第11話 ランクアップ
「アロ、ミエラちゃん、おかえり!」
「ガストンさん、ただいま戻りました」
「ただいまー」
咢の森から冒険者ギルドの解体場に直行した。ガストンさんとも付き合いが1ヵ月になるので、ミエラも普通に接する事が出来るようになっている。
「今日もワーウルフとサーベルウフルかい?」
「それもありますけど、他にも」
「おお、じゃあ森の奥に行ったのか」
「はい」
ガストンさんは一瞬眉を顰めた。
「まぁ無事に帰って来てるからいいか……でも気を付けろよ?」
「「はい!」」
「うむ。じゃあ今日の獲物を見せてくれ」
魔法袋から今日狩った獲物を取り出す。
ワーウルフ4匹、サーベルウルフ8匹。
「おお! カエルを獲って来たんだな!」
ヴァトラコスを見て大喜びのガストンさんに、ミエラが若干引いていた。
ガストンさんによれば、ヴァトラコスは毒腺と毒の中和腺を持っている。そのどちらも高値で売れるらしい。
また、イボの多い背中側ではなく滑らかなお腹側の皮は、貴族など富裕層向けの家具、主にソファや椅子の張地として人気が高いそうだ。
……たぶん、そのソファを買う人はヴァトラコスの醜悪な姿を見た事はないのだろう。
「せっかく獲って来てくれたが、ロックリザードは買値が付かん。こっちで処分しておくからな」
表皮が岩状のロックリザードは売り物にならないらしい。なんてこった……硬いからなるべく傷付けずに倒すのが結構面倒だったのに。
「その代わりアイアンリザードは良い値が付くぞ」
これでアイアンリザードまでダメだったら拗ねてた。金属質の表皮は高温で溶かすと純度の高い鉄が取れ、鉱石から採れる鉄より鍛冶職人からの人気が高い。この鉄と他の金属や炭素を合わせた鋼を材料に作られる武器は品質が良くなるのだそうだ。
「これで終わりか?」
「いや、実はこれも……」
そう言って、ワイバーン2体を取り出す。
1体目を倒して帰路に就いた直後、2体目が襲ってきたのだ。当然、俺は嬉々として2体目も倒した。
「なっ!? ワイバーンが出たのか! それも2体も!」
「ガストンさん、肉と皮を少し貰いたいんですが」
「お、おう! どこが欲しいんだ?」
肉は脇腹部分を骨付きで10キロ、皮は額の後ろ側が欲しいと伝えた。
「皮は防具を作るんだな?」
「はい、二人分を」
「そうか、良い考えだ。肉と皮の分は買取金から引くけどいいよな?」
「それでお願いします」
俺とミエラは素材の査定を待つために冒険者ギルドの中に移動した。
「アロが倒したのに、私の防具までいいの?」
「当たり前じゃない。パーティだし、家族だし」
「家族……そ、そうよね、家族だもんね」
ん? ミエラが何か残念そうだ。
「ミエラが怪我したりするのは絶対に嫌なんだ。だから出来る事は惜しまずにやりたい。それじゃダメ?」
「……ダメじゃない」
ミエラが俺の事を憎からず思ってくれているのは分かっている。
だが彼女はまだ11歳。この先たくさんの出会いがあるだろうし、俺みたいな複雑な事情を抱えた奴をわざわざ選ぶ事はないと思う。
第三王女と現魔王の混血で、邪神を倒す為に1500年前から転生した元魔王。安心出来る要素が一つとしてないではないか。自分で言ってて悲しくなる。
それに、俺から見てもミエラはかなり可愛いのだ。もう少し成長して人見知りもしなくなれば相当モテる筈。その時は男なんて選り取り見取りになるだろう。
もちろん、ミエラの人生だからミエラが好きに選ぶべきだと思っている。ただ今の段階で将来を狭めるような選択をしなくても良いのでは、とも考えているのだ。
俺はミエラに幸せになって欲しいのだけど……。
こんな考え方は「逃げ」だろうか?
単に責任を負いたくないだけだろうか?
「ねぇアロ?」
「ふぁいっ!?」
考え事をしている途中でミエラに呼ばれたので変な声が出てしまった。
「何慌ててんのよ……あのさ、何でワイバーンが美味しいって知ってるの?」
「それは…………何かで読んだ?」
「ふーん……」
前世で大好物だったなんて言えないじゃないか……。
転生した事実は今のところ誰にも言っていない。別に隠している訳ではないのだが、言っても信じて貰えない、と言うかちょっと頭がおかしいと思われる危険がある。だから敢えて言っていない。
でもミエラにはそのうち言っても良いかな。
「ほ、ほら! 肉は手に入るから、ほんとに美味しいのか一緒に確かめようよ!」
「……まぁ、そうね」
最近ミエラが妙に突っ込んでくるんだよなぁ……今まで見せた事のない魔法を使ったり、危なげなく魔獣を倒したり、つまり俺の行動のせいなのだが。
そうこうしているうちに受付のノエルさんから呼ばれた。
「アロくん、ミエラさん。マスターが少し話したいって。時間大丈夫?」
ミエラと顔を合わせて二人で首を傾げつつ「大丈夫です」と答え、また3階の執務室に案内された。
「アロ、ミエラ。ワイバーンを倒したんだって?」
部屋に入るなり、挨拶もなくギルドマスターのヴィンセントさんに言われた。
「ええ」
「しかもほとんど傷がないってガストンが言ってたが……どうやった?」
「冒険者に手の内を聞くのはご法度では?」
俺はなるべく波風立てないよう丁寧な口調でにこやかに伝える。
「がーっはっはー! アロの言う通りだ。まぁいい、兎に角だ。ワイバーンをたった二人で倒せる冒険者が『アイアン』のままじゃ具合が悪い」
ミエラが何か言いそうになったが目で止めた。ワイバーンは俺が一人で倒したと言おうとしたのだろう。
「俺の権限では『シルバー』までしかランクを上げられん。という事で、お前達は今日から『シルバー』な! これからも頑張ってくれよ!」
ヴィンセントさんがバシバシと背中を叩いてくる……割とマジで痛い。
お礼を言って執務室を出、1階に戻るとまたノエルさんに呼ばれた。冒険者タグを預けてしばらく待つ。
「アロくん、ミエラさん、お待たせ! はい、これが新しいタグよ」
タグは材質が鉄から銀に変わっていた。カッパーを飛び越えたので分からないが、カッパー・ランクのタグは恐らく銅製なのだろう。
「それとこれが今日の買い取りの内訳」
ワーウルフ1万5千×4、サーベルウルフ1万5千×8、ヴァトラコス4万×1、メタルリザード3万5千×3。
そしてワイバーンは桁がおかしかった。
ワイバーン300万×2、肉と皮を分けて貰ったのでマイナス15万。ロックリザードの処分料でマイナス1万2千。
しめて616万3千シュエル。
ロックリザードは買い取り出来ないだけでなく、処分料を1匹当たり3千シュエル取られていた。
「ちきしょう、ロックリザードなんて二度と狩らん」
「アロ、それより、ろ、600万だよ!?」
「そうだね。目標にだいぶ近付いた」
冒険者になってわずか1ヵ月。トータルで1100万シュエル以上を稼ぎ、シルバー・ランクになった。
「いや、もっと喜ぶところでしょ!?」
「うん……俺達、やったね!」
本当はミエラを抱き上げてクルクル回りたいくらいだったし、ミエラも少し期待していたみたいだったが、自重して二人でハイタッチした。
「ノエルさん、いつも通りギルドに預けます……あ、15万だけ貰ってもいいですか?」
「はい、いいですよ! じゃあこれが預かり証と……こっちが肉と皮。お金はちょっと待っててね」
ノエルさんは受付カウンター奥の部屋に引っ込み、すぐに革袋を持って出て来た。
「はい、15万シュエルです。お確かめください」
「「ありがとうございます」」
俺達は中身を確かめてからお礼を言って、ギルドを後にした。
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