第3話 愛されたい

私は、屋敷から追い出されたわけじゃない。

愛されてない、その言葉で私の心が死んだのだ。

叫びながら、わけもわからず走っていた。

どれだけ走ったのだろう。

勢いよくこけて涙が溢れる。

どうして。どうして。

涙がやむとそこは知らない森の中だった。

「どこよ、ここ」

立ち上がりあてもなくさまよう。

暗くて不気味で変な音も聞こえる。

「こんな真夜中の森におひとりで大丈夫ですか?」

鈴のような凛とした声。

顔を上げると私よりも小柄で小さな女の子がいた。

月明かりに照らされた少女は闇のように深い黒の金の刺繍が施されたローブを来ていた。

フードを深くかぶって顔も髪の色も見えない。

ただ、言えるのはどこか不気味だった。

「そんなに濡れて。寒いでしょう?私の屋敷があります。そこで温まりましょう」

少女はそういって私に傘を差しだした。

受け取り、少女の手が当たる。

すごく暖かくて安心できるぬくもり。

私はとっさに少女の手を握っていた。

驚いた様子もなく少女の口角があがる。

「こんなに暗いと怖いですよね。どうぞ、私の手を離さないように」

私の手を引っ張り前に進む少女。

こんなに暖かい温もりは初めてだった。

森の中央に大きな屋敷があり、少女は真ん中の橋を渡って屋敷の中へと案内してくれた。

白と薄い桜色の室内はほっとする。

湯気がでた暖かい紅茶を一口飲むと心がだんだんと落ち着いてくる。

少女は、濡れたローブから、エメラルドに近い色のローブに着替えていた。

相変わらず、顔を深く隠してる。

髪の色も瞳の色もわからない。

声は女の子のような気もするけどまだ、声変わりしてない少年のようにも聞こえる。

少女なのか、少年なのか。

「初めまして、こんばんは。私は魔女です。お望みがありましたら、なんなりと申してください。貴方様の望みを叶えるお手伝いをしましょう」

望み??

魔女??

頭が追い付かない。

でも、そんななかでた言葉は。

「愛されたい」

たったこれだけ。

幼いころからずっと思ってた。

ずっと、私は頭をなでて欲しかった。

褒めて欲しかった。

弟や妹のように。

我儘をいいたかった。

誕生日を祝ってほしかった。

お兄様や、お姉さまのように。

いくら、望んでも叶わない私の願い。

「それなら、こちらの薬はいかがですか?」

魔女は私の前に小さな小瓶を渡す。

「これ、は?」

かすれた声で言えば魔女は小さな針を私に渡してきた。

「この薬の中に貴方様の血をほんの少し入れます。すると、薬を飲んだ人は貴方様を好きで好きでたまらなくなり愛しつくすでしょう。どんなことがあっても」

私を愛してくれる。

さっそく針に人差し指を刺して血を一滴薬の中にいれる。

これで。

「これで、私は愛される」

「えぇ、そうですよ。それも永遠に」

永遠。

気が付いたら窓から朝日が入って来た。

「さぁ、お帰りの時間です。それでは、さよなら」

魔女が言うと屋敷の前に私は立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る