろう。すると地面から何かが浮かび上がってくる。それは地獄を意味していた。
(三十分以内にあと九十九体倒さないといけないってことかよ。ちょっとやそっとじゃ終わらせてくれねぇな)
ラグクロは俄然やる気に満ちていた。自分でも、なんでこんなにやる気なのかは分からないほどに。アドレナリンが出ているのかもしれないし、ただただワクワクしているのか…ラグクロは次々に倒してって行った。成功率は三回に一回くらいと言ったところだ。
そして残り十分で三十体。計算上一分に三体倒さないといけないのに、ここに来てフェイズが上がりFINAL(ファイナル)になる。ゴブリンが防具を装備したり、ゴブリン以外が出でくるようになった。もう瞑想してから一時間ほどたっただろうか。休まず攻撃を繰り返し、頭をフル稼働させているため疲労が蓄積されていてもおかしくない。
そんな状況下でギリギリやり遂げている。
残り五分で三体。少し余裕があるが、出現したのは大型のゴーレム三体。守るべき村人はいないので、これは倒すだけで達成となるだろう。ラグクロはひとまず魔法をぶっぱなした。魔法はゴーレムに直撃したのだが、ダメージを負った感じはない。
(こいつら魔法は効かないのか。直接攻撃か内側から魔法をぶっぱなすしかない。どちらにせよ接近しない始まらない)
ラグクロはゴーレムの方へ走り出す。その事をゴーレムは素早く認識し、攻撃を開始する。相手の攻撃は威力はあるが、当たらなければ関係ない。ラグクロは攻撃を避けながら相手の目の前にひたすら走った。そしてやっとの思いで、ゴーレムの懐に潜り込み剣を当てることに成功する。しかし頑丈なゴーレムの体はビクともしなかった。そして蚊を追い払うようにラグクロを叩いた。
(魔法でも直接攻撃でも通じない。どうやって倒せってんだよ…)
時間を見るとあと一分と三十秒。ここに来て完全に八方塞がりなのだが、こんな状況でも白(ハク)との戦闘時と同じ、謎の感情が湧き上がる。
(倒す術が今なくても、抗わねぇーと答えなんて見つかるわけがない…だから抗って見つけてやる!ここが正念場だ!!)
ラグクロはそう息巻いているが、この訓練の最後には、絶対に倒すことが出来ない相手が現れるようにザルトが設定してある。相手がどんなに強敵であろうと、立ち向かえる勇気を見定めるためだ。残り一分三十秒ほどの短いタイムリミット。誰もが失敗すると絶望し、正気を失ってもおかしくない時間なのだが、ラグクロは楽しそうに笑っていた。それにもう一時間休まず頭と体を動かしているのにも関わらず、動きが良くなっているように見える。ラグクロの体から黒いモヤが現れてから、まるで別人が体を動かしているかのように全く違う動き方をしているのをザルトは感じ取った。今までは動きながら考えていたと表現するなら、今はがむしゃらに攻撃しながら策を練っていると表現出来るような。明らかに何か違うのは見てわかる。
そして残り三十秒弱。ラグクロの顔からは焦りなど孕んではいない。彼はただまっすぐ相手を見ている。時間が切れるかもしれない。負けるかもしれない。でもせめて、一体だけは倒してやりたいという思いすら感じられる。
「ドゥームルよ。凄いやつに出会ったな。こやつは世界の理(ことわり)を一変させる 存在になるぞ」
そしてついに、誰も成し遂げることができるはずもないことを彼は成し遂げた。瞑想専用魔法陣に刻んだ、最強にして無敵のゴーレムを最後の最後で一体倒した。そこで時間となり、二人は強制的に瞑想世界からはじき出された。
「くはっ!」
ラグクロはすぐに目を覚まし手を自分の顔に当てた。そっと彼を見てザルトは衝撃を走らせた。その手の中で「クソっ」とこぼし、彼は涙を流していたのだ。絶対に倒せないゴーレムを一体倒した。これは素晴らしい結果なのだが、ラグクロはこの結果に満足などせず悔やんだ。ザルトはそこに心打たれた。
(やはりこやつは、わしの作った武器を託したい!)
そう決意したら俄然やる気に満ち溢れたザルトだった。
♢オロルナイフ
瞑想世界から強制退場させられたラグクロは膝を着いていた。
「ラグクロ少年」
ザルトはラグクロに声をかけた。この訓練の目的はラグクロの能力値(パラメータ)の査定。ザルトはラグクロに紙一枚を渡す。
「お前さんの能力値はこんなんだな。簡単に伝えると、お前さんは攻撃力と速度に特化した近距離戦が好ましい」
能力値を見るとランク評価で審査されていて攻撃力A、スピードSとあった。それに加えて魔法もAと高得点だった。
「じゃが防御力、耐久力、集中力に問題がある」
もう一度見ると防御力B、集中力C、耐久力Cとあった。つまり、これらを磨く必要がある項目だ。六項目中三項目も欠点があるのは問題だ。しかし運がいいことに、集中力と耐久力は日頃を直せば自然と高くなってくる。
「…ふむ。お前さんの専用武器のイメージはできた。あとはヴィルヲニウムを持ってこられるのならわしが何とかしてやろう」
ザルトは自信持って口にした。ラグクロはありがとうございますと口にして鍛冶屋を出た。今日は出発しても夕方に着いてしまうので準備をすることにし、一旦宿泊先に戻ろうとすると、鍛冶屋からザルトが出てきた。
「ちょっと待て。目的の鉱山には凶暴な魔物もいる。魔力を込めなくとも、武器はあって困らん。じゃからこれを持っていけ」
ザルトが待っていたのは、刃が黒く所々美しく輝いているまるで夜空のようなナイフだ。こんなものは、売られていなかった気がするのだが…
「こいつは、わしが一番初めに作ったナイフなんじゃ。一番わしの思いが強く込められているから、三回なら魔力を注いでも耐え切れるじゃろう」
ザルトの話だと、鍛冶師の武器作りは打てば打つほど思いが薄れるらしい。本当かどうかは置いておいて、このナイフは明らかにほかの物と年季が違うのが素人でもわかる。
「そうじゃな〜、こいつに名前を付けるとするなら…「オロルナイフ」ってとこかのう。オーロラと言う意味じゃ。そいつにピッタリの名だろ?」
「オロルナイフ…」
ラグクロはザルトからオロルナイフを貰いその場を後にした。
♢ヘアスタイル
宿泊先に戻ったラグクロは、すぐに明日の準備をした。と言っても、採掘に必要な道具一式はザルトに貰ったので、それらを大きめのカバンに入れるだけで済んだ。
「どこかに行くんスか?」
これだけ目立つように準備しているなら当然の質問だ。ヴィルヲニウムを取りに、と正直に答えるとカルシファーは慌てふためく。
「ヴィルヲニウムって幻の鉱石とも呼ばれるあのヴィルヲニウムっスか!?」
普通ならこんな反応なのだろうか。もしかして自分は知識に疎いのだろうかと思い始めるラグクロ。
「という事は南の洞窟に向かうんスね。ならシーシャも一緒に連れて言った方がいいっス」
「なんでです?」
「あそこは最近、魔物が活発してるって噂っスから少しでも戦力はあった方がいいと思うっスよ」
確かに一人より二人の方が心強いし、何より採掘と討伐で割り振れる。二人っきりでシーシャが何をやってくるか、わかったものではないが、仕方なく連れて行くことにした。ラグクロはシーシャをちらっと見ると、妙な笑みでこちらを見つめ返してきた。明日は採掘よりシーシャに気を配らなくてはいけないのを肌で感じた。
翌朝目が覚めると、カルシファーの姿はなかった。最近ずっとこれが続いている。いつもならラグクロが起きる時は、死んだように寝ているのに、それが見れないのは少し残念だと心の中でそっと思った。カルシファーの事はさておき、こちらはこちらでやることをやろう。まずは朝食だ。タンパク質補給と消化しやすい、魚をメインとして、卵と煮物を手に取り、十分程度で完成した朝食をいただく。朝食を食べていると、まだ眠たそうなシーシャが起きてきた。おはようの挨拶を済ませ、シーシャの分の朝食をよそう。その間シーシャは脱衣所で顔を洗っている。
「昼食の準備が終わるまでに出発の準備しておけよ」
シーシャは、あくびでもするかのように返事をした。ちゃんと聞こえたのか心配になったが、ほおっておいて昼食のための料理を作り始める。三十分ほど時間をかけてやっと作り終えた。シーシャはというと、珍しく準備し終えていた。髪の毛以外は…
「お前、なんでそんな髪荒れてるんだ?」
「ラグちゃん、髪の毛縛って〜」
仕方ないなと言って髪を手のひらに乗せる。彼女は髪のケアを欠かさないので髪を梳(と)き終わると、とてもサラサラしていて触っていて心地よい。
(さてと…どうヘアアレンジしようか?)
パッと出てきたのはポニーテールだが、安直すぎるのではなかろうか。ポニーテールなら一人ですぐにできてしまう。わざわざ自分に髪の毛を縛るよう頼まれるぐらいなので、安直なのは好ましくないとラグクロは勝手に思う。昔から何度も髪の毛を縛るよう頼まれる。その度に安直すぎると言われ続けられてきているため、今回は少し凝ってみることにした。戦闘を考え、動きやすいヘアアレンジを試みた。と言ってもやることは、お団子ヘアと言われる定番なやつだ。だがそこにひと手間加えて、できたのは高めに縛ったツインお団子ヘアだ。
「で、出来たぞ。あんま自信ないけど…」
シーシャは自分の髪型を見てぼーっとした。これはやらかしたのだろうか。気に入らないならやり直す。と付け足し、シーシャを見つめる。シーシャは一向に、こっちを向こうとしなかった。
「……てない」
「へ?」
「だから、気に入ってないなんて言ってない!これでいい!!」
こっちを見たシーシャは頬を赤くして強めに言ってきた。そして、一瞬にそっぽを向いて丸くなった。なんで頬を赤くしたのか気になったが、今聞けるような状況ではないので断念して出発の支度を始めた。
(それにしても、俺のチョイスが悪かったのか?あいつのためにも、ヘアアレンジの種類も増やすか。頑張ろ)
ラグクロはそう決意し、もう一度シーシャを見た。シーシャはまだ丸くなって身動きすらしてなかった。腕の隙間から見える彼女の頬はより一層真っ赤になっている。
「おいシーシャ。そろそろ出発するぞ」
「……うん」
シーシャの顔の熱が冷めた頃合を見計らって出発する。宿泊先から南の洞窟は徒歩約一時間。結構歩くことになるので、荷馬車の後ろに乗っけてもらうことになった。
(なんて便利なんだ。最高すぎる)
御者さんには感謝しかない。いきなりの事でもすんなり受け入れてくれた。しかも代金はそれほど高くもない。ラグクロはその場に寝そべった。多少揺れるがそれほど気にはならない絶妙な揺れだ。これなら十分寝れる。ラグクロがうとうとしていると、御者とシーシャが話しているのが聞こえてきた。
「嬢ちゃんの髪似合ってるよ。自分でやったの?」
「いえ、これはラグ…彼に」
「そっか彼氏さんにか。そりゃあそんな顔になるわな」
「か、彼氏だなんて……」
満更でもないのが見なくてもわかる。シーシャはその後、御者の人にラグクロの事を一方的に話した。途中恥ずかしさのあまり寝てしまったが、目的地に到着してすぐに 御者の人に「彼女さんに愛されてるね」と言われたので、ラグクロは想像しているより辱めを受けていることを悟った。
♢過酷
まず始めに、近くの村長に鉱石採掘許可書をもらいに村長の家に行った。冒険者カードを見せるとすぐに採掘していい許可が出たので早速洞窟へと向かう。道に迷う恐れもあったのだが、ラグクロたち以外にも採掘に訪れた人がいたので、着いていって迷わず洞窟の前まで来た。
(鉱山でっけぇ。中広ぉ〜)
まるでアリの巣のようだ。入口の先には無数の通路があり、どの通路にも魔物が嫌う精霊の光の混じった照明が設置してある。ラグクロたちが採掘したいヴィルヲニウムは地下深くにある。当然、この照明が洞窟全てに設置しているとは考えられない。一度探索しなければ設置する事は不可能だし、設置する前に魔物によって無惨な死を遂げている事だって有り得る。要するに、地下に行けば行くほど魔物もうようよといて、身の危険が増すという事だ。
ここら辺には用はないので、地下深くへと潜る通路を探すのだが、無限にある選択の中から地下へと繋がる通路は予想以上に見つからなかった。シーシャを見ると、もう疲れ果てて枯れそうになっている。洞窟に入ってまだ一時間足らずだが、何も進展がないため、疲労とストレスが蓄積されてもおかしくはない。それに加え、腹の虫が鳴り始めるときた。地下へと繋がる通路を見つけてから、昼食にしようと思ったがやむを得ない。
「シーシャ、少し早いが昼にしよう。見映えも何もないところだけど…」
「…ラグちゃんと一緒にいれば、それで絶景だから」
「頭もどうかしたみたいだから、早く支度して食うぞ」
頭のネジが外れたようなので、ラグクロは颯爽と準備に取り掛かった。
「今日は何?」
「今日はカツサンドだ。上手くできたから、味はいいと思うけど…」
「絶対美味しいやつじゃん!」
ボラと呼ばれる豚のロースをふんだんに使用したサンドウィッチ。肉だけでは栄養バランスが崩れるのでキャベツもたっぷり入っている。あとはキロッコと呼ばれるニワトリの卵を使用した、たまごサンドも用意してある。シーシャはカツサンドを一口頬張った。味の感想を聞く前に、その幸せを孕んだ顔を見たら作った甲斐があるってもんだ。サンドウィッチにしたのは、何も気分で作った訳ではない。サンドウィッチはおにぎりと同様片手で食べれるし、行儀が悪い話になるが歩きながらでも食べられるという利点がある。その利点を利用して、ラグクロたちは食べながら地下へと繋がる通路を再び探した。
「っ!ラフちゃんラフちゃん」
「なんだよ?ってか口にほうばりながら食べるな」
シーシャは手に持っていたカツサンドをパクパクと食べ進め、ゴクリと喉奥に飲み込み話し始めた。
「地下に進む道探すより、もっといい方法あると思うの!」
「…っお前まさか!?」
シーシャがやろうとしていることが理解出来た時にはもう遅かった。彼女は真下に大穴を開け新ルートを開拓し始めた。そのままラグクロたちは真っ黒な闇の中に落っこちた。
「痛ってぇ!シーシャお前、やるなら先に言え!!お前と違って俺は頑丈じゃないんだ!」
「大丈夫。ラグちゃんはこんなんじゃ死なないから」
「何を根拠に…っ!?」
通路の奥に魔物の気配がする。見ると闇の中で赤く光る二つの目があった。
「グルルルルっ」
(こいつらは確か…人の首を噛みちぎることができる殺人狼、「ゾルウルフ」だ。逃げるにはこの道を知らなすぎる、ここで撃退するしかないか)
「魔物狩りは任せて!」
シーシャが自分の武器を手にして、一直線に魔物の元へ飛び出して、鎌を振りかざす。魔物の全滅には一分もかからなかった。
「片付いた片付いた。ラグちゃん、採掘を再開するよ」
「…おう」
鼻歌をしながらウキウキで暗闇を歩くシーシャ。これだけを見たら不気味で仕方がない。それからも立ちはだかる魔物を倒し続けて、やっと一つ目の岩盤石を見つけたのがここには入ってはいなかった。ザルトの話によれば、岩盤石に入っている確率は〇・〇〇〇五パーセント。もっと簡単に言えば二〇〇分の一の確率。つまり、あと一九九回岩盤石を見つけることが出来れば、やっと一個ヴィルヲニウムを手に入れられる。
(道のりが長いなぁ〜)
もう鉱山に入ってどれほど時間が経過したか分からない。あくまで予想だがもう四、五時間は経っているだろう。その間魔物と戦い続けている。シーシャも限界だろうし、今日はこのくらいにしておこうと思いシーシャに話しかけた。彼女は「ラグちゃんが言うなら」と承諾してくれた。
「魔法陣を作って、血術でここに戻ってこれるようにしたいから、壁を少し壊してくれないか」
「なんで?」
「この一本道じゃあ、無意識に魔物が魔法陣を消す可能性があるからな。消されるとここに来るために同じ道をたどんないと行けないだろ」
「また地面を壊せば」
「却下だ!」
シーシャは、ほっぺをふくらませながら怒りを壁にぶつけた。壊れた部分に赤色で魔法陣を描く。なぜ赤色で描いたと言うと、魔物のほとんどが赤色の目をしているので、魔物に見つかるというのがなくなるのだとか…実際はどうかは分からない。
「これでよし。んじゃ帰るか」
『血術 転移』と唱え宿に帰ってきた。見慣れた場所に帰ってきたということもあり、疲労が一気に体に乗っかってくるのを感じる。
「初日はどうだったっスか?」
顔を上げると珍しくカルシファーがいた。そして二人は今日の結果を打ち明けた。
「初日はそんなもんっスよ。明日からが本番っスよ」
「はい」
「ラグちゃん、お腹減ったよ〜」
「そう言うと思ってもう作ってあるっスよ」
「やった!」
三人で仲良く晩ご飯を食べて、特に何もなく今日という一日は終わった。
♢お前を守るためにも
「準備できたな。じゃあ行くぞ」
「は〜い」
二人は転移で昨日の魔法陣の所まで戻る。今日の目標は三つの岩盤石を見つけることだ。今いる場所では、岩盤石が数えられるほどしか眠っていない気がする。もっと底へと行かなければ、見つかるものも見つからないのだが、底に行けば行くほど魔物の強さも上がる。ラグクロは、自分パラメーターを正確に測って理解していた。自分はここにいる魔物たちにギリギリ勝てるぐらいだと。不規則生物(イレギュラー)を倒せたのは、ラグクロの中にいる知らない人格のお陰だ。決して自分自身の力じゃない。ラグクロはまだ目の前にいる彼女に守られている。それでいいのだろうか。この世界の英雄になると決めたのに、実際は彼女に守られているだけ。ラグクロはこれじゃダメだと思い、先を進む彼女を引き止めた。
「魔物を倒すの俺にやらせてくれないか。お前もわかっていると思うが、ここの魔物にギリギリ勝てる力しか持ってない。俺はもっと強くなりたい。少なくともお前が困った時に助けられるぐらいには。だから今日だけは譲ってくれ」
「それってプロポー」
「断じて違う」
彼女お得意の冗談をスルーし、歩きながらラグクロはシーシャに「妹を守るのは当然のことだろ」と呟いた。するとシーシャはでかい声を出して驚く。
「私ってラグちゃんの妹なの!?お姉ちゃんじゃなくて?」
「いや…姉と思ったことは一度もない」
シーシャと過ごした日々を思い返しても、ラグクロが思う姉とは全く違う。幼少期時代はいつも元気でどこかに遊びに行くと汚れて帰ってくるし、日日頃からラグクロやヨールドたちに甘えていたため、妹にしか見えない。姉だなんて到底思えなかった。それからシーシャは自分が姉でないことが嫌だったらしく、しばらく口も聞いてくれなかった。
(猪突猛進で来るのなら、あえて泳がせて避けた後に斬る)
ラグクロは洞窟内で遭遇したゾルウルフの群れと戦っていた。瞑想世界での訓練が身についていて、なんとか魔物の動きに惑わされずに戦えられている。だが瞑想訓練と違い、相手がいつ襲いかかってくるかが分からない。つまりタイミングが合わせずらいのだ。一度食らってしまえば致命傷になりかねない。こんなことを思っているから現実になるのだろうな。先程突進してきた狼を斬って浮かれていたら、目の前に別のゾルウルフが牙を立てて襲いかかって来た。
(俺との間合いからして、避けることは出来ない。避けるのはやめて攻撃するしかない。ナイフを振る時間はない。なら、振らずに突く)
突きつけたナイフは狼の顔に突き刺さった。ギリギリの戦いだった。だが、まだ油断は出来ない。周りにはまだ無数の狼がいる…と思ったら、シーシャが全てを終わらせていた。
「お前、俺にやらせろって言っただろう」
「だって見てて危なっかしいんだもん。ってか全部任せるのんて言ってないし。お姉ちゃんだもん」
最後に小声で何も聞き取れなかったが、聞き返す必要もないだろうとスルーした。それからラグクロたちは次々と襲いかかる魔物を倒していき、ついに最深部まで到達する。最深部と言ってもまだ先は続いている。しかし、これより深く行くとマグマ溜りがあちこちに出現するため、これより先は断念した。マグマ付近なのは変わらないため、さっきより温度が高くなっている。呼吸という日頃意識しないの動作一つでも汗が流れ落ちるほどに。ただ、悪いことだけという訳でもない。マグマ付近だと魔物の出現率が極端に低下するという利点がある。ほとんどの魔物は暑さにめっぽう弱い。これは魔物の原型が温度が一定に保たれる恒温動物だからである。もちろん人間も恒温動物であるのだが、魔法というのが生まれ、全身に魔力をめぐらせることでこの場を耐え忍んでいる。人間とは別に耐え忍ぶものもいる。不規則生物だ。同じ種族でも桁違いの力を持つが、それより厄介なのが学習能力が高いことだ。白(ハク)の時なんていい例だ。弱っているヤツから殺しにかかる。普通の魔物なら何も考えず、目の前の相手に攻撃を仕掛けてくる。そういう戦闘以外の能力を兼ね備えているため、人間と同様に魔力を循環させることは大いに可能だ。つまり、ここで魔物に出くわす時は一筋縄では行けない。隣にはシーシャはいるものの、この前のように上手いこと事が進む保証はどこにもない。出くわすことがあるのなら、立ち向かわずに逃げることを先に考えるとしよう。だが、こういう事を考えているとラグクロの運の悪さが火を噴き始める。
「っ!?」
隣のシーシャも勘づいている様子だった。二人は岩の陰に隠れてひょいと顔を出すと、大量の魔物がうようよやってきた。しかしなんだか様子がおかしかった。逃げて来る魔物の種族はバラバラで、普段なら殺し合っているはずなのに暑さなんて関係なくひたすら逃げている。何かに怯えているか、額には汗のようなものも見受けられる。
「行ってみよう」
「ヤバいと思ったら、何がなんでも逃げるからね」
「…わかってる」
凶悪な悪魔たちが、しっぽ巻いて逃げてしまうほどの何かが奥にいる。その何かを偵察するために奥へと進み始めた。ほんの数分歩くとものすごく広い空間に出る。そこで驚愕(きょうがく)な物を目の当たりにした。そこにあったのは、人工的に掘られたと見られる約三〇〇メートルに及ぶ長さの大穴だ。掘られた大穴は斜面になっていて、一度入ったら抜け出すことが出来ないように作られている。まるで蟻(あり)地獄のようだ。
(こんな大きな穴作るのに、最低でも一年はかかるぞ。でもここには水がない。ヒトは水を摂取しなければ四日で死に至る。この穴はヒトが作り出したものじゃない)
ただ、これだけで大勢の魔物が混乱するとは到底考えられない。もっと別の何かがあるはず…
「あっ、見てあそこ。底に抜け穴がある」
確かによく見ると一箇所に抜け穴がある。もしものために出口を作ったのか、あるいは魔物の住処(すみか)か……
すると、通ってきたところから嫌な気配を感じた。見ると猛スピードで移動する大蛇が迫っていたのだ。
「避けろ!!」
二人は突進を回避した。大蛇は止まることが出来ず、そのままもの凄い音を鳴り響かせて大穴に落下した。落っこちたと認識したらすぐ、よじ登ることを試みる大蛇に悲劇が起こった。大きな斧が突き刺さったのだ。斧が飛んできたのは抜け穴の方角からだった。すると、抜け穴から足音が聞こえてくる。人間の足音でないことはすぐにわかった。しばらく見ていると、出てきたのは予想以上に凶悪な魔物だった。ラグクロはそいつを見た瞬間、全身から危険信号が出ていた。すぐにこの場から去らねば、命の保証はないと……
♢魔獣
底の抜け穴から出てきた謎の魔物は、一瞬にして大蛇の元へと移動し、投げた斧を手に取り真っ二つに大蛇を引き裂いた。
「「ヴォォォォォォ!!」」
雄叫びだけで土煙が舞い、狂風が吹き、地面と壁に亀裂ができる。雄叫びの勢いは収まったのだが、あたりは土煙のせいでよく見えない状態になってしまう。せめて出入口とシーシャだけでもと思いあたりを探索していると、今までにない顔をしたシーシャが後ろから袖をぎゅっと掴んで来た。今の彼女は絶望の顔をしている。
「どうしたシーシャ?」
「あれはダメ。逃げないと……」
「どういうことだ」
「あれは魔物じゃない。あれは…"魔獣"よ」
「っ!?」
この世界はラグクロたちがいる「地界」と女神や死者が住む「冥界」、そして死神や悪魔が住む「魔界」の時空世界に分けられる。魔獣は魔界に住んでいる化け物で、魔物と大きく違うところは不規則生物(イレギュラー)同様、魔力を駆使すること。それに加え、魔法によるダメージもほとんど効かない。
そもそも魔法は「自然系」、「動植物系」、「金属系」、「特殊系」の四つに分類される。この四つはどれも『ヤハウェ』と呼ばれる世界を創った神が聖戦で亡くなる前、自分の魔力を媒体に誕生したとされている。当然、魔力で創り上げたので神の力は宿していない。その他にも、それぞれの神が創ったとされ、創造することができる「神秘系」。そして、魔神が創ったとされ、全てを飲み込む「厄災系」が存在する。この二つは魔獣だろうと大ダメージを与えられる。ただラグクロの場合、魔獣を倒すためには基本四種魔法(自然系)では不可能。幸運にも、シーシャは「厄災系」で戦えるには戦えるが、力の差がありすぎるし、ラグクロがシーシャの足を引っ張るのは目に見えている。それに疑問点がある。それは、この地界には魔獣なんて化け物は現れることは絶対にないということだ。条件を全て満たしていれば可能なのだが、それは約四〇年前に法で禁止されている。
(魔獣討伐の生き残りか。それとも、誰かが呼び起こしたのか……とにかく今は逃げるのが優先だ)
二人は来た道をそろりと帰ろうとすると、何も知らないゾルウルフが二人に向かって力強く吠えた。魔獣は声を感知し、こちらに視線を向けた。がっちり目があったから分かる。これは戦いに勝利しなければ、生きては帰れないことを…
するとシーシャがラグクロの手を掴み、全力で出口に向かって走る。だが、それを魔獣は見なかったことにはしてくれなかった。自分の手にしていた斧をぶん投げ、道を塞いだ。シーシャは急ブレーキをかけて避けるが、そのまま足を滑らせ蟻地獄に落っこちてしまった。
「いてててて。はっ!?シーシャ!」
ラグクロの隣で倒れていたシーシャは、頭から血を流していた。斧を完璧には避けきれなかったのか、落っこちている時にできたのか分からない。
(とりあえず手当を……っ!?)
後ろから近づいてくる足音に、ラグクロは鳥肌が立った。恐る恐る後ろを見ると、土煙から黒い影が歩み寄って来ていた。
「「ヴォォォォ!!」」
大迫力の雄叫びで土煙は一瞬で消え、姿があらわになる。半人半牛の姿で頭には二本の角を持ち、立派に尖った歯。そして、今まで殺した人の頭の骨だろうか、ネックレスのようにして首にかけている牛のような生き物。世間一般ではこいつを「ミノタウロス」と呼ぶ。
(よりによって、相手がミノタウロスなんてついてないぞ)
ミノタウロスは、今知られている魔獣のトップクラスの化け物。まずこいつに目をつけられたら最後、無傷では逃げられない。
標的にされたためか、免れない死を感じてなのかラグクロの心臓音が激しくなり、息も荒くなり始めた。
ミノタウロスはもう一度雄叫びをあげ、こっちに向かって来た。少し走ってすぐ、高く飛んで斧を振るモーションに入る。ラグクロは逃げることも出来たが、足が竦んでただ眺めていることしか出来なかった。そのまま、ミノタウロスは斧を力いっぱい振りかざし攻撃するのだが、振るった斧はラグクロには当たらなかった。当たる寸前に風の魔法で防いだからだ。だが、この風魔法はラグクロでもシーシャでもない。誰かが助けてくれたのか。ラグクロは出入口を確認すると思ってもいなかった人物がそこにいた。
♢カルシファーVSミノタウロス
「大丈夫っスか?」
「カ、カルシファーさん、なんでここに」
「なんでって、俺はコイツを探してたんスよ。最近、ミノタウロスらしき魔獣が洞窟内をうろちょろしているって言う目撃情報があって、その確認と討伐を依頼されてたんスけど…まさかこんなことになってるなんて」
カルシファーは瞬時に状況を把握し、蟻地獄に自ら降りてきた。そして、二人の元へ駆けつける。
「まさか、シーシャちゃんがこんなに苦戦するなんて、想像以上に強敵っスね」
すると次の瞬間、ミノタウロスがカルシファーの背後に突進して来た。
「カルシファーさん!!」
「風魔法 暴風ノ波動」
カルシファーの唱えの直後、ミノタウロスは突進した方向とは真逆に吹き飛んだ。今までに見たことがない圧力。カルシファーの気配はやけに穏やかだが、その奥に怒りを秘めている。
「ラグクロくん。彼女を連れて離れてくれっス。少し本気で行くっスから」
「ヴルルル」
ミノタウロスはすぐに立ち上がる。体からはダメージを覆った形跡はどこにもなかった。当然だ。カルシファーが放ったのは風魔法(自然系)なのだから、魔獣にはほとんど攻撃が通らない。
(カルシファーさんは確か、物の形を変える「変形魔法」。魔獣に自然系と特殊系は通用しない。どうするんだこれから…)
カルシファーは絶対に策なしで相手に挑むようなマネは絶対にしない人だ。何らかの策は絶対にある。カルシファーは、自分の親指を強く噛んで血を流し、左手の平に流した血をつけ左手を翳(かざ)す。
「血術 召喚。さぁ仕事っスよ、出て来いベルセリア!」
左手の平から出てきたのは、三〇センチにも満たない小さな妖精。その妖精からは、ただならぬオーラを感じる。
「あなたが私を呼ぶなんて珍しいこともあるものね。事情はあなたの目を通して把握済みよ。最初から全力で行くわよ」
「了解っス!ありったけを貰うっスよ!!」
『『血術 絆(リンク)!!』』
そう言うと二人の魔力が一つになり、膨大に膨れ上がる。絆(リンク)は、パートナーとの結び付きを強め、五感や心を共鳴させてさらなる強さを得るもの。しかし、このやり方には膨大な魔力を消費するため長続きしないというデメリットがある。まさに諸刃の剣。それを承知でカルシファーは勝負に出たんだ。
「今までに味わったことのない強風を味あわせてやるっスよ!」
「グルルルル」
「覚悟するっスよバケモン!カルシファー・ギルザーが魔界に追い返してやるっス!!」
カルシファーとミノタウロスの戦いは五分五分で、このまま行けばどちらが勝ってもおかしくはなかった。
「精霊風魔法 熱風地獄!」
カルシファーはミノタウロスに膝をつかせることに成功するが、倒れる様子は全くない。その後はミノタウロスが優勢で流れを取られてしまう。絆(リンク)の反動で鈍ったのかと思ってみたが、こんなに早く限界は来ない。つまり、ミノタウロスに何らかの変化が起きたに違いない。
(カルシファーさんも勘づいているだろうけど、ミノタウロスを相手にしているから分析ができないんだ)
魔獣の中で最も強いとされるミノタウロス。そのため、どんな力を持っているのか未だに特定できていない。このままでは、時間切れでカルシファーが負けてしまう。
(どうする?俺がミノタウロスの相手をしたって時間稼ぎにもならない。白(ハク)の時のようにあの狂った状態になれるなら話は別だけど、どうやってあの状態になるか分からない)
そんなことを思っていると、隣で気絶していたシーシャがフラッと立ち上がった。
「シーシャ!大丈夫なのか?」
「うん。心配かけさせてごめんね。あの牛さん、殴らないと気が済まない」
「あっ、うん」
(やべぇ、マジトーンだ。こうなったら気が済むまで終わらないぞ)
シーシャが本当にキレる時は、共に生きてきた中で二回だけある。そのどちらとも、気が済むまで物に当たっていた。普通なら部屋の棚を蹴ったり、ドアを強く閉めたりするだろうが、彼女の場合は教会の近くの山に当たっていた。それで一つの山が削られて、姿形がなくなったこともあった。そして何より、キレれば恐怖心が消えて目の前の相手を倒しにかかる怖いもの知らずになるのだ。
シーシャは起きてすぐ、ミノタウロスのところまで飛んで行った。その勢いのまま、ミノタウロスの顔面に強烈な拳を突き出す。不意をついた攻撃だったため、攻撃は見事にクリーンヒットし、ミノタウロスは勢いを殺すことが叶わず吹き飛んだ。
「カルさんじゃん。なんでいるの?」
「俺もこいつに用があるってだけっスよ。それより傷は大丈夫なんスか?」
「正直めっっちゃ痛い!だからアイツ気が済むまで殴る!」
「ふんっ、その意気っス。一緒に倒すっスよ!」
「はい!」
二人は息を合わせてミノタウロスに接近し、一人が正面から、もう一人が背後から挟むように攻撃を繰り出す。どちらかを注目すればもう一方が死角になり、守りが薄くなるため、ミノタウロスに与えた攻撃のほとんどがクリーンヒットした。
「精霊風魔法 飄風鎌鼬(ひょうふうかまいたち)」
「ヴォォォォ!」
カルシファーが繰り出した技は、見事ミノタウロスの硬い皮膚に傷をつけることが出来た。先程よりゆとりができたためか、カルシファーの魔法の威力が格段に上がっている。
「今がチャンスっス!畳み掛けるっスよ!」
「了解」
ダメージを覆い、動けない千載一遇のチャンスを棒に振るマネなんてできるはずもなく、すぐさま攻撃にかかる。しかし次の瞬間、二人の死角から触手のようなものが伸びて、カルシファーの腕にガブリと噛み付いた。
『っ!?』
突然の出来事に呆気にとられ、一瞬フリーズ状態になったが、それほど痛くなかったのかカルシファーは何もなかったように攻撃に切り替えた。
「精霊風魔っ」
攻撃に切り替えたカルシファーは、まるで魂がくり抜かれたように突如膝をついた。本人にも状況が理解が追いついていないようだ。そうな疑問を募らせていると、ミノタウロスがカルシファーを襲う。それを避けてがら空きになった背後へ入り、大技を繰り出そうとした瞬間、思ってもみない光景が映し出された。
「ぐはっ…」
『っ!?』
「「カルシファー!!」」
血を出したのはミノタウロスでなく、カルシファーだった。おまけに、咳き込みが止まらないようで苦しそうだ。そこに追い討ちをかけるように、ミノタウロスは斧を持ち上げる。
「やめろー!!」
ラグクロが叫んだ時にはもう遅かった。ミノタウロスはカルシファーに向けて斧を振りかざし、人が切られる音がラグクロの耳に届いた。
♢謎の声
振りかざした斧は地面に当たり土煙が舞う。カルシファーの安否を確認したいのだが、よく見えず分からない。土煙が収まって周りが見えるようになった頃、ラグクロはこの目で見たものが信じられなかった。カルシファーを庇ったと思われるシーシャが、背中に大きな傷を覆い倒れていたのだ。
「ああ!」
ラグクロはうまく言葉が出なかった。状況を理解しているのに、これは夢だの幻だの都合のいい解釈をして現実逃避。
「グルルル」
ミノタウロスが倒れた二人に近づいているのが見えた。このままだと二人は殺される。今動けるラグクロが何とかしないといけないのに、体が言うことを聞かない。恐怖で慄(おのの)いているのもあるだろうが、何かが支配して自分ではどうしようもできない、いわば金縛り状態。この感覚は覚えがあった。死ぬか死なないかの瀬戸際に、身体から溢れた黒いモヤと同じ感覚。
ラグクロはその力に身を任せることにし、溢れる魔力に全身が取り込まれた。真っ黒の魔力に取り込まれたラグクロは、まだ中で意識を保っている。ただ、まだ金縛りは続いていて身動き一つも取れない。動けない中、ラグクロはある事を考えていた。それは二つの感情だ。ミノタウロスを殺したいという怒りの感情と、二人が傷を負った事への悲しみの感情。今はその二つの感情でいっぱいいっぱいだった。
(俺がやらなきゃ、二人は殺される。俺がやらなきゃ…俺が……)
怒りの感情が大きくなり、その感情一つに取り憑かれた時、ラグクロの体はミノタウロスの元へと飛んで行った。そしてその勢いのまま、ミノタウロスの体をオロルナイフで引き裂き、血を大量に溢れださせることに成功する。引き裂いたあと、負傷した二人を担いで安全か分からないが、端の方へ移動した。
「ラグ…ちゃん」
「大丈夫だシーシャ。あとは俺に任せろ」
その言葉を最後にシーシャは眠りについた。あのタフなシーシャとは言え、カルシファーを庇って傷を負ったんだ。今彼女には、傷の方に神経を集中させた方がいいだろう。それからラグクロは、ミノタウロスの方を向いて口にした。
「大事な人たちを傷つけたこと後悔させてやる」
怒りのこもったラグクロの目に、ミノタウロスは怯えているようだった。そんなことを知らないラグクロは地面を蹴り、ミノタウロスへ接近する。直線で行けば捕まるかもしれないので、ラグクロはジグザグに高速で移動し遠距離の魔法「水弾」を放つ。
「ヴォオオオオ」
ただの自然系魔法なのに、なぜかダメージを食らっているようだった。ラグクロは遠距離の攻撃をやめ、怯(ひる)んだところにオロルナイフで切り刻んだ。
(このナイフで切り刻んでも擦り傷しか付けられない。ならナイフに魔力を注ぎ込むしかないけど、貴重な三回を無駄にはしたくないし…)
オロルナイフはザルトが一番初めに作り出したナイフ。そのため、ザルトの思いが一番宿っている。彼曰く、ラグクロの魔力を三回までなら注ぎ込んでも耐えるとは言ったが、確実に三回耐える保証はない。そのため、使い方は選ばなければならないのだ。
(魔獣と言えど、心臓部分(コア)はあるはずだ。コアを壊せば再生もできずに消滅する。そのためにはあの硬い皮膚を切り裂かないといけない)
オロルナイフで擦り傷程度なら、魔力を注いで切ればコアをむき出しにすることが可能かもしれない。ラグクロはそれに賭け、チャンスを伺う。妙に動きが遅いなと、思いながら攻撃を回避するラグクロ。全て避けられることにストレスを感じ始めたミノタウロスは、動きが単調になり始め、それを見逃さなかったラグクロはナイフを握る拳に力を込めて、斧をはじき返す。そして、そのがら空きになった身体に大技を繰り出す。
「炎魔法 紅蓮ノ星 フラムスタァ!」
「「ヴゥオオオオ!!」」
ラグクロが繰り出した技は、相手の身体に星型に傷を与え、その傷の内側から炎で炙る斬られたら避けようのない強力な技だ。これにより、オロルナイフは少し刃に傷ができる。ザルトの言う通りあと二回は耐えられそうだ。
「「ヴゥオオ!」」
しかし、ミノタウロスはカルシファーの魔力を奪う触手を生やし攻撃してくる。
(今あれに噛まれたらまずいな)
ラグクロは襲ってくる触手を斬りながら一度距離をとる。しかし、触手はあっという間に再生し再び襲いかかる。そして、今まで触手は四本だったのが、八本に増えて速度が加速する。襲ってきた触手をラグクロは避けて縦に斬るが、斬ることが出来なかった。
(斬れない。刃こぼれもあるが、それ以上に触手が硬い。まるで鉄を斬っているようだ)
だが全く斬れない訳ではない。力を入れるタイミングが完璧なら斬れる。しかし、それはあくまで一本の触手の対応の話だ。前線、後方に四本ずつの配置。一つ斬られたらたちまち残りの三本が攻撃を仕掛けて来る。そのため全ての触手を同時に斬る必要がある。
(触手に斬撃を入れながら、本体に傷を与えるしかないか。オロルナイフの耐久力を考えて、ここで本体を切り裂かないと負ける)
残り二回という限られた中で、触手に大技を打ち込むのはラグクロにとって不都合だった。触手をかわしながら本体に接近する方法もあるが、威力も速度もアップしているため、かわすだけで精一杯。しかしラグクロはもう一つ、相手の懐に潜り込める策があった。その策のためラグクロは触手を回避して壁に足を置く。これが策だとも知らないミノタウロスは前線の触手を全て攻撃に行かせた。
「水魔法 激浪ノ龍舞」
龍の形をした激しい波をナイフから生成させ、ラグクロは触手に立ち向かった。攻撃を仕掛けて来る触手は一直線にラグクロに襲いかかる。それをラグクロは受け流し、一箇所に集めてミノタウロスへ走り抜ける。それに驚いたミノタウロスは、後方の四本もラグクロの元へ行かせるが、同じように攻撃を受け流し一箇所に集められる。これにより、ミノタウロスには自分を保護する触手が消えて生身一つとなったが、相手を侮(あなど)れば形勢逆転になり兼ねない。ラグクロはミノタウロスの攻撃を安定に回避し、腹に刃を入れる事に成功する。そしてラグクロはミノタウロスの真上に飛び、落下とともに攻撃のモーションに入る。
「雷魔法 鳴神ノ断罪!」
ラグクロは、オロルナイフに魔力をできるだけ多く集中させて振りかざした。それをミノタウロスは避けることが叶わず、綺麗に身体が二つに斬られてしまった。身体を二つに斬られ、オマケにコアも破壊されたミノタウロスは、原型を保つことが出来なくなり徐々に消えていく。これにより、ミノタウロスとの戦いに終止符を打つ事が出来た。
「やっと終わった…っ!?」
ラグクロはミノタウロスが完全に消えて一安心するのだが、彼の体にある変化が起きていた。心臓の鼓動が自分でも認知できるほど高鳴っているし、鼻と口から大量の血が勝手に流れ止まらない。そして、何かを考えるだけで頭がズキズキして、立っていることさえままならない。一時的な覚醒で身体が麻痺し、今に至るまで気づくことさえできなかった。ラグクロはその場でうつ伏せに倒れた。
(あの力の代償がこんなに重いのか。もう身体を動かすことが出来ない)
すると、嫌な気配がラグクロを襲った。考えたくもない絶望を感じさせる気配。恐る恐るラグクロは上を見上げると、そこにいたのは魔物の群れ。ミノタウロスという怪物が消えたから、隠れていたのが姿を現したのだろう。魔物の群れは牙をむき出しにしてラグクロたちを見ていた。この状況は非常にまずい。まだ意識が戻ってない二人が端で横たわっているし、ラグクロはもう身体を動かすことが出来そうにない。二人を助ける事ができる人がここに誰もいない。そんな状況下で魔物たちは、蟻地獄へ自ら入り二人の元へ走り寄る。当然ラグクロにも襲いかかってくる。
(動け!俺の身体!俺が動かなきゃ誰が助けんだよ!)
頭に血が上るほど脳から電気信号を全身に送っているのだが、ラグクロの体はそれを拒絶し続ける。焦りが徐々に募り始め、ついには頭が真っ白になってしまう。
『我が助けてやろう』
「っ!?」
突然何者かの声が聞こえてきた。ラグクロは誰かが助けに来てくれたと思って、辺りを見渡してみるが人の姿はなかった。
『お前は安心して"眠る"がいい』
謎の声に戸惑うラグクロにまた話しかけられた。すると、ラグクロの身にまたもや変化が起きた。今までの疲れと共に眠気まで襲ってきたのだ。
(クッソ。瞼が急に重く…なんで今なんだよ。俺が頑張んないといけないの…に……)
ラグクロはそのまま眠りにつく…と思っていたが、ラグクロはすぐに起き上がる。
「力の扱いがなっていないのに、よくミノタウロスを倒せたな」
ラグクロ(?)が独り言を呟きながら、二人を襲おうとしている魔物たちの方を向いた。そして、手の平から黒い砂のようなものを出す。
「黯ミカヅキ」
ラグクロ(?)は魔物たちに攻撃を仕掛けた。三日月の形をした攻撃は、魔物たちを豆腐のように切断する。それを見ていた他魔物のは混乱し、四方八方に逃げ出した。
「……さて」
ラグクロ(?)は倒れている二人の方へ歩き始めた。
「らしくないな。お前がここまで追い込まれるなんて…いい加減"起きたら"どうだ?」
「うっ……あれ?なんであなたがいるの?」
「動けるのが我しかいなかっただけのこと。本来はお前の役目を代わりに引き受けたのだ」
「…ごめんなさい」
ラグクロ(?)と目覚めたシーシャの謎の話をし続ける。しかし、それほど長くは続くことはなかった。
「シーシャ、まだ戦う力はあるのか?」
「ミノタウロスの攻撃が予想以上に重かったから軽々倒せるかわかんない」
「そうか。なら二人を抱えることは?」
「出来ると思う」
「それが出来るなら良しとしよう」
ラグクロ(?)は少しシーシャと距離を取って、魔力を解放する。禍々しい黒色の魔力の流れ。シーシャでさえ、この魔力に圧倒されて震えている。その魔力を使い大きな魔力玉を生成する。そして、大きい魔力玉を徐々に縮めていき、人差し指の先に乗せれる程の小さくなったところで、天井に向かって放つ。
「無ノ引力(ブラックホール)」
魔力を凝縮した玉は天井に触れて、大きく膨れ上がる。大きさは城一つを容易に覆うことができるほどだ。そして技の名通り、岩や瓦礫(がれき)を吸収して、地上へと繋がる大穴が出来上がった。
「シーシャ、地上へと繋がる道は作った。あとはお前に任せたぞ」
あまりの力の差に言葉を失ったシーシャは「う、うん」とだけ口にし、大穴をじっと見つめていた。しかし、そんなに長く眺めて途方に暮れる事は出来なかった。シーシャの肩にラグクロが寄りかかってきたからだ。寄りかかるラグクロは意識がなく、立つことすらままならない状態だった。
「よく頑張ったね。ラグちゃん」
寄りかかるラグクロの頭をシーシャは優しく摩った。彼女は気絶していたがわかっていた。ミノタウロスを誰が倒したかを。血だらけの体に、魔力の消費量。そして、ラグクロ(?)の出現が物語っている。
彼は滅多に現れない。現れるとするなら、ラグクロに危機が迫った時、ラグクロが絶望する時とかだ。これは、ラグクロとカルシファーには伝えていない。最悪な事になれば教える必要があるのだが、彼のおかげで最悪な事には至らない。しかし、これがどこまで通用するか、わかったもんじゃない。彼は伝えていなかったが、ラグクロに宿る魔力がだんだんと膨れ上がっているのをシーシャは感じ取っていた。不規則生物(イレギュラー)との戦い、そして今回の戦いで"本来の力"に戻りつつある。これを本人に伝えたら、ラグクロ自信に危険が及ぶ可能性がある。そのためシーシャは伝えないのだ。
シーシャはラグクロとカルシファーを担ぎ、超ジャンプで地上に飛び降りる。シーシャたちが降り立ったのは、洞窟の入口の反対側。助けを呼びたいのだが、二人を担ぎながら人に知らせるほどシーシャの体力がなかった。それに地上に出たからといっても油断はできない。洞窟内の魔物よりは弱いが地上の魔物もうようよいる。いくらシーシャと言えど、二人を庇いながら戦ってもそう長くは持たない。だからできるだけ魔物に出会いたくないのだが、そんな夢は儚く散ってしまう。ここに生息する魔物なら、こんな大穴がいきなり出現したら見て見ぬふりは出来ないだろう。現に三人を囲むようにゴブリンが大量に現れている。
(よりにもよって群れで行動するゴブリンだなんて最悪)
シーシャは斧を手に持ち、戦闘態勢に入った。ゴブリンたちも木の棒や骨で作った剣を手に持ち、三人に攻撃を開始した。そんな中、ラグクロの精神内で思ってもみない事態が起きていた。
♢漢の意地
『"起きろ"ラグクロ』
ラグクロはこの声に聞き覚えがあった。気絶する前に聞いた声だ。ラグクロはその声に反応し、目をそっと開けると、そこは辺り一面真っ赤に染った空間。吹く風はなく、奇妙なほどに静まり返っている。辺りを見渡しても何もないのだが、なぜか視線だけを感じる。すると、ラグクロの目の前に黒い渦が発生する。
『手短に話す。今から我が言うことを疑いなく受け入れろ』
その渦の中から声は聞こえる。
『お前がミノタウロスを倒したことは感心した。だが、あの力をむやみに使ってはお前の身体が持たん』
(あの力って黒いモヤの事か?もしかしてこの力のこと知ってるのか?)
ラグクロは声の主に問いかけようとするが、上手く声が出なかった。何故だと思い自分の口元を確認すると、鼻から下の部分全部が子供の色塗りのように、体が黒く塗りつぶされていているかのようだった。腕と足は動かせるのだが、口が思うように機能しない。
「ふんっ、ふん」
どうにか伝えようと努力をしてみても、喉声しか発せられない。
『……まあ、お前が何を伝えたいかはわかっている。しかし、あれはまだお前が知るべきものではない。時が来たらここで話す』
その時がいつまでになるか分からないが今は大人しく聞いくことにしたラグクロ。すると、声の主は話を続ける。
『今伝えるべき事は現在の状況だ』
声の主は、ラグクロに深刻なことを突きつける。ラグクロが意識を失っていた間の出来事。そして、今から起こり得る危険について話してくれた。
『これが現時点での状況だ。もう一度言うが、シーシャは今、お前を守りながら戦っている』
(俺の意識がない間にそんなことになっているなんて…)
『ここで本題だ。ラグクロよ、お前に力を渡す。その力でどうにか切り抜けろ。シーシャももう限界に近い。お前が彼女を救ってやれ』
その言葉と同時に黒いモヤはラグクロを覆い、精神空間から解き放たれた。
一方シーシャの方はと言うと、大量のゴブリンに歯が立たなくなり、地に膝をついていた。
「はぁ…はぁ…もう、どうだけ倒したら懲りてくれるのよ」
膝をついているシーシャの周りには数十体のゴブリンの遺体がある。この遺体の数があっても襲いかかるゴブリンの方が多い。
これはゴブリンのある習性が厄介なためだ。どの死体でも食らう野生で育った身を守る独自の習性。たとえその死体が、仲間の死体だろうと躊躇(ちゅうちょ)せず食らう。そして、食らった者の魔力を自分の魔力へと変換し、強力な力を得る。この習性があるため、死体をたくさん増やしてもそれを食らい、それをまた倒しても食らうのループ状態が続く。しかも、倒せば倒すほど力はどんどん増していくシステム。これにより、シーシャは苦戦を強いられているのだ。
「くっ…」
一度に五体のゴブリンがシーシャを襲う。ギリギリ倒すことはできたのだが、足がもつれて体勢を崩してしまう。そこを見逃さなかったゴブリンは、刃物を腹部に向けて突き刺す。
(やばっ)
シーシャは刺されると悟り、目を閉じて、痛みをぐっと堪える覚悟を決めた。落下速度が重なり、速いスピードを出しながらシーシャの腹へと迫り来る。しかし、その刃物がシーシャの体を刺すことはなかった。不思議に思ったシーシャは目を開ける。
「妹を傷つけるな。野蛮な野郎ども」
「ラグちゃん…」
「安心しろシーシャ。ここは二人で」
「じゃない」
「え?」
「だから私妹じゃない!ラグちゃんのお姉ちゃんだから!」
「なっ?!お前なぁ、せっかくかっこよく登場したのに台無しにすんなよ」
ラグクロとシーシャの言い合いが始まった。だが、こんな言い合いを待ってくれるほどゴブリンたちは優しくなかった。
「ケケッ」
「とにかく今はこいつらだ」
「待ってラグちゃん。こいつら倒せば倒すだけ力が強くなるの」
「?」
「倒した仲間の肉を食べて力をつけるの」
「なんだその気持ち悪い特性は」
「ここは一旦逃げるしかない」
ラグクロとシーシャはカルシファーを担いで、洞窟の入口の方へ逃げる。しかし、入り組んでいるため、思うようにゴブリンとの距離が離れない。
(このままじゃ追いつかれる。血術で転移したいが、今血術を使ったら身が持たない。それに一体ずつ相手してたんじゃ埒(らち)が明かない。なら…)
ラグクロは走るのをやめ反対方向に身を回転させる。
「シーシャ。そのまま振り返らずに走ってろ。俺もすぐ追うから」
「…わかった」
ラグクロは両手を地面につけて、魔法を撃つ準備に取り掛かった。その間、ゴブリンは歩みを辞めることなくラグクロにじわじわと接近してくる。そして、ラグクロと五十メートルほどの距離になった時、ラグクロは技を発動させる。
「雷魔法 鯨(バリエナ)!」
ラグクロが右腕を勢いよく上に振ると同時に、紫色の鯨(クジラ)が地面から飛び出してきた。その鯨はゴブリン目掛けて落下し、ゴブリンらは下敷きにされる。と言っても、原型は雷のため物理的に下敷きにされることはなく、ただ身体が動かなくなるほど痺れるだけだ。この隙にシーシャと合流し、何も起こらず無事に村まで到着することができた。
それから、ギルドに掛け合いカルシファーの診断もされ、大事には至らなかった。ラグクロも同じように念の為診断させられ、頭を包帯で巻かれる羽目になった。
(もう魔獣と戦うのはたくさんだ…)
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