第23話 話し合い
ミエラとアビーさん、グノエラの3人が待つ部屋に入ると、ミエラが俺に飛び付いてきた。
「アロ! 大丈夫? 嫌な事されなかった?」
「うん、大丈夫。ミエラ、心配してくれてありがとう。アビーさんとグノエラも」
ソファに座る二人にも礼を言う。
「それで、どんな話だったの!?」
ミエラの圧が強い。
「それなんだけど……ちょっとみんなに相談したいことがあるんだ」
ヴィンデルさんの私室は魔法具で「防音」の魔法が掛かっていた。この部屋にはそれがない。俺が魔法を使っても良いのだが、それだと余計目立ってしまう可能性がある。
(3人は砦の転移魔法陣を使ってベイトンに戻ってくれる? 俺はここに泊まるふりをして、自分の転移魔法で戻るから。俺達の家で落ち合おう)
4人で頭を突き合わせ、囁き声でお願いする。ミエラとアビーさんはしっかりと頷いてくれたが、グノエラがとっても不満そうだ。それでも俺の意図する事が分かっているようで、不承不承頷いてくれた。
依頼を受けてベイトンの街からやって来た他の冒険者達は、兵士と混じって簡単な祝勝会をしていたようだ。
それがひと段落して冒険者達が帰る為に転移魔法陣のある地下室へと向かい始めた。俺はミエラ達を見送ってから、ヴィンデルさんが用意してくれた部屋に行く。
「
砦の転移魔法陣は緊急時しか使えない建前になっているから、今日転移で帰った俺が明日砦に居るとおかしな事になってしまう。ベイトンから砦まで、早馬でも3日かかるのだから。
4人で砦に泊まる事も考えたが、相談の内容が人に聞かせられない事ばかりだ。砦の中では落ち着いて話が出来ない。
だから、俺だけが砦に泊まる形にして、じいちゃんの待つ家で話す事にした。じいちゃんにも転生や邪神について話すべきだろうし。もちろん養子の件と、王都に住む事もだ。
与えられた部屋に入り、扉に中から鍵を掛ける。
(『
早速、ベイトンの家に直接転移した。転移先は普段物置として使っている2階の部屋。そこの窓からこっそり外に抜け出し、改めて玄関に向かう。
「じいちゃん、ただいまー!」
「おう、アロか! 早かったな。ん、ミエラはどうしたのじゃ?」
ミエラ達は冒険者ギルド経由で帰って来るからもう少しかかるだろう。
「もうすぐ帰って来るよ。その前にじいちゃんに話があるんだ」
キッチンと一緒になっているダイニングスペースに移動し、木のテーブルにじいちゃんと向かい合って座る。
少し前に母様とヴィンデルさんに話をしたので、今度はかなりスムーズに話せた。
「うむ。転生したと言ってもアロはアロじゃからなぁ。それよりもその邪神とやらが気になるな」
じいちゃんの反応は想像よりも冷静だった。
しかし、転生の話をしても誰も疑ったり驚いたりしないな。今の時代では転生は珍しくないのだろうか。
「邪神の方は、復活まであと5年から10年くらいだと思う。5年以内に準備を済ませるつもりだよ」
「そうか。まあ、儂のような老体の力は不要かもしれんが、出来る事があれば何でも言うんじゃぞ?」
「分かった。じいちゃん、ありがとう」
そこへ丁度ミエラ達が帰って来た。
「ただいまー! あれ、アロもう帰ってたんだ」
「失礼するでござる」
「ただいまなのだわ」
ミエラの後ろから、アビーさんとグノエラが当然の顔で入って来た。
「うお? ミエラ、お連れさん達は?」
「おじいちゃん、こっちがアビーさんでそっちがグノエラさん。こちらは私とアロのおじいちゃんよ」
「「はじめまして」でござる」なのだわ!」
「アロとミエラがお世話になっとります」
お互い自己紹介が済んだ所で、さっきまで俺とじいちゃんが座っていたテーブルを囲んで全員が座った。いつもミエラとじいちゃんと3人で使っているのだが、5人になると急に狭く感じるな。
「まず、じいちゃんとミエラに相談したいのが、ヴィンデル・アルマー第四騎士団長からアルマー子爵家の養子にならないか、って言われた事なんだ」
二人は驚きよりも納得したような顔をしている。なんでだ。
「アロはどうしたいの?」
ミエラから聞かれたが、じいちゃんもうんうんと頷いている。
「うん。俺は母様の子供だから、養子になるのは自然な事だと思うんだ。ただ、ミエラやじいちゃんが嫌かも知れないと思って」
「私は別に嫌じゃないわよ? むしろ良い話だと思うわ。おじいちゃんは?」
「うむ、その話、受けるが良かろう」
あっさりと二人の承認が得られた。
「分かった、ありがとう。それで、養子になったら王都の子爵邸に住む事になるんだけど、ミエラとじいちゃんも一緒に住まない?」
「いいの?」
「良いのか?」
ミエラは絶対一緒に住むって言うと思ってたんだが、じいちゃんはどうしたいのか予想出来なかった。俺としては一緒に住んで欲しかったから、来てくれるなら嬉しい。
「うん。ヴィンデルさんと母様は一緒に住んで構わないって言ってくれてる」
「アロ様、ちょっと待って欲しいのだわ!」
ここでグノエラから物言いがついた。グノエラにしてはよく我慢したな。
「私も! 私もアロ様に付いて行きたいのだわ!」
「うん。グノエラさえ良ければ大丈夫だよ」
「ほんとなのだわ?」
「もちろん。それに、アビーさんも」
「え、拙者も良いのでござるか?」
「アビーさんが望めばだけど」
「お言葉に甘えるでござるよ!」
グノエラが俺の腕に抱き着いて頬擦りしてくるのを、ミエラが引き剝がそうとしている。アビーさんは早速じいちゃんと話を始めた。
平和だなあ。
じいちゃんに言ってなかった前世の事を話せたし、養子の件、王都にみんなで一緒に住む件も問題なく話が決まった。
王都では母様とまた一緒に住めるし、王立学院地下の迷宮化した
明日、母様達に返事をして、王都に移り住む段取りを決めて来よう。
SIDE:魔族領・魔王城
「ぎゃーはっはっはー! ゲラウプニグの奴、あっさりやられちゃったね!」
ガランとした「謁見の間」に、女の声が響いた。
「まぁそう言うな。途中までは良かったのであるから」
その男の声には女を窘めるような気配はない。淡々と事実を述べている感じだ。
魔族領の中心、やや南。そこに今代の魔王が拠点としていた魔王城がある。本来魔王が座るべき玉座が据えられた「謁見の間」には、魔王はおろか魔族の姿も一切なく、体をすっぽり覆う白いマントを身に纏った3つの人影があるだけだった。
フライラング。
ケタニング。
バルトサニグ。
人間の姿を借りた邪神の眷属達であった。
「転生した仇敵の力を測り、あわよくば倒すのが目的だったと言うのに、全く不甲斐ない奴だ」
「魔族が碌に仕事しなかったからねー。上級悪魔じゃなくて中級しか召喚出来なかったんだもん。仕方ないんじゃない? ウケるけど」
眷属は邪神に先駆けて目覚め始めた。そのうちの4体が集まり、邪神を封印した仇敵、シュタイン・アウグストスへの対抗策を講じようとしていた。
邪神が未だ封印されている以上、眷属は本来の力を発揮出来ない。力を振るうには、もっと大量の「神力」が必要である。現在は邪神から漏れ出ている僅かな神力を集め、体に蓄積している段階であった。
神力を蓄えつつ情報を集める。4体の眷属達はそう決めたのだが、ゲラウプニグが先走った。彼は眷属としてのプライドが高く、邪神が復活する前に邪魔なシュタインを亡き者にしようと奸計を巡らせた。
一部の魔族を力で服従させ、障壁の魔法具と悪魔召喚の術を授け、人間にけしかけたのだ。
思惑通りシュタイン・アウグストスの転生体と遭遇を果たして悪魔召喚にこぎ着けたが、上級悪魔の召喚には贄が足らなかった。召喚された中級悪魔では力不足と考え、ゲラウプニグ自身がその悪魔に憑依して力を増やしたのだ。
それでもあっさりと返り討ちになった訳だが。
「ゲラウプニグも直ぐ復活するだろう?」
「バルトサニグよ。そういう問題ではないのである。眷属の使命は邪神の御身を守る事。復活するからと言って簡単に命を散らして良いものではない」
無口なバルトサニグが珍しく口を開いたが、ケタニングによって窘められる。
「まあまあ。とにかく、シュタイン・アウグストスは今世でも侮れないって事だよ。あー、今度こそあたしの手でぶっ殺したいなー」
玉座の上で胡坐をかいているフライラングが物騒な台詞を口にした。
「力さえ戻れば、今のシュタインくらいならひと捻りなのにねー。もっと簡単に神力溜める方法ないかなー?」
「そうであるな。それについても考慮する必要がある」
「難しい事考えるのはケタニングに任せるよ! あたしはバカだからさー。あっはっはー!」
眷属達以外には魔族の骸しか残っていない魔王城に、フライラングの笑い声が木霊した。
ただ、謁見の間の壁にある小さな割れ目から、長い髭をヒクヒクさせながら眷属達の話を聞いている鼠の存在には、誰も気付いていなかった。
そしてその鼠が、逃げ延びた
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