第22話 花の妖精
「…私のお花畑を荒らすものは……一人残らず排除します」
そう言って、花の妖精は右の手をこちらに向けてくる。
…何をするつもりだ…?
俺は以心伝心で、警戒するように3人に伝える。
何をするかはわからないけど…、絶対やばい攻撃をしてくるというのはわかる。なんたって、相手はレベルが20だからな。俺たちのレベルと差がありすぎるから、一発でもくらったらほぼほぼ終わりだ。
「ぷいー…!」
「ピィー…!」
「カウっ…!」
……俺が言わなくても、大丈夫そうだったな。
多分3人も、このモンスターはやばいって、頭が伝えているんだろう。
俺でも今威圧感を感じていて、頭が警戒しろと強く訴えてくるからな。
「……喰らいなさい。ウィンド」
「……!?」
花の妖精がウィンドと言い放つと、手の周りに魔法陣が出てきて、そこから風の刃のようなものが出てくる。
これは…魔法か…!
その刃は、風に乗るととともに、どんどんとスピードが上がっていき……、リアに向かっていく。
「……!リア!」
俺はすぐに、リアの名を叫ぶ。
まずい……!よりによって、リアを狙うか…!
今のリアはMPが切れていて、瞬足を使うことができない。
頭の中で、警報音が鳴り続ける。
俺は、すぐにリアを助けようと、足を動かす。
けれど……
ザシュっ
「……!カウっ……」
「リア!!」
風の刃は、風に乗ってスピードを上げたまま、リアに直撃した。
リアは、そのまま倒れて、小さな粒になって消えていってしまった。
クッッッソ…!リアがやられた…!
俺がもっと早く動いていれば…こんなことにはならなかったのかもしれないのに…。
なんでああしなかった、もっとこうしていれば…と、さまざまな後悔が心に残る。
「……弱い。たった一度の攻撃で死んでしまうとは」
つ、強すぎる…。
「さて…次は誰が死にますか?」
そう言うと、俺たちに威圧を与えてくる。
……だめだ。勝てない。勝てる方法が何も思い浮かばない。
…負けだ。俺たちの……負けだ…。
……
「ぷいぷい!」
「…!モイカ…」
「ピィー!」
「ハクも…」
俺が打ちひしがれていると、モイカとハクが近づいてきて、勇気づけてくる。まるで……、『まだ僕たちがいるんだから、諦めないで』『最後まで一緒に戦おうよ』と言っているよう。
……そうだ。まだ二人がいるんだから、諦めるのはまだ早いじゃないか…。最後まで戦わないと、何が起きるかわからない…!
それに、リアも本当に死んだわけではないんだ。
どこかで待つリアのためにも……、できる限りのことをやる…!
俺はすぐに、どうするべきかをまた考える。
「…ほう。やる気を出したみたいですね。…ですが…、そんなこと無意味です。すぐに殺してあげましょう」
そう言うと、花の妖精は再び手を出してくる。
これは……さっきと同じ技か…!
「モイカ!ハク!」
「ぷい!」
「ピィー!」
俺はすぐに、モイカとハクに以心伝心をして、警戒を促して、俺の考えも伝える。
…今からやることは一か八かだが…。やってみないとわからない…!けど…やってみる価値はあるはず。
「…くらいなさい。…ウィンド」
花の妖精は再び、ウィンドを放つ。
そして…俺はすぐに、それが誰に向かっていくのかを判断する。
さっき、一度ウィンドをみてわかったことがある。それは、放ってすぐは、そこまでスピードがあるわけではないということ。放って、風の影響を受けて、スピードが速くなって、相手に当たるということだ。
さっきはいきなりのことで、判断が遅くなったけど…、次はちゃんと見て判断をする。
次は……ハクか…!
「ハク!」
「ピィー!」
「モイカも!」
「ぷいぷい!」
俺はすぐに、今さっき考えた作戦を二人に伝える。
この作戦がうまくいくかどうかは……、今からの俺次第だな。
俺は、すぐにハクの目の前に立ち、向かってくる風の刃に剣を構える。
「…こい!!」
ガシンっ!
俺は、向かってきた風の刃に対して、小剣を振るう。
「……っっっっ!キッツイ…!」
完全に受けなくてもいい…!少しでもハクから反れるようにするんだ…!
俺はうまく小剣を右にそらして、風の刃の進行方向を少しでもずれるようにする。
すると…
ザシュっ
「……!?…少しかすったか…」
小剣でそらした風の刃は俺のすぐ右へとずれていったが、俺の手に少し掠れてしまった。
本当は、無傷でずらしたかったんだが……、これはしょうがない…!
俺はすぐに、作戦通りに動く。
「…なるほど。剣でそらして、当たらないようにしたわけですか。…よくやりますね。ですが、それがいつまで続くか」
そう言うと、花の妖精は、また右手を出してくる。
またウィンドか…!
俺はそれを見ると、すぐに剣を構えて花の妖精へと走り出す。
あいつが魔法を出す前に、攻撃をしてやる…!
「…まさか、テイマー自身……しかもHPが少ない、あなたが真っ正面から攻撃をしてくるとは……。そこは褒めてあげましょう。ですけど…それは一番の悪手です。あなたが死んでしまえば、そこでもう終わりなのですから」
そういうと、花の妖精は、さっきとは違う構えで魔法陣を出す。
違う攻撃に変えてきたか…!
……ていうか、何故あいつは俺がテイマーだとわかったんだ?確かに、モイカとハクがいたけど。それだけでわかるものなのか…。しかも、俺のHPが少ないことも理解している…。確かに、さっきの掠りで俺のHPは少なくなっている。…ボーンナイトの時と同じ感じだ。
…なんであいつは、わかっているんだ?
「…ウィンドソード」
花の妖精がそういうと、魔法陣から、少し透明な剣が出てくる。
そんなこともできるのかよ…このゲームは…!
かっこいいと思うのと同時に、その剣のヤバさも伝わってくる。
「死になさい。この剣で…!」
花の妖精がその剣を構えて、こちらに向かって飛んでくる。
あいつ…剣を出したときから薄々感じていたけど、近接攻撃もできるのかよ!
魔法特化だと思っていたのに…!
「…来い!」
「くらいなさい」
俺は、花の妖精のウィンドソードを小剣で受けようとする。
………が、俺はその剣を受けずに、その場から少し離れるように動く。
理由は簡単だ。
(………ハク!!)
「ピィー!!」
俺の少し後ろに移動していたハクが、花の妖精に光弾を放つ。
俺が剣で、ウィンドをそらした後、俺は花の妖精に向かって走り出したのだが、ハクも俺の少し後ろからついてきていたのだ。ハクは俺の後ろに隠れていれば、大きさ的に真っ正面からは見えないからな。
遠くから撃ってもよかったのだが、レベル的に、避けられるか、受けられるかされると思ったからな。こんな作戦にした。
…ただ、花の妖精もこちらに向かってくるとは思わなかったけどね…。
「……っ!ウィンドバリア!」
「!?マジか…!」
花の妖精は、少し透明な風のバリアで、光弾から身を守る。
この距離でも守れるのかよ…!
少しレベル20を舐めていたかもしれない。
「…やりますね。今のは少し危なかったです。もう少しレベルを上げてい…」
ドンっ!
「…オっ!…」
花の妖精は何かの突進をくらったことにより、少しダメージを受ける。
誰の突進かは……明らかだ。
「ぷい!」
「モイカ!ナイスだ!」
モイカが花の妖精に突進をしたのだ。
ちょうど、花の妖精がウィンドバリアを使って、少し安心して、話していた時……
そこをモイカは見逃さなかった。
そして…俺たちはこの瞬間も見逃さない。
「モイカ!ハク!」
「ぷい!」
「ピィー!」
花の妖精が突進をくらって、油断をしている時に、俺たちは攻撃を仕掛ける。
しかも、花の妖精は俺たちのすぐ近くにいるため、攻撃をしやすい。
「くらえっ!」
俺は花の妖精に向かって剣を振るう。
……ここまでもってこれたなら…、最後まで倒し切ってやる。
「…っ!ウィンドソード!」
キンっ!
「クッッッッ!重い…」
「…先ほどの攻撃はお見事です。ですが……私を舐めないでください…!!」
ヤ、ヤバい…。花の妖精も本気を出したらしく、ウィンドソードでの一撃が重すぎる。
「ぷいっ!」
「ピィー!」
すると、モイカが突進を、ハクが光弾を放つ。
そうだ…一気に押し込め!
俺も、自分が耐えれるところまでウィンドソードを小剣で受ける。
「………めんどくさいですね。しょうがない……使いますか」
ザシンっ
「……?!」
花の妖精は何かを呟くと、俺の小剣を力で横に吹き飛ばす。
さっきまでは、俺に剣が当たるように力を加えていたのに…、なぜ今横に力を入れたんだ?剣を吹き飛ばすため?
「…ストーム」
「…っ!な、なんだ…」
「ぷい!?」
「ピィー!?」
いきなり、花の妖精の周りに、力強い風が吹き始め、俺たちもそれに巻き込まれる。
力を振り絞って、なんとか耐えようとすけれど……、どうすることもできなく、体が中に浮く。
「モイカ!ハク!」
「…吹き飛びなさい」
「「っっっ?!」」
花の妖精の一言と共に、俺たちは花の妖精と離れた場所に吹き飛ばされる。
「っっっ!痛い……」
俺は、風に飛ばされたことにより、ダメージを受ける。ただ、そこまでダメージ量はないらしく、HPが少なかった俺でも耐えることができた。
まあ……
「HP……残り2か…」
もう瀕死だ。これはきついかもしれない…けど、まだ負けてはいない。
「……はっ!モイカとハクは…」
俺はすぐに、モイカとハクを探す。
多分、ダメージ量的に、大丈夫だとは思うけど…。
吹き飛ばされる直前、別の方向に飛んでいくのが見えたんだよな…。
できれば、早めに合流したい。
……
「…ウィンドカッター」
「…!ぷい………」
「ピィー……」
「………え?」
俺が周りを見渡すと、花の妖精がモイカとハクに魔法……しかも、見たことがない魔法を放っているのが見えた。
そして………光の粒になって消えていった。
「……」
「…最後はあなただけですね」
俺が呆然としていると、花の妖精がこちらに歩いてきながら、話しかけてくる。
「……」
「よくやりましたよ、あなた達は。そのレベルで私に攻撃を喰らわしたんですから」
「……」
……ハっ!
俺はすぐに剣を構える。
…もう、モイカもハクもリアもいない。
俺一人だ。
でも……諦めない…!
俺はモイカ達から勇気をもらったんだ…。やれることはやってやる。
「…ほう。この状況で、剣を構えますか」
俺のそばまで歩いてきた花の妖精は、そう言う。
「…モイカ達の分まで…、俺は諦めない」
「…なるほど…。私も今までいろいろな人たちを見てきましたが…あなたのような人は初めてです」
「……」
俺はまだ剣を構える。
「そうですね…。では、最後に遺言を言うことを許しましょう。本当なら……すぐにでも殺すのですけど」
…。
向こうはもう、俺が負けることを確信しているらしい。
…まあ、そうだろうな。俺のHPは残り2だし、モイカ達もいないんだから。
俺だって……そんなことはわかっている。
けど……諦めない。
遺言を残してもいいと言うなら……、強気なことを言ってやろう。
惨めな言葉を残して負けるぐらいなら…、強気なことを言って散っていってやる。
そう……テイマーとして。
「いつか……いつか絶対、お前をテイムしてやる!!」
……言ってやった。
あんまこう言う言葉は言わない方だと思うけど…、今は言って後悔などない。
「……テイム……テイムですか。この私を……裏ボスであるこの私を……。…ふふふ……あははははっ!面白い…!この私をテイムしようとするなど……そんな人今まで見たことありませんでした」
花の妖精は俺の言葉を聞いて、いきなり笑い出す。
…もう少し、怒って攻撃をしてくると思ったのだけれど…。思ったのと違った。
「……いいでしょう。その強気な姿勢を買って、いつか……この私を死ぬ直前まで追い込むことができたら、テイムされることを受け入れましょう」
「…!?」
…まさか……まさか受け入れるとまで言ってくるとは思わなかった。
ただ…、花の妖精を死ぬ直前まで追い込んだ時にか…。
もっと、レベルを上げて…仲間を増やしてからだな……。
「…ですので……、今回はここで死になさい」
花の妖精は手に魔法陣を出す。
……最後まで………諦めない。
「…っ!」
俺は最後の力を振り絞って、走り出し、剣を振るう。
「……ウィンドカッター」
だが、その剣の攻撃が花の妖精に当たることはなく、俺の体は風の何かに刻まれて、意識を失っていった。
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初めての死ですね…。
いつも読んでくださりありがとうございます。
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もしかしたら、それありなの?みたいなことがここから先あるかもしれないですけど、そこはご了承ください。そして、改善のし忘れもあると思いますので、またコメントしてくれると助かります。
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