第24話 魔法具製作
SIDE:アロ
ワンダル砦からベイトン戻った俺は、2つの魔法具製作に取り組んでいる。
母様とヴィンデルさんに、養子になる事、王都にミエラとじいちゃん、それにアビーさんとグノエラも連れて行きたい事を話した。二人は凄く喜んでくれて、俺に加えて4人が王都のアルマー子爵邸に住む事も快く了承してくれた。
母様は一足先に転移魔法陣で王都に戻り、俺達を迎える準備をしてくれている。ヴィンデルさんはまだしばらくワンダル砦に残る必要があるそうだ。
そうそう、ヴィンデルさんから早速「義父さんと呼んでくれ」と頼まれ、「お義父様」と呼んだら目に涙を浮かべて歓喜してくれた。
閑話休題。
今作っているのは、「
何故こんな物を作っているのかと言うと、俺は前世で馬車が苦手だったからだ。
ベイトンから王都まで約1ヵ月、馬車で移動する事になっている。
前世のトラウマが蘇った為、大急ぎで2つの魔法具を作っているという訳だ。
「転移魔法」が使えるから、前世では長距離移動の大半は転移を使っていた。しかし、建国してからはそうも言っていられなくなる。
まず少人数で動く事が稀で、護衛やら文官やら大人数で移動するからどうしても馬車に乗らなくてはならなかった。
その他にも公的な行事やパレードなどでも馬車に乗る。一時間も馬車に乗ると尻が痛くてしょうがない。尻の痛みで他の事に集中出来なくなる程だった。
そこで、前世で開発したのが「
「
これらを使うと、馬車を引く馬の負担が激減する。車輪が地面を転がる抵抗はどうしようもないが、魔法具なしの馬車とは比較にならない。そして乗り心地はまるで雲に乗っているかのように、尻の痛みと無縁になるのだ。
前世の俺は、魔法具作りが趣味のようなものだった。「こんなのがあったら便利だな」って思ったり、必要に迫られたりして作っていた。言うまでもなく馬車関連は後者である。
魔法具を作るのはそれほど難しくない。
銅板に魔法陣を下書きして、先端が針のように尖った専用のペンで下書きをなぞるように銅板を彫っていく。そこに魔晶石の粉末と普通のインクを混ぜた混合液を流し込み、乾かせば完成だ。これが魔法具の基盤となる。
魔法具には、使用者が直接魔力を流し込むタイプと、精製された魔晶石から魔力を供給させるタイプに分かれる。後者の場合、先述した基盤に魔力を流す「魔導装置」も作って組み合わせる。魔導装置も作り方はほぼ基盤と同じだ。
道具や材料は「魔法具店」で普通に買える。金額も、銅板が大きさによって1枚1500シュエル~。専用ペンが500シュエル~。混合液は100ミリリットルで5000シュエル程度。混合液が高く感じるが、一度に使う量が少ないので失敗さえしなければ結構長長持ちする。
魔力の元になる精製魔晶石だけは、含有魔力量によって値段がピンキリだ。今回使うのは、1万シュエルのヤツを2個である。精製魔晶石は高ければ良いという訳ではなく、発生させたい魔法の規模や威力によって最適な物を選ぶ必要がある。
このように、魔法具の製作自体はそれほどお金も掛からず、割と簡単に出来るのだが今世でもあまり普及していないようだ。
それは恐らく、魔法具に刻む魔法陣の研究が進んでいない事が理由だろう。
本来、魔法を発生させる魔法陣というのは非常に複雑である。しかし、実は部分的にかなり簡略化出来るのだ。これは前世で研究した成果なのだが。
この事実に気付いてから、かなり魔法具作りにハマった。「背中が痒い時にかいてくれる魔法具」なんていうどうでも良い物まで作っていた程である。
前世で作ったくだらない魔法具の事を思い出しながら手を動かしていると、目的の魔法具の基盤と魔導装置が出来上がった。深皿のような形の真鍮製カバーに納め、同じく真鍮の丸い板で蓋をして完成だ。
ミエラ達と一緒に冒険者ギルドの裏手に来た。ここはギルドが運営している馬車の駐車場と馬小屋だ。
ワンダル砦で、
自慢ではないが、俺には御者の経験がない。馬には乗れるが馬車を操った事がないのだ。
仕方ないので、馬車に繋いだ馬を引いて歩き、砦から見えなくなった所で馬や馬車ごと転移した。転移先はベイトンの西2キロの街道から外れた所だ。そこから街まで再び馬を引いて帰った。
転移で馬もびっくりしてたよ。その後、妙に俺に懐いたのは転移したのが怖かったからかも知れない。
借家には馬や馬車を停めておくスペースなどないので、ギルドに相談したらそういう施設を運営していた。
貴族の子弟が冒険者を目指すのも良くある事で、そういった人達はギルドに馬や馬車で乗り付けるらしい。それを預かる施設である。1日3000シュエルで馬の面倒まで見てくれるので、迷わず預けた。
「アロ殿、ここで何をするのでござる?」
御者が出来るアビーさんに聞かれた。じいちゃんも御者が出来るらしいので、この二人に交代で教えてもらうつもりだ。
「ちょっと馬車を快適にしようと思って」
「快適……もしやアレを作ったのでござるか!?」
「アレって何?」
アビーさんは俺の前世時代を知っているので分かったようだが、ミエラは当然分からないので小首を傾げている。
「分かったのだわ! 空飛ぶ馬車なのだわ!」
グノエラも知っている筈なのだが……。うん、馬車が飛んだら素敵だよね。
「飛ばないからね。ミエラもそんなキラキラした目で見られても飛ばないよ?」
グノエラと、ミエラまで物凄く残念そうな顔をする。
飛ばした方が良かったのか。今度改めて馬車を飛ばす魔法具に挑戦してみよう。そうなったら最早「馬車」ではないが。
飛ぶ事を期待された後だと、作った魔法具の説明が非常にしづらい。
「えっとね、こっちが馬車を少しだけ浮かせる奴で、こっちが揺れや衝撃を吸収する奴なんだよ」
グノエラが小さな声で「なんだかショボいのだわ」と呟いた。ちゃんと聞こえてるよ?
ミエラは、それでも目をキラキラとさせてくれた。
「この前少し馬車に乗せてもらったけど、確かに乗り心地が悪かったわ。それがあれば、長時間乗ってもお尻が痛くならないのね?」
「そう! そうなんだよ、ミエラ!」
「すごいわ!」
分かって貰えて凄く嬉しい。俺はミエラの手を握ってブンブンと上下に振った。
「では、取り付けて試運転してみるでござるか?」
「うん、そうだね」
馬車の下に潜り、アビーさんに手伝ってもらいながら2つの魔法具を客車床面の裏に取り付けた。
アビーさんが御者台に、俺達は客車に乗り込んだ。
いつもの感じで出発しようとすると客車が「ギュンッ」と引っ張られる。馬達もあまりの軽さに調節が利かなかったようだ。
馬を慣らしながら近場を回ってみる。この辺りの道は石畳で、あちこち修繕が必要な程傷んだり捲れたり、お世辞にも滑らかな道とは言い難い。それでも、馬車は殆ど揺れる事無く快適だ。
「すごい! 全然ガタガタしないね!」
「すっごく乗り心地が良いのだわ!?」
ミエラが喜んでくれて良かった。グノエラはショボいとか言ってたけど驚いてくれた。
随分昔にあなた乗った事ありますよ?
あとは御者台と客車の座る部分の詰め物を分厚くして、涼風と温風を出す魔法具も取り付けて、御者台に日除けの庇を付ければ十分だろう。
魔法具が思い通りの効果を出してくれたので俺は満足だ。30分くらい走らせて不具合もなかったので、試験は合格という事にした。
魔法具を一旦取り外し、ギルド裏にまた馬車と馬を預けて、俺達は家に帰る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます