第33話 競争勝負!俺 vs モイカ vs ハク vs リア


……


「………」


「………」


「………」


「…ふー…」


クエスト終了まで、残り2、3分。

とあるラインに一列に並んで、真剣な顔をしている俺たち。

個人個人に、軽く準備運動をして、とある事のために準備をしている。


そう……、競争…50メートル走だ…!



まずはこうなった経緯を話そうか…。



約10分ぐらい前までは、滑り台のあった遊具コーナーに戻って、ブランコや鉄棒などで遊んだり…山型の遊び場で走り回ったり…ただ単に芝生のような地面の上で戯れあったり…短い時間ではあったけれど、たくさんのことをして遊んでいた。


だが…、もうそろそろ終了の時刻になるということで、ミナさんが教えてくれに来てくれた時に、一言こういってしまったのだ…


「50メートルレーンとかもあるんですけど…、競争とかしなくていいですか?」


「…50メートル走ですか」


俺としては、もう時間もないし、競争とかは大丈夫かなと考えていた。

それに…、正直な事を言うと競争とか苦手だったし…。小学校の頃の徒競走では、毎回後ろの方の順位だったから、苦手なイメージがこびりついているんだよな。

だから、断ろうかなと思っていたんだが…


「…っ!ぷい…!」


「…っ!ピィー!」


「…っ!カウ…!」


競争という言葉を聞いた瞬間に、3人の顔が一気に変わった。


「…もしかして…、3人ともやる気ですかね…」


「ぷいぷい!」


「ピィー!」


「カウっ!」


当たり前だという感じで鳴いてくるモイカ達。


3人はそれぞれ顔を見合わせて、視線を交えている。



『絶対に負けないよ…!』


『僕だって負けないよ!僕の速さをわからせてやる!』


『私も負けない!あのスピドラビットを追いかけていた時の速さをわからせてあげる!』


『……』


『……』


『……』


「ぷいー!」


「ピィー!」


「カウっ!」


……うん、なんとなくでしかわからないが、3人ともやる気で負けたくないということだけはわかる。


……


しょうがないなー…。

3人がその気なら俺だってやってやるよ…!


俺も腹を括って、やることを決心する。

やると決まったなら…、俺だって3人に負けないように全力でやってやる…!


「ミナさん、スタートの合図をお願いしてもいいですか?」


「いいですよ!任せてください」


「ありがとうございます!モイカ達、スタートの場所まで行くぞー」


「ぷい!」「ピィー!」「カウっ!」


こうして、一番始めの状態になったて感じだな。



レーンについたモイカ達は、3人とも、それぞれ独自の準備運動をしており、真剣な顔をしている。

かと言う俺も、入念に屈伸などの準備運動をしていて、走るということだけに集中する。


「ふー…、この感じ久しぶりだな…」


本当に小学校の運動会ぶりかもしれない…。

あ、いや、中学校や高校でも体力測定の時に走っていたな。

そう考えると、めちゃめちゃ久しぶりって訳ではないけど…少し緊張してくる。


「ぷい……」


「ピィー……」


「カウ……」


「3人ともめっちゃ気合い入ってんな…」


けど…、こういうモイカ達もあまり見れないから、少し新鮮。この公園で遊んでいると、あまり見られないモイカ達が見られるから、本当にいいクエストを受けたなと思う。

特に、いつも3人は仲良く遊んだりしているけど、こういう少しバチバチ(?)しているような雰囲気は、こういう機会がないと見れなかったと思うし。

まあ、バチバチって言っても、仲良く争ってるって感じだけどね…!


「シドさん、もうそろそろ初めてもいいですか?」


「はい、モイカ達ももう行けそうか?」


「ぷい!」


「ピィー!」


「カウっ!」


「モイカ達も行けそうです」


「分かりました。それでは、レーンに立って、体勢をとってください」


「分かりました」


ミナさんの言葉を聞いて、自分のレーンで体勢をとる俺たち。

俺は、クラウチングスタートをとるわけでもなく……ただ走りやすいように、左足を前、右手を前にして構える。


「位置について…よーい………」


「「……」」


(…よし…行くぞ…)


「ドン!!!」





「ピィー!!」


「カウっ!!」


「しゃー!!」


ちょっとした雄叫びをあげながら、走り出す俺たち。

俺的には、最高のスタートダッシュをすることができたと思っているのだけれど…、俺の少し前にリアの姿が見える。

やっぱ、リアがはえーよな…。

スピドラビットについていけるだけのスピードがあるのは確実だからな。


でも…!


まだ諦めない…!


「行くぞー…!!」


俺はまた声をあげて、スピードを上げる。


「モイカとハクは……」


俺はチラっと横を見る。


ハクは俺と同じぐらいの位置を飛んでいるのは分かるのだけれど…、モイカの姿が見えない。

今思えば、スタートの時も声が聞こえなかったような……。

…何かあったのか…?


俺はもっと後ろ…、スタートラインの方を見る。


すると…、よく見る体勢…。

特に、によく見る体勢を取っているモイカの姿が見えた。


…うん……?


…まさかー……。


「…モイカのやつ…突進を使おうとしてるな?!」


「ぷいーーー!!」


俺が言葉を発した瞬間に、突進を発動して、ものすごいスピードで追い上げてくる。


スキルとかありかよ…!!


俺はすぐにミナさんのいる、後ろを見てみると……微笑んだまま何も言わずに俺たちの方を見つめている。

……ミナさんが何も言わないってことは…、スキルを使っても大丈夫っていうことか…。


まあ、流石に危害や損害が出るようなスキルは禁止だろうけど…それ以外のスキルなら使っても大丈夫ということだろう。



くそ…!

俺にもスピードアップ系のスキルがあれば…。

まさか、こんな所でスキルが欲しいという気持ちになるとは思わなかったな。


…いや、今はそんなことを考えずにゴールまで走ろう!

3人の主人として…かっこいいところを見せたいんだ…!


「ぷいーー!!」


モイカは、突進のスピードを落とさずに、俺とハクの横を通り抜けて行き……、リアのすぐ後ろまでいく。


「ピィー?!」


「カウ?!」


ハクとリアが驚いたような声を出す。

ハクとリアも気付いたみたいだな。


ハクはまだ、俺のすぐ横あたりにいるけれど…モイカが少しだけリアの前に出る。


いまさらだが…突進って、あんなスピードが出るんだな…。

今まで、モイカの突進っというスキルは、幾度も使って、見てきたけれど、スピードという観点では見てこなかったからな…。

大体、攻撃という点で見ていたからな。

もしかしたら、ここから先使える可能生もあるから、一応覚えておこうかな。


……


って、今はこんなことを考えてる暇はなかったな。


ゴールまでもう少し…全力で行く。





「カウ…」





……ん?


「…あれ?リアのスピードが一気に上がったような…」


「ぷい…!」


「カウっ…!」


ゴールまで残り約5メートルというところで、モイカとリアが横一列に並ぶ。

モイカは突進のスピードをそのままにゴールまで走り、リアも負けじと一気にゴールまで走って行く。

多分、外から見たら手に汗握る勝負になっているだろう。


そして……



「ぷいーーー!!!」


「カウっ!!!」


ほぼ同時に、モイカとリアがゴールラインを超えたのだ。


……


「…リア…。絶対瞬足使っただろ…」


「ピィー…」


後ろから見ていたのだけれど…確実に最後の10メートルあたりでスピードが上がっていたからな!

おそらく、モイカがスキルを使っているのを見て、リアもすぐに使う判断をしたんだろう。

それに、モイカに負けたくないっていう気持ちもあっただろうし。


そんなことを考えながら、モイカ達に数秒遅れて、俺とハクもゴールする。


「はあ…はあ…。久しぶりに走ったけど、結構疲れるもんだな…」


まず、本気を出して走るというのもあまりしてこなかったからな…。このゲームの中で言うと、ボーンナイトから逃げた時と、スピドラビットを追いかけるリアに追いつくために、走った時ぐらいか…?


……結構最近走ってますね。


でも、走るということに集中して走るということは、やってこなかったから…。その分の疲れとかもあるのかもしれない。


「それにしても…、はやかったな…。モイカとリア」


スキルは使っていたけれど…。それでも、スキルを使おうという判断がすごいと思うし、誰にも危害を加えてもいないしな。


二人とも、ゴールした瞬間にスキルを使うのをやめ、広場にあるものにも、傷一つつけていない。

…モイカは、勢い余って少しだけ滑っているけどね。


「ぷいぷい!」


「カウっ!」


二人は、互いに声を出して、何かを言い合っている。

…多分、どっちが一位かだろうな。

俺的には、二人とも一位でいいと思うんだけどな。

最後の勝負とかは、後ろから見ても白熱していたし。



「……負けたかー…」



正直、少しだけわかっていた。ステータス的にも、リアとかが速いのはわかっていたからな。

けど、やっぱ少し悔しい。


「……次レベルアップしたら、敏捷力に全部…」


……いや、そんなことをするのは流石にやめよう。

一瞬、レベルアップして、スキルポイントを全て敏捷力に振って、再戦しようかなという考えも頭に浮かんだけれど……すぐにその考えを捨てる。


やっぱ、俺の一番の武器である小剣を生かせるステータスを上げていきたいし、できるだけ均等に上げたいという気持ちもあるからな…!

それに……、モイカとリアがこれからもスピード係としても活躍してくれてそうだし!


ちょっとした収穫もあったし…、50メートル走っていうのもいいものだな。




「ピィー」


「お、ハク。どうしたんだ?」


「ピィー!」


俺が色々と頭の中で考えていると、ハクが俺の前に来て、頬擦りをしてくる。

めちゃめちゃ気持ちいいんだけど…どうしたんだろう。


「ピィー」


(…もしかして、慰めてくれてるのか?)


確かに悔しさはあったけれど、楽しさや、収穫っていう所もあったから、そこまで顔に出していなかったと思うんだけどな…。


でも…、ハクがこんな風にしてくれているってことは、少し出てたのかもな。


「ありがとな、ハク。俺たちも頑張っていこうな!」


「ピィー!」


俺はハクを抱えて、たくさん撫でてあげる。


あー…。

可愛いし…モフモフだし…ふわふわだし…。

やっぱ気持ちいいな…。


「ピィー♪」



……………



『ボクの方が速かったよ!』


『いや!私の方が速かったわ!』


『いやいや!絶対ボクの方が速かったよ!』


『いやいやいや!私の方がぜっったいに速かった!』


『いやい……。ちょっと待って、リア』


『……どうしたの…?』


『…あれ見てよ』


『あれ?………』


モイカとリアが見ている先には、シドに撫でられているハクの姿。


『…ふっふっふ。やっぱ、主人と一緒に走るのが一番だよね!』


そう言いながら、チラッとボクたちの方を見てくるハク。



『……やられた』


『そうね……。私たちは、勝負を一番に考えていたけれど…ハクは始めから、主人と一緒に走ることを決めていたらしいわね』


『『……』』



………………



「うん…?モイカとリアはどうしたんだ…?」


さっきまで、どっちが一位か言い争っていた気がしてたんだが…。

いきなり静かになって、こちらの方を見ている。



もしかして…遠慮してる?


そんなことしなくてもいいのに…。



「モイカ!リア!二人もおいで!」


「…?!ぷい!」


「…?!カウっ!」


俺が声をかけると、二人がものすごい勢いで、俺の方へと走ってくる。


「二人とも速かったぞ。どっちも一位だ!」


「ぷい!」


「カウっ!」


俺はそう言って、3人を順番に撫でていく。


「ぷいー♪」


「ピィー♪」


「カウっ♪」


うん。やっぱ3人とも可愛い…!


目を細めて、ダラーっと体を俺に寄せてくる姿…。神と言ってもいいかもしれない。


「シドさん、お疲れ様です」


俺が、3人を撫でていると、ミナさんが声をかけてくれた。


「ミナさん…。俺はちょっとかっこ悪かったですけどね」


「いえいえ!一生懸命走っている姿…。かっこよかったですよ」


「…あ、ありがとうございます」


…なんか、少し照れくさいな。

あまり、走るという面で褒められたということがなかったから、恥ずかしさを感じる。


けど…褒められるのってやっぱいいな。


「モイカさんたちもかっこよかったですよ」


「ぷいっ!」


「ピィー!」


「カウっ!」


ミナさんはモイカ達にも、声をかけて、モイカたちもそれに答える。


「クエストを受けてくれて本当にありがとうございます。…いいものを見せてもらいました」


そう言って、微笑むミナさん。


「いえいえ!こちらこそ、こんないいクエストを…ありがとうございます」


「はい、また受けてくださいね!」


「はい!」


「うふふ。では、もうそろそろお時間になりますので……、外に出ましょうか」


「はい、分かりました」


こうして、俺たちはクエストを終えた。


このクエストはまた受けにきたいな。

モイカたちはもちろん……これからの俺の仲間とも一緒に。



———————————————————————


投稿!


今回は少しだけテイストを変えてみました。

(もしかしたら、そんなに変わってないかも)


次回から、またバトルの方に入ります!


誤字脱字等があれば、報告をお願いします!

そして、星の数が700を超えました!

本当にありがとうございます。

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